2016年 映画・演劇・舞台 etc
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2016.1.3
2015年 ベスト映画
できることなら年末にこのエントリーを書きたいと
思うのだが、中々そういう風にできなくて、
年を明けてから、昨年を振り返るということに
なってしまう。
というのも、大晦日ギリギリまで、1本でも多く
映画を観られるもんなら、観たいと思っている上に
年末バタバタしていて、ゆっくりとこのことを
書いている余裕がないという言い訳があるのだな。
さて、昨年は、年間劇場鑑賞数 78本と、
一昨年の記録 68本を 10本も更新した。
奇しくも 邦画 39本、外国映画 39本と、
半々という数だった。
そんな中、★5つ、または★4つ半を付けた作品は
下記。(観た順)
ー ★5つ ー
『アメリカン・スナイパー』
『君が生きた証』
『パリよ、永遠に』
『博士と彼女のセオリー』
『イミテーション・ゲーム/ エニグマと天才数学者の秘密』
『みんなの学校』(ドキュメンタリー)
『映画 ビリギャル』
『脳内ポイズンベリー』
『ダライ・ラマ14世』(ドキュメンタリー)
『国際市場で逢いましょう』
『日本のいちばん長い日』
『きみはいい子』
『テッド 2』
『at Home アットホーム』
『ヴィンセントが教えてくれたこと』
『マイ・インターン』
『エール!』
ー ★4つ半 ー
『ショート・ターム』
『アゲイン 28年目の甲子園』
『妻への家路』
『風に立つライオン』
『くちびるに歌を』
『ジヌよさらば 〜 かむろば村へ 〜』
『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
『ワイルド・スピード SKY MISSION』
『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜』
『海街diary』
『アリスのままで』
『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
『天空の蜂』
『杉原千畝 スギハラチウネ』
こんなこと書いてしまうと身も蓋もないが、
この★5つだの4つ半だのという評価は、
あんまり当てにならない。
というのも、その観た時の自分の状況や
感じ方によって結構変わるだろうと
自分でも思うからだ。
と言っても、★5つの映画が ★2つになったり、
その逆とかはないので、ある程度は、
基準が定まっているとは思うけど、
ここに書かなかった★4つの映画の中にも
観るときによっては、★4つ半や5つを
付けたかも知れない作品があるだろうと思う。
まあ、そんなこんなの思いも含めて、
78本の中から、印象に残っている5作品を
選ぶなら、2015年はこの5本。(順位は無し)
『アメリカン・スナイパー』
『君が生きた証』
『パリよ、永遠に』
『きみはいい子』
『エール!』
アメリカ映画、フランス・ドイツ合作映画、
日本映画、フランス映画と色々です。
ドキュメンタリーでは『みんなの学校』。
世間での高評価の割に、
私にはピンと来なかったののが、『あん』。
前編は良かったのに後編でちょっと失速したのが、
『寄生獣』『ソロモンの偽証』。
残念、ガッカリな作品は、
『龍三と七人の子分たち』『ギャラクシー街道』。
2016年も良い映画をたくさん観たいなぁ。
昨年、アンジェリーナ・ジョリー監督作品の
『Unbroken』が反日映画だとの批判が上がり、
公開が中止になったのだが、
『不屈の男 アンブロークン』として、
ようやく 2月に公開されるようだ。
そのほか、スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の
『ブリッジ・オブ・スパイ』
山崎貴監督、岡田准一主演の
『海賊とよばれた男』など、今から楽しみだ。
2016.1.5
消えた声が、その名を呼ぶ
(原題:THE CUT)
先日観た映画『海難 1890』では、
トルコ人の誇りと良心が描かれていたが、
『消えた声が、その名を呼ぶ』では、
そのダーク・サイドともいうべき、
トルコの暗い過去がポイントとなっている。
国際情勢+世界史に疎い私は、
全く知らなかったのだが、1915年、
オスマン帝国(オスマン・トルコ)で
アルメニア人虐殺があり、その犠牲者数は
100万人とも150万人とも言われていて、
今でもアルメニア政府とトルコ政府の見解が
一致していないのだという。
あのヒトラーがユダヤ人虐殺の手本にしたとまで
言われている酷い事件であったようだ。
監督は、トルコ系のドイツ人、ファティ・アキン。
この虐殺事件を扱った映画は、アルメニア系の監督のものは
あったようだが、トルコを出自とする監督が
この映画を撮ったということにも重要な意味があるようだ。
物語は、1915年、第一次世界大戦中のオスマン・トルコ。
ナザレットは、夜中に突然やってきた憲兵に
強制連行され、妻と娘(双子)と引き離されてしまう。
奇跡的に虐殺を逃れたナザレットは、
家族は皆殺されてしまったと耳にするが、
その後、娘二人は生きていることを知る。
そして、ナザレットは、娘との再会のために旅に出る。
その旅が、キューバ、アメリカと
海を越えての壮大&過酷な旅。
おまけにナザレットは、暴行にあい
声が出なくなっている。
戦争で引き離された家族の物語は、
これが初めてではない。
政治家か国王か軍隊か、誰が戦争を
始めるのか知らんけど、
戦争に巻き込まれた民は、
いつもいつも、辛い悲しい思いをしてきたのだ。
これは、今から100年前の物語やけど、
100年経った今も、紛争と難民で
人間は苦しみ続けているというのは、
一体どういうことなんだろう。
とはいうものの、本作は戦争映画という感じがしない。
家族に、娘に会いたい、という父親の
執念ともいえる、たった一つの希望の物語だ。
最後に娘に会えるのかどうかは、
ぜひ、劇場で。
酷い兵士や男達が多く出てくる中、
善き人が何人も登場することは救い。
それにしても、邦題はなんとかならんかね。
★★★★☆
2016.1.9
ブリッジ・オブ・スパイ
BRIDGE OF SPIES
スティーヴン・スピルバーグ監督、
トム・ハンクス主演、コーエン兄弟脚本の
オスカー有力候補の映画『ブリッジ・オブ・スパイ』。
凄い映画だった。
実話に基づいているというのが力強い。
そして、怖い。
トム・ハンクス演じる弁護士ドノヴァンは、
50年代後半、FBI に逮捕されたソ連のスパイ、
アベルの弁護を引き受けることになる。
スパイだからと弁護士を付けずに裁くことはできない。
ところが、裁判は形式だけで、
世論も判事もアベルを有罪にしたくてしょうがない。
しかし、ドノヴァンはスパイだからと
弁護の手を抜くことはない。
が、結局、アベルは有罪になる。
アベルの弁護をしたことで、
全国民を敵に回したかのような、ドノヴァンだが、
その後、ソ連の捕虜となったアメリカ軍パイロットと
アベルの交換の交渉役を引き受けることになる。
映画の前半はアベルの裁判、
後半はソ連と東ドイツとの交渉が見所だ。
(なんで東ドイツが出てくるかは、映画を観てね。)
ドノヴァンのブレない信念、けして諦めない強い心、
命をかける勇気、高い交渉力、アメリカ人としての誇り、
人間の良心と尊厳、それらに心が震えたね。
ひとつ間違ったら、本当の戦争になりかねない状況、
ひとつ間違ったら、殺されかねない状況、
そんな時にも、人間はこんなにも気品高く
冷静に振る舞えるものなのか。
そして、国家というものの不気味さも
十分に描かれている。
これは、いややねぇ。
142分とやや長尺だが、中だるみもなく、
最後まで引き込まれます。
新年早々、私の今年のベスト5に残りそうな作品。
確かにオスカーはありかも。
★★★★★
2016.1.16
ホワイトナイツ
White Nights
映画『ホワイトナイツ』。
1985年のアメリカ映画。
日本での公開は 1986年だったから、今から30年前だ。
先日、友人と公開中の映画『ブリッジ・オブ・スパイ』の
話をしていて、話題が『ホワイトナイツ』に及んだ。
『ホワイトナイツ』は亡命者の物語だが、
『ブリッジ・オブ・スパイ』同様、最後には
米ソ間での被拘禁者の交換が行われるストーリーだ。
友人の中で『ホワイトナイツ』は一番の映画なのだという。
私も公開当時、劇場で鑑賞した。
あるセリフにハマってしまい、泣いた覚えがあるのだが、
米ソ冷戦の背景など国際情勢に疎い私は、
ラストシーンの意味がよく分からなかった覚えもある。
で、30年ぶりに観てみた。
ストーリーは、ほとんど覚えていなかった。
フィル・コリンズとマリリン・マーティンの「Separate Lives」や
ライオネル・リッチーによる「Say You, Say Me」が
サントラだったのだな。
アメリカでは、1985年11月に公開されている。
ちょうど私がアメリカの横断旅行をしていた最中だ。
アメリカ滞在中、FM ラジオでは、
その2曲がヘビー・ローテーションのように
かかっていたので、これらの曲は思い出深い。
さて、私が泣いてしまったセリフは、
ソ連へ亡命してきたアメリカの脱走兵と結婚した
ソ連人女性のセリフだった。
「あなたがいなかったら、
私も感覚を失った沈黙の大衆で終わってたわ」
これは、今回観た DVD の字幕の訳だが、
劇場で観た訳は、
「あなたのおかげで、私は自由を知った」と
いうような言い回しだったような気がする。
なぜ、このセリフがツボだったかは、
もう恥ずかしくて書けないが、私も23〜24歳。
若かったっちゅうことやろう。
主演は、ソ連からアメリカに亡命したバレーダンサー、
ニコライ役に実際にソ連からアメリカに亡命した
ミハイル・バリシニコフ。
アメリカからソ連へ亡命した元アメリカ兵で
黒人タップダンサー、レイモンド役にグレゴリー・ハインズ。
この二人のダンスが、それぞれ素晴らしいのだが
一緒に踊るシーンがまた良い。
レイモンドの部屋の壁にマーヴィン・ゲイや
ジョン・コルトレーンの LPジャケットが
飾ってあった。
ああいうものも当時のソ連で入手できたのだろうか。
何度も映るでかいラジカセは HITACHI だ。
アメリカ映画なので、ソ連は良いように描かれていない。
実際、その通りだったのかもしれないけど。
自由とは、国家とは、祖国とは。
そんなことを考えさせられると同時に、
命を賭けて生きることの意味、平和についても
考えさせられる。
冷戦が終わって、ホンマに良かった。
グレゴリーは、2003年、57歳で死んでしもたけど、
89年の映画『タップ』でも、素晴らしいタップダンスを
見せてくれた。
★★★★▲
2016.1.20
人生の約束
竹野内豊主演の映画『人生の約束』。
出演は竹野内のほか、江口洋介、西田敏行、柄本明
松坂桃李、優香、小池栄子、美保純、室井滋、北野武ら。
舞台が富山県だからだろうか、
富山県出身の立川志の輔も ちらっと出演。
漁師役の江口が良いです。
竹野内豊演じる 中原祐馬は、
会社を大きくすることだけに生きてきた男。
一緒に会社を立ち上げた、
大学時代からの友人である塩谷航平を
3年前、会社から追い出した。
その塩谷の死をきっかけに、
中原は見失ってたものを見つめ直す。
っていうようなストーリー。
後半、中原が塩谷の故郷の祭りに参加し、
亡くなった友人や、その地の人々と
つながっていく様は感動的であるし、
中原に向かって、素直に良かったねと
言いたくなる。
以前、祭りに生きる男たちの話を聞いたことがある。
地元の祭りに命をかけていて、
1年間そのためだけに働き、生きているような
人たちのことだ。
祭りに興味のない私は、全く共感できず、
意味が分からなかった覚えがあるが、
この映画を観て、祭りに生きている人たちのことが、
少しだけだけど分かったような気がする。
本作は、「つながる」映画。
人とつながり、大地とつながり、
海とつながり、神とつながる。
「絆」というと私にはどうも胡散臭く抵抗が
あったのだが、「つながる」「つながっている」というのは
抵抗なく受け入れることができた。
ああ、そういうことか、と。
全体としては良かったのだが、
残念ながら、イマイチ人間関係が
分かりにくかったことはマイナス。
また、エンディングテーマ曲が、
清々しく終わってもええのに、
昭和の松本清張モノのように
ちょっと重たく暗めで、
本作には合っていないように感じた。
映画には、祭りの際に引く「曳山(ひきやま)」が出てくる。
一般的に「山車(だし)」と呼ばれるものだ。
実は私は今日まで、「山車」と「神輿(みこし)」の
区別がなっかった。
子供のころ、地元の祭りで引いていた山車のことを
「おみこし」と呼んでいた。
また、大阪では山車とは言わず「だんじり」と呼ぶ。
調べてみると神輿は神が乗るもので人間が乗るものではない。
一方、山車の多くは人間が乗って太鼓をたたいたり
踊ったりする。
そして、大きな違いは神輿はかつぎ棒が付いていて、
人がかつぐもの、山車は、台車に載せて引っぱるもののようだ。
勉強になりました。
映画の後半の富山県新湊地区の曳山祭り。
提灯をいっぱいぶら下げた曳山が
何台も街を行く様は壮観で感動的。
ナマで観たいと思った。
毎年10月1日のようだが、今年はこの映画の
おかげで例年より混むでしょうな。
石橋冠という監督は、長くテレビドラマの演出を
してきた人のようだが、本作が映画監督デビュー。
1936年生まれだから、今年80歳だ!
★★★★▲
クリード チャンプを継ぐ男
シルヴェスター・スタローンのロッキー・シリーズで、
劇場で観たのは、86年日本公開の、シリーズとしては
評価が低い『ロッキー4/炎の友情』だけだった。
「評価が低い」と書いたが、当時の私(24歳)は
これを観て泣いてしまった。
一緒に観に行った女性が映画館を出て、ひとこと
「面白くなかったね」と言ったので、
その女性にガッカリした思い出の作品。
そんなことはどうでもよいが、
『クリード チャンプを継ぐ男』は、
そのロッキー・シリーズの新しい映画。
といってもさすがにスタローン(今年70歳)には、
もうボクシングは無理だろう。
で、件の『ロッキー4/炎の友情』でソ連のドラゴに
マットの上で殺されたアポロの息子の登場となる。
実は、アポロには愛人に産ませた子供が
いたっていう、やや無理やりな設定。
アポロの息子 アドニス 役にマイケル・B・ジョーダン。
バスケットの人ではありません。念のため。
ロッキーは、アドニスのトレーナーとなり、
アドニスは、色々ありながらも試合を
勝ち上がっていくという、
ストーリーとしては、全く予想通りの展開。
ズバリ、ザ・アメリカン・ドリーム。
(最後の試合は、ひとヒネリしてあるけど。)
でも、ええねんな。この予定調和が。
ええ、ええ、泣きましたよ。当然。
またマイケル・B・ジョーダンのボクシング・シーンが
迫力満点で、本物のボクサーみたい。
日本人でこんな役できる人おるんやろか。
というか、もう身体が違うね。
ロッキーは、ちょっと老いぼれた感が出てきたけど、
アドニスで、あと何作か行けるかも。
本作も観ようによっては「つながる」映画でした。
★★★★▲
2016.1.23
白鯨との闘い
予告編を観ててっきり鯨との闘いの映画だと
思っていた。
タイトルもそうやし。
けど、違った。
何年も前、グレゴリー・ペックの『白鯨』という映画を
ビデオで観たことがあるけど、本作はその原作である
小説『白鯨』のモデルとなった、
1820年の捕鯨船エセックス号沈没事故の映画化。
白鯨は登場するけど、白鯨との闘いの映画ではなく、
完全なヒューマンドラマ。
アクション・アドベンチャー映画だと思っていたら、
大違いだった。
原題は、"IN THE HEART OF THE SEA"。
全然「白鯨との闘い」と違うやん。
これ、宣伝の仕方、間違ってると思うし、
なんか、邦題にセンス無さ過ぎちゃいます?
とはいうものの、
期待とは違ったけど、良い映画だった。
ええ意味で裏切られた感じ。
19世紀前半、鯨の油で明かりを灯していた時代。
まだ、土の中に油が埋まっていることを
知らなかった時代。
男たちは命がけで鯨を獲りに行ってたんやね。
船が沈没し、彼らは生き残るためにある選択をするのだが、
それこそがこの映画のキモだと思う。
監督は、『ラッシュ プライドと友情』
『ダ・ヴィンチ・コード』『ビューティフル・マインド』
『アポロ13』のロン・ハワード。
主演は、『ラッシュ プライドと友情』で
ジェームス・ハントを演じたクリス・ヘムズワース。
それにしても、海は、自然は、大きく、
その前では人間は、本当に無力です。
★★★★☆
2016.1.27
ザ・ウォーク
THE WALK
予告編を観ただけで、
足がすくみそうになる映画『ザ・ウォーク』。
2001年、アルカイダのテロの標的となり、
崩壊したワールド・トレード・センター(WTC)。
1974年、当時世界一の高さだった WTC の
高さ411m、地上110階の2つのビルの間を
ワイヤーでつなぎ、命綱なしで綱渡りで
歩いた男がいた。
『ザ・ウォーク』は、その実話の映画化。
綱渡りの男、フィリップ・プティ役に
『(500) 日のサマー 』『50/50 フィフティ・フィフティ』の
ジョセフ・ゴードン=レヴィット。
監督は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
『フォレスト・ガンプ』『コンタクト』
『キャスト・アウェイ』『フライト』などのロバート・ゼメキス。
さすがは、ロバート・ゼメキス。
見せてくれましたねぇ。
3D だと怖そうだから、2D で観たけど、
何度も足がすくんだよ。
2D でも十分怖かった。
私は、1985年にニューヨークを訪れた際、
WTC の最上階の展望台に昇った。
つまり、実物を見ているだけに、今はなきWTC が
(映画の中で)あんなにリアルに建っていることに
驚きとともに言葉にできない複雑な思いがあった。
それにしても、凄い映像だった。
めちゃリアル。
1974年の実際の綱渡りは、映像に残っていない。
今なら携帯電話で撮れてしまうのにね。
でも写真は、残っていて、「Man on Wire」や
「Philippe Petit」でググると実際の写真が
出てくるので興味のある方はどうぞ。
『Man on Wire』といのは、2008年に作られた
WTC での綱渡りのドキュメンタリー映画と、
フィリップ・プティ自身が書いたその原作のタイトル。
映画は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を
受賞しているので、もしかしたら、
タイトルぐらい目にしていたのかもしれないけど、
全くノーチェックで知らなかった。
綱渡りやジャグリングのシーンは、
ジョセフ・ゴードン=レヴィットが、
どこまで本当にやっているのか、皆目見当がつかない。
これは現代の技術、そしてロバート・ゼメキスならではの
作品だろう。
綱渡りは成功し、フィリップは警察に捕まるのだが、
彼は一躍有名になる。
彼の芸術作品は、完成したのだ。
不可能とも思えることに、命を賭ける姿(しかも、それが
綱渡り)に何故か感動してしもた。
体験した人にしか絶対に分からない世界が
あるのだろうということが、ワイヤーの上の
フィリップを観ていて チラッと見えた。
アクション映画とは違う、ヒヤヒヤ〜ドキドキ感と
訳の分からない高揚感のある映画です。
「なぜ危険を冒すのか」という問の答えが、
「美しいものを見たら、気持ちを抑えられない。」
★★★★▲
『Man on Wire』も観てみよう。
2016.2.1
俳優 亀岡拓次
予告編を観て面白そうだと思った、
映画『俳優 亀岡拓次』。
残念ながら、ちょっとハズレでした。
クスッと笑えるところはあるものの、
結局 何が言いたのか 分からん映画で、
途中でちょっと(長いなぁ〜)なんて
感じてしまった。
まあ、こういうの好きな人も
おるんやろうけど、私にはイマイチでした。
以下、ネタバレ。
主人公の亀岡(安田顕)が、一目惚れした居酒屋の
出戻り娘(麻生久美子)に花束を持っていくねんけど、
その時、娘から、「別れた旦那と
やり直すことにした」と聞かされる。
亀岡は失恋したわけやけど、
持っていった花束を渡さずに、
カウンター席の椅子の上に置いて帰るのね。
で、その娘が亀岡を店の外まで
見送りに出てきたにも関わらず、
椅子の上の花束に気が付かない。
それは、ないでしょう。
おまけに客が帰ったのに、食器を下げないで、
自分はカウンターの中で立ったまま、
めし食ってる。
それもないでしょう。
と、ここだけはどうも解せんかった。
安田顕は悪くないけど、安田演じる亀岡が
何考えてるか分からない。
それは、演出、脚本の問題かな。
麻生久美子、脇で出演の山崎努、三田佳子は良かったが、
染谷将太は、エンドロールまで気がつかんかった。
なんか、もったいない使い方。(私の問題?)
「不器用で愛すべき恋と人生を描く、
心温まるヒューマンドラマ」という紹介文も
読んだけど、どうかなぁ。
監督は、横浜聡子。
この人の監督作は、初めてでした。
★★▲☆☆
ブラック・スキャンダル
BLACK MASS
原題の「BLACK MASS」は、
「黒い集団」って感じだろうか。
私の中でジョニー・デップといえば、
『パイレーツ・オブ・カリビアン』ではなく
『チャーリーとチョコレート工場』や
『スウィーニー・トッド』でもなく、
『フェイク』なのだ。
『フェイク』で、ジョニー・デップは、
マフィアに潜入する FBI の捜査官を演じた。
あれも実話に基づいた映画だったけど、
本作も実際にあったアメリカ史上最悪の汚職事件。
今度のジョニーは、ギャング。
幼馴染の FBI(ジョエル・エドガートン )と
手を組んでやりたい放題で、ボストンの街を牛耳る。
そのジョニー・デップ演じるジミーが、
とにかく怖い!
あんなに髪の毛薄くなって、
カッコ悪いはずなのに、
それが不気味さを増しております。
根っからの犯罪者というのは、
こうも怖いもんか。
っていうか、完全に異常。
しかし、天網恢恢疎にして漏らさず、なのだ。
★★★★☆
2016.2.7
オデッセイ
THE MARTIAN
リドリー・スコット監督の作品を観るのは、
2012年の『プリメテウス』以来。
あれは、イマイチだったけど、本作は
ちょっと期待して 3D で鑑賞。
マット・デイモン演じる宇宙飛行士、
マーク・ワトニーが一人、火星に取り残されてしまう。
他の乗組員たちは、マークは死んだと思っていたのだが、
実は生きていたのだった。
助けが来るまでの間、マークは自分の力で、
食料を作り、一人、生き延びようとする。
予告編を観た時から、最後にマークは、
救出されるんやろうと思った。
アメリカ映画やもん。
分かっていても、最後の15分ぐらいは、
ドキドキハラハラ、手に汗握るスリルでした。
マークがいよいよ火星を脱出するあたりで、
ウルウルしたものの、全体的には不思議と
それほど感動しなかった。
同様に宇宙から帰還する『ゼロ・グラビティ』の方が
感動したかな。
でも、142分は全く長く感じることがなく、
引き込まれた。
NASA が全面協力しているとのこと。
どこで撮影したのか、舞台となる火星は
何もなく、美しかった。
マークは、最後まで諦めない、どんな時も冷静、
こうでないと宇宙飛行士には、なれないのでしょう。
私には無理。(言うまでもない)
アメリカが困ったときに、助け舟を出すのが中国。
自国の極秘の宇宙開発を犠牲にして、
アメリカの一人の宇宙飛行士を救うことに
中国が名乗りを上げます。
そこんとこは正直、なぜか白けた感じがした。
中国に対する偏見でしょうか。
一緒に観た妻は、アメリカを助けるのが
日本でないことにガッカリしてましたが。
本作、邦題は「オデッセイ」となっているが、
原題は「THE MARTIAN」。
ズバリ、「火星人」。
まあ、邦題が「火星人」では、
イメージが良くないので考えたんやろな。
「オデッセイ」は、「長い放浪」とか
「長い冒険(の旅)」とかいう意味のようなので、
「火星人」よりはええやろうと。
「オデッセイ」と聞いて、最初に浮かぶのは車ですが。
さて、本作、アカデミー賞7部門にノミネートされてるけど、
マット・デイモンは、初の主演男優賞となるか。
★★★★☆
2016.2.9
マン・オン・ワイヤー
Man on Wire
先日 観た映画『ウォーク』は、
1974年、高さ411mの ワールド・トレード・
センター(WTC)の屋上にワイヤーを渡し、
命綱なしで綱渡りをした、
フィリップ・プティの実話の映画化だ。
その綱渡りのドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』が
2008年に製作され、翌年日本でも公開されたのだが、
全くノーチェックだった。
『マン・オン・ワイヤー』は、2009年の
アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。
フィリップは、1971年、パリのノートルダム寺院の
綱渡りに成功し、1973年にはオーストラリアの
シドニー・ハーバー・ブリッジでも綱渡りをしている。
これらは違法で、その度に警察に捕まるのだが、
こういう人たちを「犯罪芸術家」と呼ぶそうな。
ドキュメンタリーを観て分かったのは、映画『ウォーク』が
かなり事実通りに作られているということ。
ジョセフ・ゴードン=レヴィットも、
かなりフィリップ本人に近い印象だ。
映画では、ワイヤーの上に横になったり、
膝をついたりするシーンがあって、
411mの高さで命綱なしでそんなことをするなんて、
信じられないと思ったけど、全部本当らしい。
なんと、そのワイヤーの上に
45分も滞在し、8回渡ったという。
捕まったあと、「なぜ、そんなことをした?」という
質問に聞き手が納得できる答えをせず、
精神鑑定まで受けさせられたようだ。
ま、普通やないと思いますが。
最後のフィリップの言葉が印象的です。
人生は「エッジ」を歩いてこそ価値がある。
反骨精神を持たねば。
社会の規則に慣らされることを拒み、
出世を拒み、繰り返しを拒む。
日々全ての発想を真の挑戦と受け止める。
そうすれば人生は綱渡りになる。
う〜ん、私のようにゆる〜く生きている人間には、
耳が痛いなぁ。
夢見たことに不可能はないのだと
突きつけられます。
どーする?
★★★★☆
DVDで鑑賞。
時系列が、やや分かりにくいのが残念。
2016.2.10
蜃気楼の舟
「都会からホームレスの老人たちを連れ去り、
“囲い屋” と呼ばれる簡易宿泊所に住まわせ、
生活保護費をかすめ取る仕事」
そんなのが仕事と呼べるのかどうか分からないが、
その囲い屋の一人が、主人公である映画『蜃気楼の舟』。
インディペンデント(自主制作)映画だが、
田中泯が出演しているので、興味があって観てきた。
う〜ん、なんというか難解な映画だった。
ストーリーはあるような、ないような感じだし、
時々挟み込まれる幻想の場面も何を意味しているのか
分からないし、セリフも非常に少なく、
BGM もほとんどない。
「囲い屋」の映画だと知って観たから良かったけど、
全く予備知識なしで観たら、
さっぱり何のことか分からなかったかも知れない。
1月30日に公開されたばかりだが、
今のところ上映しているのは、全国で
渋谷のアップリンクのみのようだ。
大変やなぁ、インディペンデント映画って。
公開から毎日、竹馬靖具 監督とゲストを迎えての
トークショーが行われており、
今日もその予定だったようだが、数日前に、
竹馬監督がインフルエンザになってしまったようで、
今日は、主演の小水たいが、プロデューサーの汐田海平、
そして、ゲストに深田晃司監督が登壇した。
上映後、30分ほどのトークショーだったが、
「写真のような映画」という表現があって、
なるほど、そんな感じだと思った。
私は、もっと明確な社会派モノだろうと
期待していたのだが、これ(本作)が、
竹馬監督の表現なのだそうだ。
ゲストの深田監督の作品は、観たことがないのだが、
彼が面白いことを言っていた。
映画監督、特にインディペンデントの監督は、
誰かに頼まれて映画を撮るわけじゃない。
だから、純粋に自分の中のモチベーションだけで、
撮ることになる、と。
そして、監督は、自分にできないことを人に要求する。
つまり、
「映画を撮るというのは、迷惑をかけるということです」
って。
★▲☆☆☆
2016.2.12
不屈の男 アンブロークン
UNBROKEN
映画『不屈の男 アンブロークン』。
これ、不屈の男の名前がアンブロー君みたいやな。
さて本作、1936年のベルリン・オリンピックに
出場したアスリート、ルイ・ザンペリーニが、
太平洋戦争時、日本軍の捕虜になり、
虐待を受けたという事実をもとにしている。
原作は、2010年に刊行され、アメリカでは
ベストセラーになったようだ。
映画は、アンジェリーナ・ジョリーが監督を務め、
脚本にはコーエン兄弟が名を連ねている。
アメリカでは、2014年12月に公開されたが、
日本では「反日映画だ」と、公開を中止する
運動があり、大手の配給会社は、公開を見送った。
「反日映画」というレッテルを貼られた経緯は、
ここに詳しく書いてあるが、映画を観ていない人が、
マスコミの力を使って、恥ずかしいことを書き立て、
これまた、映画を観ていない人たちが、
それを鵜呑みにして、公開中止を求めるという、
なんとも幼稚な展開だったようだ。
それが原因で、大手配給会社が日本での公開を
見送ったのだとしたら、その腰の引け方も
ちょっとどうなんでしょ、って感じだ。
結局、独立系会社の配給によって、
先週の土曜日(2月6日)に公開にこぎつけたが、
アンジー監督のハリウッド作品にもかかわらず、
全国で、渋谷のシアター・イメージフォーラム、
たった一劇場での公開という異常な封切りだ。
(これから、全国で順次公開されていくけどね。)
前書きが長くなったが、素晴らしい映画だった。
ぜひ、多くの人が観られるよう、
たくさんの劇場で上映して欲しい。
もちろん、反日映画などではない。
反戦映画であり、反「邪悪」映画だと思う。
人としての最低な部分と、崇高な尊厳が
同居している。
主人公ルイ・ザンペリーニを演じる、
ジャック・オコンネルが良いです。
他のアメリカ兵たちの激ヤセぶりも
非常にリアル。
いきなりハリウッド・デビューの
(実在した渡辺伍長を演じた)MIYAVI も、
ちょっと顔がキレイすぎるかな、と思ったけど、
中々、ええ演技してました。
映画では、終戦直後の渡辺伍長の部屋が映る。
彼の竹刀が部屋に立てかけてある。
そのシーンを観て、渡辺伍長のような軍人は、
戦争に負けたとき、耐え切れずに
自害したのだろうと思った。
帰宅してから調べてみたら、
渡辺伍長は戦後、重要指名手配戦犯になって、
アメリカの占領が終わるまで、逃亡していたらしい。
ウィキペディアには、「ザンペリーニは渡邊を許し、
彼と会うことを望んでいたが、渡邊はそれを拒否した」
とある。
渡辺氏は、2003年に他界。
ザンペリーニ氏は、2014年映画の公開を待たず、
97歳で亡くなった。
アンジーは、反日映画などではなく、
「赦しの物語だ」とコメントしたが、
実際には、ザンペリーニ氏が敵を赦すまでには、
相当の葛藤があったようで、
そこは映画では 描かれていない。
その部分だけで、もう一本映画が撮れるぐらい
大変な物語だろう。
ザンペリーニ氏は、1998年、
長野五輪で聖火ランナーとして、
収容所のあった上越市内を走っている。
★★★★★
ここにアンジーとサンペリーニ氏の写真があります。
2016.2.14
キャロル
CAROL
「アカデミー賞最有力!!」という宣伝文句の
映画『キャロル』。
予告編を何度も観たが、それほど「観たい!」とは
思わなかったものの、映像が美しいという評判と、
アカデミー賞6部門ノミネートと聞き、
もしかしたら良いかもと観てきた。
主演は、離婚調停中の人妻キャロルを演じる、
ケイト・ブランシェット。
そのキャロルに恋してしまうテレーズ役に、
ルーニー・マーラ。
2人は、アカデミー賞 主演 助演でそれぞれノミネート
されているほか、ルーニーは、カンヌ国際映画祭で
女優賞を受賞した。
物語は、1950年代。
デパートの玩具売り場で働くテレーズの前に、
4歳の娘のためのクリスマス・プレゼントを
買いに来たキャロルが現れる。
売り場に忘れたキャロルの手袋を、
テレーズが郵送したのをきっかけに、
二人の交流が始まり、やがて深い仲になっていく。
普通のラヴ・ストーリーではないところは、
2人とも女性というところ。
つまり、同性愛の物語だ。
男性の同性愛者の物語は、
『ブロークバック・マウンテン』『ミルク』
『チョコレートドーナツ』など、思い浮かぶが、
女性の同性愛の映画は初めてかもしれない。
切ないといえば切ない物語なのだが、
私は、それほど心を揺さぶられなかった。
映像が美しい、キャロルとテレーズが美しい、
というレビューが目立つ。
確かに映像は、美しい。
車に乗っているシーンは、あえて窓の外から
撮影することで、窓ガラスがフィルターの役目をして、
独特の雰囲気を作り出すなど、成功していると思う。
50年代の衣装や街の雰囲気も良い。
写真にして飾れるようなシーンが何度もあった。
が、キャロルとテレーズが、それほど(レビューに
書かれているほど)美しいとは思えなかったのだな。
特にキャロルは、美しいというより
私には怖いという印象だった。
ケイト・ブランシェット(キャロル)は、
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の頃の方が、
私は好きだな。
ルーニー・マーラ(テレーズ)は、
『ローマの休日』のヘップバーンのような髪型で、
一瞬ヘップバーンに似ているとも感じたし、
場面によっては、可愛く見えたし、美しいといえば
美しいのだが、この映画が特筆するほどだとは、
思えなかった。
もう、これは好みの問題やからしょうがないわな。
でも、映画には独特の緊張感がずっと張詰めており、
私にはサスペンス的にも感じる展開で、
中だるみすることもなく、物語に没頭できた。
異性であれ、同性であれ、恋心というのは、
簡単には割り切れない、複雑なものだろう。
あまりに大人の映画過ぎて、
私(53歳やけど)には難解だったように思える。
★★★★☆
2016.2.27
クーパー家の晩餐会
LOVE THE COOPERS
『アイ・アム・サム』のジェシー・ネルソン監督作品。
良い映画でした。
アメリカでは クリスマスは家族と過ごすものと、
聞いたことがあるが、この物語は、
まさにそのクリスマス・イヴのクーパー家の物語。
年に一度、家族全員が集まるのだが、
離婚を決意しているが、今日はそのことを
家族に話さないでいようとする父と母。
不倫をしていて、両親をがっかりさせたくないために
ニセの彼氏を連れてくる娘。
3人も子供がいるのに失業し、新しい就職先が
決まらないことを隠している息子。
そんな家族のディナー。
そう書くと、ちょっとゾッとする話のようだが、
笑いと涙で上質のファミリー・ドラマに
仕上がっている。
「一番大切なものは、目の前にあるよ」という
メッセージは、おそらく普遍的だろう。
出演は、ダイアン・キートン、ジョン・グッドマン、
アマンダ・サイフリッド、オリヴィア・ワイルド。
先日観た『キャロル』にも出ていたけど
別人のような印象だったジェイク・レイシーなど。
そして、曽祖父役にアラン・アーキン。
渋いじいさんです。
何に出ていたっけと調べてみたら、
『リトル・ミス・サンシャイン』の
あの粋なじいさんだった。
音楽は、ボブ・ディランの曲が多く使われ、
ニーナ・シモンを「神の声」と聞かせたり、
家族でクリスマス・ソングを演奏するなど
音楽の使い方も良い。
クリスマス前に観たかったな。
★★★★▲
信長協奏曲(のぶながコンツェルト)
面白そうやけど、原作は子供向け(?)の
コミックのようやし、どうしょうかなぁと
思っていた。
なにしろ、高校生が戦国時代にタイムスリップし、
織田信長の身代わりとして生きるという、
いささか無理のある設定だ。
でも、やはり気になるので観てしまった。
サブローが成り代わった信長は、髪型は普通。
明智光秀のことは「ミッチー」、
池田恒興(つねおき)のことは「つねちゃん」、
羽柴(豊臣)秀吉のことは「サル君」と呼ぶ。
その時点で、ほぼコメディだ。
ツッコミどころもあるが、元々、ブッ飛んだ
設定なのでそういうことを言うのは野暮でしょう。
私としては、意外とストーリーが
上手くできており、観終えて妻にひと言、
「(歴史の真相が)そうだったの?」と
言ってしまった(もちろんジョーク)。
妻は、子供たちがこれを観て信じやしないかと
心配しておりましたが、わたしはそんな心配をする
妻の方が信じられません。
最後には、不覚にも涙を誘われるシーンもあり、
ある意味、壮大なヒューマン・ドラマとなっている。
テレビ・ドラマの続編的な位置づけのようだが、
テレビ・ドラマを観ていなくても分かるように作られている。
コミックの方は、まだ終わっていないらしく、
映画をどう終わらせるかは、かなり考えられて
作られたようだ。
出演は、織田信長(サブロー)、明智光秀 役に
小栗旬(二役)。
その妻、帰蝶(きちょう)に 柴咲コウ、
羽柴秀吉に山田孝之、池田恒興に向井理。
そのほか、高嶋政宏、古田新太、でんでん、
濱田岳、水原希子ら。
★★★★☆
2016.3.12016.3.6
ザ・ブリザード
THE FINEST HOURS
1952年に大嵐のため、まっ2つになったタンカーの
乗組員を救うべく、荒れ狂う海にボートを出した、
アメリカ沿岸警備隊の実話の映画化。
何よりも実話というのに、参ってしまう。
よくもまあ、生きて戻れたもんだなと。
これ、奇跡だと思う。
タンカーが沈むのを少しでも遅らせようと、
必死に嵐と戦うタンカーの乗組員たちも凄いが、
助けに行く、沿岸警備隊が凄い。
漁師でさえ、「死にに行くようなものだからやめておけ」と
言うような荒波へボートを出すのだが、
途中で、波に揉まれてコンパスを失ってしまう。
もう方向も分からないのだ。
もの凄い波で、いつ転覆してもおかしくない状況で、
ただただ人名救助に向かう。
沿岸警備隊のバーニー・ウェバー(クリス・パイン)は、
過去に救えなかった命があったので、
絶対にあきらめないのだ。
アメリカ沿岸警備隊史上、最も困難な救出と
言われているだけあって、見ている方も
ドキドキハラハラの連続です。
海のシーンの迫力がもの凄いです。
最近観た『白鯨との闘い』も
迫力があったけど、それ以上に凄かった。
3D ということも手伝って、見ごたえ満点。
(以下、ネタバレ)
タンカーの乗組員を救い、港に戻る中、
「ラッキーだった」と言い合うシーンがある。
あの状況で言う「ラッキー」は、特別な感じがした。
酷い海難事故にあったことを
「えらい目に遭った」というのではなく、
救助ボートが転覆もせず、コンパスもない中、
遭難船を見つけられたこと、
タンカーがすぐには沈まなかったこと、
乗組員を助けられたこと、助かったこと、
それらが全て「ラッキー」なのだ。
邦題の「ブリザード(Blizzard)」は、
「暴風雪」という意味だが、
原題の「The Finest Hours」は、
「最も素晴らしい時間」「最上の時」っていうような
意味だと思うが、どういうことやろな?
助かった時のことを言っているのだろうか。
それにしても、海は怖い。
あんなでっかいタンカーが、2つに割れるとはね。
しかも、同じ嵐で2隻、2つに割れたようだ。
自然の脅威と人間の勇気をたっぷり味わえます。
命を懸けて人命救助に向かう、
本物の海の男の話です。
★★★★★
女が眠る時
西島秀俊、ビートたけし、忽那汐里、
小山田サユリの出演する映画『女が眠る時』。
予告編を観て、サスペンスだと思い込み、
何やら面白そうだと思っていたが、
始まって、1時間ぐらいして、
(これは、失敗したかなぁ)って思った。
最後の30分で「ひぇ〜!」っていうような
どんでん返しがあるかも知れんぞ、と
気を持ち直して観続けたが、
結局、ラストまで、なんかよく分からんかった。
登場人物の行動の不自然さへの違和感。
謎を振っておいて、解消しない放置プレイ。
(私が答えを見落としているのか?)
「なんで、そこでそうなるの?」という「?」の連続。
土砂降りの中歩いてきたのに(あんまり)濡れてないとかね。
ひとことで言うと
「変態おやじと覗き魔の話」。
そんな感じですわ。
原作は、スペイン人作家の短編小説らしいが、
外国映画だったら、違う情緒があったかも知れない。
外国の原作を日本人で日本を舞台に撮るのに
監督はウェイン・ワン(香港生まれ)という
外国人ということもこの不可解さに一役買っているのかもな。
おまけに。
西島秀俊が、時々、ラーメンの CM に見えてしまい、
興ざめだった。
映画俳優は、CM によっては、イメージダウンやなぁ。
でも、役所広司は、同様にラーメンの CM に出てるけど
そんなことないねんなぁ。
何が違うかと言うたら、西島の場合、あのラ王の CM の人が、
そのまんま、映画に出てくる印象やねんな。
そら、ラ王に見えまっせ。
また、ビートたけしの演技も私は、
何が評価されているのか分からない。
1箇所だけ、「おっ」と思ったシーンがあったけど。
唯一良かったのは、リリー・フランキーの
いや〜な感じと不気味さです。
★▲☆☆☆
幸せをつかむ歌
RICKI AND THE FLASH
メリル・ストリープがロック・ミュージシャンを
演じるというので期待して観に行った、
映画『幸せをつかむ歌』。
家庭を捨ててロックに生きたシンガー、リッキー。
とは言っても、カリフォルニアの小さな
ライヴ・ハウスに出演する売れないシンガーだ。
そんな彼女に、別れた夫から、娘が離婚して
落ち込んでいるという知らせが入る。
母親らしいことをしてこなかったリッキーだが、
なんとか娘の力になりたいと思うものの、
娘は母親のことを嫌っていた。
まあ、そんな物語なのだが、
家族の絆とか、親子の絆とか、
その辺の物語としては、ちょっと弱いかな。
あんなに嫌っていた娘が、すぐに母親と
出かけたりするねんもん。
ちなみのこの娘役、メリルの実の娘
(メイミー・ガマー)で、リアル母娘共演なのだ。
映画の見所は、メリルのロッカーぶりやろな。
ブルーのテレキャスターをぶら下げ、
ステージで歌う様は、カッコええと思ってしまった。
歌も上手い。
ギターも本当に弾いている。
曲は、トム・ペティ、エドガー・ウィンター、
ブルース・スプリングスティーンなどのカバー。
私の好きな「Drift Away」も演った。
この曲、私はロッド・スチュワートで知ったが、
ほかの人も歌っているのを聞いたことがあった。
この機会に調べてみると、John Henry Kurtz という
人が1972年に出したのが オリジナルのようだ。
バンドのギタリストで、今のリッキーの彼氏役に
なんと リック・スプリングフィールド!
30年以上前、
「Don't Talk To Strangers」とかよう聴いたわ〜。
(1982年のヒット曲です。)
リックって、もう66歳やねんなぁ。
しみじみ。
原題の「RICKI AND THE FLASH」は、
メリル演じるリッキーとそのバンドの名前。
邦題「幸せをつかむ歌」って、ダサいなぁ。
★1つは、メリルのロッカーぶりに。
★★★★☆
2016.3.7
日本アカデミー賞
アメリカの本家アカデミー賞は、
まだ観ていない(日本では公開されていない)作品が
受賞したりするので、なんとも言えないが、
日本アカデミー賞は、優秀賞に選ばれている
ほとんどを鑑賞済みなので、
結果も一層気になるところだ。
先日発表された
今年の主要な最優秀賞受賞結果は下記の通り。
・最優秀 作品賞 『海街diary 』
・最優秀 監督賞 是枝裕和/『海街diary』
・最優秀 主演男優賞 二宮和也/『母と暮せば』
・最優秀 主演女優賞 安藤サクラ/『百円の恋』
・最優秀 助演男優賞 本木雅弘/『日本のいちばん長い日』
・最優秀 助演女優賞 黒木華/『母と暮せば』
・最優秀 脚本賞 足立紳/『百円の恋』
アニメーション作品賞については、
優秀賞受賞作を 1本も観ていないのでパス。
『海街diary 』は、主演や助演は受賞を
逃したものの、作品賞、監督賞にはうなづける。
良い映画だったもの。
気になるのは主演男優賞。
内野聖陽『海難1890』、
大泉洋『駆込み女と駆け出し男』、
佐藤浩市『起終点駅 ターミナル』(これ観ていない)、
役所広司『日本のいちばん長い日』を抑えての
二宮和也『母と暮らせば』の受賞。
主演だ助演だのの以前に『母と暮らせば』に
作品として魅力を感じなかった私としては、
二宮の受賞も助演女優賞の黒木華にも
正直、微妙な感じをぬぐえない。
ご覧になった皆さんはどうでしょうか。
主演女優賞の安藤サクラはいいでしょ。
綾瀬はるか、有村架純、樹木希林、吉永小百合の
面々の中ではダークホース的だが、
『百円の恋』の安藤は確かに記憶に残ってます。
映画は、観る人のもであって
賞を取ったからどうだということではない。
そう言った時点で、一鑑賞者としては、
賞に意味はないのだけど、できれば自分が
良いと思ったものが受賞してくれる方が嬉しいよね。
そんなん、人それぞれやから無理やねんけど。
ところで。
昨年観た『みんなの学校』が良かったので、
賞を取ったかな?とチェックしていて気がついたのだが、
日本アカデミー賞って、ドキュメンタリー部門が
ないねんね。
作ったらいいのにな。
2016.3.10
もしも建物が話せたら
CATHEDRALS OF CULTURE
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の
ヴィム・ヴェンダース監督を総指揮として
6人の監督がそれぞれ世界的名建築一つを選んだ
建築のドキュメンタリー映画『もしも建物が話せたら』。
建築士でもある Kさんと面白そうだと観に行った。
6話のオムニバス形式で、165分。
どうも、元々は3話ずつ全編後編に分けて、
上映されたようだが、ぶっ続けだったのでやや長い感じ。
映画の前に一杯飲んで満腹で臨んだためか、
前半かなり睡魔に悩まされたが、
後半は、復活してしっかり観た。
邦題『もしも建物が話せたら』の通り、
建物自身が語りかけてくるスタイルもあったが、
そんな風に感じないものもあったな。
原題『CATHEDRALS OF CULTURE』は、
「文化の大聖堂たち」という意味。
建物はその街の文化の代表であり、一昔前まで、
欧米ではその街を代表する建物は教会であったのだな。
6つの建物と監督は以下の通り。[監督名]
・べルリン・フィルハーモニー・ホール(ドイツ)
[ヴィム・ヴェンダース]
・ロシア国立図書館(ロシア)[ミハエル・グラウガー]
・ハルデン刑務所(ノルウェー)[マイケル・マドセン]
・ソーク研究所(アメリカ)[ロバート・レッドフォード]
・オスロ・オぺラハウス(ノルウェー)[マルグレート・オリン]
・ポンピドゥー・センター(フランス)[カリム・アイノズ]
私は建築に詳しくないので、
見たこともない、知らない建築ばかりだったが、
建物の紹介ビデオでもなく、
建築家の仕事を讃えるわけでもなく、
主役はあくまでも建物自身というスタンスで
描かれている。
印象に残ったのは、ノルウェーのハルデン刑務所。
景色が美しいアメリカ・サンディエゴの医薬研究所。
(あのロバート・レッドフォードが監督。)
一番は、ノルウェー・オスロのオペラハウスだな。
映像も美しく、建物とそこに集う人たち、
出演する歌手、ダンサーの表情など、
写真的にも(ええなぁ)と思う場面が多かった。
★★★▲☆
もしも建物が話せたら
2016.3.16
ヤクザと憲法
何年か前から、不動産の賃貸借契約書に
「反社会的勢力とは関係ありません」という旨の
内容が記されるようになった。
暴力団排除条例だ。
そして、もし反社会的勢力と分かった場合は、
即刻契約解除という内容が明記されている。
暴力団関係者は、不動産を借りることができないし、
大家さんは、その手の人たちに貸しては
いけないことになっているのだ。
先日、会社で所有しているビルのエレベーター管理会社から
「『反社会的勢力排除に関する覚書』締結のお願い」という
書類が届いた。
不動産の賃貸借だけではなく、
もし、暴力団等反社会的勢力と分かった場合は、
エレベーターのメンテナンスもやりません、というわけだ。
最近、ニュースでは、 指定暴力団「山口組」と
分裂した「神戸山口組」のトラブルが報道されていたが、
今日はドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』を観てきた。
映画は山口組ではなく、
大阪・堺の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」を
取材したもの。
東中野のポレポレ東中野という小さな映画館で
1月2日に公開され、今では1日1回の上映と
なっているものの今だに上映が続いているというのは、
それだけ観に行く人がいるからだろう。
今日も結構、お客さんが入っていた。
さて、このドキュメンタリー映画、元々は
東海テレビがテレビ用に作ったものを
映画用に再編集したもののようだ。
暴力団を取材するにあたり、
・謝礼金は支払わない。
・収録テープ等を事前に見せない。
・顔へのモザイクは原則かけない
この3点を条件に取材は進められた。
もちろん、暴力団にお金を払うわけにはいかないのだ。
暴力団員は、銀行口座を作れないので
子供の給食費の口座振替ができない。
親が暴力団員ということで幼稚園(保育所だったかも)の
入園を断られる、など、憲法14条に謳われている
「法の下の平等」が、暴力団員ということで、
(これって、憲法違反ちゃうの?)と思ってしまうような
事態になっていることを紹介している。
つまりは、「すべて国民は法の下に平等である、
ただし暴力団員を除く」ということなのか。
社会にとって「悪」とされる存在との共存は
確かに難しい。
暴力団の抗争の流れ弾で一般市民が傷つくなんて、
とんでもないことだと思う。
でも、だからといって、今の彼らへの扱いは、
果たしてどうなんだろうと思わずにはいられない。
21歳の普通に見える、若い暴力団員が登場する。
彼は、10代の時に暴力団事務所に、
志願(?)している。
その青年は、異質な人も受け入れられる社会が
理想だという。
私もそう思う。
マイノリティを排除しようとする思想には
同意できない。
が、暴力団って、どうなんだろう?
と思ってしまう。
そして、彼らが足を洗おうとしても
行き場がないという現実もある。
「ヤクザをやめようとは思わないんですか?」という
質問への組長の答え「やめたらどこが受け入れてくれるの?」
という言葉が、ヤクザから足を洗う人を受け入れない
社会を私たちが作っているのかも、
暴力団以外、行き場のない人たちを私たちが
作っているのかも、と問題提起しているように感じた。
また、暴力団の顧問弁護士が、明らかに
不当というか異常な扱いを受けていることにも
何か釈然としないものを感じずにはいられない。
暴力団は ない方が良いと思う私でもね。
20数年服役してきた組長61歳(見た目めちゃ若い)が、
見た感じ普通の人だったことは意外だった。
そして、その組長が出入りする食堂のおばちゃんへの
質問「怖くないのですか?」に対する
おばちゃんの回答が印象的だった。
「何が怖いん。
怖かったら新世界では生きていかれへんで。
なんかあった時、警察は守ってくれんけど、
この人らは守ってくれる。」
★★★★▲
2016.3.26
エヴェレスト 神々の山嶺
かみがみのいただき
岡田准一、阿部寛、尾野真千子 出演の映画。
実際にエヴェレストの高度5200m級で
撮影をしたということだが、
山々の迫力は凄まじく、
過酷な撮影であったであろうことは、
想像に難くない。
しかし。
山の景色の素晴らしさ、岡田、阿部 両名の熱演、
そして音楽の素晴らしさにも関わらず、
なぜかグッとこなかった。
う〜む、なぜだろうか。
もしかしたら、本物のクライマーが観たら、
登場人物の気持ちが分かるのかも知れないけど、
山に命を賭けるその背景というか、気持ちというか、
そいうものがイマイチ伝わって来ず、
阿部寛 演じる天才クライマー羽生(はぶ)は、
ただ人が登ってない道で登りたいだけの人に見えてしまい、
どうも共感できなかった。
「なぜ、山に登るのか」の答えが、
「そこに山があるから」ではなく、
「ここに俺がいるから」というのは、
理屈を超えた、有無を言わせぬ力強さは
あると思ったけどね。
原作は、小説ということだが、
本で読むと面白いのかもしれない。
それから、20数年前のシーンが
出てくるんやけど、阿部寛、佐々木蔵之介が
全く若く見えず、なんの工夫もされていないように
感じたのも残念。
すっかり、ええ役者になった感のある岡田准一。
初めて、岡田を「ええやん」と思ったのは、
2009年の『おと・な・り』だったが、
あの作品でも彼は、本作同様カメラマンの役だった。
(全然違うキャラやけど。)
それから、彼の出演作は『SP 革命篇』を
除いて全部観ているが、今回の岡田は、
ただ精悍なだけではなく、
そこにワイルドさも加わった役柄で
新しい境地に感じた。
共演が背の高い阿部寛だっただけに
岡田にもう少し背丈があったらなと思うが、
天は二物を与えずやなぁ。
★★★▲☆
2016.4.3
Tokyo Co(s)mic Orchestra Dancer Entertainer
Horoscape circus
ベースのヨッシーが出演するというので、
実は何かよくわからないままに観に行ってきた。
役者とダンサーとミュージシャンのチームで
芝居ありダンスありのパフォーマンスだった。
あんまり、観たことのないタイプの演劇(?)で、
客席が「コ」の字に舞台を囲み、
(狭いハコということもあって)ダンサーの手足が
客に触れそうな臨場感たっぷりのステージだった。
きっと、いっぱい練習しただろうに、
今日一日の公演だそうだ。
この世界で食っていくのはホンマに大変やろなぁ。
[ MEMBERS ]
-Tokyo Co(s)mic Orchestra-
北方寛丈 (pf)
古賀圭侑 (Bs)
森拓也(Dr)
-dancer-
森 紫
V4 (DACTparty)
吉田 隼人 (Proud JAPAN Project)
Lise
-Entertainer-
巴十一 (心理相談家)
SATOCO (パントマイムアーティスト)
しもがまちあき (声優/マペティア)
番長 (ヒューマンビートボクサー/MC)
石倉来輝 (actor、singer)
@ OMEGA TOKYO(荻窪)
2016.4.8
蜜のあわれ
『地獄でなぜ悪い』『私の男』『この国の空』など
印象的な演技が記憶に残っている二階堂ふみと
大杉漣が主演の映画『蜜のあわれ』。
人間の姿に変貌する金魚と、老作家の物語。
4つの章からなっているのだが、
第2章の途中で強烈な睡魔に襲われ、
残念ながら、しばし気絶。
このあたりが、どうもストーリーの展開に
あたったような感じで、
その後のことが今いちよく分らなかった。
エロティックというほどではないが、
二階堂ふみの妖艶さと時代を感じさせる
古臭い台詞回しが良い。
また、出番は少なかったが、
芥川龍之介を演じる高良健吾がとても良かった。
その他の出演は、真木よう子、永瀬正敏ら。
ちゃんと観られなかったので★評価は控えます。
2016.4.10
家族はつらいよ
『東京家族』 『小さいおうち』 『母と暮らせば』と
ここのところ、私としてはイマイチな作品が続いた、
山田洋次監督作品。
新作は、『東京家族』の一家8人と同じキャストで、
両親の離婚騒動を描いたコメディだ。
その家族に、橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、
中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優。
そのほか、小林稔侍、風吹ジュン、笹野高史 、
笑福亭鶴瓶 と豪華な顔ぶれ。
コメディというには、笑いが少なかったけど、
前三作品の不発な感じはなかったな。
爆笑でもなく、大感動でもなかったので、
物足りないといえば物足りないのだけど、
楽しめる作品だった。
ここ数作は、どうも引っかかってしまうセリフが
多かったが、今回気になるのは1ヶ所だけだった。
主役は、橋爪功だと思うのだが、
ええ味を出してました。
その他の家族7人も、こんな人いてるよなぁ、
という共感がありました。
この家族でシリーズ化したらどうだろうね。
家族が8人もいれば、ネタには困らないだろう。
『東京家族』で、小津安二郎の『東京物語』への
リスペクトは十分に示しただろうに、本作では、
周造(橋爪功)が、家で観ている DVD が『東京物語』。
山田監督には、よほど特別な作品なのでしょうね。
★★★★☆
2016.4.12
リップヴァンウィンクルの花嫁
熱烈なファンを多く持つ、岩井俊二監督。
と書いたものの私は意外と彼の作品を観ていない。
観たのは『スワロウテイル』と『四月物語』の
2本でどちらもビデオをレンタルして鑑賞した。
観たのは両方とも、たぶん90年代で
細かいことは覚えていない。
『スワロウテイル』は面白かったように記憶しているが、
松たか子を観たくて借りた『四月物語』は、
なんとなくイマイチだったような覚えがある。
そんなわけで、私は岩井俊二監督(私と同じ年)に
特別な思い入れはないのだが、公開中の
『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、職場近くの
五反田のホテルが撮影に使われたことは、
聞いていたし、評価もそれなりに高いようなので、
観てみることにした。
前半のイヤ〜なエピソードが終わると、
行ったいどこへ向かっているのか、
どういうラストになるか予想のつかない展開が続く。
飽きることなく、180分の時間を
全く長く感じさせないのは素晴らしい。
主演は、黒木華。
『小さいおうち』の黒木も良かったが、
『ソロモンの偽証』も『母と暮せば』も
地味な女性の印象だった。
本作でも薄幸な弱気な女性を演じているのだが、
何度か美しいと感じる場面があったのは新鮮だった。
そして、綾野剛、Cocco 。
綾野剛は、つかみどころのない怪しい
何でも屋を好演。
Cocco は、初めて女優として観たが、
インパクトがありました。
この人が出演するシーンは、
現実から離れているように感じた。
あと(『私は泣いています』の)リリィも良かった。
さて、本作、ネットでレビューを読むと、
色んな所に突っ込んでいる人がいて、
(なるほど、そう言われればそうやなぁ)とは
思うものの、鑑賞中はほとんど気にならなかった。
いくつか、(そんなことあるかなぁ)と
気になったことはあったけど、
それほど重要ではなかった。
というのも、私は大人の童話のように
感じたからかもしれない。
つまりは、リアリティには欠けるのだ。
そんな奴、おるかい。
そんなこと、するかい。
と引っかかっていたら、この手の作品は楽しめないだろう。
まあ、私もどうしても引っかかってしまうことが
あるので、この辺は作品との相性かもしれない。
綾野剛演じる、何でも屋の安室が、
大泣きするシーンがある。
その泣き出すシーンが、一瞬、笑いを堪えられずに
吹き出したように見えた。
そのあとで、大泣きするのだ。
(あれ、笑ったんとちゃうんか)と思っていたら、
何人もの人がレビューに、「あれは安室が、
笑ったのをごまかすために、
大泣きしたんだと思う」と書いていた。
なるほど、そう言われればそう見える。
一方で、純粋に泣いているんだと
書いている人もいる。
監督や綾野剛に訊けば(訊けないけど)本当のことが
分かるだろうが、観客各々の解釈がある方が
作品の幅というか、器の大きさのようにも思う。
ぜひ、ご覧になって
どう見えるか確かめていただきたい。
ちなみに、そのシーンで私はかなり泣きました。
いえ、笑いながら泣きました。
そのシーンに限らず、
全体的に何通りも解釈をできるように
作られているように感じた。
何度か観ると違った風に理解が深まるかもしれない。
音楽は、バッハやモーツァルトなど
クラシックがヴォリュームやや大きめで使われ、
効果的だと思った。
アイディアは、新しくないけど。
原作も岩井監督の筆によるもので、
黒木華の主演をイメージして、書かれたという。
原作も読んでみたくなった。
★★★★▲
2016.4.19
天使に“アイム・ファイン”
学校でイジメにあっている小学生と天使が
登場する、それぐらいの予備知識しかなかったが、
Movie Walker では高評価に見えたので、
疑問もなく鑑賞することにした映画
『天使に“アイム・ファイン”』。
主演は、雲母っていう若手女優。
「うんも」ってスゴイ芸名やな、と思ったら、
「きらら」って読むそうな。
それはさておき、始まって間もなく、
作り手の素人っぽさというか、
B級感が目白押しでちょっと引いた。
演出も陳腐。
主役の演技も微妙。
それはそれでええやろ。
B級映画でも おもろいもんはあるやろ、と
思い直して 観続けていると、どうも、
楽しめる程度の B級さを超えている。
も、もしかして、これって・・・と
思っていると案の定の展開。
天使が人間を救おうとするのだが、
自分の力が及ばず、神様に祈ると
神様に力を与えられ、天使はその力を使って、
人間に働きかけ、それでもって人間が問題を
乗り越えていくという、どこかで観たような
「必殺 神頼み解決法」な展開。
あ、昨年観た『UFO学園の秘密』や!
と思ったら、来ましたエンドロールで、
「製作総指揮 大川隆法」
「原作」も大川さん。
私はね、偏見を持ちたくないねん。
実際、偏見なしで観たんよ。
「幸福の科学」に恨みも文句も批判もないねん。
私は、ただの映画ファンやねん。
だから、大川さん、信者以外にも観せるんやったら、
それなりのクオリティの作品を作ってよ。
でなけりゃ、信者にビデオで配ればいいよ。
お金を取って観せる作品としては、
アカンでしょ、これ。
そう言いたくなるレベルです。
それとも高評価のレビューにあったように
「この作品に感動するのは、心が清い人」とでも
言うのかね。
どういうつもりで、世の中に公開したのか、
訊いてみたいね。
雲母(きらら)が歌うエンディング曲、
『天使に“I'm fine.”』っていう曲も
微妙やなぁ〜って思っていたら、
作詞・作曲が大川隆法って、もう残念でしょうがないね。
だって、自ら評価下げてるんやもん。
自ら、信者じゃない人に、偏見、植え付けてるんやもん。
で、帰ってきてから、Yahoo! 映画でチェックしたら、
評価低かった〜。
ここのレビュー読んでたら、絶対観なかったのにな。
でも、映画を観る前はなるべく
予備知識なしで観たいねんなぁ。
で、Movie Walker の高評価のレビュー読むと、
あんまり映画の内容のこと書いてないやん!
そういうことやったんかぁ。
★★☆☆☆
リリーのすべて
THE DANISH GIRL
実話を元にしている映画とはいえ、
結婚している男性が、自分の中の女性に目覚め、
性転換手術まで受ける話と聞くと、
正直あんまり食指が動かなかったのだが、昨年、
『博士と彼女のセオリー』でアカデミー賞
主演男優賞を受賞したエディ・レッドメイン主演だし、
『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』の
トム・フーパー監督作だし、
今年のアカデミー賞で4部門ノミネートの上、
アリシア・ヴィキャンデルが、助演女優賞を受賞したし。
これだけ揃うと、やっぱり観といた方が、
ええような気がするもんな。
で、観ました。
これは、見応えのある映画でした。
世界で初めて性転換手術を受けた画家アイナー・ヴェイナー
(女性名は、リリー・エルベ)というデンマーク人と
その妻の苦悩の物語。
1930年代、同性愛にさえ大きな偏見があった時代だろうし、
トランスジェンダーなんて、全く認知されていなかった
時代だろう。
映画の中でも、医者にかかると精神分裂と診断され、
精神病棟に入れられそうになるシーンもある。
自分の身体は男だけど、内面は女だったということに
気付いたアイナーの苦悩も大変だっただろうが、
映画は、どちらかというと、
妻のゲルダの愛の大きさを描いている。
性転換手術を知ったとき、過去に成功例もなく、
ゲルダは「危険すぎる」と言うが、
リリーは、「希望」だという。
自分が自分らしく生きることに、
命をかけるリリーに対し、
全てを受け入れ、男でなくなった夫をも
愛し続けるゲルダは、
もう涙なしでは観られまへん。
ゲルダちゃん、抱きしめてあげたくなります。
同性愛の映画ではなく、
今まで味わったことのない、
夫婦の、いえ、人間の愛の物語です。
私の心配は、エディ・レッドメインが、
次回作でもオネエっぽく見えないかということ。
それほど、リアルです。
原題の『THE DANISH GIRL』は、
デンマークの女という意味。
★★★★★
疑問。
なんでアリシアは、主演女優ではなく、
助演なんやろう?
主演と助演の違いがわからん。
2016.4.21
あやしい彼女
73歳のおばあちゃんが、突然20歳の身体に
戻ってしまうというコメディ映画『あやしい彼女』。
オリジナルは、韓国映画らしいが観ていない。
韓国で大ヒットのあと、中国、ベトナムでも
リメイクされ、それぞれ自国で大ヒットしたらしい。
これから、ドイツやインド、アメリカでも
リメイクされるという人気のストーリーだ。
さて、その日本版。
出演は、73歳のおばあちゃん、
瀬山カツ役に倍賞美津子、
20歳になったカツ役に多部未華子。
その娘役に小林聡美。
幼馴染役に志賀廣太郎、など。
コメディとしては、結構、面白く楽しめたし、
笑いだけでなく、しっかり泣かされるシーンもあった。
また、若返ったカツ(多部未華子)が、
自分の孫とバンドを組み、歌を唄うのだが、これが中々良い。
多部の歌は、けして上手いわけではないのに味がある。
『悲しくてやりきれない』は、演出の効果もあって
じんわり心に染みたね。
バンドはギター・トリオに多部のヴォーカルなのだが、
『真赤な太陽』などアレンジも中々ええなぁと
思っていたら、エンドロールで、
「劇中歌プロデュース 小林武史」と見て妙に納得。
ここから、ややネタバレ。
そんなわけで、全体に良かったんやけど、
3つ、どうも引っかかってしまったなぁ。
一つは、要潤 演じる音楽プロデューサー小林が、
ジョギング中に偶然、のど自慢会場から聞こえる
若返ったカツの歌声を耳にするのだが、
ジョギング中、小林はイヤホンをしてるねん。
ほな、会場から漏れてくる歌なんか、
聞こえへんやろ、と思うねんな。
なんで、あそこでイヤホン付けさせたんかなぁ。
付けてない方が、自然やと思うねんけど、
音楽プロデューサーはジョギング中も
音楽を手放さないということかね。
まあ、これは引っかかったというても、許容範囲。
でも、これはアカンかった。
後半、バンドがロック・フェスに
出演するんやけど、バンドのギター(カツの孫)が
事故に遭ってステージに出られへんわけや。
けど、カツは「私、歌います」言うてステージに上がる。
ここまでは、ええ。
けど、ステージ上がったら、
誰か分からんヤツがギター弾いてるねん。
誰やねん、あれ!
ほんで、バンドはまだデビュー前で売れてないし、
その曲、作ったばかりの新曲で初披露のはずやのに、
お客さん、めっちゃ盛り上がってるし、
一緒に歌うねん。
聞いたことない歌やで。ありえへん!
いやいや、元々コメディでありえへん設定やから、
突っ込んだらアカンのやろうけど、
私は、こういうのはあかんなぁ。
あそこで、一気に白けたわ。
そういうとこ、雑にして欲しくなかったなぁ。
で、本作のオフィシャルサイトを見ていたら、
こう書いてあった。
劇中歌プロデュースの小林武史のアイディアで、
当初は予定されていなかった観客との
コール&レスポンスが急きょ付け加えられることになった。
ああ、その場の思いつきでやってしもたんかぁ、って感じ。
「一気に白けたわ」って書いたけど、
その後のシーンで泣かされるねんけどな。
まあそういうわけで、私としては、
多部未華子も魅力的やったし、
上記3点がなければ大変良かったんですが、
ちょっと惜しい映画でした。
★★★★☆
2016.4.23
ルーム
ROOM
今日は、アカデミー賞受賞の映画 2本を鑑賞。
まずは『ルーム』。
女子中学生が誘拐され、2年ぶりに保護された事件が、
日本でもあったせいか、主演のブリー・ラーソンが
アカデミー賞主演女優賞を受賞したせいか、
TOHOシネマズシャンテの 15:40からの回は、
満席だった。
予告編を観て、狭い部屋で何年も監禁されていた
母子が誘拐犯から脱出するドキドキハラハラの
映画かと思っていたら、全然違った。
ここからネタバレです。
確かに脱出はするけど、
ほとんどドキドキハラハラはなく、
意外にあっさり一度で成功する。
本作が描いているのは、その脱出劇や
誘拐・監禁の犯罪ではない。
犯人のことにもほとんど触れられていない。
監禁されていた部屋で生まれ育った、
その部屋の中が世界だと信じている
5歳の男の子と、その母親の脱出後の
戸惑いと苦悩、そして親子の愛、家族の愛を
描いたヒューマン・ドラマだ。
映画の冒頭、息子ジャックが監禁されていた
部屋の中の家具や色々に「おはよう」を
言うシーンから始まった。
そして、ラストシーン、
親子は監禁されていた部屋を見に戻る。
外の世界で生き始めたジャックは、部屋を見て
「こんなに狭かった?」と言う。
そして、ジャックは、部屋の中の家具や色々に
別れを告げ、母親にも部屋に別れを告げるように言う。
このシーンは、とても印象的で秀逸。
この時、ジャックは部屋と完全な決別をしたのだ。
ジャックは監禁されていた 5年間、
監禁されていたと知らなかったし、
母親には愛されていたので、
新しい世界に馴染んでいくのも早いのだろうな。
一方、母親のジョイは17歳で監禁され、
その部屋で犯人の子供を産んだ。
「この子の父親は犯人じゃない。
親は私一人だ」とインタビューに答えるシーンが
あるが、助かって自由になったはずなのに
大人の方が、精神的なダメージは大きく、
立ち直るのに時間がかかるのだろう。
主演女優賞を受賞した母親役のブリー・ラーソンも
良かったが、ジャック役の
ジェイコブ・トレンブレイが素晴らしい。
主演男優賞でもおかしくない。
ドキドキハラハラもなく、
大感動でもないのだけど、
何かがじんわり染みてくる映画です。
★★★★☆
スポットライト 世紀のスクープ
SPOTLIGHT
2本目は、アカデミー賞作品賞&脚本賞 W受賞の
『スポットライト 世紀のスクープ』。
タイトルの『スポットライト』は、
アメリカ、ボストンの新聞「ボストン・グローブ」の
特集記事欄の名称。
その「スポットライト」チームが、2002年1月に
とんでもないスキャンダルを新聞の第1面に掲載した。
それは、何年にもわたり、カトリック教会が
組織ぐるみで 神父による児童への性的虐待を
隠蔽してきたという事実だった。
しかも、その犯人(神父)の数は、
数十人にのぼり、被害者は1000人以上と推定される。
本作は、その実話に基づいた映画で、
ジャーナリズム魂を貫く新聞記者達を
描いた映画。
腐った教会のシステムには、ゾッとすると同時に、
神に仕える仕事に就く者の、
神への冒涜ぶりにもひっくり返りそうになるが、
これが人間っちゅうもんなのか。
「教会」や「神父」というものが
信者にとってどういう存在であるか、
私のような無宗教の人間にはわからないが、
これは、人の弱みにつけ込んだ、
卑劣極まりない犯罪だ。
この記事が出たおかげで、
世界中で神父による児童への性的虐待が
明るみに出たらしいが、今だってどうだか
分からない。
そして、マスコミというと、芸能人のどうでも良い、
くだらない記事をメシのネタにしている人もいるが、
こういう社会派の人たちもいるんだと思うと
安心する。
出演は、グローブ社の記者役にマーク・ラファロ、
マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス等。
マーク・ラファロとレイチェル・マクアダムスは、
それぞれアカデミー賞助演男優賞、助演女優賞に
ノミネートされた。
チーム・リーダー役のマイケル・キートンは、
『バードマン』より良かったな。
印象に残ったセリフ。
リーヴ・シュレイバー 演じる編集局長、
マーティ・バロンが言う。
私たちは、暗闇の道を歩いている。
光が当たった時に
その道が間違っていると気付くんだ。
★★★★▲
2016.4.24
レヴェナント:蘇えりし者
THE REVENANT
昨日に続いてアカデミー賞受賞作だ。
今回最多12部門のノミネートで、
監督賞(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)、
主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)、
撮影賞(エマニュエル・ルベツキ)の3冠を達成。
映画を観ての感想は、ディカプリオの
主演男優賞には、納得だし、
撮影も素晴らしく、撮影賞も納得。
監督賞は、『バードマン あるいは(無知がもたらす
予期せぬ奇跡)』に続いて2年連続の快挙なのだが、
作品賞を受賞しなかったことは、
なんとなく頷ける。
なんというか、「撮影大変だっただろうな」とか
「ディカプリオ、頑張ったなぁ」とか、
そんな感想はあるのだけど、
「ええ映画やったなぁ」というような
作品に魅せられた感じはない。
息子を殺された男が、復讐のために、
死んでもおかしくないような怪我だらけの
身体を引きずり、執念の塊になって、
仇を追いかける。
ただ、それだけの映画。
ネイティブ・アメリカンへの虐殺など
アメリカの負の歴史も描かれているけど、
それは本作のテーマではないように思う。
なので、この作品を通じて、
一体何を言いたかったのかが、
全く分からないのだ。
唯一、推測できるのは、
「息子(家族)を命懸けで守る、
偉大な父」を描きたかったのかな、
という程度。
アメリカ映画って、
例えばトム・クルーズ主演の『宇宙戦争』
みたいな娯楽映画にさえ、
父と子の絆のような要素を絡ませてくる。
どうも、「大いなる父」ってアメリカには、
重要な象徴なのかなと思うねん。
ここからややネタバレ。
グラス(レオナルド・ディカプリオ)が、
グリズリー(熊)に襲われるシーンは、
もの凄い迫力で、見所の一つやと思うねんけど、
あんなデカイ グリズリーに何度も
前足でやられたら、体中の骨が折れただろうと思う。
実際、足が変な方向に曲がっているぐらいの
大怪我だった。
ネイティブ・アメリカンの一人がグラスを助けて、
木の枝を組んで小屋を作り、
「スウェットロッジ」のようにするシーンがあるが、
治療と言えば、それぐらいのもの。
大した治療もせずにいつの間にか杖をついて
歩けるようになっていたり、
川の中で泳いだりするのは、ちょっとどうかなと思った。
事実に基づく話ということだが、
一体、誰が見ていたんだろう。
グラス本人の手記か何かが、原作なのだろうか。
実話に基づいた映画といっても、
昨日観た『スポットライト』とは、
種類が違うように思う。
映像は、圧巻なので劇場で観るべき作品だし、
157分を長く感じないのも素晴らしい。
でも、何が言いたいのか分からない。
この監督の作品、『バベル』、『ビューティフル』、
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と
観てきたけど、私には難しいのかもしれないな。
辞書によると「revenant」の意味は、
「帰ってきたもの, (特に) 亡霊」とあったが、
なるほど、死んだはずの奴が、生きた亡霊になって
帰ってくる話だった。
★★★☆☆
2016.4.28
ボーダーライン
SICARIO
エミリー・ブラントが、エリートFBI捜査官を
演じる映画『ボーダーライン』。
日本でのコピーが「その善悪にボーダーはあるのか」
ってことで、邦題が『ボーダーライン』なんでしょうが、
原題の『SICARIO』は、スペイン語で
ヒットマン(殺し屋)のこと。
映画を観終わると分かるこのタイトルの意味。
あい変わらず配給会社は邦題に苦労しているようですな。
ちょいネタバレです。
エミリー・ブラントが主役なのだが、
途中からベニチオ・デル・トロに持って行かれます。
エミリー・ブラントが演じるケイトは、
エリート捜査官で、ある任務に抜擢されるんやけど、
そこでは、あんまりええ働きができません。
ケイトは、真面目なんです。
舞台は、無法地帯のようなアメリカとメキシコの国境部。
敵は、麻薬組織。
警察官も麻薬組織に通じているし、
法なんて守っていたら、
悪者をやっつけられないような世界。
そんな中で、ケイトが就いたのは、
実はとんでもない任務の片棒だった。
結局は、復讐の話で、
監督が、あの、私が今まで観た映画の中で一番強烈だった
『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴと聞いて、妙に納得。
どのあたりまでが、実際のメキシコの姿なのか
分からんけど、極力、フィクションであることを
望むような えげつない内容です。
アカデミー賞の撮影賞、作曲賞、音響編集賞にノミネート。
確かに内容とは裏腹に映像には美しいシーンもあり、
暗闇の攻撃シーンも効果的。
音楽も重厚です。
ただ、テンポが速く、予備知識がないと、
途中でちょっと、何がどうなってんだか、
筋が混乱する。
終わってみると大体理解できるけど、
平和な日本人には考えられない世界。
オフィシャルサイトを読み直して、
ようやく、納得でした。
★★★★☆
2016.5.4
イタリア映画祭
俺たちとジュリア
Noi e la Giulia
2013年に知って以来、
毎年数本を観に行っているイタリア映画祭に
今年も行ってきた。
この映画祭は、今年で16回目。
今年は、2015年以降に製作された日本未公開の新作を
東京では12本、大阪では7本上映される。
ホントは、全部観たいぐらいなのだが、
そういうわけにもいかないので、2本をチョイス。
まずは、『俺たちとジュリア』。
人生が上手くいっていない3人が共同で、
大きな農家を購入し、ホテルに改装して
新しい人生を歩みだそうとする。
そこにリーダーシップを取る共産主義者と
妊婦も加わり、準備が順調に進み始めた矢先、
マフィアの登場だ。
今までイタリア映画祭で観た作品にも
マフィアが絡むものが多い。
イタリアって、本当にマフィアに
悩んでる国なんだなと思う。
本作は、ひと言で言うと大人のファンタジー。
監督は、エドアルド・レオという喜劇俳優らしく、
笑えるシーンも多い。
イタリアのゴールデン・グローブ賞では、
最優秀コメディー賞を受賞したらしい。
自分が人生の敗者だと宣言することができれば、
それは成功なのかもしれない。
ラストシーンのあとの、登場人物の人生は、
きっと明るいと思える、爽やかな希望のある物語。
大感動な映画ではないが、私は好きだな。
タイトルの「ジュリア」は、
マフィアの一人が乗ってきた、車の名前。
『俺たちとジュリア』は良い邦題だと思う。
★★★★★
2016.5.5
イタリア映画祭
オレはどこへ行く?
Quo vado?
イタリア映画祭、2本目は、
イタリア映画 興行収入で
歴代トップの大記録を打ち立てたという
コメディー映画『オレはどこへ行く?』。
主演は、イタリアの人気コメディアン、
Checco Zalone(ケッコ・ザローネ)。
映画の中の名前もケッコ・ザローネで、
原案もケッコ。
子供の頃から公務員になることが夢だったケッコ。
政府の方針で、リストラされそうになるのだが、
どんなに退職を勧告されても、公務員の職に
しがみついて辞めない。
担当の部長は、なんとかケッコが辞めるように
退職金を釣り上げ、嫌がらせで僻地への転勤させるが、
それでもケッコは辞めない。
お上への痛烈な皮肉と、ケッコの人間としての
変化をテンポ良く観せる。
結構 面白かったけど、イタリア人だったら
もっと笑えるのだろうなぁ。
邦題の「オレはどこへ行く?」は、
原題「Quo vado?」の直訳のようだ。
★★★★☆
2015.5.11
グランドフィナーレ
YOUTH
気になっていた映画、
『グランドフィナーレ』を観てきた。
監督は、イタリアのパオロ・ソレンティーノ。
といっても舞台はイタリアではなく、
スイスのアルプスの高級ホテル。
主人公もイタリア人でなく、
イギリス人という設定。
その主人公というのは、マイケル・ケイン演じる
引退した世界的に有名な作曲家・指揮者のフレッド。
そのフレッドが、アルプスの高級ホテルで
優雅に休暇を送っている。
そこへ、女王陛下の使者が、
フレッドの曲『シンプル・ソング』の
オーケストラの指揮を依頼してくるのだが、
彼はそれを「私的な理由」で断る。
そう、女王の依頼を断るのだ。
その「私的な理由」は、後半に明かされるが。
フレッドの50年来の友人に
ハーヴェイ・カイテル演じる映画監督のミック。
フレッドの娘役にレイチェル・ワイズ。
ホテルの客でハリウッド・スター役にポール・ダノ。
大女優役で(少ししか出番はないけど)ジェーン・フォンダ。
数名のシンガーが、本人役で登場するほか、
私はサッカーに疎いので、
最後まで誰だか分からなかったが、
マラドーナを思わせるキャラクターも登場する。
(マラドーナと聞けば名前ぐらいは聞いたことがある。)
引退した音楽家の最後を描いているので
『グランドフィナーレ』というタイトルかと
思いきや、原題は『YOUTH』。
逆やん。
「YOUTH」は、「若さ」というより、
この場合、「青春」とでも訳すんやろか。
確かに年寄りを描いていはいるけど、
「老後」を描きたかったんではないのは、
観れば分かる。
「これは青春の映画だ」と言われれば、
さもありなんって感じ。
役者が皆、良いです。
主演のマイケル・ケインと友人役の
ハーヴェイ・カイテル、2人ともたっぷりええ味です。
マイケル・ケインって、『バットマン』の
アルフレッド役のイメージが強かったけど、
塗り替えられたね。
ハーヴェイ・カイテルは、
『ピアノ・レッスン』のあの人。
ええ感じのジジイになってるなぁ。
そして、この2人に負けてないのが、ポール・ダノ。
この人、好きやなぁ。
めちゃくちゃええなぁ。
『リトル・ミス・サンシャイン』
『それでも夜は明ける』『プリズナーズ』
『ラブ&マーシー終わらないメロディー』と
彼の演技は、全て印象に残っている。
これって、凄いことやと思う。
『ラブ&マーシー』以外は、主役ちゃうからね。
さて、映画の感想はというと。
感動的なストーリーというわけではない。
物語は淡々と進んでいく。
そして、自分でも訳がわからないが、
最後の最後のシーンで、まさかの落涙だった。
なんで、泣けるのか分からない。
帰りの電車の中でも、地味〜に染みてくる。
そんな映画だった。
「眠たかった」「サイテー」とレビューに
書き込んでいる人は、おそらく若い人だろう。
私も20代の時に観てたら、
「なんや、これ」って思ったかもしれない。
そういう大人の映画です。
この監督の作品、ほかのも観なあかん。
ただ、理解できないシーンもあった。
でも、それは本作に限ってはなぜか、
映画のせいには出来ず、
私の想像力・理解力の不足のように感じた。
なので、もうちょっと歳をとったら、
もう一度観たい。
★★★★▲
2016.5.15
世界から猫が消えたなら
TV-CM で「今年一番泣きました」とか
「思い出したら涙が止まりません」と
試写会を観た若い女性が言っていたけど、
53歳のおっさんが観ると、どうなるんやろか。
ただし、おっさん、涙腺緩みがちやけど。
まあ、泣きはしましたね。
っていうか、これ、泣くでしょ。
人の死を扱ったら、泣くでしょ。普通。
って感じで、泣きはしたものの、
それほど心を揺さぶられたわけではないねんな。
脳腫瘍の主人公が、1日寿命を伸ばすために
世界からか何か一つモノを消さなければならないという
話で、そのモノを消すと、そのモノにまつわる
思い出や人間関係も消えていくという設定。
ひと言で言うと、ファンタジーで、
リアリティはないねんけど、切ない話やった。
主演映画を初めて観たけど、佐藤健は良いね。
悪魔と二役で、その悪魔との役作りの違いも良かった。
そして、友人役の映画オタクの濱田岳が、
ええ味出しとったなぁ。
助演男優賞あげたい。
★★★★☆
2016.5.22
海よりもまだ深く
阿部寛がダメ男を演じる映画『海よりもまだ深く』。
共演は、阿部の元妻役に真木よう子、
母役に樹木希林、姉役に小林聡美、
上司役にリリー・フランキー、
後輩(部下?)役に池松壮亮 。
監督は、今、日本で最も打率が高いと
言われている監督、是枝裕和。
確かに『海街diary』『そして父になる』
『歩いても 歩いても』『ゆれる』など
家族を描かせたら、今一番かもね。
(訂正)
『ゆれる』は、西川美和監督作品。
是枝監督は、プロデューサーとして参加。
15年前に一度賞を取っただけの売れない小説家。
まともに養育費も払えないけど、息子には会いたい、
別れた妻にも未練いっぱい。
そんな元家族が、台風の夜、久しぶりに
一緒に過ごすことになる。
劇的な事件があるわけでもないし、
めちゃくちゃ感動的なわけでもない。
なのに、なんでしょ、
終わった途端、じわ〜っとくるこの感じ。
人間の滑稽さをいっぱい描きながら、
滑稽なだけではない悲哀も同時に散りばめ、
語録ができそうなセリフを満載した作品。
樹木希林の怪演は相変わらずだが、
阿部寛もええ味出してます。
是枝監督は、監督だけでなく、
原案、脚本、編集もやっている。
すごいね、この人。
セリフにない機微の表現も素晴らしい。
カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 正式出品作品。
★★★★★
64-ロクヨン- 前編
『半落ち』『クライマーズ・ハイ』の
横山秀夫 原作の映画『64-ロクヨン-』。
前後編に分けての上映で、まずはその前編を観てきた。
主演は、元刑事で現在は警務部広報室室長を務める
三上義信役の佐藤浩市。
7日間しかなかった昭和64年に起きた
未解決の少女誘拐殺人事件の時効が迫る平成14年。
記者クラブと警察の対立、キャリア上司との対立、
刑事部と警務部の対立、それに加えて娘の行方不明
と数々の事情に挟まれた三上室長。
大変です。
そして、いややなぁ、大人の組織ってと、
しみじみ思う。
本作は、前編なので後編を観ないと
総合的に評価はできないけど、
後編を観たい!と思わせてくれた点では、
前編は成功でしょう。
出演陣も、佐藤浩市ほか、綾野剛、榮倉奈々、
夏川結衣、鶴田真由、赤井英和、椎名桔平、
三浦友和、奥田瑛二、瑛太、吉岡秀隆、
永瀬正敏、など大変豪華。
ただちょっと分かりにくい点もあったので、
後編を観る前に出来ればもう1回観たいなぁ。
あと、ウェブサイトの人物相関図で
予習復習が有効です。
★ 評価は、後半を観てから。
2016.6.9
セルロイドの天井
近日公開予定の映画『マネーモンスター』の監督、
ジョディ・フォスターの来日インタビュー記事を読んだ。
この映画、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの
主演で、人気テレビ番組が生放送中に乗っ取られるという
ストーリーで、予告編を見たが面白そうだ。
記事は、件の映画の話ではなく、
ハリウッドのメジャー作品には、
女性監督がほとんどいないという話で興味深かった。
米国では、低予算の作品やドキュメンタリー、
テレビドラマでは女性監督も活躍してるが、
巨額の制作費がかかるメジャー作品には、
女性監督は任されないというのだ。
その理由は、大手映画会社が、
女性に監督を任せることを
リスクだと見ているからだという。
女性初の大統領が誕生かというアメリカの
話だとは思えない現実だ。
確かに女性映画監督って、思いつかないけど、
そういう背景があったとは知らなかった。
日本ではどうなんだろう。
男女比はやはり圧倒的に男性が多いが、
荻上直子(『かもめ食堂』『めがね』)、
西川美和(『ゆれる』『ディア・ドクター』)、
河瀬直美(『あん』)など、ハリウッドに比べると、
活躍の場があるということだろうか。
記事
セルロイドの天井、壊すには
ジョディ・フォスターさん (朝日新聞)
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「おぞましい」ハリウッドにはびこる
女性映画監督への「差別」 (産経ニュース)
2016.6.12
64 -ロクヨン- 後編
先月、前編を観て「後編を観たい!」と
書いた『64 -ロクヨン-』の後編を観てきた。
前編の時も書いたけど、出演が
佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、
三浦友和、奥田瑛二、瑛太、吉岡秀隆、
永瀬正敏、緒形直人、鶴田真由、赤井英和、
椎名桔平 と大変豪華なのは間違いないが、
宣伝文句にある「映画史に残る傑作の誕生」というのは
いささか大げさではないやろか。
面白くなかったわけではないが、
期待していたほどではなく、
どうも不完全燃焼感がある。
残念ながら「映画史に残る傑作」とは言い難い。
ネット上のレビューを読むと、
昨年 NHK で放映された テレビドラマ版が
かなり良い出来だったようで、
映画に低評価をつけているレビュアーの中に、
テレビドラマの方が良かったと
書いている人が目立つ。
そちらの主演は、ピエール瀧。
NHK のサイトで調べてみると、
有料(1番組 108円〜)で視聴可能なようなので
観てみたい。
ただ、5話(5時間)あるので、
時間のある時に一度に観たいと思う。
「不完全燃焼感がある」と書いた理由は
いくつかある。
後編の警察の捜査の背景がイマイチよく分からなかったり、
昭和64年の誘拐事件で、犯人が何故、
子供を殺したのかが、明らかにされなかったり、
その誘拐殺人事件の被害者遺族(父親)が、
自力で犯人を見つける方法が、
ちょっと現実的でないような気がしたりと、
おそらくは、原作を読めばよく分かるのであろうことが
腑に落ちないまま、物語が進んでいき、
終わってしまった感があるのだ。
父親が犯人を見つける方法は、
「理屈じゃないんだ、執念だ」なんて
言われたら、はいそうですか、としか
言い様がないねんけど。
きっと、原作は面白いのだろうと思う。
今のところ、原作を読む気にはなってないけど、
NHK ドラマは観てみたいな。
★★★▲☆
2016.6.17
ヒメアノ〜ル
強烈な映画だった『ヒメアノ〜ル』。
出演は、濱田岳、V6の森田剛、ムロツヨシ、
佐津川愛美、など。
原作は、古谷実という人のコミックらしいが、
全く知らなかった。
何も予備知識なしで観たのだが、
始まって30〜40分は、完全にコメディだと
思って大笑いしていた。
しかし、ある瞬間にガラッと雰囲気が変わる。
そこでようやくタイトルが入る。
まるで、「ここからが本編ですよ〜。
今までは笑ってもらいましたけど、
これからは違いますよ〜」とでも
言わんばかりの展開。
まず、そこでゾクッときたね。
そこからは、笑えない展開。
たまにちょろっと笑わせてはくれたけど、
基本的にサイコ&バイオレンス。
血、いっぱい出ます。
人、何人も殺されます。
殺人鬼役の 森田剛 が良い。
まじで怖い。
濱田岳のラヴシーンは、ちょっとぎこちない。
まあ、童貞の役だからというのもあるんやろうけど。
逆に童貞だから、もっとがめつく行って欲しかったな。
ムロツヨシは、前半、セリフが棒読みのように
感じたが、途中からそういう喋り方の人に
見えて面白かった。
森田(役名も森田)が、
なぜ、殺人鬼になっていったかという背景には
イジメという根深い問題がからんでおり、
ただの娯楽作品とは言えない、
シリアスさと悲しさがある。
これは、記憶に残る作品だ。
★★★★★
2016.6.19
葛城事件
一見、幸福そうな、どこにでもいそうな
家族が壊れていく様を描いた、
ちょっとしんどい映画『葛城物語』。
家庭が壊れていくというのは、
家族それぞれが精神的に病んでいくと
いうことでもある。
父を三浦友和、母を南果歩、
長男を新井浩文、次男を若葉竜也が演じる。
殺人事件を犯し、死刑が確定したその次男と
結婚する死刑制度反対を訴える女性に田中麗奈。
全員、好演だが、特に三浦友和が良い。
この人、良い人役より、
ちょっと狂気の人を演る方が、好きやな。
人間のダークサイドばかりに焦点を当てており、
結局、救いのない話で、鑑賞後はあまり楽しくない。
無差別殺人事件を犯した犯人が、
本当に獄中であんなことを言っているとしたら、
あまりにも酷すぎて、言葉がない。
被害者が浮かばれないとか、そんなレベルではない。
演出だと思いたい、というか、
犯人がどういう考えで、何を言うのかなんて、
想像できないし、したくない。
そして、死刑にしたらそれで何かが解決するわけでもない。
ウェブサイトに赤堀雅秋監督のこんな言葉があった。
社会派の作品を世に問うたのではなく、
「こういった現実がわれわれの地続きにある」という
想像力を喚起したいだけなんです。
できれば、映画を観終わったあともずーっと、
悶々としてもらいたいですね。
なるほど。
そういうことか。
確かに、あの家族4人それぞれは、
どこにでもいそうな人たちで、
映画の中だけの人とは思えない。
実際に無差別殺人もあれば、
自殺も起こっている。
私が生きているこの地続きのどこかで。
★★★★☆
2016.6.21
ジュリアーノ・ジェンマ
Giuliano Gemma
子供の頃、ジュリアーノ・ジェンマが出演している
西部劇(映画)を何本か、テレビで観た覚えがある。
『荒野の1ドル銀貨』とか『夕陽の用心棒』だったと
思うのだが、子供心にジュリアーノ・ジェンマが
カッコよく見えて大好きだった。
ジュリアーノ・ジェンマは、イタリア人で、
このイタリア製西部劇のことを、日本では
「マカロニ・ウェスタン」と呼んだ。
クリント・イーストウッド主演の『夕陽のガンマン』、
『続・夕陽のガンマン』なども、
クリントはアメリカ人だけど、イタリア製作なので、
マカロニ・ウェスタンになる。
米国やイタリアでは、
「スパゲッティ・ウェスタン」と呼ぶようだが、
ウィキペディアには、こう書いてあった。
セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』が
日本に輸入された際に、映画評論家の淀川長治が
「スパゲッティでは細くて貧弱そうだ」ということで
「マカロニ」と呼び変えた。
(中身がないという暗喩も含んでいるという説もある)
さて、先日ふと、そのジュリアーノ・ジェンマのことを思い出し、
最近見なくなったなぁ、どうしてるんやろ、と調べてみた。
晩年は、彫刻家としても活動していたようだが、
2013年10月にローマ近郊で、自家用車を運転中に
事故に遭い、搬送先の病院で死亡したらしい。
享年75歳。
そうか・・・。
死んでしもたんか。
近々、久しぶりに『夕陽の用心棒』でも
観てみよう。
合掌。
2016.7.6
日本で一番悪い奴ら
詳しく知らずに、
半分コメディのような映画かと思っていたら、
「実在の刑事をモデルにしたフィクション」と
冒頭にテロップが流れた。
観終えてから調べてみると、
北海道県警の元警部・稲葉圭昭という人が
書いた『恥さらし』という本が原作だった。
原作は読んでいないので、
どこまでが事実に基づいており、
どのあたりがフィクションなのか分からないが、
原作者の稲葉が覚せい剤取締法違反容疑と
銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で逮捕され、
有罪判決(懲役 9年)を受けた上、
映画のオフィシャルサイトには
「これは実話です」とあるので、
大体は本当なんだろうな。
刑事が、拳銃を摘発するために
覚せい剤の密輸を見逃したり、
挙句の果てに捜査費用を稼ぐために
麻薬密売をさせたりという違法捜査をする。
歪んだ正義なのか、勘違いなのか
分からないが、結局は自分が覚せい剤に
手を出してしまうという、
なんともどうしようもない話。
主役の刑事・諸星要一に綾野剛。
若い頃の水谷豊やショーケン、松田優作あたりを
思い出させる演技・キャラで、中々良いです。
そのほかの出演は、YOUNG DAIS、
ピエール瀧、中村獅童など。
お笑い芸人の植野行雄(デニス)が、
パキスタン人役で、ええ味出してます。
本当は、ブラジル人と日本人のハーフらしいが、
パキスタン人に見えてしまうねん。
違法捜査の一部は組織ぐるみだったのに、
逮捕されたのは、諸星一人だけ。
「日本で一番悪い奴ら、それは、警察だった」という
コピーは、まるで警察権力への挑戦状のようです。
★★★★☆
2016.7.7
TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ
宮藤官九郎監督・脚本によるコメディ映画。
なんか、面白そうやけど、もしかしたら
くだらないかも、と観るのを躊躇していたが、
Char さんが出演していると知って、
これは一応観ておこうと。
高校生男子が、修学旅行中のバス事故で死に、
地獄へ落ちるという話。
その男子・大助に神木隆之介。
地獄の鬼に長瀬智也。
出ていると知らなかったので、
登場した時に嬉しかったのは、宮沢りえ。
そのほか、桐谷健太、尾野真千子、坂井真紀、
古田新太、荒川良々など結構豪華。
で、地獄の鬼ギタリスト役で Char。
野村義男とギターを弾きまくるシーンで登場。
セリフはなかったけど、鬼ということで
角を付け、牙もつけての出演。
よく受けましたね。このオファー。
それから、木村充輝、マーティ・フリードマン、
ROLLY、みうらじゅん なども地獄のシーンで登場。
私は結構笑えたけど、かなりマニアックな作りで、
ロックやギターに詳しくない人には、
笑えないだろうギャグやパロディが満載。
例えば、楽器店が「鬼野楽器」だったり、
ジミヘンの左手を付けたら、
ギターがちゃんと弾けなくて、
ジミヘンは左利きだったからとか。
ちょっとくだらないシーンもあったけど、
思っていたより、面白く楽しめた。
テレビ番組にクドカン、長瀬、神木が、
出てて一部ネタばらしをしていたのを
観てしまっていた。
それを観ていなかったら、
あるシーンでは、大爆笑しただろうにと思う。
やっぱり、予告編や宣伝番組は、
なるべく観ん方がええな。
★★★★☆
ふきげんな過去
二階堂ふみ と 小泉今日子 が 共演しているので、
これは観ねばと期待した映画。
高校3年生の果子(二階堂ふみ)のところに、
18年前に死んだはずの伯母 未来子(小泉今日子)が
生きていて、突然帰ってくるという設定なのだが、
う〜ん、ちょっと難しいなぁ。
ファンタジーなんやろうけど、
哲学的なのか、何が言いたいのか分からない。
二人の名前が「果子(かこ)」と「未来子(みきこ)」で、
「過去」と「未来」にかけていたりと意味深。
ストーリーには起伏があるようで、
淡々と進みすぎて、その起伏が感じられない。
後半にちょっとだけ、感じたけど。
二階堂ふみと小泉今日子は、良かったんやけど、
作品としては、微妙だった。
好き嫌いが分かれる作品だろう。
二階堂ふみの高校生役は、
そろそろ限界かなぁ。
セーラー服を着るとギリギリ高校生に見えるけど、
私服だともう大人っぽくて。
舞台が北品川だったので、見覚えのある商店街や
店先が映ったのは、親近感があった。
★★★☆☆
2016.7.9
ふたりの桃源郷
山口放送のテレビ・ドキュメンタリーを
映画化した作品『ふたりの桃源郷』。
ある夫婦と家族の姿を
25年にわたり追いかけたドキュメンタリーで、
87分と映画としては短めの作品だが、
もうほとんど泣きっぱなしだった。
涙腺決壊です。
水道も電気もない山で過ごすことを選択した夫婦。
山を下りて一緒に暮らして欲しいと願う娘たち。
短期間の取材では、とうてい見えてこないであろう
夫婦と家族の姿が、25年に及ぶ取材で見えてくる。
夫婦は、なぜ、山を選んだのか。
生きること、食べること、老いていくこと、
死んでゆくこと、夫婦、親子、家族、
それらを淡々と映し出すだけなのに強烈。
鑑賞後、久しぶりにパンフレットを買った。
パンフレットに佐々木聡(あきら)監督が、
「ぜひ観た人がそれぞれの『桃源郷』を
見つめ直すきっかけにしていただけると
うれしいです」と書いている。
桃源郷。
聞いたことのある言葉だが、
意味が分からない。
改めて調べてみると
「ユートピア(理想郷)と同意」という記述と
「ユートピアとは似て非なる、正反対のもの」という
記述があった。
元々は中国の古い書物『桃花源記』が出処のようで、
「再訪は不可能」
「目的を持って追求したのでは到達できない場所」
という記述に惹かれる。
この夫婦がたどり着いた桃源郷は、
誰もが探して見つけられる場所ではないだろう。
田舎暮らしに憧れる程度のやわな心持ちでは、
到底たどり着ける場所ではないだろう。
それでも憧れずにはいられない。
自分には出来ないから、憧れるのかもしれない。
パンフレットには、山口放送で、
2002年から13年にかけて放送された
人気テレビ番組シリーズを新たに撮影した
映像を加え再編集し映画化したとある。
おそらくは、テレビで放送された中には、
もっと家族の葛藤や、迷いも描かれていたのだろう。
映画では、そのあたりは深く描かれていないが、
それぞれの思いの重さ・深さは、
いかほどであっただろうかと思わされる。
あれほどの親孝行を私はできていないし、
できそうにない。
でも、観終えて何かをもらったように
思えるのは、なんだろう。
若者はもちろんだが、これから老いを迎える
私たち(40〜50代)こそ、観るべき作品だと思う。
残念ながら、東京では東中野の ポレポレ東中野
一館でしか上映していない。
しかも 5月14日に公開されたこともあって、
一日一回16:50からの上映のみ。
8月5日迄の上映なので見逃さないよう、
ぜひ観に行ってください。
ナレーションは、吉岡秀隆。
★★★★★
2016.7.30
ブルックリン
BROOKLYN
さほど期待なく観た映画『ブルックリン』。
予告編は、何度か観ていたので、1950年代、
アイルランドからアメリカに移った女性の
物語だとは知っていたが、ここまでツボに
入るとは予想もしなかった。
ラストシーンでは、私は嗚咽を堪えなければ
ならないほどだったが、観る人によっては
賛否が分かれているようだ。
自分でも、何がそこまでツボだったのか
分からないが、自分の中の何かに
ヒットしたんだろうな。
主人公エイリシュ役のシアーシャ・ローナンが良い。
あんまりパッとしない田舎娘が、
NY に出て、恋人も出来て変わっていく。
途中、エイリシュの優柔不断さに反感を覚えるが、
人の心は無常だということと、
変わらぬものものあるという両方を
描いているように感じた。
また、欲しい時には手に入らないけど、
欲しいと思っていないと(手放すと)、
向こうからやってくるという人生の皮肉も
描いているのかもな。
また、エイリッシュが正気に戻るきっかけが、
村の嫌われ者だというのも皮肉な感じ。
1950年代の風景やファッションも良く、
映像的にも美しい。
★★★★★
あなた、その川を渡らないで
My Love, Don't Cross That River
「98歳の夫と89歳の妻、
誰もがこうありたいと願う
夫婦の純愛物語」という触込みの韓国の
ドキュメンタリー映画。
本国では480万人を動員
(国民の10人に1人が観た)という
ドキュメンタリーとしては異例のヒット作らしい。
先日観て、いたく感動した日本のドキュメンタリー映画
『ふたりの桃源郷』と同様に老夫婦に
密着した作品なので、韓国版『ふたりの桃源郷』かと思い、
公開初日の今日、観てきた。
感想は、泣けるシーンはあるものの、
期待していたほどではなかった。
(これって、演出ちゃうの?)と、
疑いたくなるようなシーンもあって、
ちょっと残念だったのだが、
もしかしたら、国民性の違いとか、
習慣の違いとか、そういうことが
本作を十分に理解させない要因かも
知れないとも思う。
老夫婦の歩んできた人生が、
いまいち描かれていないことも
物足りなさの一因かな。
そんなことを思うと
比べるべきではないだろうが、
『ふたりの桃源郷』の秀逸さが際立つのだった。
★★★▲☆
2016.7.31
トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
TRUMBO
以前、『ジョニーは戦場へ行った』について
書いたことがある。→ 2010.9.21。
中学生だったか高校生だったかの
ティーンエイジャーの頃、
『ジョニーは戦場へ行った』を読み、映画も観て、
その原作者ドルトン・トランボの名前を覚えた。
今では、「ダルトン・トランボ」と表記されているが、
私が読んだ原作では、「ドルトン」だった。
ティーンエイジャーの頃は、トランボの名前を
知っただけで、赤狩りのことも、彼が
映画の脚本家であったことも知らなかった。
『ジョニーは戦場へ行った』以外の作品を
知らなかったのに、その名前を記憶に留めたのは、
『ジョニー〜』が、それだけインパクトのある
作品だったということだ。
そのトランボ自身を描いた映画、
『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』。
トランボは、第二次大戦後、赤狩りの標的になったが、
自分の信念を曲げず、投獄までされた。
今から考えると、全く不当な扱いだ。
釈放後も、ブラックリストに名前が載っているため、
映画界で仕事ができない。
そこで、友人の名前で世に出した『ローマの休日』が
アカデミー賞を受賞。
その後も偽名で仕事を続け、ロバート・リッチという
実在しない人物の名前で書いた『黒い牡牛』が、
これまたアカデミー賞を受賞した。
50年代のアメリカは、共産主義への脅威に怯え、
共産党員だというだけで、ソ連のスパイ扱いを受けた。
友人知人の名前を売らなければ、
自分を守れない、ひどい時代だった。
そんな中、権力に屈することなく、
オリジナルな方法で、自分の名前を
取り戻したトランボは、
誰にも抑えることのできない才能と
不屈の精神の持ち主だったのだ。
実話なので、実在した人物が登場するのだが、
これが良い奴だったり、嫌な奴だったり。
『スパルタカス』で脚本にトランボを起用する
カーク・ダグラスは、めっちゃカッコ良く
描かれているが、ジョン・ウエインや、
ヘッダ・ホッパーは、とても嫌な人として
描かれている。
まあ、実話なのでしょうがないのだが、
ご本人はあの世で、どう思って観るのだろうか。
映画の最後のシーンでは、トランボの感動的な演説
(1970年だったと思う)が聞ける。
そして、エンドロールで流れる本人の
(偽名で仕事していたことを名乗り出た時の)
インタビュー(実際の映像)で語られる
娘への思いが、また感動的。
ダルトン・トランボ役に ブライアン・クランストン。
今まで出演作を数本観てはいるけれど、
記憶になかった。
でも、本作では主役。
ええ味出してます。
妻役にダイアン・レイン。
大きくなった長女に エル・ファニング。
(だいぶん、大人っぽくなってきた。)
B級映画会社の社長役のジョン・グッドマン。
「トランボを切れ」と映画界から圧力を
かけられた時のキレ方が良い。
過去の自国の過ちを、こんな風に
赤裸々に描けるのがアメリカという国なのだろう。
トランボは、1976年に死去。
1993年になって、『ローマの休日』のオスカー像が
トランボの妻クレオに 正式に渡された。
★★★★★
2016.8.6
ニュースの真相
TRUTH
ケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォード
出演の映画『ニュースの真相』。
2004年、ジョージ・W・ブッシュ大統領の
軍歴詐称をスクープ報道した CBS の「60ミニッツ」の
プロデューサー、メアリー・メイプス役に
ケイト・ブランシェット。
番組の司会ダン・ラザー役にロバート・レッドフォード。
メアリー・メイプスの自伝を基に映画化されたようで、
登場人物は、全員(?)実名のようだ。
報道番組の裏側、大物政治家のスキャンダルを
報道することのリスク、ジャーナリストとは、
ジャーナリズムとは、報道とは、
等等いろんな側面で、興味深い作品だった。
何よりも実話というのは、やはり力強い。
ここからネタバレ。
タイトル(原題)は、"TRUTH"、
つまり「真実」なのだが、ブッシュの軍歴詐称は、
真実かどうか分からないままだ。
番組は、ブッシュの軍歴詐称を
暴くことがテーマだったわけだが、
いかんせんツメが甘かった。
証拠として、放送したある文書が、
放送後に偽造されたものと分かり、
番組関係者は、批判にさらされ、大問題に発展する。
CBS は、内部調査委員会を設置。
政治的な策略だったのではないか、
どうして、文書が偽造だと見抜けなかったのか、
と、もともとのテーマだった「ブッシュの軍歴詐称」から
ポイントは、完全にずれてしまい、
「軍歴詐称」は、どっかに吹っ飛んでしまう。
その調査委員会でのメアリーの最後の主張
(ささやかな反抗にも見えた)がカッコ良い。
しかし、彼女はしくじったことには変わりない。
非常に有能な人であったのだろうが、
結局クビになってしまうのだった。
メアリーを演じるケイト・ブランシェットが良い。
今年公開され、アカデミー賞 主演女優賞に
ノミネートもされた『キャロル』の
ケイトより、断然こちらのケイトの方が、
私は好きだ。
そして、今年80歳の ロバート・レッドフォード。
一昨年の『オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜』を
観たときにも感じたことだが、
なんか顔が昔と違ってて、パッと見、
誰かわからないです。
アメリカの大統領が、ベトナム戦争に行かないために
不正をしていたなんてスクープは、
芸能人の不倫や浮気のスクープとは、質が違う。
それだけの大きなスクープを報道するためには、
当然リスクも大きい。
テレビ局は番組関係者を守ってはくれない。
命懸けなのだ。
そして、この手の映画を観るたびに感じる
アメリカの表現の力強さ。
良い悪い、好き嫌いは別にして、
結局、白黒はっきりしないままの
「ブッシュの軍歴詐称」を映画にすることが
できるのがアメリカという国なのだね。
★★★★★
2016.8.8
シン・ゴジラ
[IMAX版]
1998年のハリウッド版 『GODZILLA』には
凄くがっかりしたし覚えがあるし、
ハリウッドが再リメイクした 2014年の『GODZILLA』
(渡辺謙も出てたあれね)も、イマイチだった。
あの年は、1954年の第1作、
「ゴジラ 60周年記念 デジタルリマスター版」も
観たけど、そっちの方が良かったもんね。
で、今年は日本が作ったゴジラ。
ずい分と前から、映画館では予告編をやっていた。
半年以上前とちゃうやろか。
最初の頃の予告編では、ゴジラは映っていなくて、
何の映画か分からず、最後にタイトルが出て、
「え〜ゴジラ、また作るの?」って思った覚えがある。
最近の予告編を観て、
(まあ一応、観とこかなぁ)ぐらいには思っていたけど、
公開されてから やけに評判がいいようだ。
で、昨日はちょうど私の誕生日だったので、
普段ならこの手の映画は絶対に観ない妻を
付き合わせて観ることにした。
解説には、
「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明が総監督、
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の樋口真嗣が監督を務め、
シリーズ初のフルCGで復活
とあるけど、私はどちらにも興味がなく、
観ていないので、そこからの期待はゼロ。
「総勢328名のキャストが出演」というのも、
映画の出来とは関係ないので、
ホントに観終えるまで、想像がつかなかった。
前置きが長くなった。
で、感想はというと、評判を聞いて
ちょっと期待したけど、それほどでもなかった、
というのが正直なところ。
以下、ネタバレ含みますので
これから観る予定の人は注意。
ゴジラ出現で起こる事態に、
政治の問題点の指摘や、
動揺する政治家たちの姿に風刺もあって、
これは小学生には分からないな、と
大人向けの映画である印象を受けた。
ゴジラが街を破壊する様子もリアルで、
特に知っている北品川の場面は、
身近な分、リアリティも増した。
成長する前のゴジラは、
なんかブサイクやったけど、
前半は、面白かった。
が、後半、ゴジラをやっつけるのに
米国が絡み始めたあたりから、
何か失速した感がある。
ゴジラが再度上陸した理由が分からない。
理由なんかないのかも知れないけど。
あんなに広い海から、鎌倉に上陸し、
再び東京を目指すのなら、何か理由が欲しかったな。
キングコングが、故郷の風景に似てたので
エンパイア・ステート・ビルに登ったみたいに。
石原ひとみは、可愛くて良いのだけど、
映画としては 余計なキャラという印象が拭えない。
日系アメリカ人という設定なのだが、
米国のその立場の人間としては、
若すぎやしないか。
私は、彼女の英語は結構うまいんじゃないかと
思ったのだが、ネット上では
「石原さとみの英語が酷い」という書き込みが
結構あるらしい。
で、ある人が、「英語が下手」ということと
「ネイティヴの英語に聞こえない」ということは
別の問題だと書いていた。
「石原さとみの英語が酷い」と書いている人は、
後者の意味じゃないかと。
また、米国人のコメントでも
「頑張っているのはわかるけど、3割ぐらい
何を言っているのか分からなかった」という旨の
指摘があった。
それを書いた人が、本物の米国人かどうか
分からないけど、この手の書き込みが
多いところを見ると、彼女の英語は、
「ネイティヴの英語には聞こえない」ようだ。
つまり、ネイティヴで米国の大統領特使の
英語としてはお粗末だと、
英語を聞く耳を持つ日本人や米国人に書かれているわけだ。
と、なると、なぜそんな彼女を起用したのか、
っちゅう問題になってしまうわな。
彼女は、英語に関して相当の努力をしたようだが、
どんなに努力をしても、
結果が伴っていなければ辛辣な批判を受けるのが
プロの世界だ。
まあ、一方で、
「かわいいねんから、別にええやん」っていう
声もある。
確かにかわいい。
同意する。
が、作品としては、残念ながらマイナス要素だ。
そして、国連軍の核攻撃のカウントダウンが
始まった時点で、「ヤシオリ作戦」でやっつけるんやなと
結末が分かってしまうのも残念。
最後まで、どうなるんやろ?と
ハラハラさせて欲しかったな。
そして、ゴジラは血液凝固材(?)の投入で、
固まってしまうのだけど、その投入の仕方も、
あんなんでそんなに上手いこと、
飲み込ませられるか?と疑問が生じた。
ほんで、ゴジラのしっぽになんか骨みたいな
ものが付いてて、顔が見えた。
それにはいろんな説があるみたいやけど、
私はあれはゴジラの子供で、
続編への伏線だと思ったな。
どっちにしても、東京のど真ん中で
ゴジラが固まってんねんから、
何かの拍子に動き出すことにすれば、
簡単に続編は作られるやろうけど。
で、一番の物足りなさは、
1954年のオリジナル作品にあったような
メッセージが薄い、ということ。
人間のエゴがゴジラを生み出し、
人間のエゴでゴジラを消そうとする、
オリジナル作には、
そんな人間への警告があったと思うのだが、
本作は、自衛隊の武器使用の問題や、
日米安保、国際関係における日本であるとか、
シビアな問題にも触れておきながら、
今一歩、深みにかけるという印象なのだ。
あと、IMAX で観たんやけど、
500円も高いのに、そんなに大したことなかった。
これは、映画の中身と関係ないけど。
出演者は、長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、
柄本明、大杉漣、國村隼、ピエール瀧、
高良健吾、余貴美子、古田新太、などなど大勢。
★★★▲☆
奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ
LES HERITIERS
2011年に、閉館した恵比寿ガーデンシネマ。
結構、良い映画をやっていたので、
閉館して残念に思っていたら、
昨年3月に復活したのだ。
昨日は、5年(以上)ぶりに
恵比寿ガーデンシネマに行ってきた。
作品は、一昨日公開のフランス映画
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』。
「落ちこぼれクラスの実話を映画化した
ヒューマンドラマ」ということで、
期待していったけど、こちらも『シン・ゴジラ』同様、
期待したほどではなかった。
落ちこぼれクラスの担任が生徒たちに
“アウシュヴィッツ” というテーマを扱った
歴史コンクールへの参加を促し、
その準備活動を通じて、生徒たちが団結し、
歴史に目覚め、真面目になっていくというような
ストーリーやねんけど、
やはり日本人にとっての “アウシュヴィッツ” と
ヨーロッパの人たち(フランスのユダヤ人も
犠牲になっている)にとっての
“アウシュヴィッツ” は全然違うんやろなと思う。
そのあたりのこともあって、
そこまで、感動しなかったのかも。
映画には、実際に大量虐殺が行われた
強制収容所から生還したレオン・ズィゲルという人が
登場し、生徒たちに当時の話をするシーンがある。
彼は、この映画完成後に亡くなったらしい。
テレビドラマのように
個々の生徒の変化に時間をかけて観ることができれば、
きっともっと感動的なのだろう。
でも、それを2時間で見せるのが映画やからね。
それと、意味のよく分からないシーンもあり残念。
そのあたりも、国民性とか、
多民族が一緒に住んでいるフランスと
日本の違いかもしれない。
★★★▲☆
2016.8.12
ジャングル・ブック
THE JUNGLE BOOK
[IMAX] [3D]
先日、たまたまテレビで、
映画『ジャングル・ブック』のメイキングを観た。
おそらく、それを観なかったら、
観に行こうとは思わなかっただろう。
主人公の少年以外は、
全てCG だというのが驚きだ。
一昔前なら、(どうやって撮影したんやろ?)
(どうやって動物を調教したんやろ?)と
不思議でしょうがなかっただろう。
ジャングルの光景や、動物たちの表情が
素晴らしいし、セリフと口の動きも
合っていて、不思議なリアル感満載だ。
狼に育たられた人間の少年の物語で、
ストーリー自体は、特にどうってことはない。
あんまり深みも感じないし、
教訓的なメッセージも感じない。
でも、さすがはディズニー。
大人でも十分に楽しめる仕上がりだった。
本作は、映像とその世界を楽しむ作品だと思う。
先日観た『シン・ゴジラ』では、
IMAX は大したことなかったと書いたけど、
本作は、どうせなら、IMAX で 3D で楽しみたい。
長い長いエンドロール。
(そのエンドロールさえ、楽しめる。)
それだけ多くの人が製作に関わったということだろう。
★ の一つは、映像に。
★★★★★
2016.8.28
火 Hee
桃井かおりの監督主演作『火 Hee』。
放火を犯した娼婦が精神科医にその罪を
独白する物語と読んで、俄然 興味が湧いた。
原作は、芥川賞作家の中村文則の短編。
文学に疎い私は、中村文則の名前を知らなかったけど、
ピースの又吉と桃井かおりと 3人のトークの
動画を観て、ますます期待度が上がった。
舞台はアメリカで、罪を犯した娼婦が、
日本人精神科医のところに
精神鑑定(?)に連れて来られ、
そこで、過去を話していくという物語。
原作では、ト書きさえなく、
ただただ主人公がしゃべり続けるという
小説らしい。
桃井かおりが演じるのは、年齢不詳の娼婦。
解説には初老の娼婦とあったが、
桃井はアップになっても、
とても60代には見えない。
さて、映画の感想はというと・・・
う〜ん、よう分からん。
前半に精神科医が桃井演じる女性と
クリニックで問診するシーンがあるのだが、
オフィシャルサイトのあらすじを読むと、
「真田は彼女とクリニックで問診している様を妄想する」
とある。
えっ? あれ、妄想シーンやの?
と、ビックリ。
ちょっと、つじつまが合わなくなるんやけど、
私の理解不足やろか。
そして、こんなことも書いてある。
「彼女の話を聞く内に、
次々に登場する男と自分を重ね合わせ、
彼女の話に引き込まれていく真田」。
真田というのは、精神科医のことやねんけど、
登場する男と自分を重ね合わせてたん?
全然分からへんかった。
これも、私の理解不足やろか。
他にも、よく分からない点があり、
消化不良で終わってしもた。
72分と短めの映画だったが、
これ以上長かったら、辛かったかも。
期待しただけに、残念でした。
★★▲☆☆
2016.8.30
ゆずの葉ゆれて
松原智恵子 芸歴55周年記念 主演映画
『ゆずの葉ゆれて』。
出演は、松原智恵子の他、津川雅彦、
西村和彦、小林綾子、芳本美代子、
子役の山時聡真ら。
評価が高かったので、期待して
泣く気満々(?)で観に行ったのだが、
ちょっと私の思っていたような映画ではなかった。
松原智恵子演じるばあちゃんは、
お嬢さん育ちという設定だが、結婚以来、
40年以上畑仕事をしてきたお百姓さんとしては、
残念ながら、見た目がキレイすぎる。
イメージとしては、もっと日焼けしていて、
顔に深いシワが刻まれているんやないやろか。
でも、それをメイクでやられるのも
どうかなと思うけど。
ストーリーの肝になるエピソードに
疑問があったり、途中、じいちゃんが話す
怖い話の行方が分からなかったりと、
疑問が残ることも残念だった。
全体としては、ゆるい感じで、
昭和な印象。
やや、時代遅れな感を否めないが、
この手の映画では、そういう表現になるのも
仕方がないのかもしれない。
きっと原作は良いのだろうが、
私は少年にもじいちゃんやばあちゃんにも
感情移入できず、
映画としては、何か物足りない感じだった。
鹿児島が舞台で、田園風景は美しく、
夏の土や草の匂いがしてきそうな映像は良かった。
★★★☆☆
2016.9.8
後妻業の女
大竹しのぶ、豊川悦司主演の映画
『後妻業の女』。
原作は未読だが、黒川博行の「後妻業」。
「後妻」は「女」と決まっているのだから、
タイトルの「の女」は余計だと
ネットに書いていた人がいた。
確かにそう思うが映画のタイトルとしては、
「の女」がある方が語呂が良いんちゃうやろか。
金持ちじいさんの後妻に入り、
財産を奪う女に大竹しのぶ。
そのビジネス(?)パートナーで、
結婚相談所の所長に豊川悦司。
そのほか、尾野真千子、永瀬正敏、
笑福亭鶴瓶、水川あさみなど。
ちょい役で、余貴美子、笑福亭鶴光、
伊武雅人、柄本明、津川雅彦、森本レオなど。
さて本作、下品だという声もあるようだが、
この程度の下品さは下品に入らないな。
もちろん上品ではないし、
家族団らんで観られる映画ではないけどな。
面白くないわけではないけど、
何かが中途半端な感じ。
ドラマの終結の仕方もイマイチ、
ピンと来ないまま終わってしもた感がある。
2、3箇所、全然おもろない、
くだらないシーンもあった。
そして、ネイティヴ大阪人として
イヤなのは、役者の変な大阪弁。
トヨエツは大阪出身、尾野真千子は奈良出身なので
問題ないが、関西出身でない役者の大阪弁は、
残念ながらあきまへんねん。
大竹しのぶは、かなり頑張ってる方なんやろうけど、
それでも、違うねんな。
大阪の人は、そんなイントネーションで喋れへんねん。
その違いは大阪の人にしか分かれへんのかもしれんけど、
どうせやったら、全員関西出身の役者で
作って欲しいな。
それでなければ、大阪舞台という設定を止めるかや。
映画作る人、そのへん、本気でリアルに
作って欲しいな。
あと、鶴瓶の使い方ももったいない。
★★★▲☆
2016.9.9
アスファルト
ASPHALTE / MACADAM STORIES
フランス郊外の寂れた団地を舞台にした映画
『アスファルト』。
原題も『ASPHALTE』だが、
並んで書かれている『MACADAM STORIES』の
「MACADAM」は、「舗装道路」の意味なので、
やはりアスファルトと似たような意味だろうか。
本作、コメディ映画との紹介されているが、
私はあまり笑えなかった。
例えば、車椅子に乗った男性が、
団地の入口のスロープを上るのに
苦労するシーンがある。
ここで、観客からクスクスと笑い声が聞こえる。
何が面白いのだろう。
笑うシーンだろうか。
役者が、コミカルに演じているわけでもないのだ。
他にもそういう(ここ、笑うとこか?)と思うシーンで
クスクス笑い声が聞こえるのは不思議だった。
映画は、車いすの中年男と看護師、
女優と親が留守がちなティーン・エイジャー、
フランス語が話せない NASA の宇宙飛行士と
英語が話せない移民の女性、
そんな3組の男女の出会いを描いた物語で、
3つのストーリーが同時に進んでいく。
ラスト・シーンの後、画面が暗転するまで、
この映画で泣くなんて思えなかった。
ところが、画面が暗転した途端、
不覚にも意味不明の涙が溢れ出した。
何の涙か分からない。
ただ、泣けた。
う〜ん、新しい体験だ。
本作は、ハマる人には最高、
ワケの分からに人には、
「何がええの?」という映画だろう。
泣いてしまった私にも何が良いのか分からない。
でも、良かった。
間違いなく、良かった。
ラストのあの感じを味わうために、
もう一度観たいと思うほど。
音楽も良い。
★★★★★
刑務所にいる息子に母親が面会に行くシーンがある。
タバコとコーヒーを差し入れ、
「他に欲しいものは?」と訊くと、
息子が「オランジーナ」と答える。
フランスの国民的ドリンクという
CM があったけど、ホンマやねんな。
2016.9.10
君の名は。
現在公開中の中では、『シン・ゴジラ』を抜いて、
最も高評価の映画『君の名は。』。
予告編を観た時には、アニメだし、
あまり食指は動かなかったのだが、
ここまで高評価だと興味がわいてきた。
でも、『シン・ゴジラ』の例もあるので、
あまり期待しないで観てきた。
私は アニメ・ファンではないので、
新海誠 監督作品は、初めて。
ボイス・キャストは、神木隆之介、
上白石萌音(かみしらいしもね)、
長澤まさみ、市原悦子ら。
田舎に住む女子高校生と、
東京住まいの男子高校生が、
夢の中で入れ替わってる、ということ以外、
何も知らずに観たのだが、
これが、大人でも十分に楽しめる大作だった。
本作は、実写よりむしろアニメの方が
良かっただろうと思えるほど、
アニメが素晴らしかった。
感心したのは、アニメなのに
まるでカメラで撮った実写のように、
ボケまで表現しているところ。
そういう細かい描写に
海外で評価を受ける日本のアニメの
レベルの高さを感じた。
ストーリーについては、
何も知らずに観たおかげで、
先の展開が読めず、一度も中だるみすることなく、
物語に引き込まれた。
土曜日の18:20からの回ということもあってか、
満席だったが、まわりを見渡すと、
若いお客さんが多かった。
でも、50代のおじさんにもグッときたよ。
もう一度、ストーリーを分かった上で、
細かい点に注意を払いながら、
観てみたいと思った。
昭和生まれには、なんとなく古臭いイメージの
タイトルに似合わず、現代的な壮大なファンタジーで、
大ヒットも納得。
★★★★★
2016.9.19
超高速!参勤交代 リターンズ
前作(2014年)が面白かった覚えがある
映画『超高速!参勤交代』の続編。
出演は、前作同様、藩主・内藤に佐々木蔵之介。
そのほか、西村雅彦、寺脇康文、上地雄輔、
六角精児、深田恭子、伊原剛志、古田新太、
富田靖子、陣内孝則、石橋蓮司、市川猿之助ら
前作のキャストが再結集。。
前作の細かいことを覚えていないので、
どうかなと思っていたのだけど、
全く問題なく楽しめた。
基本、コメディだが、
忠誠とか人を想い信じることという
テーマも感じたし、
ちゃんばらシーンは、
そこそこの緊張感 臨場感があって、
これまた良かった。
老中 松平信祝(のぶとき)を演じる
陣内孝則がいやらしくて良いが、
青いアイシャドウはいただけない。
奉行 大岡越前を演じる古田新太は、
意外にハマっていて、新鮮に感じたね。
八代将軍徳川吉宗を演じる
市川猿之助は流石の貫禄。
★★★★☆
怒 り
映画『悪人』『さよなら渓谷』の原作者、
吉田修一の筆による『怒り』。
監督は『フラガール』そして、
これまた『悪人』の李相日。
前作 『許されざる者』(2013年) は、
イマイチだったけど、本作はどうか。
予告編では、期待が持てたが。
出演は、渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、
綾野剛、妻夫木聡、広瀬すず、ピエール瀧、
池脇千鶴、宮崎あおい、原日出子、
高畠充希、三浦貴大と豪華。
鑑賞後の感想。
重厚なテーマだったが、
イマイチ犯人の「怒り」が何なのか
残念ながら、映画からは読み取れなかった。
これは、原作を読んで検証したい。
今日の映画界を代表する役者陣の共演は
見所だった。
綾野剛は今年観た
『リップヴァンウィンクルの花嫁』
『64 -ロクヨン- 前編/後編』
『日本で一番悪い奴ら』のどれでもない
キャラの演技にその幅を感じた。
森山未來の偏狂ぶりや危なさも
良かった。
松山ケンイチは、あまり自分を表現しない
役だったので、印象的には薄いが、
その分、難しい役だったかもしれない。
妻夫木聡は、流石。
彼の泣きには、いつもやられる。
ゲイの役も真に迫ってる。
渡辺謙は、もちろんの安定感。
宮崎あおいの不安定感も良い。
広瀬すずは、やっぱり可愛すぎ。
物語は、夫婦殺人犯かと思わされる、
3人の男を囲む人達の3つのストーリー。
本当の犯人は、一人なのだが、
見終えればなるほど奴が犯人だろうと
思えるのだが、途中では、
誰が犯人か中々決めかねるような
うまい作りだ。
でもでも。
原作を読んでみないと
分からないけれど、
犯人はなぜ、整形した時に
ホクロを取らなかったのか。
直人は、なぜ優馬に本当のことを
話さなかったのか、
そのへんが解せなかった。
テーマは、人を信じることの難しさか。
沖縄の基地問題にも触れている。
★★★★☆
2016.9.22
ある天文学者の恋文
CORRISPONDENZA
ジュゼッペ・トルナトーレ監督の新作映画
『ある天文学者の恋文』。
本日公開初日ということもあってか、
14:25からの回は、売り切れだった。
昨夜、チケットを取っておいて良かった。
前作『鑑定士と顔のない依頼人』(2013年)は、
面白かった覚えがあるが、
本作、公開前の評価はあまり高くないので、
ちょっと不安もありつつ観てきた。
原題の「CORRISPONDENZA」は、
「対応」という意味のようだが、
この場合、「文通、通信」というような
意味に使われているようだ。
教授(著名な天文学者)エドと、
その生徒のエイミーの恋愛(不倫です)の物語。
亡くなったエドからも、
メールや手紙が届き続けるという
ミステリー仕立てのラヴ・ストーリー。
家族を悲しませた不倫については
置いておいて、大人のファンタジーとしては、
良かったと思う。
自分が死んだあとも、愛する人が
寂しくないよう、手紙やプレゼントを
手配してから死ぬというのは、
ある意味、ただのエゴにしか過ぎないと思うが、
それでも、この映画に
美しさと切なさを感じるのは、
人間の儚さと悲しさを表現しているからだと思う。
エンニオ・モリコーネの音楽が素晴らしい。
トレモロの効いたエレキ・ギターの
トーンがまたええねん。
モリコーネって、今年88歳ですぜ。
★★★★★
2016.9.25
ハドソン川の奇跡
SULLY
クリント・イーストウッド監督、
トム・ハンクス主演という強力コンビの
映画『ハドソン川の奇跡』。
原題は "SULLY"。
トムハンクス演じるサレンバーガー機長の
ニック・ネームだ。
2009年1月、ニューヨークで起こった、
旅客機のハドソン川不時着の実話の映画化だが、
不時着時のパニックを描いた映画ではなく
サリー機長を描いたヒューマンドラマ。
奇跡の不時着を成功させ、
乗員乗客155人を全員救った機長。
ヒーローと賞賛を浴びる裏側で
国家運輸安全委員会は、
空港に引き返せたんじゃないかと
調査を始める。
コンピューターのシュミレーションでは、
空港に引き返せたという結果が出て、
乗客を命の危険に晒したと追求される機長。
さて、結末はいかに。
国家運輸安全委員会というのが曲者で、
まるで誰かを悪者に仕立てあげたいかのように
見えてしまう。
多分だけど、航空会社や保険会社は、
人為的事故にした方が、何かと都合が
良いのだろう。
それにしても、酷いと思ってしまった。
まあ、「彼らは彼らの仕事をしている」という
サリー機長の言葉が、私の溜飲を
少し下げてくれたけど。
以下、ネタバレ。
結局、公聴会でシュミレーションを
やり直すと、機長の判断が正しかったと
立証される。
そのあと 公聴会では、
エンジンに鳥がぶつかり停止してから
不時着までの機長と副機長(アーロン・エッカート)の
会話の録音が流される。
その録音を聞いた後、サリー機長が、
副機長に尋ねる。
「どう思う?」
副機長が答えに詰まっていると、
機長が、言う。
「私が先に言おう。誇りに思う。」
私はてっきり、自分の判断が
間違っていなかったこと、
自分たちのチームワークで、
不時着に成功したことを誇りに思うと
言ったのだと思った。
機長は続ける。
「君は、あの状況でも全く冷静だった。」
そう、サリーが「誇りに思う」と言ったのは、
不時着の判断のことではなく、
緊急事態での副機長の冷静さだったのだ。
ここは、グッときたなぁ。
そして、国家運輸安全委員会が、
調査の不備を認め、
「機長のことを(シュミレーションの)
計算に入れていなかった。
あなたでなければ、乗客全員を
救えなかった」というシーン。
ここで機長は、クルーだけではなく、
フェリーや潜水士など救助に当たった人たち
皆をあげ、自分一人でやれたのではないと言う。
ここも美しい。
あと、機長が乗客が全員無事だったかを
気にかけていて、報告で
「生存者は155名」って聞くシーン。
ここも泣けます。
最後の副機長のセリフ(ジョーク)も良い。
96分と短めやけど、大変満足。
フィメール・ボイスの上品で厳かな
音楽も映画を静かに支え、非常に良い。
監督 クリント・イーストウッド、86歳。
どこまでいくねん、と思いますが、
まだまだやって欲しい。
★★★★★
ハドソン川の奇跡 オフィシャルサイト
本機には、日本人も2人乗り合わせていたとは
知らなかった。
↓
試写イベント・ニュース
2016.10.2
チルドレン
先日読んだ、伊坂幸太郎の小説
『チルドレン』をドラマ化した DVDを観た。
2006年に WOWOW でドラマ化され、
その後、劇場公開もされたようだが、
知らなかった。
出演は、坂口憲二、大森南明、
小西真奈美、三浦春馬、國村隼 ら。
原作では、登場人物の陣内が、
大学生の時に銀行強盗の人質になり、
何年か後に家庭裁判所の調査官に
なるのだが、ドラマでは、
すでに家裁調査官になっていて、
人質になるという風に
上手くアレンジされている。
また、原作にはなかった 小西真奈美 演じる
美春というキャラが登場するが、
これも上手くストーリーに絡めていると思う。
ただ、主役が 坂口憲二 演じる武藤ということも
あって、原作にあった、陣内の様々な
エピソードが全て描かれているわけではないし、
陣内という人を描くには重要だと思っていた
永瀬(加瀬亮)絡みのエピソードも
描かれていない。
陣内というキャラに惹かれた私としては、
その辺りが不満だが、2時間以内の
ドラマに収めるには仕方ないのだろう。
原作を読んだ時に、陣内を演じるのが、
大森南朋 というのにちょっと違和感が
あったのだが、実際に観てみると
不思議とそれほどでもなかった。
重厚な社会派ドラマではないが、
考えさせられる要素もあり、
現実的ではないファンタジーの
部分もある、伊坂ワールド。
人は、人を変えることはできないけど、
人が変わるきっかけにはなる。
そんな風な作品。
★★★★☆
2016.10.3
レッドタートル ある島の物語
LA TORTUE ROUGE
大ヒットするアニメ『君の名は。』の陰で
地味な印象のスタジオジブリ新作アニメ
『レッドタートル ある島の物語』。
原作・監督は、オランダ出身で英国在住の
マイケル・デュドク・ドゥ・ビットという人で、
観た印象は外国作品。
日仏ベルギー合作ということだが、
確かにフランス映画のような感じが残る。
ジブリ作品といっても、
宮崎駿作品とは全くの別物。
日本人スタッフがどの程度、
絡んでいるのかも分からない。
この映画、セリフがひと言もない。
登場人物は、3人いるが言葉は話さない。
そのせいもあってか、
鑑賞中、脳がフル稼働する。
想像力不足のためか、私には「?」なことも
あったけど、これは寓話なので、
あんまり突っ込んではいけないのだろう。
「桃太郎」を聞いて、
「ねぇ、なんで桃なの?」と
質問してはいけないのと同じだ。
寓話と書いたけど、大人向けの寓話かもしれない。
小学生が観たら、どんな感想を持つのか、
すごく興味があるけど、
あんまり子供向きではない感じだ。
これって、大人の既成概念だと思うけど。
(実際に子供の感想を聞いたら、
大人が想像しえないようなことを
言いそうな気がするもん。)
ストーリーは簡単だ。
無人島に流れ着いた男が、
いかだを作って何度も島を出ようとするが、
何者かに阻まれる。
邪魔をしていたのは、ウミガメだった。
男は、ウミガメに怒り、殺そうとするが・・・。
ってな感じ。
ここからネタバレ。
結局、男は島からの脱出を諦め(?)、
ウミガメの化身の女と暮らし、子供を作り、
その島で暮らしてゆく。
途中、自然災害にも逢いながら、
なんとか生きてゆく。
息子は大人になり、旅立ち、
夫婦2人になり、やがて男はその島で
一生を終える。
それだけの話なのだが、
男が年老いたシーンで、
なぜか泣けてきた。
人生って、こういうことかもしれない。
島から出ようとしても出られず、
その島で愛する人を見つけて、
一生を終える。
それが人生なのかもしれない、と思った。
日本のアニメとは、全然違うタッチの
映像と音楽が美しい。
81分と短めだが、短く感じない。
★★★★☆
SCOOP!
福山雅治、二階堂ふみ 主演の映画
『SCOOP!』。
そのほか重要な役に吉田羊、滝藤賢一、
リリー・フランキー。
この5人が5人とも とても良い。
福山雅治の汚れ役というのも見もの。
福山の下品なセリフを聞いて、
ファンの人たちはどう思うんやろな。
二階堂ふみがこれまた良い。
この娘は、やっぱりええなぁ。
何がええんか言われへんねんけど。
そして主役を支える脇役たちのおかげで、
本作はグッとレベルアップしている。
吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー、
3人とも素晴らしいのだが、
特にリリー・フランキーの怪演。
福山とリリーといえば『そして父になる』
(2013年)で共演があった。
あの作品でもリリーは印象的だったし、
『凶悪』(2013年)のキレっぷりも
めちゃ怖かった覚えがある。
が、本作はそれらを超えたな。
ヤバイね、リリー。
本作、『クライマーズ・ハイ』(2008年)や
『日本のいちばん長い日』(2015年)の
原田眞人監督が撮った『盗写 1/250秒 OUT OF FOCUS』
(1985年)のリメイクということだが、
オリジナル作のことは知らなかった。
原田芳雄、宇崎竜童が出演していたようだが、
多分、原田芳雄が福山の演じた静の役かな。
(詳しい情報が見当たらず。)
パパラッチの中年カメラマン 都城静(福山雅治)が、
雑誌社の新人記者 行川野火(二階堂ふみ)と
コンビを組むことになる。
最初は、野火を鬱陶しがる静だが、
やがて本物のパートナーになっていき、
数々の芸能人ネタのスクープをモノにする。
そして、ある日事件は起きる。
この事件が起きたとき、
私はイヤな予感がしたのだが、
それはそのまま的中してしまう。
芸能人の尻を追っかけるパパラッチや
週刊誌のスクープへの投げかけもあるのかも
しれないけど、そういう社会的なメッセージより、
ただ、その世界に生きる人達の姿、
命を賭ける姿がカッコ良く描かれている。
実際には、私は芸能レポーターとか
芸能人スクープネタとか下らないと思ってるけど。
実は、あんまり期待せずに観たのだが、
予想以上に良かった。
なんか、昭和の感じがした。
『傷だらけの天使』的な。
観終えて調べてみて、
1985年の映画のリメイクと知って、
なるほどと思った。
★★★★▲
2016.10.10
世界一キライなあなたに
ME BEFORE YOU
映画『世界一キライなあなたに』。
原作は、
『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』
という恋愛小説。
う〜ん、なんとかならんか映画のこの邦題。
『世界一キライなあなたに』って、
映画を観終えてもこの邦題の意味は、分からん。
別に世界一キライでもなんでもないやん。
結構ヘヴィなテーマを扱っているのに、
これでは薄っぺらいラヴ・コメディのようで
制作陣に申し訳ない。
小説の『きみと選んだ明日』でも違うと思うけどな。
なんなら『ミー・ビフォア・ユー』で
良かったんちゃうか。
その方が、どういう意味やろって考えるやろし。
舞台は、イギリスの田舎町。
交通事故で四肢麻痺になってしまった大金持ちの
息子ウィルと、6ヶ月限定でその介護の職に就いた
ルイーザの恋物語。
それだけ聞けば、結末は分かろうというものだ、
と思って観たけれど、結末は私が想像していたほど
安易ではなかった。
以下、ネタバレ含む。
安楽死の問題は、簡単には結論は出せないが、
残念ながらこの映画は、その問題を扱うには、
ちょっとファンタジー過ぎるように思う。
ジェット機を借り切っての高級リゾート地への旅行で、
人生を仕切り直せるのだとしたら、
貧乏人は、全員絶望しなければならない。
そんな旅行なしでも、
ルイーザの愛は表現できるだろうに。
それに、父親が失業していて家計を助けるために、
働いているルイーザなのに、
服を色々持ちすぎちゃうかな。
服が好きだとしても。
コンサートに着て行った赤いドレスなんて、
なんで持ってるの?
と疑問が出てきた。
ラストは、ウィルがルイーザにお金を残して、
「自由に生きろ」「大胆に生きろ」って。
ウィルの気持ちも分かるけど、
なんか「結局 金か」って感じで割り切れない。
おとぎ話やねんから、
「そこはダンナ、突っ込んじゃいけませんぜ」って
ことなんでしょけど、どうもなぁって感じでした。
私は、ベタな結末だとしても、
ウィルに生きる決意を持たせて欲しかった。
でないと、救いがないやん。
「お前に、毎朝、人生に絶望しなければならない
辛さが分かるのか!」と言われれば、
黙るしかないですけど。
天然に明るいルイーザ役に エミリア・クラーク。
車椅子生活になってしまったウィル役に
サム・クラフリン。
合法的に安楽死(自殺)できるのは、
スイスかベルギーだそうで、
この映画でもウィルは、最期にスイスに行く。
ウィルを訪れる人の名前をルイーザが
検索するシーンで、PC に「Dignitas」という
文字が登場するが、これこそがスイスの
自殺幇助機関の名称のようだ。
入会金と諸費用を合わせて安楽死には
約USD7,000(約70万円)かかるという。
安いのか高いのかも分からん。
そういえば、2014年に観た『母の身終い』という
フランス映画は、末期ガンの母をスイスの
施設で息子が見送るという話だった。
答えのない問題のようだけど、
それぞれに答えがあるのかもしれない。
★★★▲☆
お父さんと伊藤さん
今日は、映画を3本観ようと決めていて、
この『お父さんと伊藤さん』は
さほど期待していなかったのだが、
結果、一番良かった。
34歳の彩(あや)役に上野樹里。
その彼氏、54歳の伊藤さん役にリリー・フランキー。
彩の父親(74歳)役に藤竜也。
上野樹里って、34歳になるんやって思って、
観終えてから調べてみたら、
まだ30歳で安心した(なんで?)。
さて本作のストーリー。
彩と伊藤さんの同棲しているアパートに、
突然、彩のお父さんが転がり込んでくる。
(お母さんはすでに他界。)
お父さんは、彩のお兄さん家族と
住んでいたのだが、兄嫁と折り合いが悪く、
兄の家を出てきたのだった。
なにしろ口うるさいお父さんとの生活に
彩は困惑するが、なぜか伊藤さんは、
上手くお父さんと付き合っていく。
そんなある日、突然お父さんが
書置きを残して姿を消す。
ってな物語。
伊藤さんが54歳で私と同じ年だったり、
親の介護とか同居とか、結構身近にリアルな
問題を扱っていながら、
人間の滑稽さを上手く描いていて、
笑えるシーンも多く、面白かった。
上野樹里って、
『スウィングガールズ』の女子高生の
印象が強かったけど、あれから12年、
立派に大人の女優さんになったなぁって思った。
伊藤さん役のリリー・フランキーは、
もうこんな役、この人しかおらんやろ、という
ふあふあした感じがピッタリ。
でも、私はこないだ観た『SCOOP!』のような
この人が演じる狂人の方が好きやけど。
藤竜也って、昔カッコ良かったよなぁ。
テレビドラマの『大追跡』とか。
本作では、気難しい年寄りの役で、
これまたハマってた。
あえて 不満を言うなら、上野樹里とリリフラの
恋人感がなかったところかな。
いえ、ラヴ・シーンが見たかったわけでは
ないねんけど、二人の関係が
妙に落ち着きすぎているような、
そんな印象だった。
呼び方も「彩さん」「伊藤さん」だし。
★★★★▲
映画 聲の形
タイトルに「映画」って付くということは
映画でないものもあるということやな。
と、調べてみると原作は「週刊少年マガジン」に
連載されたコミック。
10月 1日〜 2日集計の興行成績ランキングでは、
1位『君の名は。』2位『ハドソン川の奇跡』に
続いて第3位の『映画 聲の形』。
上位3作品中、アニメが2本というのも
珍しいのではないか。
そして、評価も高い『映画 聲の形』。
『君の名は。』同様、観客は若い。
おじさんおばさんは、私たち夫婦だけのようだった。
小学生・石田将也は転校してきた、
耳が不自由な西宮硝子をイジメたことがきっかけで、
今度は自分がイジメられ、
周囲から孤立することになる。
それから5年後、高校生になった将也は、
硝子に会いにいく。
アニメと侮ることなかれ、
様々なテーマを絡めた人間ドラマだった。
イジメ、孤立、自殺、障害者、友情、贖罪、
大人になっていくこと、他人を理解すること、等。
良い映画だったと思うけど、
この映画で心を揺さぶられるには、
年を取りすぎたのか、
イジメの経験がないためか、
それほどグッとは来なかった。
実際にイジメにあった人のレビューに
「本当にイジメにあったら、硝子のように
イジメた人にあんな態度で接することはできない」
「あとから、どれだけ謝られても許せない」
という内容のものがあり、
ハッとさせられた。
確かに硝子は、かなり酷いイジメにあうのに
鈍感なのか何なのか、わからない節がある。
実際にイジメられた体験は、
想像を絶する辛さだろう。
それで命を絶つ人がいるくらいだから。
硝子はなぜ、イジメた人に対して、
あんな態度でいられたのか、
原作を読むと分かるのかもしれないが、
映画ではそこまで描かれていなかったように思う。
とは言いつつ、大人の鑑賞にも耐える作品。
本作といい『君の名は。』といい
日本のアニメは素晴らしいのだな。
私は特別アニメ・ファンではないですが、
そんな風に思った。
★★★★☆
2016.10.19
何者
N@NIMONO
就職活動中の5人の大学生を描いた
映画『何者』。
予告編は、何度も観ていて、
「どんでん返し」というような言葉を
どこかで読んだので、
就活中の5人は実は犯罪グループだったとか、
そういう痛快な話かなと思っていたら、
全然違った。
渋谷で観たのだけど、
結構混んでいて、
8割が大学生ぐらいの女性で、
おじさんは私ぐらいだった。
ひぇ〜。
私は、大学に行っていないし、
就職活動もしたことがないので、
就活中の学生の気持ちとか、
「内定」がもらえない焦りとか
全く分からないのだけど、
本作は就活の映画ではない。
レビューに「就活のヒントがもらえなかった」って
書いていた(たぶん)学生がいたけど、
そんなものをこの映画に求めたのなら、
大きな的外れで「残念でした」としか
言いようがない。
本作は、現代の若者を描いており、
同時にその若者への応援というか
警鐘というか、気付いてほしいメッセージが
詰まっているのだと思う。
その現代の若者とは、いちいち 人(友人)の言動を
SNS でチェックし、自分が人にどう思われているかを
気にし、気に入らないこと、人への批判を
これまた SNS で発信する。
まあ、全員というわけではないのだけど。
私の若いころも、人の目はそれなりに
気になっただろうが、SNS がなかったおかげで、
現代に比べると ある意味かなり狭い世界で
生きていたことになる。
情報は、数人の友人から直接聞くしか
なかったわけだが、今では誰が何をしているか、
何を発信しているかが、スマホだけで、
瞬時に全部 わかってしまう。
考えてみれば怖い。
本作は、評価が結構分かれており、
高評価を付けている人のレビューを読むと、
登場人物の気持ちがよく分かり、
また本作を深く洞察している印象を受ける。
一方、低評価の人のレビューは、
言っちゃあ悪いが理解が浅く表面的な印象だ。
実は、私はよく分からなかった。
退屈することもなく、結末の予想もつかず、
観ていて面白かったのだが、
終わってみて、何が言いたかったのか
分からなかったのだ。
でも、高評価を付けている人の
レビューをいくつか読んで、
なるほどそういう映画なのか、
と理解した次第。
よく分からなかった理由の一つには、
私が SNS を活用していないということも
あるだろうし、決定的なことは、
ジェネレーション・ギャップだと思った。
観終えてトイレで「ホラーみたいだった」と
若い男性が話しているのが聞こえた。
観る人によっては、それほど怖い心理描写のようだ。
原作は、『桐島、部活やめるってよ』の
朝井リョウの直木賞受賞作。
主演は、ちょっと不安定な感じの学生を演じる佐藤健。
そのほか、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生。
佐藤健の先輩役に山田孝之。
佐藤健は、今年観た『世界から猫が消えたなら』でも
良かったけど、ただのイケメン俳優に終わらず
個性的な役者になっていく気配を感じて
期待大です。
★★★▲☆
シーモアさんと、大人のための人生入門
SEYMOUR : AN INTRODUCTION
予告編を観て、「これは観な」と
思っていたドキュメンタリー映画
『シーモアさんと、大人のための人生入門』。
イーサン・ホークが、
役者として人間として、悩んでいた時期に
偶然知り合った80代のピアノ教師、
シーモア・バーンスタイン。
シーモアに悩みを打ち明けたイーサンは、
彼に救われ、そして彼のピアノ演奏を聴き、
ドキュメンタリー映画を撮ることを
決意する。
予告編を観たときは、イーサンが
どんな風にシーモアに救われたのかが
描かれているのかと思ったが、
イーサンは、ほんの少ししか登場しない。
ほとんどは、シーモアの語りであり、
レッスン風景や 彼の生徒などの証言。
そして、シーモアのピアノ。
レッスン風景で特に印象的なのは、
シーモアのアドバイスで生徒の演奏が、
どんどん変わっていくところ。
先日、小曽根真さんのワークショップでも
目の当たりに体験したけど、
この映画の中でも、ウソみたいに
演奏が良くなる瞬間がとらえられている。
そして、シーモアの言葉が
いちいち素晴らしい。
試しにこれを読んでみてください。
↓
劇中でのシーモア・バーンスタインの言葉
私もこれを読んではいたけど、
映画の中で実際に本人が語ると
読むのとは違った良さと深さがある。
音楽に限らず、何か打ち込むものが
ある人にはきっと響く言葉があるだろう。
演奏家としては、50歳で引退し
教師に専念していたシーモアが、
84歳でリサイタルを開く。
そのピアノをスタインウェイ社の地下で
選ぶシーンがあるのだが、そのピアノは
本人が「信じられないほど美しい」という
音色を奏でる。
そのピアノで演奏されるリサイタル。
もう美し過ぎて自然に涙がこぼれた。
そして、最後のシーモアの言葉。
涙腺完全決壊。
エンドロールのピアノにも涙が止まらない。
80分ほどの短い映画だが、
中身めちゃ濃いいです。
心洗われます。
DVD 出たら買うよ。
原題は、"SEYMOUR : AN INTRODUCTION" 。
なんか未来につながるタイトルでええなぁ。
邦題は、苦肉の策やろね。
ところで。
この映画を観て私は自分の楽器の練習方法の
大きな間違いに気づいた。
あるフレーズを弾けるようになるために
私はそのフレーズをただ繰り返し繰り返し弾く。
まるで自転車に乗れるように練習するように
鉄棒で逆上がりが出来るように練習するように
それはフィジカルな練習だ。
そこに「音楽」は存在していない。
音楽的でないということは、
クリエイティブでないということだ。
もちろん、弾けるようになったフレーズを
本番で弾くときは音楽的に弾くことを
心掛けるわけだが、クリエイティブに
練習してこなかったものを 本番だけ
クリエイティブに弾こうとしたところで、
無理がある。
それでなくても本番は、いっぱいの邪心があり
「音楽だけ」になるのが難しいのに。
フィジカルな練習も時には必要だとは思うが、
それ以上に、音楽的な練習の方が重要だ。
ああ、なんでこんなことに気付かなかったのか。
40年以上楽器を演奏していたのに。
まさに目からうろこ。
★★★★★
2016.10.20
何者 追加
昨日観た映画『何者』。
「現代の若者の間ではごく当たり前に起こること」
「これはどこにでも起こりうる現実の悲劇」と
書いているレビューを読んだ。
「よく分からなかった」と書いたように
ピンとこなかった私には、そのレビューを読んで
(へぇ〜そうなのかぁ)と考えさせられたのだった。
ピンとこなかった背景を、昨日は
「私が SNS を活用していない」ということと
「ジェネレーション・ギャップ」と
まとめてしまったけど
もう少し付け加え書いておきたい。
以下、ネタばれ含む。
登場人物たちの
コミュニケーションに疑問があるのだ。
就活2年目の拓人(佐藤健)が主人公。
その他の主要登場人物は、下記の4人。
拓人と同居している友人、光太郎(菅田将暉)。
そのモトカノ、瑞月(有村架純)。
瑞月の友人で偶然、拓人たちの住む
マンションの上の階に住む理香(二階堂ふみ)。
理香の彼氏で、同棲している隆良(岡田将生)。
この5人がそれぞれに就活をしている。
厳密には、隆良はちょっと違うけど。
片時もスマホを手放さず、
いちいち思ったこと感じたことを SNS で発信し、
友人仲間とつながっている風な若者たち。
それなのに、どこの会社を受けるとか、
どこの会社の面接に行くとか、
友達に言わないのだろうか?
「就活本部」とか言って、
集まって情報交換しようなんて言っているのにだ。
瑞月の内定が決まったあと、
理香が、どこの会社に受かったのか
知らないというシーンにも違和感があった。
友達なら「○×社の内定もらった」とか
メールやラインで知らせるのが普通だと思うのだが、
この頃の若者のコミュニケーションは、
こんなもんなのか?
それも踏まえて
「現代の若者の間ではごく当たり前に起こること」
なのだとしたら、
ますます おじさんには分かれへんなぁ。
まあ、本作の本質は、そこではないのは
分かるので、そこはそんなにシビアに
ならんでもええのかも知れないし、
原作を読めば疑問は解けるのかもしれん。
一日経って感じたは、この映画は、
「若いっていうのはこういうこと」なんだと
描いているんだということ。
別に SNS がどうのこうのっていうことではなくて。
SNS は、現代を描くためのツールにしか
すぎなくて、SNS のおかげで、
その「若いってこと」が浮き彫りにされているんだと。
今朝、通勤中に吉田拓郎の『青春の詩』を聴いて、
結局 若者の本質は70年代と同じやないかと思った。
後になって振り返るとちょっと恥ずかしい、
言ってみれば純粋で無垢な、
自分は特別だという勘違い。
周りからの評価が気になり、人と比較し、嫉妬し、
気に入らないと批判的に攻撃する危うさ。
それを「若さ」と呼んだり
「青さ」と呼んだりするんやと思う。
拓人は、ラスト近くの理香の指摘で、
ちょっとだけ目覚め、大人になる。
でもそれは、不安定でつらい過程なんだ。
その過程を経て、本物の自分を手に入れていく。
それが最後の面接のシーンで
表現されており、ラスト・シーンでは
未来への希望を象徴しているのだと思う。
そういう意味で、
これは若者へのエールなのだと思う。
2016.10.23
グッドモーニングショー
中井貴一がテレビのワイドショーの
メインキャスターを演じる
映画『グッドモーニングショー』。
出演は、中井貴一のほか、長澤まさみ、
志田未来、吉田羊、濱田岳、松重豊、時任三郎ら。
人質を取り、カフェに立てこもった犯人の要求は、
朝のワイドショー「グッドモーニングショー」の
メインキャスター澄田(中井貴一)だった。
澄田は、生放送中に現場に行き、
犯人の要求を聴く。
その現場は、世紀の生放送となる。
う〜ん、設定は面白そうだと思ったけど、
結果は、中途半端という印象。
コメディということで、
笑えるシーンがあるにはあるが、
コメディに徹しているわけでもない。
変に社会派なメッセージを込めているようにも
感じたが、これがまた中途半端。
犯人の動機も、それほどの説得力なし。
まあ、ああいう事件を起こす犯人の動機に
納得のいくものなんかないけど。
そんなわけで、ええ役者人を使っているのに
惜しい作品と感じた。
退屈はしなかったけど。
そのほか感じたこと。
濱田岳は、相変らず良い。
志田未来は、大人になったなぁ。
最近の吉田羊、いいなぁ。
★★★☆☆
団地
今年は、団地を舞台にした映画が多いね。
『海よりもまだ深く』、『アスファルト』、
そして、タイトルもそのものずばり『団地』。
6月に公開されていたのに、
どういうわけか見落としていた。
本作は、阪本順治監督が藤山直美のために
書いたオリジナル脚本ということだ。
阪本監督と 藤山直美のコンビといえば
『顔』(2000年)がある。
あれはビデオで観て、ちょっと冗長に
感じた覚えがあるのだが、
本作は、16年ぶりのコンビ復活作ということと
共演の藤山直美の夫役が岸部一徳ということで、
おもろそうやなと観に行ってきた。
大阪のとある団地を舞台にした物語。
となると、気になるのは大阪弁だが、
さすがは大阪出身の阪本監督。
大阪弁を喋る主要キャストは、
藤山直美、岸部一徳、大楠道代、濱田マリなど
関西出身の役者な上、ほかにも変な大阪弁を
喋る人が出てこなかったので、
言葉のストレスを感じずに観ることができた。
これ、とっても大事。
ストーリーは、最後には予想もつかない
壮大なことになっていくが、
ラストは、ちょっと憎い終わり方をする。
夕食に、お好み焼きをおかずに
ご飯(白米)を食べているシーンがある。
東京の人には理解できないでしょうな。
その他の出演は、石橋蓮司、斎藤工など。
★★★▲☆
海よりもまだ深く
目黒シネマで鑑賞。
団地映画の2本立てだったのか、『団地』の
同時上映作が『海よりもまだ深く』だった。
これは5月に公開されてすぐに観た。
(その時のエントリー)
2回目の鑑賞となったが、
5ヶ月もたっているとかなり新鮮に
観ることができた。
1回目の鑑賞では
「終わった途端、じわ〜っとくる」と書いた。
今日も、終わったとき、
何とも表現のしようがない、
その感じはこみ上げてきた。
でも、1回目ほどではなかったかな。
★★★★▲
2016.10.29
PK
「PK」といっても
「ペナルティ・キック」のことではない。
2013年公開のインド映画『きっと、うまくいく』の
ラージクマール・ヒラーニ監督と
主演のアーミル・カーンのコンビの最新作。
本日、公開初日。
2014年の製作で、すでに世界で100億円の
興行収入を上げている大ヒット作だ。
『きっと、うまくいく』も素晴らしい作品だったので、
おのずと期待度は上がってしまう。
テレビ局で働く女性が、神様を探しているという
変わった男 PK と出会う。
実は PK は、宇宙人。
その PK の言うことは、無垢で純粋。
なぜ、今までそのことに疑問を持たなかったの?
というような問題に鋭く切り込んでいく。
最初に「どの宗教をも批判する意図はない」と
字幕が出るが、私は大いなる問題提起であると同時に
答えであるように感じた。
ヒューマン・コメディということで、
笑いもいっぱいあったけど、
最後にはずい分と泣かされてしまった。
ウソのない星から来た宇宙人が、
最後にウソをつく。
どんなウソかは、ぜひ劇場でお確かめください。
前半の舞台となるベルギーの街の光景が良い。
そして、ヒロインのアヌシュカ・シャルマが
愛らしいです。
★★★★★
2016.11.1
ライオンヘッドpresents お笑いライブ
ポコポコ大作戦
あんまり、というか テレビではほとんど
観たことのないお笑い芸人たちのライヴ、
「ポコポコ大作戦」。
2か月に一度、渋谷の THE GAME で
開催されているお笑いライブだ。
入場料千円で20組ほどのお笑いが観られる。
3年前に一度観に行ったのだが、
久しぶりに行ってきた。
前回一番印象に残ったのが、
「レオちゃん」というピン芸人だった。
今回も出演するというので
楽しみにしていたが、
変わらない芸風で安心(?)した。
他には、ちょっと下品なものから、
タブレットを使ったネタまで、色々。
中でも レスリングをネタにした
アマレス兄弟が、面白かった。
腹が立つほど全く面白くない芸人もいたが、
それでも笑っているお客さんがいた。
つまりは、笑いのツボは人それぞれだと
いうことで、多くの人のツボにハマった
芸人がメジャーになっていくと
いうことなのだろう。
エンディング時に出演者全員が
ステージに上がるのだが、
中には相方が「夜勤に行きました」と
いう人もいた。
お笑いで食べていくことは、
ホントに厳しいのだろうな。
会場に到着したのが
開演時刻を少し過ぎていたので、
全員は観られなかったけど、
出演者は下記でした。
< 出 演 >
ライオンヘッド
ゆってぃ
ヲタル
サイクロンZ
ふぇありーきっす。
三遊亭とむ
チャンス大城
レオちゃん
ゆるえもん
早出明弘
ぼびぼびお
魔族
ダッシュたぬきち
どろんこボーイ
アイデンティティ
イヌズキ
ハぐキッス
もず満月
アマレス兄弟
@ THE GAME(渋谷)
2016.11.3
湯を沸かすほどの熱い愛
宮沢りえ主演の映画
『湯を沸かすほどの熱い愛』。
ちょっと暑苦しいタイトルだとは
思ったけど、最後にはその意味が分かる。
ああ、そういうこと〜って感じで。
いわゆる「余命もの」で、
いっぱい泣けるところがある。
家族の生き死にを描けば、
泣けるのは当然なので、
まんまとハメられたわけだな。
余命数ヶ月の母を演じる 宮沢りえ も
良かったが、娘役の 杉咲花 が素晴らしい。
助演女優賞ものだと思う。
顔には見覚えがあったので、
何に出ていた子だったかなと思ったら、
味の素「Cook Do」のCMで美味しそうに
回鍋肉を食べていた女の子だった。
将来有望やなぁ。
全体的には、良かったのだが、
2〜3か所セリフが聞き取れなかったのと、
分かりにくいセリフ、そして、
(それはわざとらしいやろ)と思う
演出があったのは、マイナス。
ラストに関しては、どうなんだろう。
本人の遺言だとしても、
私は同意できないなぁ。
っていうか、イヤやな。
もうそこは、ファンタジーなんだと
観ることも可能だろうけど。
オダギリジョーが、ちょっとダメなだんな役。
松坂桃李が、ヒッチハイクで旅する若者役で出演。
★★★★▲
永い言い訳
本日2本目は、『ゆれる』、
『ディア・ドクター』の西川美和監督の新作。
原作も西川自身が書いた小説で、
直木賞候補になったということだ。
事故で妻を亡くした男に
『おくりびと』以来の主演となる本木雅弘。
昨年『日本のいちばん長い日』では、
昭和天皇を演じたが、本作では、
ちょっとめんどくさい小説家役だ。
その死んだ妻に深津絵里。
妻の親友のだんな役に竹原ピストル。
チョイ役で 池松壮亮、黒木華。
偶然だが、今日は2本続けて
妻が死ぬ映画になってしまった。
『湯を沸かすほどの熱い愛』は、
末期がんで妻が亡くなるのだが、
こちらはある日突然、交通事故で妻を亡くす。
幸夫の妻・夏子に対する愛は、冷めてしまっていて、
幸夫は、妻の死を悲しむことができない。
しかも、夏子が事故に遭ったとき、
幸夫は自宅のベッドで、ほかの女を抱いていた。
夏子は親友とのバス旅行で事故に遭った。
その親友の夫、子供たちと会った幸夫は、
幼い子供たちの面倒を見ることになる。
それは、贖罪なのか逃避なのか。
その家族との交流を通して、
幸夫は少しずつ再生していく。
子役の2人、藤田健心と白鳥玉季が可愛い。
特に白鳥玉季(撮影時は5歳かな)が可愛い。
本木雅弘とのやり取りは、演技ではなく、
まるでドキュメンタリーのよう。
『湯を沸かすほどの熱い愛』は、死ぬまでの話。
『永い言い訳』は死んでからの話。
「死ぬまで」は、死ぬ本人と残される人々の話。
「死んでから」は、残された人々だけの話。
同じ「死」を扱っても、大きな違いが出る。
しかも、余命宣告を受けてから、
悔いのないよう残りの人生を生きる家族と、
小さな言い争いが最後の会話になった夫婦。
その上、生き残った夫は不倫をしていた。
いくら、愛が冷めていたといっても、
罪の意識がないわけがないだろう。
本木演じる幸夫が、
どうしようもない男で、観ていてつらい。
この手の映画で感じる、
最後の救いのような感覚は、
本作からは感じられず。
それが監督の狙い通りの
反応なのかどうか分からんけど。
「死」は、死にゆく本人よりも、
残された人の方に課題が山積みされるのだ。
音楽が良いです。
★★★★☆
人間の値打ち
IL CAPITALE UMANO / HUMAN CAPITAL
本日3本目の映画、『人間の値打ち』。
予告編を観て、ひき逃げ事件の容疑者が
3人いて誰が犯人か分からないという
サスペンスだと思っていた。
経済的に格差のある人たちを
サスペンスの容疑者として描くことで
持っている金で「人間の値打ち」が
決まるのか、とそんな問いかけをする
社会派な作品かと思ったのだが、
全然違った。
イタリア、ミラノ郊外の街が舞台。
第1章 ディーノ
第2章 カルラ
第3章 セレーナ
最終章 人間の値打ち
と4つの章に分けられ、1〜3章では、
ある夜のひき逃げ事件を中心に3人の
立場から半年前と事件当日前後を描く。
前半はサスペンスそのものだったが、
途中、犯人が明かされてからは
サスペンス的要素は影をひそめ、
人間の邪悪というか、暗の部分が
テーマになったように感じた。
ここからはネタバレ。
結局、タイトルの「人間の値打ち」というのは、
ひき逃げ事件で亡くなった被害者遺族に
支払われた保険金のことだった。
その人の収入や遺族の数など色々なことを
考慮して計算されるようだ。
原作はアメリカのスティーヴン・アミドンという人が
書いた「Human Capital(人的資本)」という小説。
映画の中で、ディーノが投資をする額が70万ユーロ。
投資するには、その額が資産の20%以下で
あることという規則があった。
つまりは、350万ユーロ以上の資産を
持っていないとその投資に参加することは
出来ないのだった。
ディーノにそんな資産などない。
自宅を抵当に入れ、銀行から借金をして
投資をしたのだが、ディーノの投資は失敗する。
ディーノは、息子がひき逃げの犯人と疑われている
資産家に真犯人の名前を売るのだが、
その額が、投資額に40%の利益を乗せて
98万ユーロ。
しかし、何の罪もなく
ただ、ひき逃げに遭った被害者の
「値打ち」は、約22万ユーロ。
1ユーロ 115円として 約2300万円。
なんか、やりきれない話です。
それを「人間の値打ち」と呼ぶことに。
豪邸に住むカルラ役に
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ。
もう1回観たいと思っている映画
『アスファルト』に出ていた、
地味な看護師役なのに印象に残った人です。
本作でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞
(イタリア・アカデミー賞)
最優秀主演女優賞を受賞。
セレーナ役のマティルデ・ジョリは、
本作が映画デビューで、助演女優賞を受賞。
カルラの旦那ジョバンニ役の
ファブリツィオ・ジフーニは、助演男優賞を受賞。
そのほか最優秀作品賞など、7部門受賞。
2013年の映画なので、日本公開にこぎつくまで
時間がかかったのだな。
★★★▲☆
2016.11.9
東京シャッターガール
先日読んだハービー・山口のフォトエッセイ集、
『雲の上はいつも青空 Scene2』は、
凄く良かった。
その中にハービーさんが
映画『東京シャッターガール』に
高校の写真部の顧問役で
出演しているということが書いてあった。
その映画は 2013年の公開であったようだが、
全く知らなかったので、
DVD をレンタルして 鑑賞した。
『東京シャッターガール』の原作は、
桐木憲一という人のコミックのようだ。
映画は、3人の監督によるオムニバス作品で、
『わたしは、シャッターガール』
『写真ってなに?』
『夢路! お前無茶すんなぁ!』という
3つの短編からなる。
感想としては、
う〜ん・・・つらかった。
途中で何度かやめようかと思った。
原作のコミックは、読んだことがないので
どんなんか知らんけど、
この映画はきついなぁ。
映画って、
頑張って観るもんやないと思うねんけど、
これは、頑張らな最後までもたんかった。
3人の監督については、何も知らんけど、
ちょっとプロの映画の人とは思えんなぁ。
具体的に書き出すとえげつないレビューに
なりそうなのでやめとくけど、
ひとつだけ書いとこ。
「写真撮らないの?」
「うん、心のフィルムに写してるの。
記憶の印画紙に焼き付けてるんだ。」
セリフ、くさすぎ。
こんなん女子高生が言うか?
おまけに演技が・・・。
収穫は、2本目に出てきた数冊の
写真集かな。
★▲☆☆☆
2016.11.12
少 女
湊かなえの小説が原作の映画『少女』。
映画化された湊かなえの小説は、
『告白』(2010年)、
『北のカナリアたち』(2012年)、
『白ゆき姫殺人事件』(2014年)と
全て観てきたが、それぞれ監督が違う。
『少女』の監督は、三島有紀子。
『しあわせのパン』『繕い裁つ人』と
彼女の作品は微妙だったので、
あんまり期待しないで観た。
主演は、本田翼。
友人役に山本美月。
撮影時2人は、23〜24歳だろう。
高校2年生(16〜17歳)を演じるには、
ちょっと厳しいんちゃうかと思った。
原作は面白いのかもしれないが、
映画では、ミステリー的要素も弱く、
ヒューマンドラマとしても
青春ドラマとしても、何か物足りない。
予告編から受けた印象とも違った。
主人公 由紀と親友の敦子は、
最後に友情というか、友人関係を復活させて
ハッピーエンドのようにも見えるのだが、
そもそも、2人が距離を置いたわけも
分からない。
敦子がイジメにあっていたのも
何かピンとこないし、
誰もいないところで、
嘘のびっこをひくのも分からないし、
あんな教師がいるのも考えられない。
どうもリアリティに欠けるのだ。
『告白』だって、リアリティに欠ける
設定だったかもしれないけど、
ドラマにパワーがあったと思う。
本作は、ちょっと残念でした。
その他の出演は、アンジャッシュの児島一哉、
稲垣吾郎、ほか。
★★★☆☆
2016.11.19
続・深夜食堂
昨年観た『映画 深夜食堂』。
「シリーズになったら、また観に行くと思う」と
書いたけど、続編が公開されたので観てきた。
『深夜食堂』は、夜の12時から朝 7時ごろまで
営業している小さな食堂。
マスターを演じるのは、小林薫。
その食堂に出入りする客たちの人情物語で、
本作では、「焼肉定食」「焼うどん」「豚汁定食」の
3つのエピソードからなる。
出演者は、「焼肉定食」には、河井青葉、佐藤浩市。
佐藤浩一の使い方が贅沢やなぁ。
「焼うどん」には、池松壮亮、キムラ緑子、小島聖。
池松君、売れてるなぁ。
「豚汁定食」には、渡辺美佐子、井川比佐志。
その他に前作にも出演していた、レギュラー的な
多部未華子、余貴美子、オダギリジョー、
松重豊、光石研、等。
原作(コミック)は読んでいないので、
分からないけど、顔に大きな傷のある
マスターの過去などは、一切語られない。
マスターの作る美味い料理と、
その人柄に客は集まってくる。
あんな店が近所にあったら良いのにな、と
思ってしまう。
深夜の12時からの営業で、
若い人や夜の世界の人ならともかく、
近所のソバ屋のおかみさん(50代)とか
昼間の仕事をしている人達が、
そうそうたびたび来るのは、
ちょっと現実味には欠ける気もするが、
まあそこは、大人のファンタジーなので
よしとしよう。
まあ、私もバー勤めをしていたから分かるけど、
実際には昼間仕事をしていても
深夜まで飲んでいる人(音楽業界や
出版業界人が多かった)も結構いるけどね。
マスターの作る焼肉定食が美味しそうで、
鑑賞後、たまらなくなって焼肉定食を食べてしまった。
★★★★☆
2016.11.26
ジャック・リーチャー
Jack Reacher: Never Go Back
映画『ジャック・リーチャー』。
主演のトム・クルーズは同級生(同じ年)。
彼のアクションを観るたびに、
「俺もやれば(きっと)できる」という気に
なっていたけど、五十肩がキツイ今年は、
トムの裸を見ても 心なしか
年を取ったなぁと思ってしまった。
さて、本作、2012年の『アウトロー』の続編。
その『アウトロー』は観ていないのだが、
観ていなくても十分に楽しめる。
まあ『ミッション・インポシブル』や
『007』のようなシリーズもの。
トム演じるジャックは、元は優秀な軍人(少佐)で
今では、家も持たずヒッチハイクで
あちこちさまよいながら生きている一匹狼。
そんなトムが、ある事件に巻き込まれる。
まあよくある話(映画)と言ってしまえば
それまでなのだが、途中、中だるみすることもなく、
それなりにハラハラしながら楽しめた。
終わり方も憎い。
ただ、パトリック・ヒューシンガー演じる
悪役が、なんでそこまでジャックを
殺したいのかが、よう分からんかった。
★★★★☆
2016.11.27
ボクの妻と結婚してください。
癌で余命宣告を受けた主人公が、
自分が死んだあとの妻の再婚相手を
探すという予告編を観て、
なんて傲慢な男の物語だろうと、
真面目な反応をしてしまい、
まあコメディなんだろうからと
自分をなだめ、
(意外と面白いかもしれないぞ)
(最近の吉田羊はいいからなぁ)と
思い直し、結局 観ることにした。
出演は、余命宣告を受ける旦那に織田裕二。
その妻に吉田羊。
妻の結婚相手に選ばれる男に原田泰造。
結婚相談所の社長に高島礼子。
家族とその死を描けば、
泣けるのは当然だろう。
本作でも、結構 泣きましたね。
もう、予想以上に。
が、織田裕二演じる三村修治の
妻の再婚相手を探すという企画には、
やはり同意しかねる。
(以下、ネタバレ含む。)
百歩譲って、そうでもしなければ
残りの人生を正気で生きていることが
出来なかったのかもしれない、と
考えられなくもない。
でも、自分が死んだあとの
妻の結婚相手を決める理由が、
自分が安心して死ぬためなんて、
とんでもない!
彼は、妻を愛していたということに
なっているが、それは果たして愛なのか。
そこには、妻の気持ちなど微塵も考えていない、
男のエゴがあるだけだ。
特に、妻に再婚をしてもらいたいがために、
浮気をしている演技をし、
離婚届を突きつけるくだりは、
サイテー過ぎる。
愛する妻がどれだけ傷つくかを
考えない大バカヤローだ。
ラストは、サイテーな終わり方ではなく、
非常に節度(?)のある、大人な終わり方で
安心した。
これは妻の夫への愛の物語である。
そして、夫の妻へのエゴイスティックな
わがままの物語でもある。
修治の企画には賛成できないけど、
映画としては、結構面白かったし良かった。
特に吉田羊!
★★★★☆
2016.12.10
マダム・フローレンス! 夢見るふたり
FLORENCE FOSTER JENKINS
メリル・ストリープ、ヒュー・グラント主演の
映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』。
予告編を観てコメディだろうと思っていたら、
コメディタッチではあるものの
実話をもとにした作品で、
内容的には笑える話ではなかった。
以下、ネタバレ含む。
音楽の力を信じているフローレンスは、
音痴であるにもかかわらず、歌を歌う。
そして、ついにはカーネギーホールでの
リサイタルを実現する。
そのフローレンスの夢に寄り添うのが、
妻をとても愛している夫のシンクレア。
シンクレアは、妻が音痴であることを
知りつつも妻の夢の実現に、
何をもいとわない。
妻のリサイタルのレビューを載せる
マスコミを買収したり、酷評を載せる新聞を
妻の目に入らぬよう買い占めたりする姿に、
私は疑問を感じたのだが、
フローレンスは健康上に深刻な問題を抱えており、
音楽があるからこそ生きているような
状態なので、シンクレアにとっては、
妻の夢の実現が何よりも大切であったわけだ。
フローレンスというシンガーの物語というより、
夫婦の物語、特に夫シンクレアの
妻への愛の物語と感じた。
フローレンスを演じる
メリル・ストリープが素晴らしい。
あんな風に音痴に歌うのは、
それはそれで難しいだろう。
シンクレアを演じるヒュー・グラントも
本当に優しい夫を演じていて良い。
シンクレアには愛人もいるのだが、明確に
愛人より妻を優先させるシーンがあり、
そのことで愛人を失う。
そんなに妻を愛しているのに
愛人がいるとはどういうことかと思った方は
そのあたりを 作品を観て確かめて欲しい。
フローレンスの伴奏役のピアニスト、コズメに
サイモン・ヘルバーグ。
中々印象的。
エンドロールでは、
フローレンスご本人の歌も聞ける。
★★★★☆
舞台は1944年のニューヨーク。
物語とは直接 関係ないが、
1944(昭和19)年といえば、
日本とアメリカは戦争中で
サイパンやグアムの日本軍が全滅し、
米軍が沖縄や東京に空襲を始めた年。
なんというか、当時の日本を
舞台にした物語と 人々の暮らしが違いすぎ、
当時の国力の違いをまざまざと感じます。
2016.12.25
海賊とよばれた男
百田尚樹のベストセラー小説の映画化。
原作は、なんと420万部突破だそうだ。
まだ映画化が発表される以前、
原作を読んだ妻が、
とても良かったので読めば、と
本を貸してくれた。
読み始めたのだが、
途中でなぜか止まってしまった。
確か50〜60ページは読んだように思うが、
もしかしたら、もっと読んだかもしれない。
気にはなっていたが、そのまま
読むのをやめてしまった。
若い頃は、読み始めた本は必ず最後まで
読み通すことを自分に課していたのだが、
この数年は、途中でほったらかしに
なった本が何冊もある。
中には、気を取り直して読み直すものも
あるが、『海賊とよばれた男』は、
読み直すこともなく、
そのうちに映画化を知った。
さて、映画の方は主演は、
同じ百田氏原作の『永遠の0』でも
主演を務めた岡田准一。
監督も『永遠の0』と同じく山崎貴。
『永遠の0』は、昨年の日本アカデミー賞で
8部門で最優秀賞に輝いたヒット作。
原作も読み、映画も観た素晴らしい作品であったが、
この2〜3年の間に原作者の百田氏には、
ネガティヴな印象を持ってしまった。
残念なことではあるが、
原作者と作品とは区別して捉えよう。
『海賊とよばれた男』。
戦前、戦後の困難を生き抜いた、
石油事業に尽力した国岡鐡造が主人公。
この国岡鐡造、出光興産創業者を
モデルにしていることは、知っていた。
映画を観ながら、国岡商会という会社名が
「いつ出光興産に変わるのだろう」と
観ていたら、最後まで変わらなかった。
私の勘違い。
あくまでも出光佐三をモデルにした、
国岡鐡造の物語だったのだな。
この国岡鐡造。
熱いです。
長いものに巻かれることもなく、
強いものに屈することもなく、
自分の信念を貫く。
フィクションではなく、このように生きた
日本人がいることは、同じ DNA を受け継ぐ
日本人としては、心強く誇りに思える。
戦後、誰一人社員の首を切らずに、
なんでも請け負って会社を持続させた鐡造。
鐡造にとって社員は、家族だったのだ。
銀行からの融資を受けられない部下に
「熱が足らん!」と喝を入れるシーンがある。
聞きようによっては、乱暴な精神論・根性論に
聞こえてしまいかねないが、
根性ややる気のあるなしではなく、
その情熱の根源こそが達成の要なのだと思う。
「本気」とか「一生懸命」とか
言葉にすると薄っぺらい感じがしてしまうのだが、
彼が説いていたのは、
文字通りの命懸けの精神なのだと思う。
鐡造は、石油をめぐる戦争に負けた日本が、
石油の輸入まで外国に牛耳られ、
つまりは日本の経済を乗っ取られることを
けっして受け入れることができなかった。
何が何でも、日本人企業として、
石油を外国から輸入し、日本で販売することに
こだわった。
クライマックスは、アメリカから輸入を絶たれたときに
日承丸(国岡商会のタンカー)で、
イランに石油を買いに行くという選択。
当時、イランから石油を買うことは、
イギリスを敵にまわすことであり、
途中、イギリスの軍艦にタンカーを
攻撃されかねないようなリスクのある行動だった。
鐡造が日承丸の船長に、
「アバダン(イラン)へ行ってくれるか」と
頼むシーンがある。
この仕事は、戦場に行くようなものだが、
船長は、こう答える。
「私は店主が行けといった所に行くのが仕事です。」
命を懸けられる仕事、というより、
鐡造は、部下から「この人のためなら命を懸けられる」と
思われる存在だったのだと思う。
主演の岡田准一は、鐡造の20代から90代までを
演じるが、メイクが素晴らしい上、
30代と60代では、声のトーンを変えるなどしていて
ほとんど違和感を感じさせない。
また、爆撃シーンや船のシーンなど、
VFX なのだろうが、迫力満点である。
共演は吉岡秀隆、染谷将太、鈴木亮平、綾瀬はるか、
堤真一、ピエール瀧、近藤正臣、小林薫、國村隼、等。
たぶん、これも賞をたくさん獲るでしょうな。
145分は、全く長く感じない。
★★★★★
この世界の片隅に
今年は、日本アニメの当たり年とか。
そういわれてみれば、普段そんなにアニメを観ない
私でさえ、この『この世界の片隅に』で
今年はアニメ鑑賞4本目だった。
昨日は、映画を2本観た。
意図したわけではないが、どちらも日本の
昭和の戦前〜戦後を描いた作品だった。
東京か呉(広島県)かの違いこそあれ、
焼夷弾による爆撃、爆撃後の焼野原という、
象徴的なシーンを2本続けて観ることになった。
さて『この世界の片隅に』は、
どちらかというと『君の名は。』のような
エンターテイメント作品ではない。
広島から呉に嫁いだ、18歳の すず という
女性の結婚と戦争とその日常を描いた作品で、
声高に反戦を唱えているわけではない。
柔らかいアニメのタッチで、
戦争の悲劇をそのままに描いている印象だ。
この主人公・すずは、架空の人物だろうが、
当時、こういう女性が日本中にたくさん
いたんじゃないだろうか。
淡々と描かれる日常に、
前半やや、間延びした感じがしたのだが、
途中から物語に引き込まれてしまう。
気が付いたら、訳の分からない涙が
何度もこぼれていた。
すずの声に のん。
能年玲奈 あらため のん。
私は、声優が誰だか知らなくて観たのだが、
たまに声優の下手さにがっかりする作品が
ある中、本作の のん は素晴らしかったです。
★★★★★
2016.12.26
MILES AHEAD
マイルス・デイヴィス 空白の5年間
MILES AHEAD
マイルス・デイヴィス。
ジャズメンの中では、一番有名な人ではないだろうか。
その音楽を聴いたことがなくても、
名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。
私は、中学生の頃、TDKカセットテープの
テレビ CM で、マイルスを知った。
当時、吹奏楽部でトランペットを吹いていたので、
その CM のモノマネ(高音でめちゃくちゃ吹く)を
演ったものだ。
そのジャズ界の帝王・マイルスは、
1970年代後半、5年間音楽シーンから姿を
消していたらしい。
『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』は、
その時期のマイルスを描いた映画で、
マイルス役にドン・チードル。
ローリング・ストーン誌の音楽レポーターを
ユアン・マクレガーが演じている。
映画のオフィシャルサイトには、
「この作品は史実とフィクションを織り交ぜ〜」と
あるので、どこまでが史実で、
どのあたりがフィクションなのか、
見当がつかないのだが、
冒頭のインタビュー・シーンは、
ドキュメンタリーかと思うような
雰囲気で、とてもカッコ良い。
マイルスを演じるドン・チードルは、
トランペットの特訓をしたらしいが、
かなり真に迫っております。
ラストは、マイルスゆかりのミュージシャン、
ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターや
アントニオ・サンチェス、ゲイリー・クラークJr、
エスペランサ・スポルディングらとのセッション。
映画の評価は、賛否が分かれているようだ。
私としては、マイルスがカムバックする
きっかけをもうちょっと描いてほしかった。
最後の若手とのやり取りがそうなのかもしれないが、
あれでは、物足りない。
それにマイルスという人間が、あれでは、
薬中で乱暴な、自分勝手な男としてしか
描かれていないようにも思うので、
もう少し音楽的な才能が
いかに凄かったのかとかも観たかったな。
そんなん、今更要らんやろということ
なんかもしれんけど。
★★★★☆
奇しくも、同時代に活躍した白人トランぺッター
チェット・ベイカーの映画、
『ブルーに生まれついて』も現在、公開中だ。
次はこれを観てきます。
おまけ ↓
タモリとマイルスの対談!
2016.12.27
ブルーに生まれついて
BORN TO BE BLUE
昨夜は、ジャズ界の帝王、マイルス・デイヴィスを
描いた映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス
空白の5年間』を観たのだが、今夜は、
ジャズ界のジェームス・ディーン、
チェット・ベイカーを描いた映画
『ブルーに生まれついて』を観てきた。
チェットは、マイルスと同世代で、
同時代に活躍した白人トランペッター、シンガー。
昨日のマイルスの映画の舞台は、
70年代後半だったが、本作の舞台は 60年代。
冒頭から、若い頃のマイルスや
ディジー・ガレスピーが登場する。
やはり、この映画の中でもマイルスは気難しい。
比べるべきではないかもしれないが、
昨日の今日なのでどうしても比較してしまう。
同じ時代に活躍したジャズの黒人トランぺッターと
白人トランぺッターの2つの映画だ。
共通するものが多すぎる。
ジャズ、ヤク、オンナ、挫折、そして、復活。
『MILES AHEAD〜』は、まるでハードボイルドの
ようなトーンだったのに比べ、
『ブルーに生まれついて』は、
切なくて、悲しくて、痛い。
マイルスがヤクをやる理由は、
イマイチよく分からなかったが、
チェットの動機は、よく分かった。
まあ、みんな同じような理由なんやろけど。
そういえば、ジャズではないが一昨日は、
ボビー・ダーリンの映画を DVD で観た。
3日続けて実在したミュージシャンの
映画を観たわけだが、3作に共通するのはオンナ。
ボビーの映画と、マイルスの映画では、
愛し合った2人の関係がこじれていく様子が
描かれていて、なんともハッピーとは
言い難い面があったのだが、
チェットの『ブルーに生まれついて』では、
ヒロインのジェーンに 途中チェットが
嫉妬するシーンはあるものの
最後までいがみ合うようなことはなく、
ええ感じできたのだが、ラストがつらい。
悲しい。
なんでそうなるの。
なんで、そこまで頑張ったのに
負けてしまうの!
と思うけど、全てが音楽のためだと言われるとねぇ・・・。
チェットの音楽は、軽く聴いたことがあったぐらいで
たくさん聴いていなかったけど、
映画を観終わって、i-Pod に入っていた
チェットを聴きながら歩いていたら、
なんか好きになってきたよ。
映画は、悲し過ぎるけど。
チェット・ベイカーを演じるのは、
今年観て凄く良かったドキュメンタリー
『シーモアさんと、大人のための人生入門』の
監督を務めたイーサン・ホーク。
シーモアさんのおかげもあるのかないのか、
ラスト、NY のバードランドでの
ライヴのシーンのイーサンの歌う
『I've Never Been In Love Before』で
泣いてしまいました。
チェックするとイーサンの歌は、
チェットご本人のキーより、半音低いし、
チェットの甘さとは違うねんけど、
映画を観てきて 最後に この歌は やられました。
イーサン凄い。
★★★★★