2024年 映画・演劇・舞台 etc
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2024.1.23
PERFECT DAYS
パーフェクト・デイズ
ビム・ベンダースが、役所広司を主役に撮った
映画『PERFECT DAYS』。
ビム・ベンダースというと、必ず『パリ、テキサス』や
『ベルリン・天使の詩』が代表作として出てくる。
これらは、映画ファンとしては、
マストなんだろうけど 私はなぜか観ていないんだ。
「観たい映画のリスト」には、いつも入ってるんだけどね。
友人が『PERFECT DAYS』を観てきて、
「同じことの繰り返しで、何が良いか分からん。
観て感想を聞かせて欲しい」というので、妻と観てきた。
私の感想は「素晴らしかった」だ。
役所広司のセリフの少ない演技も脚本も。
役所は、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したが、
それも納得の演技だった。
そして本作は、米国アカデミー賞の
国際長編映画賞にノミネートされたようだ。
役所演じる平山は、トイレの清掃員。
無口で仕事は丁寧。
毎日同じルーティンの繰り返し。
他人に干渉せず、余計なことは言わない。
草木を愛で、読書を愛し、古いフィルムカメラで
木々の写真を撮る。
全てを受け入れ、ささやかなことに
喜びと満足を見出す。
そんな様子を淡々と映し出すのだが、
平山の個人的な情報は、ほとんど語られない。
説明がない分、観る側の想像力で、
色んな解釈が可能だろう。
結婚していたのか。
子供はいるのか。
なぜ、父親と会わないのか。
なぜ、妹と疎遠になったのか。
なぜ、トイレ掃除の仕事に就いたのか。
なぜ、姪っ子は平山を慕うのか。
映像や言葉で語られない部分に
物語を感じさせられる、凄い作品だ。
言ってみれば、行間を読む映画だと思った。
平山が、自宅や車の中で聴くのはカセットテープ。
最初にかかるのはアニマルズの『朝日のあたる家』。
そのほか、オーティス・レディング、ルー・リード、
ヴァン・モリスンなど、選曲も渋い。
ルー・リードの『PERFECT DAY』が流れる。
「Oh, it's such a perfect day
あぁ、なんて完璧な一日なんだろう」
平山の一日一日は、パーフェクト・デイなんだ。
掃除に周るトイレに、知っているトイレが
4カ所も出てきた。
恵比寿周辺ね。
出演は、役所広司のほか、
柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、
麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和 等。
★★★★★
2023年製作/日本
上映時間:124分
配給:ビターズ・エンド
2024.2.14
罪と悪
映画『罪と悪』。
監督・脚本は、齊藤勇起。
助監督としてもキャリアはあるものの
監督としては、本作が初のようだ。
出演は、高良健吾、大東駿介、石田卓也、
椎名桔平、ちょい役で佐藤浩市。
高良健吾の底知れぬ何かを感じさせる雰囲気が良い。
あと、中学生役の子役らがとても良い仕事をしている。
ミステリーとヒューマン・ドラマのミックスのような作品で、
展開が読めず、退屈することもなく、
作品に引き込まれたのだけど 結末がどうも釈然としない。
ちょっと後味の悪い終わり方で、
一体どういうことなのかよく分からない。
映画のコピーは
「正義とは、罪とは――本当の悪人は誰か」
となっている。
哲学的な問いかけなのだけど、
この映画の中で「正義」はどれのことなんだろう。
「悪人」は、何人も出てきたよ。
でも「本当の悪人」って何なんだろうな。
「正義」も「悪人」も観客自身で
考えろってことだろうけど。
★★★▲☆
[PG-12]
上映時間:116分
製作:2023年(日本)
2024.3.1
ボブ・マーリー
ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ
レゲエ・サンプラッシュ
REGGAE SUNPLUSH
もう30年以上も前にFMラジオで、
Pink Cloud のベースの加部正義が、
「ボブ・マーリーがロンドン公演に行った時、
飛行機を降りて『こんな寒い所では
演奏できない』と言って帰ったらしい」と
言っているのを聞いた覚えがあるが、
たぶんガセネタだったんだろうな。
ボブ・マーリーの有名なライヴ盤は、
ロンドンのライヴだもん。
さて、今日はボブ・マーリーの映画を観てきた。
タイトルに「ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・
ジャマイカ」とあったので、てっきりボブ・マーリーの
ライヴ中心のドキュメンタリーだと思っていたら、
109分の上映時間で、ボブのライヴは、
後半の40分ほどだった。
それもそのはず、原題は
「Reggae Sunplush」なんだ。
「Reggae Sunplush」というのは、
1979年7月にジャマイカで開催された
レゲエのフェス。
この映画は、その模様を収録した
ライブ・ドキュメンタリーで、ボブの
ジャマイカでのラスト・ライヴの記録。
私は、レゲエに詳しくないけど、
ロックやポップスを演っていれば、
避けては通れない音楽なので、
少しは知っている。
とはいえ、人生で観に行ったことのある
レゲエのライヴ・コンサートは、1982年に
"Try Jah Love" が大ヒットした「サード・ワールド」だけだ。
もう40年以上前だけど、リズム(ドラム)が
凄かったという覚えがある。
ググってみて初めて知ったけど、
"Try Jah Love" が収録されていたアルバム
『You've Got the Power』は、
なんとスティーヴィー・ワンダーが
プロデュースだったんだな。
話を映画に戻そう。
そのサード・ワールドの他に ピーター・トッシュ、
バーニング・スピアなどが出演。
スクリーンからハッパ(マリファナ)のニオイが
してきそうだった。
マリファナのことを、ジャマイカでは、
ガンジャと呼ぶらしい。
レゲエは、ただのポップ・ミュージックではなく、
その背景には、宗教があり、政治があり、
貧困があり、奴隷制度からの長い歴史がある。
平和ボケ日本人の私には、とてもじゃないが
理解できない深さがある。
そういえば、若い頃『アイ・ショット・ザ・シェリフ』の
歌詞を訳そうとして、意味が分からず
挫折した覚えがあるよ。
『ノー・ウーマン、ノー・クライ』の意味だって、
「女がいなけりゃ涙も出ねえ」かと思いきや
結局、女性に向かって「泣くなよ」と
歌っているんだし、ジャマイカのことや
ジャマイカ英語についても理解がないと、
分からないんだと思う。
でも、そんなディープな背景を全く
知らなかったとしても、あのゆったりした
リズムに身をゆだねていると、
脳内で何かが分泌されて来るのが
分かるんだよな。
ハッパなんてなくても。
ボブのバンド、ザ・ウェイラーズのギターが、
ヤマハのSGだったのは、興味深かった。
もう一人のギターは、ギブソン(レスポール)の
ようだったけど。
ベースも ヤマハ(BB)のように見えた。
もしかしたら、その年の4月に彼らは最初で最後の
来日を果たしているので、その時に買ったか、
もらったのかもな。
ピーター・トッシュは背中に「一番」と
書かれた半纏を来ていたよ。
ボブ以外の多くのミュージシャンが、
汗だくになりながらも、長袖だったのは、
ファッションなのだろうか。
その暑苦しさが、また熱い。
レゲエ・サンプラッシュには出演していないんだけど、
太鼓と歌だけで、「これがレゲエだ」と
演奏する3人組が、エレキギターや
シンセサイザーを使って演奏することを
批判していた。
「彼らのやっているのは、金儲けだ」と。
なんだか印象に残った。
当時のジャマイカの街の様子なども
興味深い。
映画の終わり方が、突然な感じで残念。
ボブは、1981年に病気で他界。
36歳だったんだ。
★★★★☆
上映時間/1時間49分
製作年/1980年
製作国/西ドイツ・ジャマイカ合作
市 子
友人が「観て感想を聞かせて欲しい」と
言っていたので、映画『市子』を観てきた。
哀しい、切ない、やり切れない。
というのが、感想だ。
市子は、3年間一緒に暮らしていた彼氏、
長谷川にプロポーズされる。
そのシーンがとても良い。
そこだけ、もう一度観たいほど良い。
(市子を演じるのは、杉咲花。
2016年『湯を沸かすほどの熱い愛』で、
助演女優賞を受賞。
久しぶりに観たけどやはり大物だ。)
以下、ちょいネタバレ。
市子は、プロポーズを心から喜んでいる
ようだったのに、翌日、長谷川の前から、
何も言わずに姿を消す。
長谷川には、市子の失踪が理解できないんだ。
その秘密が徐々に明かされていくと
いうストーリーなのだけど、その失踪の
背景があまりにもつらく哀しい。
幸せでいたいのに、幸せでいられない、
市子の選択が切ない。
後半、ある事故(事件?)が起こるのだけど、
その意味が全く分からなかった。
何かを見落としたのか、私の想像力不足か。
そこだけが不完全燃焼。
原作を読みたいと思ったんだけど、
原作は、舞台なんだな。
映画は、東大阪や和歌山が舞台。
杉咲花の関西弁があまりにも自然で、
関西出身かと思ったら、東京出身だと。
それだけで、凄いわ。
プロの役者でも関西弁は中々モノに
出来ないよ。
★★★★☆
上映時間 /2時間06分
製作年/2023年
製作国 /日本
(2024.3.3 追記)
「後半、ある事故(事件?)が起こるのだけど、
その意味が全く分からなかった」と書いたけど、
ネットに上がっていたレビューを読んで、
半分ぐらいは意味が分かった。
でも、残り半分はスッキリしない。
原作、小説にならないかな。
2024.3.6
ぼくたちの家族
友人Hが、最近 映画に目覚めたのか、
私にお勧め映画を訊いてくる。
「〇〇〇はどう?」と LINE に送ると、
その日のうちに「観た」と返事が帰ってくる。
暇か。
で、お勧めする映画は何かと探すのに
この「ひとりごと」に残した感想が
とても役に立つんだな。
でも、なんとなく、内容を覚えている映画も
あるのだけど、★5つを付けていても、
題名を観ても記憶にない映画が多いのには驚く。
2014年に観た映画『ぼくたちの家族』。
観た当時の自分の感想にはこう書かれていた。
「母親 (原田三枝子) の病気 (脳腫瘍)
発覚を機に長男 (妻夫木聡)、
次男 (池松壮亮) と父 (長塚京三) が
力を合わせ、絆を取り戻していくという物語」
しかし、それを読んでも、内容が
全く思い出せなかった。
どんなに感動しても、泣いても、10年後に
内容まで覚えている映画は本当に希少なんだ。
年をとればとるほど、それは際立っていくのだと思った。
さて、あらためて鑑賞した『ぼくたちの家族』。
やはり、泣いてしまった。
家族4人ともハマり役で素晴らしい。
10年前に何に感動したかなんて
全く覚えていないんだけど、
「そんなこと どっちだっていいじゃない」
(原田三枝子のセリフ)と思える作品。
★★★★★
Amazon で鑑賞(400円)
監督 石井裕也
原作 早見和真
脚本 石井裕也
2014年製作/117分/G/日本
劇場公開日:2014年5月24日
2024.3.7
落下の解剖学
Anatomy of a Fall
映画『落下の解剖学』。
人里離れた山荘で、男が転落死し、
小説家である妻に殺人の容疑がかけられる。
目撃者はおらず、現場にいたのは
視覚障害のある11歳の息子だった。
果たして、彼女は夫殺しなのか。
カンヌでパルムドールを受賞したこともあって、
期待して観たのだけど、ちょっと期待が
過ぎたのか 物足りない感じがした。
2時間半もあるんだけどね。
以下、ネタバレ含む。
私が物足りないと思ったひとつには、
彼女が犯人かも知れない、と
ほとんど思えなかったかも知れない。
本当にどっちか分からなければ、
もう少しサスペンス度が上がったかも知れないと思う。
もちろん、映画では夫の落下シーンの真相は
描かれていないので、事実は分からないと
言えば分からないんだけどね。
私は、彼女を犯人とは思えなかったので、
最後の最後に大どんでん返しが来て
「やられたぁー」ってなるのかと思いながら
(期待しながら)観ていた。
それがなく、判決が出たらそのまま終わったので、
物足りない感じがしたんだと思う。
とは言え、(彼女が無実だとして)あの息子の
証言がなければ、殺人犯に仕立てられたかも
知れないわけだから、裁判というか、
人の解釈・観点って怖いと思うね。
そして、彼女のセリフあるように裁判に
勝ったって、何のご褒美もないんだよな。
主演のサンドラ・ヒュラーも良かったが、
息子役のミロ・マシャド・グラネールも素晴らしい。
そして、犬も。
あの犬は助演賞ものだな。
薬を飲んだシーンは、もう演技じゃないような気がするけど。
★★★★☆
2023年製作/152分/G/フランス
原題:Anatomie d'une chute
劇場公開日:2024年2月23日
コットンテール
日英合作の映画『コットンテール』。
監督は、パトリック・ディキンソン。
出演は、妻を亡くした男にリリー・フランキー、
その妻に木村多江、息子に錦戸亮、
その妻に高梨臨。
リリー・フランキーと木村多江といえば、
2008年の『ぐるりのこと』でも
夫婦役を演じている。
あの映画も良い映画だった覚えがある。
妻を亡くした男と母を亡くした男の
再生の物語というところだが、
妻との間に何があったのかは、
過去の回想シーンで徐々に
明らかにされていく。
残念ながら、ビールに泡があったり、
なかったりとか、細かいところで
気に入らない点がいくつかあったのと、
登場人物の誰にも共感できずじまいだったこと、
そして、妻の最期のシーンのあいまいな描写など、
やや不満な点があった。
50年以上前と同じ景色なんて、
見つけられないと思ったしね。
しかし、妻が認知症になり、
壊れていくシーンは、いたたまれなくて
きつかった。
ちょっとしんどい。
木村多江、上手いんだもん。
あと良かったのは、イギリスの大自然の
美しさね。
タイトルのコットンテールは、
ピーターラビットの妹の名前。
★★★★☆
2023年製作/94分/G/イギリス・日本合作
劇場公開日:2024年3月1日
2024.3.14
ゴジラ -1.0
私は、ゴジラ、ガメラ、ウルトラマンで育った世代。
だけど、1998年のハリウッド版も、
2014年のハリウッド版も2016年の『シン・ゴジラ』も
劇場で観たんだけど、それほど面白いと思えなくて、
(もうこういうのは卒業だなぁ)と、
自分が歳を取ったことを痛感していた。
『シン・ゴジラ』は、庵野秀明監督だったけど、
現在公開中の『ゴジラ-1.0』は、 VFX の素晴らしい
山崎貴監督なので、観ようかどうしようかと思っていたら、
なんと邦画・アジア映画史上初のアカデミー賞、
視覚効果賞を受賞した。
ハリウッドの作品とは、予算が全く違うので、
これは本当に快挙なんだ。
世界に誇る日本のVFX映画、これは観ておかなきゃと思った。
本作11月3日公開だから、もう4ヵ月以上やってるんだな。
さて、映画の感想はというと、
まさかゴジラを観て泣くとは思っていなかったけど、
泣いてしまったよ。
ストーリーは、ベタベタなんだけどね。
単なる娯楽映画ではなく、社会批判や反戦の
メッセージもしっかりあった。
VFXは、さすが。
大迫力だったよ。
あえて苦言を呈するなら、一部ゴジラに投げられる
列車や船がちょいちゃちいなと感じたシーンも
あったけれど、総じて素晴らしいと思った。
以下はネタバレ含む。
後半、これはもしかして「アルマゲドン終わり」かと思った。
主人公が、自ら犠牲になりゴジラに爆弾ごと
突っ込むという結末が見えだしたのだ。
主人公の敷島(神木隆之介)は、
戦争中、特攻隊員として出撃したにもかかわらず、
死にたくなくて、逃げた過去を持つ。
だから、その落とし前を付けるために
敷島は死を覚悟して、飛行機の乗るのだが、
最後は、違う展開になり命を落とさずに済む。
これに対し、「彼は死ぬべきだった」という意見が
あると聞いて、私は哀しいと同時に憤りを感じた。
それは、まるで特攻を肯定し、美化する危険な
思考にほかならないからだ。
おそらくは、そんなに深く考えもしないでの
発言だろうと思いたいが、私にすれば、
特攻の肯定も許しがたいし、
映画として「アルマゲドン終わり」も勘弁してほしい。
VFX は素晴らしいし、概ね面白かったのだけど、
一部、突っ込み所もなくななかった。
戦時中、敷島がゴジラを戦闘機の機銃で
撃たなかったため、飛行場の整備兵が
死んでしまったように描かれているのだけど、
20ミリの機銃なんて、ゴジラには全く
歯が立たないことはすぐに分かる。
つまり整備兵の死の責任は、
敷島にはないと思うのだ。
なのに、いつまでもそのことを引きずっているのが
解せなかった。
あと、ゴジラに追われて、横に逃げれば良いのに
皆 真っすぐ縦に逃げていたりとかね。
それから、神木隆之介には私だけかもしれないけど
どうしても、軽いイメージがあり、
この主人公の戦争の苦悩を引きずるシリアスな役に
合ってないような気がした。
もちろん、彼は本気で演じていたんだろうけど、
やはりTVCMで、繰り返し見せられる印象は、
役者には不利で気の毒だと思った。
そのイメージをぬぐい切れない、観客にとってもマイナスだな。
映画は、お決まりのように続編があるかのような
終わり方をする。
本作がヒットすれば、続編もあるのかも知れない。
タイトルの「-1.0」の意味が分からなかったが、
「戦後、無(ゼロ)になった日本へ追い打ちを
かけるように現れたゴジラがこの国を負(マイナス)に
叩き落とす」という意味があるらしい。
もうひとつ、ゴジラのフォルムは昔の方が好きだ。
なんだか首が短くなったような気がする。
★★★★☆
2024.3.24
アバウト・ライフ
幸せの選択肢
Maybe I Do
リチャード・ギア、ダイアン・キートン、
スーザン・サランドン、ウィリアム・Hメイシーらが
出演する映画『アバウト・ライフ』。
以下、ネタバレ含む。
結婚を夢見る女と結婚を躊躇する男。
彼らの両親が会うことになるのだが、
それぞれがダブル不倫していたというコメディ。
まぁ、不倫といっても片方は、
数時間 話しをしただけなんだけど。
コメディなので、それなり笑える。
ただ、誰に対してもイマイチ感情移入に至らなかった。
結局、長年夫婦として連れ添っていると、
相手のことをちゃんと見なくなるということなのかな。
肝に銘じよう。
まあ、ファンタジーだから良いのだけど、
両家とも妙にお金持ちなのもなんだかなぁ。
あとアメリカ人って、自分ちのベッドでも
靴のまま上がるんやな。
それは、気になったな。
★★★▲☆
2023年製作/95分/G/アメリカ
原題:Maybe I Do
劇場公開日:2024年3月8日
梟ーフクロウー
李朝朝鮮史に残る謎の王子毒殺疑惑を
モチーフにしたサスペンス映画。
以下、ネタバレ含む。
殺人事件の目撃者が盲人というと、
最近観た『落下の解剖学』とも似た設定だが、
こちらはその目撃によって自分の命まで
危ないというサスペンス。
どうして、人間はこんなにも権力に振り回されるのだろうか。
権力を得るためなら人の命も大した価値を持たない。
自分の息子の命さえも。
これは、もちろんフィクションだろうけど、
王の座を巡って血を流した歴史は事実だろう。
主人公ギョンスは、生き延びるために
見えないふりをし、余計なことは言わずに生きてきた。
「卑しい身分の者はそうするしか生きる道がない」と言う。
しかし、彼は最後に立ち上がるんだな。
自分の病気の弟と、殺された王子の息子とが
ダブって、見捨てることができずに救けに行くんだ。
自分ならどうするだろうか。
生き延びるために黙って悪を見過ごすんじゃないか、
と考えさせられるのでした。
★★★★☆
2022年製作/118分/G/韓国
原題:The Night Owl
劇場公開日:2024年2月9日
2024.3.27
島守の塔
2022年公開時、気になっていたのだけど、
劇場で見損ねた映画『島守の塔』。
太平洋戦争末期、沖縄県知事を
務めた島田叡と警察部長だった
荒井退造の物語。
島田は神戸在住だったが、
沖縄戦が近いことを知りながら、
誰かが行かなければならないんだと、
県知事を引き受ける。
荒井は栃木県の出身で、
ふたりとも沖縄の人ではなかったのだが、
県民の命を守るために尽力する。
知事の島田に萩原聖人、
警察部長の荒井に村上淳。
島田の世話役を務める県職員、
比嘉凛を吉岡里帆が演じる。
両軍、民間人合わせると20万人、
県民の4人に一人が死んだという、
沖縄の地上戦。
なんで、こんなことせなあかんかったんやろ。
どんなに考えても狂っていたとしか、
言いようがない。
若い女性が、「恥を知る者は強し。
生きて虜囚の辱(はずかしめ)を受けず、
死して罪過の汚名を残すこと勿れ」の
精神で、敵軍に捕まるなら、
自決する覚悟で生きている。
この異常さ。
その背景には、敵軍に捕まると、
男性は八つ裂きにされ、女性は乱暴される、
と刷り込まれ、信じ込まされていた教育がある。
戦争映画に分類されるのだろうが、
あまり戦闘シーンはなく、そういう意味では、
描写が甘いという気もしたが、
本作では戦闘シーンの悲惨さよりも、
日本軍の沖縄の扱いの酷さ、
地上戦に巻き込まれる民間人の悲劇、
戦争の無意味さ、間違った教育の
恐ろしさなどがテーマなんだと思った。
そして、極限状態で人はどう生きるのかも。
あの状況における知事の「生きろ」という
言葉の重さと、ラストシーンに観る平和の大切さも。
今度、沖縄に行ったら、島守の塔に
手を合わせに行こう。
★★★★☆
2022年製作/130分/G/日本
劇場公開日:2022年7月22日
Amazon Prime Video で鑑賞
2024.3.30
オッペンハイマー
Oppenheimer
昨日 ロードショーの映画
『オッペンハイマー』を観てきた。
アカデミー賞13部門にノミネートされ、
作品賞、監督賞、主演男優賞、
助演男優賞ほか合計7部門で受賞した。
原子爆弾の開発に成功した、アメリカの天才
物理学者ロバート・オッペンハイマーの物語。
日本人にも深い関係のある人物だ。
私の無知だけど、原爆を開発した人について
何ら興味を持ってこなかった。
でも、当たり前だけど、誰かが作れと言い、
誰かが作り、誰かがそれを使うことを命令し、
誰かが投下したんだ。
その辺りのことが映画ではよく分かる。
なぜそんなものを産み出さなければならなかったのかも。
科学研究の行き着いた先が、
大量破壊兵器であって良いはずがない。
しかし、人類はバカなのだ。
どうしようもなくバカなんだ。
考えなければならないポイントは多い。
これ以上、自国の兵士を死なせないために
原爆を使うという考え、戦争を終わらせるためには、
多くの民間人を殺すこともいとわない考え。
人間は自分で戦争を始めておきながら、
この狂気をも産み出してしまう。
原爆の投下に成功したニュースを聞いて、
歓喜する人間。
このシーンは、気持ち悪い。
これも戦争が招く狂気の表れだろう。
原爆を作り出し、栄光を手にした
オッペンハイマーは、その後、
ある疑いをかけられ失墜する。
彼を貶めようとするヤツらがいるんだ。
ここでも人間の愚かさが描かれている。
彼が苦悩したことで、人間の良心を
感じることができるのは、救いと言えば
救いになるだろうか。
彼が、アインシュタインに語った言葉が、
核開発の間違いを象徴しており大変印象的だった。
ちょっと登場人物が多く一度観ただけでは、
100%理解しきれてないけど、
とても重厚で見応えのある映画だった。
復習して、もう一度観たいぐらい。
監督は、クリストファー・ノーラン。
オッペンハイマーを演じるのは、
主演男優賞のキリアン・マーフィ。
助演男優賞を受賞したロバート・ダウニー・Jr も良い。
禿げあがったオヤジの役で誰か分からなかったよ。
陸軍将校役のマット・デーモンがええ味出してる。
貫禄出てきた。もう若者ではない。
それから、エミリー・ブラントやケイシー・アフレック、
ラミ・マレックなども出演しており豪華です。
IMAXで観たので、原爆の実験シーンは
とても迫力があり怖いほどだった。
これは、家のテレビではなく劇場で観ないと
原爆の威力が伝わらないと思う。
180分を感じさせない作りも素晴らしい。
音楽も良いです。
作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)受賞です。
★★★★★
2023年製作/180分/R15+/アメリカ
原題:Oppenheimer
劇場公開日:2024年3月29日
哀れなるものたち
Poor Things
今日は、もう一本映画を鑑賞。
こちらもアカデミー賞がらみ。
計11部門にノミネートされ、
主演女優賞(エマ・ストーン)ほか
計4部門を受賞。
何の予備知識もなく観たら、
内容はちょっと引くような映画だった。
シュールな SFロマンチックコメディということだが、
私はあんまり笑えなかった。
(笑えるシーンも確かにあったけど。)
これは、おそらく好き嫌いが分かれるだろう。
身体は大人だけど ある事情で知能は子供という
女性ベラは、どんどん成長し賢くなっていく。
その過程は、確かに面白いのだけど、
私は結末のある一点が、イヤだった。
あれがなければ まだ救われたのに、と思う。
外科医役のウィレム・デフォーが、
強烈な存在感を放っております。
「R18+」(18歳以上)の指定がある通り、
大人のファンタジーです。
★★★☆☆
2023年製作/142分/R18+/イギリス
原題:Poor Things
劇場公開日:2024年1月26日
2024.4.1
ザ・ダイバー
Men of Honor
日本では2001年に公開された映画『ザ・ダイバー』。
ロバート・デ・ニーロとキューバ・グッディング・ジュニアの出演。
実在した黒人初の米国海軍潜水士、
カール・ブラシアを描いた作品だ。
20年以上前にビデオを借りて観たと思う。
観たことさえ、記憶に残らない映画の方が多い中、
本作は覚えていたんだからインパクトがあったんだ。
まあ、ロバート・デ・ニーロの出ている作品ということでも
記憶には残っただろうけど。
この度、約20年ぶりに鑑賞した。
キューバ・グッディング・ジュニアが
カール・ブラシアを演じ、ロバート・デ・ニーロは、
肺を痛めて潜れなくなったマスター・ダイバーで、
そのあとダイバー・スクールの教官となる、
ビリー・サンデーを演じる。
このビリーと、ダイバー・スクールの指揮官が
差別主義者でひどいんだ。
しかし、その逆境にも負けず、カールは
マスター・ダイバーになる。
だが、話はそこで終わらない。
マスター・ダイバーになったあとも、
とんでもない試練がカールを襲う。
やはり実話べースというのは力強い。
カールの不屈の精神には、
ただただ感服と頭が下がる思いで、
自分のだらしなさが際立つ。
同時に1940年代50年代とはいえ、
アメリカの黒人差別の酷さには声を失う。
こんな国が自由の国だと声高らかに
して来たことへの疑問も湧くほど。
それは、現代でも解決されていない。
どこまで事実に忠実に描かれているのかは分からないが、
差別主義者だったビリーが、最後にはカールの味方に
なるあたりは、アメリカらしく私は嫌いではない。
まあ、ビリーは気に入らない上官の思い通りに
したくなかっただけなのかも知れないとも思うけど、
それでもあの人がカールの味方になったことに
私はある種の希望を感じる。
単純かも知れないけど。
原題は「Men of Honor」。
「名誉の男たち」という意味だろうか。
カールの気高さは、米国海軍軍人であるという
誇りから来ていると思う。
★★★★▲
DVDで鑑賞
2000年製作/128分/アメリカ
2024.4.15
LIFE! / ライフ
The Secret Life of Walter Mitty
最近、友人のT君が映画に目覚めたみたいで、
お勧めの作品を訊いてくる。
記憶に残っている良かった映画なんて、
ほんの数本ほどですぐにネタに尽きてしまった。
この「ひとりごと」は大変有効な資料で、
ここに5つ星を付けた作品を紹介している。
ハズレはない。
それもそうだろう。
たぶん、10本は大げさでも7~8本観ないと
星5つの作品に出会わない。
つまり、10本選んだらそれは、70~80本の
映画から選んでいるということなんだ。
観た当時の自分の感想を読み直して、
もう一度観たくなる映画も多い。
そんな中の1本『LIFE!』を鑑賞。
アドベンチャー・コメディというジャンルのようだが、
大人のおとぎ話、ファンタジーという感じ。
ハッピーエンドだったろうとは思っていたけど、
10年ぶりに観たら、ラストは全く覚えていなくて、
初めて観たように感動したよ。
アメリカのライフ誌の写真担当者が、
最終号の表紙を飾る写真のネガを紛失してしまい、
(元々なかったので、紛失という感じではないのだけど)
ネガの在りかを聞こうと、連絡の取れない
写真家のショーンを追いかけるというストーリー。
この写真担当者 ウォルター・ミティが、
しょっちゅう空想しているちょっと臆病な男。
その彼が、どんどん変化していく様が痛快。
ウォルターを演じるのが、本作の監督も
務めるベン・スティラー。
ウォルターの母親にシャーリー・マクレーン。
年をとっても美人です。
ウォルターが心を寄せる同僚シェリルにクリステン・ウィグ。
そして、写真家のショーンにショーン・ペン。
出番は少ないのだけど、めちゃくちゃ渋くてカッコ良い。
原題は、「The Secret Life of Walter Mitty」。
現実のライフ誌は、2007年にオンライン版のみに
なったが、今はそれも閉鎖されたようだ。
驚いたのは、この映画の原作は1939年の
短編小説で、1947年に映画化されているんだ。
その邦題は、『虹を掴む男』。
だから、本作はリメイクなんだな。
出版社や色々な設定は違うようだが、
そちらも観てみたい。
実際のライフ誌印刷版の最終号の表紙を
見てみたいと検索したけど、見つけられなかった。
きっとあるんだろうけど。
[映画に出て来る「ライフ」のモットー]
To see the world,
things dangerous to come to,
to see behind walls,
to draw closer,
to find each other and to feel.
That is the purpose of life.
世界を見ること
近づくと危険なものを
壁の向こうを見ること
近くづくこと
お互いを知って感じること
それが人生の目的
★★★★★
2013年製作/114分/G/アメリカ
劇場公開日:2014年3月19日
Amazon Prime Videoで鑑賞
2024.4.16
虹を掴む男
The Secret Life of Walter Mitty
昨日観た映画『LIFE! / ライフ』は、
2013年にベン・スティラー監督・主演で制作された。
原題は、『The Secret Life of Walter Mitty』。
昨日調べていて、1947年に作られた映画の
リメイクだと知った。
興味があったので、その1947年版も観てみた。
邦題は『虹を掴む男』。
もう全く別の物語。
主人公ウォルター・ミティに妄想癖があると
いうこと以外は、何もかもが違う。
原作は非常に短い短編小説ということなので、
映画制作の際に設定など自由に膨らませたのかも知れない。
77年も前の映画ということもあるだろうが、
ちょっと退屈だった。
何よりウォルターの妄想が面白くない。
これは時代だろうな。
そして時々ミュージカル風になるのも
私には余計な演出に感じた。
『ライフ』では、ウォルターの妄想は最初の方だけで、
割とすぐに実際に行動し始めるのだけど、
『虹を掴む男』では、結構後半まで
あまり面白くない妄想が続いた。
ある事件に巻き込まれるのだが、
これがまたイライラする展開。
途中で観るのを止めようかと思ったほどだった。
これは、時代の違いが大きいと思う。
人の言いなりだったウォルターは、
最後に自分の意志で行動をするのだけど、
邦題『虹を掴む男』は、いかがなものか。
主演は、ダニー・ケイ。
谷啓が、ダニー・ケイから芸名を決めたというのは、
有名な話だが、ダニー・ケイの映画は初めて観た。
★★☆☆☆
1947年製作/110分/アメリカ
Amazon Prime Videoで鑑賞
2024.4.212024.4.26
青天の霹靂
2014年に公開された映画『青天の霹靂』。
劇団ひとりが、自身の書き下ろし小説を
初監督で映画化した作品。
公開時に劇場で観たのだけど、当時の感想は★5つ。
イマイチな人生を送っている晴夫(大泉洋)が
40年前にトリップし、父(劇団ひとり)と
母(柴咲コウ)に会う。
自分の人生がイマイチなのは、
自分を捨てた母親と、ダメな父親のせいだと
生きてきたのに、若い頃の両親は、
自分が思っていた 二人ではなかった。
10年前のエントリーにも書いたけど、
大泉洋が上手い。
泣かされます。
でも、ちょっと期待し過ぎたかな。
思ったほど感動できず、今回は★4つ半。
これって、やはり劇場で観るのと
自宅で観るのとの違いが大きいと思う。
劇場で観る方が絶体 映画にのめり込めるし
感動するんだと思う。
それだけ、劇場で観ることには価値があると思うね。
★★★★▲
2014年製作/96分/G/日本
劇場公開日:2014年5月24日
Amazon Prime Videoで鑑賞
すばらしき世界
西川美和監督、役所広司主演の映画
『すばらしき世界』。(2020年)
原作は、『身分帳』という佐木隆三の小説。
映画化に当たり、時代設定を変え、
タイトルも変えたようだ。
観終えてから知ったのだが、実在した男の物語だった。
殺人罪で13年間の刑期を終えて出所した、
元ヤクザの三上(役所広司)が、
なんとか社会に適用しようともがく姿を描く。
原題の『身分帳』は、刑務所で、収容者の経歴や
入所時の態度などが書かれた書類。
もちろん、原本は持ちだせないだろうが、
映画では、本人がノートに書き写したものが登場する。
三上は、かっとなると見境がなくなる男だが、
まっすぐで、義理堅く、優しい人間でもある。
しかし、元殺人犯が社会にとけ込むのは
容易なことではない。
何度も「元」に戻りそうになる三上を
周りの人が支える。
今年公開された『パーフェクトデイズ』とは
全く違うストーリーだし、主人公のキャラも全く違うのに、
役所広司が演じているせいか、
言葉にできない共通点を感じてしまう。
なんだろうな。
それにしても、このタイトルには考えさせられる。
「すばらしき世界」。
どこがすばらしいのだろうか。
何がすばらしいのだろうか。
過ちを犯してもやり直すことができることだろうか。
しかし、そんな人を社会は簡単には受け入れない。
身元引受人になった弁護士や、スーパーの店長、
三上を取材する小説家志望の男、
ケースワーカーの職員など、三上を支える、
優しい人々の存在だろうか。
現実は、そんなに甘くないだろう。
三上は、母親に捨てられ(捨てたわけでは
ないかも知れないけど)、誉めてもらえるという理由で
ヤクザの仕事を請け負ってきた。
そんな三上が最後に、自分の怒りをコントロールすること、
いや見て見ぬふりをすることを覚え、「普通の人」になる。
それがすばらしいことなのだろうか。
それとも、そんなことまで(自分の本性を殺してまで)して
生きる価値があるほどこの世界はすばらしいのだろうか。
あるいは、三上が最期に観たコスモスの花のことだろうか。
いくら考えても分からないので、
ここまで書いて、検索してみたら、
スゴイ答えに出会った。
↓
「すばらしき世界」というタイトルの謎
高田ともみさんというライターさんの記事なのだが、
彼女のタイトルの解釈を読んで、
不覚にも落涙してしまった。
「すばらしき世界」の意味、すばらしいです。
映画のオフィシャルサイトにある、
西川監督と六角精児の対談を読んだ。
「すばらしき世界」の意味を六角さんが
「『まんざら捨てたもんじゃねえ』ってことでしょう」
と語っているが、西川監督はタイトルに
「本当に悩みました」と書いているけど、
明確にはその意味を話していない。
でも、英語のタイトルが、
「Under the open sky」になったことは、
喜んでいるので、繋がっているんだろうな。
西川作品では『ゆれる』が一番好きだったけど、
『すばらしき世界』が抜いたな。
原作『身分帳』も読みたい。
ところで、長澤まさみと仲野太賀のコンビは、
虫コナーズのCM思い出してしまうな。
映画とは関係ないけど。
★★★★★
2021年製作/126分/G/日本
劇場公開日:2021年2月11日
Amazon Prime Videoで鑑賞
2024.4.29
生きる LIVING
黒澤明監督の映画『生きる』(1952年)の
リメイク作品『生きる LIVING』。
舞台を1950年代のロンドンに移し、
オープニングから、その時代の映画のような
錯覚を覚える。
黒澤の『生きる』は、もうずいぶん前に
ビデオで観たのだけど、あらすじは覚えている。
仕事一筋だけど、空虚な人生を送っている、
公務員のウイリアムズが自分の余命を知り、
残りの人生を生まれ変わったように生きる。
誰もが関わろうとしなかった、公園作りに
命を懸けるんだ。
ウイリアムズの手柄を横取りしようとする上司、
ウイリアムズに見習って、
「これからは責任逃れをしない」と誓ったのに、
すぐ元通りになるウイリアムズの後任の課長や同僚。
そんな人間のダメの部分もしっかり描かれていて、
単純に「死期を知った人間ががんばって生きた」
だけの話に終わらない。
最後の警官とウイリアムズの部下だった、
ピーターとの会話が良い。
オフィシャルサイトの解説には、
「日本の社会もイギリスの社会も、感情を表に
出さないことを基本としています」とある。
そういう面もこの脚本に合っていたんだろう。
脚本は、イギリス在住のノーベル賞受賞作家、
カズオ・イシグロ。
リメイクの発案も彼だったらしい。
ウイリアムズを演じる、ビル・ナイがとても良い。
★★★★☆
2022年製作/103分/G/イギリス
原題:Living
劇場公開日:2023年3月31日
Amazon Prime Video で鑑賞
2024.4.29
空 白
2021年10月に劇場で観た映画『空白』。
その時の感想は、こちら。
2年半ぶりの鑑賞だったけど、
やはり重い作品だった。
つらくてしんどいけど観るに値する。
マスコミ(テレビ報道)の酷さや
「正しさ」「親切」の押し売りには辟易する。
持って行き場のない怒りと悲しみ、
起きてしまった どうしようもないことを
人はどうやって乗り越えていくんだろう。
つらいストーリーだけど、明日に向かって
生きていくしかない、再生と希望の物語でもある。
乱暴な 添田充 を演じる古田新太が素晴らしい。
自分の責任で添田の娘(中学生)を交通事故で
死なせてしいまい、心を病んでいくスーパーの店長を
松坂桃李、おせっかいなスーパー店員を寺島しのぶ、
添田の弟子に藤原季節。
監督は『ヒメノア~ル』の吉田恵輔。
★★★★★
2021年製作/107分/PG12/日本
劇場公開日:2021年9月23日
Amazon Prime Video で鑑賞
2024.5.2
オッペンハイマー
Oppenheimer
一度では到底理解のできないであろう映画
『オッペンハイマー』の二度目の鑑賞。
前回観てから、1ヵ月以上経っているのだけど、
その間に、YouTubeで数本解説動画を観て、
復習(&予習)をしたので、前回の理解度が
50%だったとしたなら、今回は 75%ぐらいだろう。
それぐらい複雑な話だ。
一度目にはほとんど分かっていなかったと
いうこともよく分かった。
もちろん、あらすじは理解しているし、
この映画のテーマ(おそらくノーラン監督が
提言したかったこと)は、自分なりに
受け止めているつもりだが、まだ不十分な
感じがしているので、もう少し登場人物の
相関関係など整理したうえで、もう一度
上映中に観に行きたい。
もうこれは「何度も観ろよ」という映画だと思う。
何がそんなにこの映画に惹かれるのか
よく分からないのだけど。
おかげで今まで観たノーラン監督の
「なんかよう分からんかった」的な作品、
『インセプション』『インターステラー』
『テネット』も、もう一度観てみようという
気になっている。
もしかしたら、ノーランにハメられたか。
前回は、IMAX で観たので、
音響がもの凄い迫力だった。
今回は、前回と同じシネコンの IMAX ではない
劇場で観たのだけど、それでも結構な迫力だったよ。
米国での上映では「日本人なら絶対笑わないような
場面で笑いが起きていた」と何かで読んだ。
その記事には、どの場面か書いていなかった。
確かに日本人なら、笑えるシーンは全くない。
たぶんだけど、原爆投下に関する会議で、
「京都をターゲットから外した」という場面では
ないだろうかと思った。
偉いさんが、「京都には新婚旅行で行ったから」と言う。
その前に彼は「京都には文化的価値がある」と
本当の理由を言い、そのあとに付け足しのように
新婚旅行の話をするのだけどね。
ほかには思い当たらないので、
もし、そこだったとしたら、あれは米国人には面白いのかな。
一度目の感想に「原爆の投下に成功した
ニュースを聞いて、歓喜する人間。
このシーンは、気持ち悪い」と書いた。
しかし、彼らはおかしくないんだな。
日本人であっても、あの立場で
あの場所にいたら、原爆の投下を喜び、
戦争の終結を祝っただろう。
気持ち悪いのは、アメリカ人に対してではなく、
「人間」に対しての気持ち悪さだ。
★★★★★
2023年製作/180分/R15+/アメリカ
原題:Oppenheimer
劇場公開日:2024年3月29日
2024.5.4
悪は存在しない
『ドライブ・マイ・カー』で数々の受賞と
ノミネートをされた濱口竜介監督の
最新作『悪は存在しない』。
タイトルからも ちょっと期待していたのだけど、
これが難しかった。
思えば『ドライブ・マイ・カー』のレビューに私は
「全くもって 『??? 』な終わり方だった」
「残念ながら、私はこの映画のターゲットから
完全に脱落している」と書いた。
本作も全くもって然り。
今回も「???」な終わり方、何がこんなに
高評価なのか分からないところを鑑みると
本作についても「私はこの映画のターゲットから
完全に脱落している」ような気がする。
あまりに不可解なので、本作に関する記事や
監督のインタビューも読んだのだけど、
それでも謎は解けない。
それもそのはずだろう、監督は結末の解釈を
鑑賞者に預けているんだ。
もちろん、それはどの映画だって同じだ。
でも「なんで主人公はそんなことをしたの?」
という疑問を解くカギが私には見当たらないんだ。
本作は、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞
(審査員グランプリ)を受賞した。
(そのほかにも受賞歴あり)
もしかしたら、高評価の人たちは、
その受賞を受けて、訳も分からず高く評価
しているのではないか、実は何も分かっていない
のではないかと勘繰ってしまうほど、
私にはよく分からない。
自分の理解力の低さを棚に上げてるのだが。
監督のインタビューやその他の解説を読んだ上で
もう一度観ると、違って観える可能性もあるが、
そこまで惹かれないのが正直なところだ。
映画や文学で、結末を観客や読者に
委ねるタイプのものを「オープン・エンディング」
というが、あまりにもオープンの角度が
広すぎて、私は置いてきぼりをくらってしまった。
やはり、私には濱口監督作品を理解する
センスはなさそうな気がする。
ただ、映像と音楽は良い。
元々が『ドライブ・マイ・カー』の音楽を
担当した石橋英子からの
ライブパフォーマンス用映像の依頼が、
本作のスタートだったというから、
音楽との相性は良いのだろう。
毛細血管を連想させる木々の枝を
見上げる映像に、あまり旋律を感じさせない、
重厚なストリングスの響きという組合せは、
環境音楽としても良いし、そこから何かの
示唆を受取るという意味でも嫌いではない。
が、あのエンディングは、どうしてよいか分からない。
なぜだかヨーロッパ、それもイタリアやフランスではなく、
イングランドか北欧のイメージを感じてしまった。
そういう意味でも、監督が国際的評価が
高いという意味でも、外国映画的なのかもね。
舞台は、長野県の水挽町(みずびきちょう)という
架空の村なのだが、登場する車が諏訪ナンバーだった。
実は、来月諏訪地方へ行く予定をしているんだ。
昨夜、ちょうどホテルを予約したところだった。
もうひとつ、映画の上映前、席に着いてから
妻と話していてノーム・チョムスキー
(哲学者・言語学者)の話が出た。
予告編が始まったら、なんと佐藤真の
ドキュメンタリー映画『暮らしの思想 佐藤真
RETROSPECTIVE』の予告編の中に
チョムスキーが登場した。
そんな、シンクロニシティな映画鑑賞でした。
ところで、冒頭
「EVIL DOES NOT EXIST」と字幕が出る。
昔、何かの本で「EVIL」は、「LIVE(生)」の
逆だから「悪」なんだと読んだのを思い出した。
★★★☆☆
2023年製作/106分/G/日本
劇場公開日:2024年4月26日
2024.5.5
マイ・スイート・ハニー
Honey Sweet
例年のゴールデン・ウィークは、一泊か二泊程度
国内旅行に出かけていたのだけど、
退職して、いつでも行けるとなると、
わざわざ料金の高い、そして混むこの時期に
行かなくても良いだろうと、今年は
どこへも行かなかった。
でも、どこかに行くには、
季節は今が一番良いんだよな。
さて、昨日は、難しい映画を観たけど、
今日は超分かりやすいラブコメ。
公開されたばかりの韓国映画の
『マイ・スイート・ハニー』。
45歳のもてない男チャ・チホを演じるのは、
ユ・へジン。
少し前に観た映画『梟―フクロウ―』で
朝鮮王朝の国王を演じていた役者だ。
あまりにも違うキャラなので、
言われないと気付かない。
ヒロイン役、明るくエネルギッシュな
シングルマザーのイ・イルヨンを演じるのは
キム・ヒソン。
大人のメルヘンということだろうが、
40代の恋愛にしては、なんというか
ちょっとウブすぎやしないかと思う。
恋愛経験のない45歳だとこうなるのかな。
まあ、コメディということで、野暮なツッコミはいたしません。
家族を大切に思うがゆえに、
いったんは恋愛を諦めようとするふたり。
だが、双方の家族が再びふたりを
結びつけるというハッピーエンド。
後半、主人公がテレビに出演することが
決まった時点で、その先が読めてしまったのは残念。
やっぱり、意外性が欲しいもんな。
結構笑えたのは良かった。
★★★▲☆
2023年製作/118分/G/韓国
原題:Honey Sweet
劇場公開日:2024年5月3日
2024.5.20
碁盤斬り
古典落語『柳田格之進』が映画化された。
映画のタイトルは『碁盤切り』。
落語の方は、ナマとCD、DVD合わせると
古今亭志ん朝、立川志の輔、
春風亭一之輔、春風亭小朝など
数人の落語家の口演を聴いたことがある。
それぐらいポピュラーな古典落語なんだ。
落語は、演者によって、ストーリーや登場人物の
キャラクターが、微妙に違っていて面白い。
映画の監督は、白石和彌(かずや)。
白石監督作品は、数本観ているが、
『凪待ち』と『凶悪』が、印象に残っている。
なんというか、生々しい演出・描写の
監督というイメージだ。
主人公・柳田を草なぎ剛が演じると知って、
私のイメージとはちょっと違ったので、
それを覆してくれると良いな、と期待しての
鑑賞となった。
以下、感想など(ネタバレ含む)。
落語の『柳田格之進』を映画にしたのだと
思っていたら、厳密に言うと違った。
『柳田格之進』を題材に脚本家の加藤正人さんが
膨らませたストーリーが『碁盤斬り』。
落語にはない背景やエピソードも盛り込まれている。
考えてみれば落語は30分程度なので、
2時間の映画にするには、短いのかもな。
落語には出てこない、格之進の妻の話が
出てきて、その妻の敵を取るという
サイドストーリー的なものが付け加えられている。
落語では、萬屋の主人・源兵衛は、最初から良い人として
描かれているが、映画では最初はイヤなオヤジとして
登場し、格之進の影響で善い人になっていく。
落語では、五十両を盗んだ嫌疑を格之進にかけるのは
番頭なのだが、映画では(番頭が言い出すのだけど)
源兵衛の遠縁の若者・弥吉が、嫌疑をかけた
本人として描かれる。
映画としては、まあまあ面白かったのだけれど、
私は最後のハッピーエンドがイヤだった。
格之進の娘・お絹と格之進を疑った弥吉とが
祝言をあげるんだ。
首を差し出す、とまで言うほど自分を疑った男と
娘の結婚を認めるのか。
お絹と弥吉は、前半好き合っていく様が
描かれているが、お絹だって、あんな風に父上を
疑った男と結婚したいと思うのだろうか。
弥吉に向かって「二度と私の前に現れないで」
とまで言ったではないか。
個人的には、あれはない方が良かったのにと思う。
もし、ふたりを一緒にさせるなら、嫌疑をかけたのは
番頭ひとりで、弥吉は格之進の無実を信じていた、
という風にして欲しかったな。
格之進は「清廉潔白」に生きてきた。
そのため、格之進に藩を追い出され、
浪人になり家族が路頭に迷った侍は少なくなかった。
五十両盗んだと疑われただけで、
腹を切ろうと思うほど、「清廉潔白」であることに
こだわって生きてきた男だ。
その「清廉潔白」野郎が、最後にちょっとした
悪事を働く。
悪事と言えるのかどうかも分からないのだけど、
いずれにしろ、殿への裏切りだろう。
それを同じ藩士の梶木左門が、見逃す。
格之進は、「清廉潔白」であることより、
大切なことに気付いたんだと思う。
そのことを教えてくれたのが仇であった、
柴田兵庫だったということが、
本作の隠れたテーマのようにも思う。
これは落語の『柳田格之進』とは違う話だね。
落語では「ならぬ堪忍するが堪忍。
柳田格之進の一席でした」
と終わる落語家が多いことからも、
格之進が、主人と奉公人の互いを想う心に負け、
ふたりを赦す(堪忍する)話だとわたしは解釈している。
格之進を演じた、草なぎ剛は迫真の演技でした。
所々、わざとらしいものの言い方が気になったけど。
お絹役の 清原果耶、清純な感じがよろしい。
弥吉役の 中川大志、まっすぐな感じが出てて良かった。
萬屋源兵衛役に、國村隼。
その他、市村正樹、斎藤工、小泉今日子、奥野瑛太など。
★★★★☆
2024年製作/129分/G/日本
劇場公開日:2024年5月17日
2024.5.25
ミッシング
『空白』『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督作品と
聞いて、きっと感情が揺さぶられる、
激しい映画なんだろうと覚悟して鑑賞した。
主演は、子供が行方不明になった母親・
沙織里を演じる石原さとみ。
そのストレスから、壊れていく様が、
観ていてしんどいほどの迫真の演技だ。
今まで数本彼女の出演作を観たけれど、
これまでとは違う次元で本格派女優の
仲間入りだと思った。
インタビューで観たが、私生活でも母親に
なったことが演技に大きな力になっていると思う。
その夫役には、青木崇高。
石原さとみが強烈過ぎるので、やや印象が薄まるが、
とても良い味を出している。
特にラストシーンは良い。
これまた難しい役、沙織里の弟・圭吾を
演じるのが森優作。
この人のことは、知らなかったけど
これで覚えたよ。
地方テレビ曲の記者・砂田に中村倫也。
何を放送すべきなのかを考え、
とても人間らしいのだけど、
それでは放送局では出世しないんだな。
テレビ報道による悪影響について、刑事に
「お前らが面白がって放送するからだ!」
と言われ、砂田は
「面白がってない。事実を報道しているだけだ」
と答える。
それに対する刑事の言葉が印象的だ。
「その事実が(大衆は)面白いんだよ」
以下、ネタバレ含む。
結局、行方不明の子供は見つからない。
死体でも見つからないでの、生きてるかどうかも
わからないまま映画は終わる。
上映後、劇場から出る際、観客の
「見つかるか見つからないか、はっきりして欲しい」
「もやもやする」
という声が聞こえて来た。
いずれも若い人だった。
それを聞いて、私は事件が解決しなかったことに
不満がないことに気付いた。
私も20代なら不満に感じたのかも知れない。
この映画は、ミステリーでもなければ、
クライム・サスペンスでもない。
もし、子供が見つかれば、ハッピーエンドだ。
事件が解決し、観た人には「そのこと」になってしまうだろう。
殺されていたという結末にしても
「幼女行方不明事件」の映画になってしまう。
本作のテーマは、そこじゃない。
子供がいなくなった母親の、夫婦の苦悩。
報道のあり方、SNSに現れる人間の悪性。
偏った報道に簡単に洗脳される市井の人々。
報道って何?
テレビって何?
その事実、放送する意味があるの?
SNS って何?
そんな問いかけを私たちに投げかけていると思う。
観ててしんどい映画だが、
人間というものを描いている点では
凄い作品だと思う。
変なツッコミ所もない。
『空白』も最後に救いがあって良かったけど、
本作でも 人間の醜さ弱さを散々暴いたあとに、
人間であることの救いと光を見せてくれる。
これは好きだな。
監督作品は、『空白』「ヒメアノ~ル』
『純喫茶磯辺』の3本しか観ていないけれど、
他の作品も観てみたくなった。
本作では、脚本も吉田恵輔。
★★★★★
2024年製作/119分/G/日本
劇場公開日:2024年5月17日
ボブ・マーリー:ONE LOVE
Bob Marley : One Love
伝説のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの
伝記映画。
ボブ・マーリーといえば、今年3月に
『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ
レゲエ・サンプラッシュ』という、
ボブ・マーリーのジャマイカでのラスト・ライヴ
映像を含むドキュメンタリー映画を観た。
その映画の中で、ジャマイカのある男たちが、
エレキギターやシンセサイザーを使う演奏を
「金儲けだ」と批判していた。
しかし、本作『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を
観ると、ボブが純粋に平和のためにレゲエを
広げようとしていたように描かれている。
こういう成功したアーティストの映画の
ほとんどが、有名になったあと、
ドラッグ、アルコール、そして女性問題で
苦しむというのがパターンなんだけど、
ボブにはなかったね。
ドラッグに関しては、最初からハッパは
吸いまくっているし、女性問題に関しては、
パリで夫婦げんかになるシーンがあるけど、
それほど大事件でもない。
まあ、本作は息子のジギー・マーリーが
プロデューサーとして名を連ねているので、
そんな影響もあるのかも知れない。
私は、ボブが白人とのハーフだったことさえ
知らなかった。
本作では、リタ・マーリー(ボブの妻)が
どんな人だったのか描かれていたのは良かった。
それにしても、この映画を理解するには、
ジャマイカの歴史、ラスタファリ、
エチオピア皇帝ハイレ=セラシエなどの
知識がないと、ダメですわ。
ただ音楽好きなだけでは、無理。
『エクソダス』が生まれるくだりなんかは
音楽ファンは嬉しいけどね。
ボブを演じた、キングズリー・ベン=アディルは、
イギリスの俳優。
実際のボブより男前で清潔感があって、
ちょっと作り物っぽいのは残念。
それを思うと、『ボヘミアンラプソディー』の
ラミ・マレックはハマり役だったな。
★★★★☆
2024年製作/108分/PG12/アメリカ
原題:Bob Marley: One Love
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
劇場公開日:2024年5月17日
2024.5.27
QUEEN
ROCK MONTREAL
1981年11月24、25日に クイーンが、
カナダ・モントリオールで行ったコンサートを
収録したライヴ・ムービーを観てきた。
これはすでに映像作品として出回っているもので、
DVDなどでも入手可能なのだが、
IMAX 用にデジタル・リマスターされたというので、
この機会に大きなスクリーンで観ておこうと思った。
T・ジョイ・プリンス品川の IMAX 劇場は、
大きな劇場で、300席あるのだけれど、
今日の上映時の観客は、15人ぐらい。
1日1回の上映で、300人の会場に
客が10数人というのは、ビジネス的に
大丈夫なんだろうか? と余計な心配をしてしまう。
でも、本作2月に公開されたものの、
再上映だと知って、それで少なかったのかということにした。
私は、高校生の時、1979年のジャパンツアーを
大阪フェスティバルホールで観たのだけど、
本ライヴ・ムービーは、1981年ということで
その2年後だが、大がかりな照明は、
1979年のときより進化しているように感じた。
映画『未知との遭遇』を思い出したよ。
モントリオール公演は、1981年11月24、25日
だったのだけど、フレディ・マーキュリーの命日は、
1991年11月24日なので、ちょうど10年前の
映像なんだ。
それにしても、誰にも似ていない、誰々っぽくない、
このクィーンというバンドの個性と素晴らしさを再認識したよ。
『Crazy Little Thing Called Love』なんかを
聴くと、もちろん曲のルーツが分かるんだけど、
それでも個性的だ。
この曲で、ブライアン・メイは、テレキャスターを
弾いたのに、「いつものオリジナルギターと
音一緒やん」と、笑ってしまった。
何を弾いても、ブライアンの音になるのだな。
4人のバンドなので、一人欠けても
そのバンドには、ならないのは承知の上だけど、
今日はロジャー・テイラーの存在の大きさを感じた。
どうしても、フレディやブライアンにスポットが
当たりがちだと思うけど、クィーンにとって
ロジャーの存在は大きかったと感じた。
そういえば、2016年に「QUEEN+Adam Lambert」の
来日公演を観たけど、ロジャーは現役で来日したけど、
ジョン・ディーコンは、ずっと前に引退したみたいだ。
個人的なハイライトは、やはり大好きな
『Somebody To Love』、
それから『Killer Queen』、
『We Are The Champions』、
そして、『Bohemian Rhapsody』のテープによる
間奏後の演奏再開は、やはりゾクゾクする。
IMAX だから料金が、2,700円だったんだけど、
迫力はさて置いてあまり音質の良さは感じなかった。
IMAX 用にリマスターしてるとのことだったけど、
もう40年以上も前の録音なので限界があるのだろうか。
それとも「12 チャンネルのサラウンド サウンド」なんてものに
してしまったせいなのだろうか。
でも、ライブの熱さは、十分に伝わる映像だった。
[SETLIST]
We Will Rock You (Fast Version)
Let Me Entertain You
Play The Game
Somebody To Love
Killer Queen
I’m In Love With My Car
Get Down Make Love
Save Me
Now I’m Here
Dragon Attack
Love Of My Life
Under Pressure
Keep Yourself Alive
Drum and Tympani Solo
Guitar Solo
Crazy Little Thing Called Love
Jailhouse Rock
Bohemian Rhapsody
Tie Your Mother Down
Another One Bites The Dust
Sheer Heart Attack
We Will Rock You
We Are The Champions
あの劇場は、スクリーンが大き過ぎるので、
真ん中より後ろの席で観ないとしんどいね。
関心領域
The Zone of Interest
予告編を観て、なんだか怖そうな映画だと
興味を持っていた『関心領域』。
原題は、『The Zone of Interest』。
「関心領域」とは中々の訳だ。(上から)
と思っていたら、映画の解説にこんなことが。
「タイトルの『The Zone of Interest(関心領域)』は、
第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・
オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ
強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの
地域を表現するために使った言葉」
以下、ネタバレ含む。
アウシュビッツ収容所の隣で暮らすドイツ人家族。
予告編を観て、彼らが、塀を隔てた向こう側で
行われていることに全く無関心でいる
映画なのだろうと、想像した。
そして、塀の向こうで行われている歴史に残る
残虐な行為に どこかで気付き、家族たちは
恐ろしくなるのか、どうにかなるのだろうと
予想したが、全く違った。
何も起こらないんだ。
アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスと
その妻、5人の子供たちと家政婦は、
収容所の隣で、幸せそうに暮らす。
が、塀の向こうから、時折、怒号や悲鳴とも
とれる人の声、銃声、そして不気味な物音が聞こえ、
煙突からの煙と炎が上がる。
きっとそのうち、収容所のえげつない場面が、
出て来るんだろうと思っていたけど、
収容所の中は全く映らないんだ。
音と煙だけ。
そして、たぶん臭い。
収容所の中のことは、観客に委ねられているんだ。
これは、ある種のホラー映画だと思った。
登場人物、つまりルドルフの家族や家政婦は、
収容所からの音や声、煙突の煙に
ひと言も言及しない。
ルドルフは昇進するんだけど、
彼の仕事は、ホロコーストの遂行なんだ。
そして、出世して転勤になるんだけど、
妻は、収容所の隣の暮らしを気に入っており、
夫に付いて行かないんだ。
そう、現代でも転勤族あるあるの単身赴任。
ホロコーストの裏側で、全く何でもない、
日常がくり広げられており、その二つには
接点が見えないという恐ろしさ。
妻の母親が、会いに来るのだが、
数日後に突然いなくなる。
彼女は塀の向こうの異常さを
感じたのではないだろうかと思った。
後半、現在のアウシュビッツ収容所(博物館)の
シークエンスが挿入されるのだが、
その直前にヘスが吐くのがなんとも気持ち悪い。
しかし、あの無関心な家族を誰も責めることは出来ないだろう。
観終えてから、あれは、自分自身なんだと思い、
もう一度、気持ち悪くなった。
ヘス役は、クリスティアン・フリーデルというドイツの役者。
妻役は『落下の解剖学』のザンドラ・ヒュラーだ。
監督は英国のジョナサン・グレイザー。
音響も不気味で凄い(効果的)なと思ったら、
アカデミー賞で、国際長編映画賞と音響賞を受賞していた。
(その他3部門でもノミネート。他にもたくさん受賞。)
残酷なシーンが一切ないのに、怖いという映画。
これが人間の本性なのかもな。
結末を知った上で、もう一度観たい。
★★★★★
2023年製作/105分/G/アメリカ・イギリス・ポーランド合作
原題:The Zone of Interest
劇場公開日:2024年5月24日
2024.5.30
流浪の月
広瀬すず、松坂桃李 主演の映画『流浪の月』。
劇場公開された時に賛否があって、
気になっていたのに見損ねていた作品だ。
監督は、『フラガール』『悪人』『怒り』など記憶に
残る作品が多い李相日(リ・サンイル)。
原作は、本屋大賞受賞した凪良ゆうの小説。
これは、また難しいテーマの作品だ。
これを純愛と観るか、異常愛と観るかは
個人の感性と価値観に因るだろう。
以下、ネタバレ含む。
家に帰りたくない少女・更紗(さら)を
自宅に招き入れた若者・文(ふみ)。
その時点で、文は社会からは誘拐犯になってしまう。
更紗が家に帰ると、ある被害に遭うことから
守っていたとしてもだ。
文は更紗を、誘拐したわけではないが、
当然家族からは捜索願が出されるわけで、
いつか見つかってしまう。
十数年後、更紗と文は偶然再会する。
その時、更紗には結婚を前提に同棲している
彼氏・亮がいるのだが、この亮という男が
とことんイタイやつで、見ていられない。
演じるのは、横浜流星。
中々のイタイ男を演じております。
結局、世間(社会)は、更紗と文のことを
色眼鏡でしか観ることができない。
何も分かることができない。
警察は、市民を守っているつもりで、
実は酷いことをしていると、分からない。
否、そう言い切ってしまうのも、どうかなと
立ち止まる必要があるようにも思う。
時には「善悪」さえ、心もとないんだ。
その背景には、文が病気であることが最後に明かされる。
ここには、身体の問題と心(精神)の問題と
ふたつあると思うのだけど、文はずっとそのことで悩み続けていた。
そこで、それまで散りばめられていた伏線が回収されていく。
「誘拐犯にされるより、人に知られたくないこと」は何か。
母親に「僕の事も出来損ないだと思っているの?」と
迫ったのは何故か。
その難しい役を松坂桃李が、演じる。
『空白』でもそうだったけど、この人こういう精神的に
追い詰められた役のイメージ付いてしまいそう。
広瀬すずちゃん、いつまでも子供だと思っていたら
いつのまにか、濡れ場(というほどでもないけど)を
演じる大人になっていただんだね。
おじさん、ショックだったよ……(なんで?)
最後に更紗と文は一緒にいることを選択する。
世間からどんな目で見られようとも、
それが、ふたりの一番の望みなんだ。
きっと前途多難だろうけど、互いを理解し合える
唯一の存在と一緒にいられることは、
祝福したいと思った。
★★★★☆
2022年製作/150分/G/日本
劇場公開日:2022年5月13日
Amazon Prime Video で鑑賞
2024.6.6
ありふれた教室
Das Lehrerzimmer
ドイツ映画『ありふれた教室』を観てきた。
アカデミー賞国際長編映画賞に『パーフェクトデイズ』、
『関心領域』とともにノミネートされていた作品だ。
(受賞は『関心領域』)
主人公は、中学1年生のクラスの担任、
仕事熱心な若手教師カーラ・ノヴァク。
校内で多発する盗難事件をきっかけに
カーラは、犯人に罠をかける。
このことが明るみに出て、学校は予想も
つかない事態に陥っていく。
ちょっと息が詰まるような場面もある。
サスペンス映画ではないけど、先が読めず
「結末どうなるんやろ?」と思っていたら……
ここからネタバレ。
事件は、解決しないまま終わる。
「うーん、そこで終わるかぁ」という感じだったけど、
薄っぺらく解決するよりは、この方が良い。
ここまでこじれたら、ハッピーエンドとかないやろし。
何より、教師という仕事の難しさを痛感した。
そして、「正義」の難しさも。
国民性の違いもあるだろうから、
同じシチュエーションでも、日本なら違う展開に
なるような気もする。
(こんなにややこしくならないような気がするが、
それは甘い考えか。)
これも所謂オープンエンディングなので、
観客各々に、あの結末の先を考えるよう
問題提起されているように感じた。
主役ノヴァクを演じるレオニー・ベネシュが良い。
ちょっと『トーク・トゥ・ハー』に出ていたスペインの
レオノール・ワトリングを思い出した。美人。
生徒オスカー役のレオナルト・シュテットニッシュも
素晴らしい。
本作がデビュー作とのことだが、表情だけでも素晴らしい。
なお邦題は『ありふれた教室』だが、
原題は「職員室」の意。
★★★★▲
2022年製作/99分/G/ドイツ
原題:Das Lehrerzimmer
劇場公開日:2024年5月17日
2024.6.7
市民ケーン
Citizen Kane
20世紀の名作映画ランキングで
必ずといって良いほど上位に出て来る
映画『市民ケーン』(1941年)。
オーソン・ウェルズの初監督、初主演作品だ。
タイトルは知っていたけど、観たことはなかった。
友人に感想を求められ、観たのだけど、
正直言ってそんなに面白いとも良いとも思えなかった。
これは、時代が大きいと思う。
80年以上前の作品だもの。
調べてみると、この映画ではそれまで誰も
やっていなかったような撮影や演出の手法が
取られており、それらが評価のひとつになっている。
それらは今では当たり前のようになっているものもあるんだ。
パンフォーカスや時間的配列の再構築などね。
それらを25歳のオーソン・ウェルズが
やってのけたということで、
また評価に加算されているように感じる。
確かにその功績はあるのだろうけど、
それは映画自体ではなく、付随する要素なので、
ただの観客には、あまり興味がないことかも知れない。
特に80年以上前だし。(2回目)
感想。
金と権力で世界をコントロールしようとする、
イタイ男の物語だと思った。
「いくらお金があっても権力があっても幸せではない」と
いうのは、もう語りつくされたテーマだろうけど、
人間の永遠のテーマだろうな。
主人公ケーンは、大金持ちだったけど、
さびしい男だった。
ケーンがあんな風になってしまったのは、
母親の愛情に飢えていた、とかいうことになるのだろうな。
子供の時に(ある意味)親に捨てられるのだから。
母親の愛は、お金では埋められないんだな。
妻を所有物として扱うなどそのゆがんだ愛情表現は、
今ではやばいほどの一昔前の男尊女卑の表現だ。
ケーンの最後の言葉が「薔薇のつぼみ」で、
その意味を解明しようと物語は進む。
以下ネタバレ。
エンディングで、「薔薇のつぼみ」は、子供の頃、
母親と別れる際に遊んでいた「そり」に
書かれた文字だと明かされる。
大富豪の心にあったのは幼い頃の母親との
想い出だった、という解釈も可能なのだが、
私はどうもピンとこない。
「薔薇のつぼみ=母親」とは思えないからだ。
気になるので調べてみると、
こういう記事を見つけた。
「『市民ケーン』は実在の人物がモデルになっています。
当時のアメリカの(悪名高い)メディア王、ハーストです。
『市民ケーン』にはダブルミーニングの仕掛けが
施されていて、謎の言葉「薔薇のつぼみ(rosebud)」は、
ハーストが愛人とHする際の口癖だったそうで
(つまり、「薔薇のつぼみ」は愛人の秘部を意味するわけです)、
監督のオーソン・ウェルズは、悪どいメディア王ハーストに対して、
こうした映画作品の形で意趣返しの反撃を行なったわけです。
この作品を観た観客は皆、「薔薇のつぼみ」の謎を
知りたがるという仕掛けです」
それは、分からんわぁ。
このモデルになったハーストとは、ひと悶着あったようで
上映妨害運動が展開されたようだ。
「薔薇のつぼみ」が、本当にハーストに関連してのこと
だったとしたら、そら怒るわな。
そういう意味では、オーソン・ウェルズは(内容も
作り方も)アグレッシヴだったんだろう。
ただ、私にはちょっと説明臭い作りに感じた。
今リメイクしたら、もっと面白く作られるだろうな。
内容とは関係ないけど、加齢のメイクはコントのようだ。
モノクロだから耐えられるけど。
オーソン・ウェルズが20代から50代までを演じていることを
評価している記事もあるけど、
まあ、80年前だからということで。
あと、タイトルがなんで「市民(Citizen)」なんだろうな。
★★★☆☆
2024.6.24
ディア・ファミリー
予告編を観ただけで、想像がつくストーリーの
映画『ディア・ファミリー』。
でも 結構泣かされたよ。
ここ数年では一番泣いたかも知れない。
生まれつき心臓に疾患がある娘を持つ夫婦と
その家族(娘たち入れて5人)の物語で
実話をベースにしたフィクション。
諦めない父親とポジティブな母親。
娘は二十歳まで生きられないと知った父親は、
自分で人工心臓を作ることを決意する。
医学の素人が、人の命に係わる研究と開発に
臨むわけだ。
まあ、これが茨の道だわな。
以下、ネタバレ含む。
結局、人工心臓は、娘には間に合わず、
膨大な経済の壁に阻まれ断念するが、
娘との約束で、バルーン・カテーテルという
ものの開発に成功する。
それも、実用されるまでに所謂大人の事情に
翻弄されるんだ。
人間、というか医者でさえ、患者の命より
優先するものがあるという、現代社会の
悲しい縮図でもある。
娘の命は救えなかったけど、多くの
人の命を救った夫婦の物語。
なんだろう、なんだか分からんけど
頑張ろうと思える作品。
大泉洋は、上手いの知ってるけど
本作でも大泉に泣かされるよ。
★★★★★
2024.6.29
違国日記
新垣結衣主演の映画『違国日記』。
予告編を観てもあまり食指が
動かなかったのだけど、
ムビチケを貰ったので、観て来たよ。
新垣演じる35歳の小説家・高代槙生
(こうだいまきお)の大嫌いだった姉が
(事実婚の)夫と共に交通事故で亡くなった。
姉家族とは付き合いはなかったが、
15歳の姪・朝(あさ)が親戚をたらい回しに
なることを心配した槙生は、葬式の場で
朝を引き取り一緒に暮らすことを決める。
あまりにも性格の違うふたりの共同生活が
始まるのだけど、どこまで行っても槙生は、
姉(朝の母親)のことを許せない。
その姉の娘だと思うと朝との関係も難しい。
そんなストーリーなのだが、両親を目の前で
交通事故で突然亡くしたにしては、
朝にあまり深刻さがない。
もちろん多少のショックは描かれては
いるのだけど、なんだかリアリティがない。
物語全体としても、リアリティに欠ける。
なんか、ちょっと軽い。
途中で「これ、原作コミックとちゃうか」と
思ったら、やっぱりその通りだった。
(ヤマシタトモコの同名漫画)
主人公の名前、高代槙生(こうだいまきお)や
姪っ子の名前、田汲朝(たくみあさ)が、
もう少女漫画っぽいもんな。
だからと言って映画が良くなかった訳ではない。
最初はギクシャクしていたふたりが
少しずつ家族になっていく様子は、
なんだか応援したくなる感じだし、
高校生になった朝のティーンならではの葛藤や、
槙生の不器用な生き方にもエールを送りたくなったよ。
悪い人が、出てこないのも良いね。
でも、槙生がどうして、姉のことをそこまで
嫌っていたかは、最後まで分からなかった。
高圧的だったとか、ああ言われたとか
こう言われたとか、出て来るんだけど、
そこまで嫌いになる理由としては、なんかもの足りない。
一瞬、槙生と槙生の母親との会話で何かが
明かされそうになるんだけど、そのままスルー。
たぶん、原作ではもっと姉妹の歴史に
触れられているんだろうと推測する。
朝を演じた早瀬憩は、オーディションで選ばれた。
現在17歳。
脇を固める、夏帆、瀬戸康史も良い味を出していた。
監督は、瀬田なつき。
この人の作品は、初めて観た。
タイトルの『違国日記』は「異国」ではないのが、
なんとなくだけど、分かるような気がする。
勘違いかも知れんけど。
★★★★☆
2024年製作/139分/G/日本
劇場公開日:2024年6月7日
2024.7.21
ぼくたちの哲学教室
Young Plato
昨年公開され、劇場で観たドキュメンタリー映画
『ぼくたちの哲学教室』を妻の会社で自主上映した。
北アイルランド、ベルファストという街にある
ホーリークロス男子小学校は、「哲学」が
主要科目になっている。
哲学の先生は、校長先生だ。
カトリックとプロテスタントという宗教の対立が
長く続いた街で、怒りと暴力、理解と寛容に
ついて小学生が哲学している。
人間であることは、ただそれだけで素晴らしいということ、
そして、人間は何度 躓いても
決して希望を失うことはない、そんな映画だった。
小学生のことだ、遊んでいるうちにエスカレートして、
ケンカに発展した覚えは私にもある。
仲直りしては、ケンカを繰り返す。
子供のうちは仲直りも可能だ。
が、大人になってからは どうだろう?
民族間や国家間だと どうなるだろう?
日常に潜む相手への理解不足、不寛容、慈悲のなさが、
世界の分断や紛争を生み続けている。
人間はそこから逃れられない。
しかし、人間は希望を失うこともない。
映画上映のあとは シンポジウム。
登壇者は、さまようボウズ・小野龍光さん。
この方は、年商100億円超のIT起業家だった人。
インド旅行中にインド仏教界トップ、佐々井秀嶺氏と
出会い、全てを手放し得度したという人。
そして、主催である(一社)アイアイ・アソシエイツの
理事長、吉田さんと、妻。
シンポジウムにおける小野さんのトークも深く、
より映画を深めることができた。
私達(私)に足りないのは、
考えること、
対話すること、
理解することだと思った。
★★★★★
2021年製作/102分/G/アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス合作
原題:Young Plato
劇場公開日:2023年5月27日
2023.7.12 ぼくたちの哲学教室
ぼくたちの哲学教室 Official Site
2024.8.4
いただきます2
ここは発酵の楽園
オオタヴィン監督作品『いただきます2
ここは発酵の楽園』を観てきた。
2020年の作品だが、昨日、NPO法人
アイアイスクールの主催で上映会が開かれたんだ。
シリーズ2作目で、前作
『いただきます みそをつくるこどもたち』では、
保育園児が自分たちの食べる味噌を
自驚ら作る様子にき、味噌の持つ素晴らしさに
改めて関心したものだ。
本作『いただきます2 ここは発酵の楽園』では
タイトルにあるように発酵、つまり微生物の
凄さ素晴らしさに焦点をあてた作品で、
これまた食生活について、見直さなければ
ならないと思う内容だった。
給食を無農薬にしたら、子供たちの病欠が減ったなど、
興味深い結果も多い。
11年がかりで、無農薬のリンゴ栽培に成功し、
映画『奇跡のリンゴ』のモデルになった木村さんも
登場されたのだが、この人の笑顔があまりに
素晴らしくて、泣いてしまいそうになった。
純粋無垢で、汚れがないとでも言えばよいのかな。
生きていたら、無農薬へのチャレンジを
やめられないので、周りに迷惑をかけることになる。
それで、死のうと思った木村さんは、
最後に「土」からヒントをもらうのだけど、
答えは土(の中の微生物たち)にあったんだ。
オーガニック野菜を栽培している吉田さんも
無農薬の栽培に苦労したひとり。
無農薬で栽培すると、虫が付くので、
無農薬の野菜には虫食いの跡があると
聞いたことがあり、そう思っていた。
しかし、吉田さんの話によると虫が付くのは、
弱った野菜だけらしい。
元気に育った野菜は、自らを守る成分が
十分にあるので、虫が付かないらしい。
実際、吉田さんの畑のキャベツには
虫食いがなくて驚いた。
何でも自然のままが一番なんだと思った。
大量生産を目指した時に、
人間は道を誤って農薬を使い始めたんだろうか。
ナレーションは、小雪。
エンディングテーマは、坂本美雨が歌う、
宮澤賢治の『星めぐりのうた』。
映画と違う話になるが、最近、日本の
農薬問題などを扱っている某ジャーナリストに
「国産野菜は安全だと思っているかも
しれないけどそれは違う」と聞いた。
世界でも、日本は農薬の規制が緩いという。
輸入の小麦粉の残留農薬濃度なんかも、
かなり緩いらしい。
本当かどうかは知らないけど「世界一」という
文言も時々目にする。
それが、日本人の癌の発生率など
健康に関係がないとは言えないだろう。
国に頼るのではなく、自分たちで意識を持って
食品を選んで生きる必要があると思う。
★★★★▲
2020年製作/81分/日本
劇場公開日:2020年1月24日
[ 関連エントリー ]
2019.8.17 いただきます みそをつくるこどもたち
2024.8.24
幻の光
是枝裕和監督の1995年の
長編映画デビュー作『幻の光』。
原作は、宮本輝の小説。
舞台が石川県輪島なので、
「能登半島地震 輪島支援 特別上映」ということで、
渋谷のル・シネマで上映中だ。
収益から諸経費を除いた全額が輪島市に
寄付されるとのことだ。
この特別上映の背景は、ロケ地になった輪島の
復興支援という意味もあるだろうが、
それだけではないようだ。
公式サイトの「再上映にあたってのプロデューサーからの
コメント」を読むと映画化の企画を
諦めなければならないと思っていた時期に
輪島の観光協会や朝市組合など 現地の人々の全面的な
協力により この映画が完成したことが分かる。
プロデューサーである合津直枝は、
「『輪島の方々の応援がなければ、映画は完成しなかった』
と確信している」と書いている。
なんだか、映画とは別のストーリーがそこにはあったんだな。
さて、映画の方は、能登の映画だと思いきや、
前半の数十分は、大阪(というか兵庫県の尼崎)が舞台。
先に観た輪島出身の友人によると
輪島弁が気になったということだったが、
私は大阪弁が気になった。
調べてみると、主演の江角マキコは、島根県出身。
浅野忠信は、神奈川県出身なので仕方ないのかな。
赤井英和、内藤剛志は、大阪出身なので
さすがに気にならなかったけどね。
夫を亡くした妻・ゆみ子役に江角マキコ。
本作が映画デビューだったらしい。
その夫・郁夫に浅野忠信。
再婚相手・民雄に内藤剛志。
そのほか、木内みどり、柄本明、赤井英和など。
ゆみ子と郁夫のふたりは幼馴染で
映画は彼らの子供の頃から始まる。
結婚し、子供も生まれて幸福そうに見える夫婦だったが、
子供が3か月の時に、夫の郁夫が突然自殺してしまう。
妻には、その原因に全く心当たりがない。
数年後、彼女は輪島に嫁ぐ。
互いに子連れ同志の再婚だ。
尼崎のシーンでは、それなりにセリフがあったのだけど、
輪島に移ってからしばらくは、
ほとんどセリフがなく、新しい生活の日常が描かれる。
ゆみ子の子供は新しい父親にも祖父にも
姉(父親・民雄の連れ子)にもなつき、
幸福な再婚であったことが描かれている。
特に事件も何も起こらない。
輪島に移ってしばらくして、弟の結婚式で
尼崎に里帰りしたゆみ子は、再び死んだ夫への
想いに取りつかれる。
ゆみ子は夫の突然の自死の原因が
全く分からないことをずっと悩んでいたんだ。
ラストシーンでは、そのことを民雄に打ち明けるのだった。
ゆみ子の家族の喪失と新しい家族との再生。
物語のテンポはとてもゆっくり。
感情表現も控え目で、夫が死んだと知るシーンの
ゆみ子は少し物足りないと言えなくもない。
が、実際に突然 夫が自死したら、
誰もが感情的に泣き叫ぶわけではないのだろう。
夫の突然の自死以外にも、
ゆみ子の子供時代に祖母が失踪するシーン、
輪島では「カニを獲ってくる」と約束した近所の
漁師が舟を出した後、海が荒れて、
夜になっても戻ってこないというシーンもある。
後半には、ゆみ子が葬列を見るシーンも。
死は、とても身近にあることが描かれている。
ヴェネチア国際映画祭で撮影に関する賞を
獲ったらしいが、確かに美しい、素晴らしい構図の
シーンがいくつもあった。
あの美しい能登の景色の多くが、今年の地震で
失われたのかも知れない。
今回上映されたものは、デジタルリマスターとのことだが、
それって映像だけではなく、音声もなんだろうか。
途中、数回 BGM のピアノの音が、イヤなトーンで、
とても耳障りでだったよ。
★★★☆☆
1995年製作/110分/G/日本
劇場公開日:2024年8月2日
日本初公開日:1995年12月9日
2024.9.25
ラストマイル
映画『ラストマイル』を観てきた。
大分前から、宣伝していた印象があったけど
公開されてからひと月以上経ってたわ。
まあ、出演者が豪華ですわ。
主演は、満島ひかり、岡田将生。
そして、ディーン・フジオカ、火野正平、
阿部サダヲ、ちょい役の出演で、綾野剛、
星野源、石原ひとみ、井浦新、窪田正孝、
薬師丸ひろ子、麻生久美子、中村倫也など。
テレビドラマの監督・塚原あゆ子と
脚本家・野木亜紀子のタッグだから、
実現したキャストなんでしょうな。
贅沢な布陣だけど問題は内容です。
「ノンストップ・サスペンス・エンタテイメント」と
謳っているが、サスペンスとしては、
残念ながらドキドキが物足りない感じ。
娯楽映画だから、現実味とか求めては
いけないのかも知れないけど、
連続爆破犯の決断が、どうも解せない。
犯人の背景と動機をもっと説明してくれないと
私には「何で?」という感じだった。
あれで、犯人は意図を果たしたんだろうか。
弱い立場の人間から搾取し、
効率や生産性、数字ばかり追いかける
企業の在り方、限りなく欲し続ける
現代の人類に一石投じている感もあるが、
社会派作品と呼ぶにはメッセージも弱い感じ。
まあ、「サスペンス・エンタテイメント」と
謳っているぐらいだから、そんな気ないのかも知れない。
運送業界では、安い送料のために酷い労働環境で
働き続ける人たちがいることは、報道で見たことがある。
ネットで注文したら、送料無料で翌日届くことが、
異常だと気付いていても、利便性に負けてしまう。
いっそのこと、送料無料は全面廃止した方が、
健全な仕組みになるんじゃないかと思う。
そんな風に思ったということは、
社会的メッセージはあったということか。
★★★★☆
2024年製作/128分/G/日本
劇場公開日:2024年8月23日
スオミの話をしよう
久しぶりに劇場で2本鑑賞。
2本目は、三谷幸喜監督の『スオミの話をしよう』。
この人の作品は、当たり外れが酷いね。
前作、『記憶にございません!』(2019年)は、
面白かったけど、本作はどちらかというとハズレだな。
『ギャラクシー街道』(2015年)ほど酷くはないけど。
長澤まさみ演じるスオミが、行方不明になり、
誘拐されたのではないかということで、
今の夫と元夫4人が集まる。
5人の話すスオミはまるで別人のようで共通点がない。
一体、スオミとは本当はどんな人間なのか。
そして、犯人から身代金要求の電話がかかってくる。
なんだろうな。
コメディとしても、ミステリーとしても、ドラマとしても
大して面白くないし、中途半端な印象。
最後に意表を突かれるどんでん返しが
あるわけでもない。
エンディングにおまけのように足されている
ミュージカル仕立てのシーンは、全く余計に感じる。
長澤まさみのファンなら、彼女の歌を聴き
ダンスを見られるだけで価値があるだろうけど。
そんなわけで、ちょっと期待外れでした。
別れた男が4人とも元嫁をいまだに
好いているというのも、なんかどうなんやろ、と思う。
『ギャラクシー街道』ほどではないけど、
学生の文化祭作品的なニオイがしたよ。
西島秀俊は、こういうキャラがハマり役とは
思えないし、松坂桃李は、『空白』や『流浪の月』の
ようなシリアスな役の方が好きだな。
★★★☆☆
2024年製作/114分/G/日本
劇場公開日:2024年9月13日
2024.11.9
アイミタガイ
黒木華主演の映画『アイミタガイ』。
原作は、中條ていの連作短編集。
タイトルの「アイミタガイ」の意味は、
映画の中で語られるので、ぜひご覧頂きたい。
私が知らなかっただけかも知れないけど、
ちゃんとした日本語です。(相身互い)
黒木華演じる梓(あずさ)は、ウエディングプランナー。
その梓の親友・叶海(かなみ)が亡くなる。
最愛の親友を失い、前に進めない梓と、
娘を突然失くした叶海の両親の物語が、
同時進行で進むのだけど、
ラストに向けてふたつのストーリーが、
見事に繋がっていく。
これはフィクションだから、と言ってしまえば
それまでだけど、私は結構泣かされてしまった。
よく出来た話しだと思う。
梓の彼氏役に中村蒼。
叶海を演じるのは、藤間爽子。
その両親に、西田尚美と田口トモロヲ。
叶海の中学生時代を演じる白鳥玉季がとても良い。
この人、何かで観たことがあると思ったら、
『流浪の月』に出演していた子役だ。
そのほか、草笛光子、風吹ジュン、安藤玉恵など。
過去の完了と、前に進むことを描いた作品。
生きている限り、人は前に進み続けなければならない。
監督は、1984年生まれの草野翔吾。
この人の作品は、初めて観た。
ところで、劇中でピアノ演奏のシーンがある。
そこで演奏される曲が、超有名曲で、
よくよく知っている曲(演奏したこともある)
なのに、題名が思い出せなかった。
(最近、こういう思い出せないことが増えてきた。)
で、エンドロールで出るだろうから、
題名を見ればすぐ分かると思っていたのに、
見落としたのか見つけられなかった。
思い出せないので、仕方なくググってみると
その曲は『オーラ・リー』とあった。
「オーラ・リー」なんて曲、知らんぞと、
さらに調べてみると、なんとプレスリーの
『Love Me Tender』の原曲だった。
『Love Me Tender』に原曲があったなんて
知らなかった。
いや、もしかしたら過去にも同じことを思ったけど
覚えていない可能性も大きい。
『Love Me Tender』とせずに『Aura Lee』と
したのには、何か意味があるんだろうな。
それから、エンドロールでは黒木華が歌う曲が
流れた。
それも出だしですぐ、(あ、この曲知ってる)と
思ったけど、タイトルも誰が歌っていたかも思い出せない。
エンドロールで「夜明けのハイウェイ」
「作詞・作曲 荒木一郎」と出た。
えーっ? 荒木一郎?
なんかイメージ違うなぁ。
もっとニューミュージック系の人が唄ってたと
思ったけど、作者が荒木一郎ってことかな、
と、これも調べてみると、1979年のテレビドラマ
『ちょっとマイウェイ』(桃井かおり主演)の
テーマ曲で、唄っていたのは「パル(PAL)」という
グループだった。
曲のタイトルを見ても、ドラマのタイトルを見ても
パルというグループの名前を見ても、
何一つ思い出せないかったけど、
たぶん、このドラマを毎週観ていたんだと思う。
だから、曲の出だしの歌詞「悲しみをいくつか
乗り越えて来ました」ですぐ、この曲知ってると
思ったんだな。
1979年というと、私は17歳。
もしかしたら、45年ぶりだったかも知れない。
若い時に聴いた音楽って、ホントに凄いね。
黒木華の歌は、とても上手いとは言えないけど、
味があって良いと思う。
あと、黒木華の「華」は、ついつい「はな」と
読んでしまうけど「はる」なんだな。
これも、すぐ忘れて「はな」と読んでしまう。
★★★★★
2024年製作/105分/G/日本
劇場公開日:2024年11月1日
本 心
本日は、邦画をもう一本鑑賞。
昨日公開されたばかりの『本心』。
18時過ぎからの上映を観たのだけれど、
お客さんは7人と少なかった。
原作は『マチネの終わりに』、『ある男』の
平野啓一郎。
ちょっと未来の、言ってみれば SF的設定。
自由死という制度で、自殺が認められている日本。
池松壮亮(そうすけ)演じる主人公 朔也(さくや)の
母親(田中裕子)が、「大切な話をしたい」と
言い残して、死んでしまう。
朔也はVF(ヴァーチャル・フィギア)で、
母を創り出し、本心を聞き出そうとする。
死んだ人間をヴァーチャルで創り出し、
話ができる。
VFの中の人間は、現実と区別がつかないほどで
ちゃんと学習し続ける。
でも、こんな時代が来るのは、イヤだなと思う。
設定は SF 的だけど、ストーリーはヒューマンドラマ。
先に観た『アイミタガイ』で 泣きすぎたためか
設定のせいか、イマイチ感情移入できずに
終わったけれど、ラストは良いと思う。
そして、人の「本心」なんて永遠に分からないんだと思う。
もしかしたら、自分の本心も。
そのほかの出演は、三吉彩花、妻夫木聡。
ちょい役で田中泯、綾野剛、仲野太賀も出演。
監督は、『舟を編む』『ぼくたちの家族』の石井裕也。
三吉彩花が、魅力的な人だなと思っていたら、
2013年に観た『旅立ちの島唄~十五の春~』の
主役の女の子が大人になっていたんだな。
『旅立ちの島唄~』の感想にも
「映画初主演作らしいが、凛としていて、
美しい女優さん」と書いていたわ。
ところで、先月からTジョイ・シネマは、
シニア料金が、60歳から65歳に変更してたわ。
せっかくシニア料金で観られるようになっていたのに、
また一般料金で観ないといけなくなった。
今や一般料金は、2000円ですわ。
割引は、劇場ごとに違うみたいで、
TOHOシネマは、シニア割引を
60歳以上ということで頑張ってくれている。
★★★★☆
2024年製作/122分/G/日本
劇場公開日:2024年11月8日