LAGUNA MOON MELLOW FLAVOR  LIVE GUITAR  LINK LYRICS



2021年 映画・演劇・舞台 etc

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2021.3.19

ヒメアノ~ル



なぜだか分からないけど、突然、
映画『ヒメアノ~ル』を観たくなったので、
Amazon Prime Video で鑑賞した。

『ヒメアノ~ル』は、2016年の映画。
主演は、濱田岳とV6の森田剛。
そのほかの出演は、ムロツヨシ、
佐津川愛美、ちょい役で大竹まことなど。
5年前に何の予備知識もなく観たときに
前半、コメディだと思って観ていたら、
途中から、サイコ&バイオレンスな映画だったと
その日のエントリーに書いている。

内容はかなり忘れていたのだが、
その印象だけ覚えていて、
観始めると、最初から結構、怖い映画に
観えたのは興味深い。
実は怖いと知って観始めると
同じシーンでも違って観えるのだな。
コンテクストは、決定的だ。

ラストシーンは全く覚えていなかったので、
新しく観ることができたよ。
それにしても、森田剛のサイコぶりは
怖くて、そして悲しい。

ひとつだけ、突っ込むとしたら、
ラスト近くのシーン、
警察官、しっかりしろよ。


★★★★★





2021.5.5

タクシードライバー
Taxi Driver




大体、休みの日の前日は、
朝まで眠くならなくて、あるいは、
眠いのに寝たくなくて、明け方まで
起きていることが多い。
どうかすると、朝の8時、9時まで起きている
ことも珍しくない。
ゴールデン・ウィークのように連休になると
生活のリズムは、完全にめちゃくちゃになる。
日中出かける予定があれば、
なんとかそれでリズムも保たれるが、
今回のように全く予定がないと、
平気で12時間や15時間寝続けてしまい
昼夜が逆転してしまう。

昨夜も明け方になって、何か映画を観たくなった。
Amazon Prime で何を観ようかと探っていて
『タクシードライバー』が目に入った。

1976年の マーティン・スコセッシ監督と
ロバート・デ・ニーロ主演による作品だ。
ロバートが好きになってから、
もうずい分前(たぶん20年以上前)に
ビデオで観たけど、何かよく分からなったという
覚えだけで、内容は全く覚えていない。

トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)は、
ベトナム戦争帰りの元海兵隊員。
不眠症に悩んみながら、
夜間のタクシー・ドライバーの職に着く。

そのトラヴィスが、どんどん変わっていく。
というか何かに目覚めていく。
自分ではない何かになろうとし、
ここではないどこかに行こうとしているかのように。

拳銃を手に入れ、大統領候補を撃とうとしたり、
まだ若い売春婦を救おうとしたり。

この心境の変化が全く分からない。
1970年代前半、おそらくベトナム帰りというだけで
アメリカ社会では、ひとつの象徴だったんだろう。
しかし、背景がイマイチ分かっていない、
平和に育った日本人の私には、トラヴィスのことを
分かりたくてもどうも理解に苦しむのだった。

もしかしたら、ベトナム戦争の狂気の延長を
描いているのかも知れないな。

ジョディ・フォスターが本作でアカデミー賞助演女優賞に
ノミネートされているが、改めて見直してみると、
意外に出演シーンは少ない。
助演ならトラヴィスが片想いするベッツィー
(シビル・シェパード)の方が出演シーンは多い。
しかし、13歳が演じる少女娼婦は
インパクトがあったのだろうな。

観終えてから、調べて分かったが、
売春宿のポン引き役が、ハーヴェイ・カイテルだった。
そう言われれば、確かにそうだのだが、
私には、ハーヴェイ・カイテルは歳をとってからの
イメージしかなく、若い頃の彼を
あまり認識していなかったのだ。

45年も前の映画。
トラヴィスが、生きているとすると71歳。
どんなジジイになってるんやろか。


★★★☆☆





2021.5.8

悪のクロニクル



2015年の韓国映画『悪のクロニクル』を
Amazon Prime で鑑賞した。
この映画は、日本では劇場公開はされておらず
DVD でリリースされたようだ。

昇進を間近に控えた刑事が、命を狙われ、
誤って相手を殺してしまう。
間違いなく正当防衛なのだが、
昇進に響くと考えた彼は、証拠を隠滅する。
死体は殺害現場とは違う場所で発見される。
誰かが、運んだわけだ。

どこまで課長が、自分が真犯人であることを
隠し続けられるか、という風にストーリーは
展開していくのだが、その背景には、
警察の腐敗と悲しい過去が隠されている。

多少、リアリティに欠ける設定もあるが、
その分、展開が面白いので許容範囲だ。
思わぬ展開で、予想もつかない結末は、
映画としては、楽しめるのだが、
救いがなく、とても悲しい。


★★★★☆





2021.5.9

メランコリック



2019年夏に劇場公開された映画『メランコリック』。
製作は、ワングースという映画製作チームで、
製作費は、300万円という低予算映画だ。

有名な俳優は、出演しておらず、
主役は、ワングースのメンバーで、本作の
プロデューサーでもある皆川暢二(みながわようじ)。
監督・脚本は、やはりワングースのメンバーで、
本作が長編デビュー作となる田中征爾(たなかせいじ)。
長編第一作目にして、いきなり東京国際映画祭で
監督賞を受賞した。

東大を卒業という経歴を持つ和彦は、
就職もせずにアルバイトを転々としていたが、
ある日、近所の銭湯で高校の同級生の百合に
会ったことから、その銭湯で働くことになる。
その銭湯は、営業終了後、殺人の場所として
使われているのを知る。
そして・・・。

サスペンス・コメディーと紹介されていたが、
あまり笑う要素はない。
かといって、サイコなわけでも
過剰に暴力的なわけでもない。

ツッコミ所はあるのだけど、
ちょっと現実離れしている感じもあって、
あまり気にならずに観ることができる。
謎も多く、言い換えると
ある種のファンタジーのようでもある。

結末が読めないのも良い。
出演者も良く、映画が終わって、
登場人物のその後が気にかかるということは、
映画として成功だろう。


★★★★☆
Amazon Prime で鑑賞





2021.5.16

ファーザー
The Father




5月だというのに、今年初めての映画を観てきた。
昨年12月4日の『ミセス・ノイズィ』以来。
こんなに映画を観に行かなかったのは、
この20年以上なかったのではないかと思う。
もちろんコロナの影響だ。

さて、今日観てきた作品は『ファーザー』。
主役を演じるのは、83歳の名優 アンソニー・ホプキンス。
(撮影時は、たぶん82歳)
本年度アカデミー賞 主演男優賞 も納得の演技。
(脚色賞も受賞。)

以下、ネタバレ含みます。

一人ぐらしの年老いたアンソニー(アンソニー・
ホプキンス)は、どんどん記憶が曖昧になっていく。
認知症の始まりだ。
認知症やアルツハイマー病を描いた映画は
『アリスのままで』や『明日の記憶』など
今ままでにも観たことがあるが、
本作がユニークなのは、アンソニー自身の視点で
描かれている点だ。
そのため、全くの予備知識なしで観ると、前半で
意味が分からなくなり、混乱が生じること間違いなし。
主人公アンソニーが正に混乱の最中にいるのだ。
しかし、前半ではご本人は混乱の中に
いることに気付いていない。
現実と幻想の境目を感じさせず、
アンソニーの混沌と混乱を描く脚本と脚色。
脚色賞もにも納得だ。

圧巻は、アンソニーがその混乱に気付くシーン。
ここは凄い。
泣いてしまうよ。
アンソニー・ホプキンスの演技がやばい。


観終えて思ったのは、こんなこと。

人は、何も分からずに 生まれてきた。
そして、死ぬときも 何も分からなくなって
死んでいくんだ。
そして、生まれてきた時は、ひとりきり。
死ぬときも ひとりぼっち。
生まれた時と死ぬ時の間を人生と呼び、
大人になると、人生を分かっているような
気になるけど、生まれた時のことも
死ぬ時のことも分かってはいない。
人生の中の一部分を知っているだけで、
人生を分かったような気になっているだけなんだ。

生まれた時も死ぬ時もひとり。
世界中の誰一人、例外なく。
そして、若くして死ぬ場合は、例外だけど、
年老いて死ぬなら、自分が生まれた時に
そばにいて抱きしめてくれた母親は、当然もういない。
生まれた時以上に死ぬ時は孤独なんだ。

そんなことを考えさせられた映画で、
ひと言でいうと、ただただ悲しい。
でも、悲観的な意味じゃない。
人生は、素晴らしい。
そして、悲しい、と思った。
その「悲しい」は、人生の充足の一部だ。

先月90歳の父が死に、85歳の母がおかしなことを
言い出し、友人の両親の認知症の話しを聞き、
これから母や妻の両親や、
おじやおばの死を迎えていく時期。
そして、来年還暦の私は、自分の老いが始まる時。

この映画は、それらの現実を
静かに受け入れるための準備だと思った。
あんな風に自分の中で、物事のつじつまが
合わなくなり始めたら、認知症の始まりなのかもしれない。


劇中、繰り返し流れるオペラ風の曲があった。
その曲が、とても効果的に使われていた。
遠い昔から知っているメロディーだが、
どうしても曲名が思い出せなかった。
帰ってから調べてみると、
『耳に残るは君の歌声』というタイトルだと分かったが、
そんな曲名 聞いたことがない。
さらに調べていくと、フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼーが
作曲した『真珠採り』というオペラの中の曲だと分かった。
それで、ようやく思い出した。
この曲は、私が中学の吹奏楽部時代、
『真珠採りのタンゴ』として繰り返し演奏した曲だったのだ。
もしかしたら、40数年ぶりにこのメロディーを
聞いたかもしれない。
マイナーのメロディーでありながらもタンゴにアレンジされた
曲調は、どことなく軽快に仕上がっていた印象だが、
劇中で流れたオペラの曲調は、ドラマティックで重く悲しい。
歌詞の意味は、分からんのだけど。


★★★★★


緊急事態宣言に伴い、TOHOシネマなど
多くの映画館が休業する中、
東急 Bunkamura のル・シネマ(渋谷)は、
5月14日に営業を再開した。
といっても客席を一席飛ばしにした、
50%に間引いた状況での再開。
鑑賞中は、マスク着用。
一度触ったチラシは、元に戻さず、要らないなら
ゴミ箱に入れてくださいとの感染対策。

50%営業ということもあるだろうし、
他の映画館が営業していないということも
あるだろうし、いい加減映画ぐらい観せろよ、
というコロナ・ストレスもあるだろう。
チケットは、ソールドアウト(満席)だけど、
半分だから、混んでいる感じはなし。





2021.5.27

ファーザー
The Father
その2


先日観てきた映画『ファーザー』について
もう少し書いておきたい。

アンソニー・ホプキンス演じる主人公の
名前がアンソニーだった。
役者の名前と演じる主人公の名前が
同一というのは、珍しくないけれども、
アンソニーほどのビッグネームになると
ちょっと不思議な感じがしていた。

この作品の原作は、本作で映画監督デビューを
果たしたフロリアン・ゼレールが書いた舞台劇。
その舞台劇を映画化したいと考えたゼレールは、
ホプキンスに主演を務めてもらうこと夢見て、
脚本を書いたらしい。
いわゆる「当て書き」というやつだ。

映画を撮ったこともない人間の作品に
ホプキンスが出演してくれるなどというのは、
実際夢のような話だったらしい。
そのことについて、ゼレールはこう語っている。

「そのことを話すと、友人に笑われたよ。
フランス人で、映画を監督した経験が
ゼロの男が、アンソニー・ホプキンスに
出てもらいたいというんだからね。
だが、『絶対無理』と言われることは、
実はそうじゃないことが多い。
人が自ら扉を閉ざしてしまうだけのこと。
自分で無理だと決めつけてしまうんだよ。
僕は扉を閉めないと決め、アンソニーの
エージェントに脚本を送ったのさ」

結果、ホプキンスに認められ、映画が実現したわけだ。
そういう舞台裏も知ると、映画の味わいも
また変わってくる。

参考記事:
「ファーザー」監督が語る、アンソニー・ホプキンスの人柄と“衝撃のラスト”



ところで、本作を観た日のエントリー
認知症で混乱の最中にいるアンソニーが、
その「混乱に気付く」シーンが圧巻だと書いた。

読みなおしてみて思った。
あれは、アンソニーが混乱に気付いたわけではない。
むしろ、混乱の中に完全に入り込んだというか、
(変な言い方だが)認知症が完成した瞬間
なのではないかと、思ったのだった。

もう一度観たくなってきた。





2021.6.6

Amazing Grace
アメイジング・グレイス
アレサ・フランクリン




1972年1月13日、14日、ロサンゼルスの
ニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で
行われたアレサ・フランクリンのゴスペル・ライヴは、
『Amazing Grace』というタイトルで、レコードになった。
そのライヴが、ドキュメンタリー映画として公開されている。

製作されたのは、2018年なのだが、
なぜ46年も経ってこの映画が製作されたのか。
実は、アルバムの発売後、映画も公開の予定だった
らしいのだが、カットの始めと終わりのカチンコが
なかったために音と映像をシンクロさせることができず
製作が頓挫していたというのだ。

そして46年後、、テクノロジーの進歩のおかげで、
映画の完成に至ったというわけだ。

映画は、2日間のライヴからの抜粋で、
少しだけリハーサルシーンも含まれている。
アレサが 30歳の時の映像で、メンバーは、
コーネル・デュプリー (g)、チャック・レイニー (b)、
バーナード・パーディ (ds) 、ケン・ラッパー (org)、
パンチョ・モラレス (perc) 、それに、
ジェームス・クリーブランド (pf、vo)、
サザン・カリフォルニア・コミュニティ・クワイア (聖歌隊) .

特に コーネル・デュプリー 、チャック・レイニー 、
バーナード・パーディ は、R&Bファンにはたまらない。

これは、R&Bのライヴではなく、あくまでも
教会におけるゴスペルのライヴ。
宗教行事と言ってもよいかも知れない。
アレサの歌は素晴らしいし、
観客が声を出し、踊り出す高揚感は圧巻だが、
キリスト教を信じていない私には、
このライヴの本当の凄さは分からないんだろうと思った。

観客は、9割以上が黒人だが、
2日目のシーンには、ミック・ジャガーと
チャーリー・ワッツの姿もあった。

カメラワークはお世辞にも上手いとは言えないけど、
半世紀近く前のライヴが、こうやって蘇ることは、
テクノロジーの恩恵だと思う。

エンドロールを見ていると、プロデューサーの中に
スパイク・リーの名前もあった。


1985年にアメリカを訪れた際、
教会へゴスペルを聴きに行った。
まさにこういう黒人のゴスペルを期待していたのだけど、
私が行った教会は白人ばかりで、
ガッカリした覚えがある。
まあ、失礼な話だ。
当時は、黒人と白人と行く教会が違うとか
そんなことも知らなかったし、調べようもなかったんだな。
英語もろくに話せないし。

この映画を観て感じたのは、ゴスペルは、
エンターテイメントではないということです。

残念ながら、アレサは2018年8月16日にこの世を去った。
(享年76歳)
来日公演は、実現しなかった。


公式サイト


★★★★☆





2021.6.20

オー!ゴッド
Oh, God!




ちょっと前に『オー!ゴッド』という
1977年のアメリカ映画のことをどこかで読んだ。
何の記事だったか覚えていないのだけど、
とても観たくなったので、DVD をレンタルした。

カントリー・シンガーのジョン・デンバーが
スーパーマーケットの売り場主任の役で
神に会うというストーリー。

彼は熱心な信仰を持っているわけでもないのに
神に選ばれてしまう。
人間たちに「その」メッセージを伝える役を
与えられるのだが、「神に会った」と言っても
狂人扱いされ、挙句の果てに裁判にまで
なってしまう。

神様役のジョージ・バーンズがとっても良い。
この人は、コメディアンだったようで、
調べてみると1896年生まれとあるから、
本作出演時には、80~81歳だったわけだ。
なんとも朴訥な感じで、誰もが思いそうな
神々しい神のイメージからはかけ離れている。

話はそれるが、ヴィクター・ウッテンの曲に
『I Saw God』という曲がある。
「ある日、神に会った。
彼女は、キミみたいだったし、キミは僕みたいだ」
という詞で始まる。
そこだけ読むとラヴ・ソングのようだがそうではない。
神は「彼女」だったり「彼」だったりする。

何を言っているのか、興味があって、
自分なりに訳して、当時の英語の先生にも
意見を聞いたりした。
結局、あんまりよく分からないのだけど、
この詞は、たぶんとっても深い意味があるような
気がしている。

閑話休題。
本作で神役のジョージ・バーンズは、
1996年に100歳で没。
神のイメージから離れた朴訥な感じと書いたが、
神なので実は何にでもなれる。
そのじいさんの姿は、仮の姿でしかないという設定だ。

コメディ映画ということになっているが、
私には笑えなくて、真面目で、深い、
普遍的なテーマの作品に思えた。
ネタバレになるから書かないけど、
ラストシーンには、ちょっと感動してしまった。

エンドロールで流れる音楽が、
70年代の作品らしくてよい。


★★★★▲


映画とは関係ないけど。
Victor Wooten- I Saw God




すばらしき映画音楽たち
SCORE: A FILM MUSIC DOCUMENTARY




2017年に劇場で観てとても感動し、
もう一度観たいな、と思っていたドキュメンタリー
映画『すばらしき映画音楽たち』をDVDで観た。

この映画は、何十人もの映画音楽の作曲家を
インタビューし作られた作品。
映画の成功に大きな鍵を握っている、
映画音楽の魅力や歴史について語られる、
とてもマニアックな作品だが、
映画音楽好きには たまらない作品なのだ。

『スター・ウォーズ』の大ヒットにあの音楽は
欠かせなかっただろう。
改めて、ジョン・ウィリアムスの偉大さに思い知るね。
『ジョーズ』、『未知との遭遇』、『E.T.』などなど
映画界への貢献は計り知れない。
なんとアカデミー賞を5回受賞している。
(作曲賞 4回・編曲賞 1回)
ノミネートは、51回!

その他にも『ロッキー』『007』『ショーシャンクの空に』
『グラディエーター』『パイレーツ・オブ・カリビアン』
『ダークナイト』『タイタニック』『シザーハンズ』
『ソーシャル・ネットワーク』『ロード・オブ・ザ・リング』
『ワイルド・スピード SKY MISSION』
『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』
『アメリカン・ビューティー』『インセプション』などの
音楽が映画のワンシーンと共に紹介され、
その裏話などが明かされる。

この機会に『インセプション』『ダークナイト』などの
音楽を手掛けたハンス・ジマーの名前も覚えよう。
現代の映画音楽界の重要人物だ。

『インセプション』は、ラストシーンが少し流される。
ディカプリオの演技も素晴らしいけど、
解説を聴きながら観ると、
音楽の絶大な効果を痛感する。
違う雰囲気の音楽を当てはめると、
全く違う映画になってしまうくらいに、
音楽の影響は大きい。

ハンス・ジマーは、最初から映画界の人ではなく、
キーボード奏者として仕事をしていたようだ。
1979年にヒットしたバグルスの『ラジオ・スターの悲劇
(Video Killed the Radio Star)』の
Music Video では、ハンス・ジマーがキーボードを
演奏する姿が確認できる。

本作の中で、誰かが「自分が鳥肌が立たなきゃ
人を感動させられない」と言っていたけど、
先の『インセプション』はラストだけで鳥肌が立った。
映画のストーリーは覚えていなのに。

Inception - Ending
(この動画は3分42秒あるけど 本作で流れるのは1分ほど。)

「楽器や楽譜には触れるけど、音楽には触れない。
ただの空気の振動だから」という言葉もあったが、
本当に音楽は不思議だ。

2017年に観たときに「ホーンセクション」の音を
「ホルン」と訳していて気になったと書いた。
その日のエントリー
それは、『トランスフォーマー』シリーズの
スティーヴ・ジャブロンスキーという人が、
コンソールを前に曲の説明をするシーンで、
よく聴くと「フレンチホルン」と言っている。
私は、ホルン以外の金管楽器も入っているものと
思い「ホーン」と訳すべきだろうと思っていたのだが、
どうやら私の間違いでした。


★★★★★





2021.7.27

マクドナルドと宮崎美子と村上ショージ

テレビでマクドナルドの新CMを観た。
宮崎美子さんが、少女を演じている。
凄いなぁ、最近の映像技術は。

関係ないけど、オードリー・ヘップバーンと
明石家さんまの共演しているCMを観て、
85歳の母は、「この人(オードリー)死んでるのに
どうやって撮影したんやろ?」と首を傾げておりました。

それはさておき、マクドナルドの新CMの
メイキングの動画が YouTube で観られる。
たった数十秒のCMを作るのにもの凄く大勢の人が
関わり、準備と手間がかかっているのが分かる。
ふだんCM撮影現場など観たことのない素人の
私にはとても興味深い。

ビッグマックが大きすぎて、食べるのが恥ずかしく、
好きな人にフラれてしまうというストーリーは、
今時の若者には、理解できないかもな。

メイキングのあとのインタビューで、
宮崎さんも村上ショージ(呼び捨てごめん。
さん付けする方が、親近感が遠のくので)も
マクドナルドの好きなメニューが
「フィレオフィッシュ」というのは、なんか微妙やな。
「ハンバーガーちゃうんかい」ってツッコミたくなる。

インタビューの中で本気とも冗談ともつかぬ感じで、
村上ショージが「これからは役者メインで」というような
ことを言っているが、彼は2012年の映画
『カラスの親指』で阿部寛(主演)と共演していた。
数は少ないけど、ほかにも映画やテレビドラマに
出演しているので、これを機会に本当に
役者が中心になるかもしれないな。

村上ショージといえば、40年ぐらい前、
私が大阪でPA(音響)のアルバイトを
していた時、何かのイベントのゲストが彼だった。
お客さんは、おじいちゃんおばあちゃんばかりで、
彼のギャグは、スベリまくっていたが、
舞台袖で私は爆笑していた覚えがある。
「何を言う~、早見優~」なんてギャグは、
おじいちゃんおばあちゃんには、なんのことか
さっぱりわややからな。


宮崎美子、50年前の”少女”を熱演 
マクドナルド銀座1号店がCMで再現 
新テレビCM 「僕がここにいる理由」篇





2021.8.7

キネマの神様




8月だというのに、今年3本目の映画。
今年90歳になる山田洋二監督の『キネマの神様』。

80歳を過ぎてからの山田監督作品は、
私的には微妙なものが多かったので、
ちょっと心配しつつ観に行った。
昨年3月、志村けん主演で撮影が始まった本作。
松竹映画100周年の記念すべき作品なのに
志村けんの逝去とコロナ禍で、撮影が頓挫した。

監督は、脚本を見直し、志村の遺志を継ぐ
ジュリー(沢田研二)が主演を務めた。
オフィシャルサイトには、志村がダブル主演を
務める予定だったとあるのだが、若い頃の役も
志村が演じる予定だったという意味だろうか。
本作では、若い頃の主人公を菅田将暉が演じている。

志村が主演していたら、どんな作品になったのか。
今となっては、想像もつかないが、
私は、ジュリーが主演で良かったと思った。
イメージだけど、志村けんが出ていたら、
志村けんにしか見えなかったんやないかと思う。

ストーリーは、山田洋二作品らしく、
ベタといえばベタなのだが、十分に泣かせてくれるし、
所々笑わせてくれるし、良い映画だったと思う。
シネマ愛に溢れるストーリーで、夫婦愛、親子愛、
友情についても描かれており、
悪い人が一人も出てこないもの良い。

ヒロインの若い頃を演じる永野芽郁がかわいい!
往年の銀幕スターを演じる北川景子も美しい。
その他の出演は、宮本信子、小林稔侍、
野田洋次郎、寺島しのぶ、リリー・フランキー等。

残念だった点。
若い頃の主人公が、仕事をやめる(夢を諦める)
理由が、あまりにもお粗末で、あんなに努力して、
夢中だった人が、そんな簡単にはやめへんやろ、と
腑に落ちなかった点が、残念。
シナリオの甘さに感じた。
あと、相変わらず数か所、くさい(古臭い)なと
思う演出があったのは、予想がついたけど。
でも総じて良かったと思う


★★★★▲





2021.8.9

83歳のやさしいスパイ
THE MOLE AGENT




チリのマイテ・アルベルディという女性監督が
撮った映画『83歳のやさしいスパイ』。
彼女は、まだ38歳だ。

80歳から90歳のスパイの募集に応募し、
見事に職を得た83歳のセルヒオ。
ミッションは、「老人ホームに入所している親が
虐待されているのではないか」と疑う依頼主のため、
その証拠を掴むというもの。

なんか面白そうやなとこの映画を観ようと思ったんやけど、
「アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞ノミネート」
というのが気になった。
予告編を観ると、いわゆるドキュメンタリー作品とは
思えなかったからだ。

鑑賞後調べてみると、老人ホームの許可を得て、
スパイとは明かさずに3ヵ月間撮影されたのだという。
完全に演技だと思って観始めたので、
前半で、カメラクルーが映り込み、一瞬「?」となった。
ドキュメンタリーだと聞くと、まるで脚本があったかの
ような進行に驚きしかない。
撮り始めたときは、どんなオチになるか
分からなかったということだろ?
それとも監督の想定内だったのか。
ネタバレになるから、書かないけど、
セルヒオの最後のレポート、ええ終わり方です。

老人ホームでは、入所者がほとんど女性で、
優しく紳士なセルヒオは たちまち人気者になっていく。
その老女たちの中には、義母や亡くなった親戚の
おばちゃんに似ている人もいて、親近感が湧く。
亡くなった入所者の棺(?)が乗った車を
皆が拍手して見送るシーンは、その文化の違いに
びっくりしたけど。(舞台は、チリのようです。)

途中、入所者のある詩が読まれるのだけど、
これが素晴らしく、今の私にはタイムリーに
考えさせられる詩だった。

子供たちが、面会に来てくれないからと、
寂しい想いをしている老人たち。
あんな風に施設に仲間がいても
「(子供が)面会に来てくれない」ので
寂しいというのは、子供がいるからこその
寂しさだろう。
子供のいない私たち夫婦には、
将来、その寂しさはないだろう。
その時、寂しさはないのだろうか。
子供がいないことを寂しく思うのだろうか。


★★★★▲


そてにしても、一昨日の『キネマの神様』といい
本作といい、年老いたことがテーマになる作品が
増えたよね。





2021.8.15

少年の君
BETTER DAYS




中国・香港合作映画『少年の君』。
大変見ごたえのある作品だった。
結構、泣けます。

韓国や中国では、日本以上に
大学進学が人生を決定する大きな
要素だというのは、報道で観たことがある。
本作は、中国の進学校の高校生を
主人公にした物語で、そこで行われる
陰湿なイジメ、そして、貧困、格差社会、
など現代に複雑に絡み合う問題を
浮き出しにしている。

主人公の2人(チョウ・ドンユイ と
イー・ヤンチェンシー)も素晴らしいし、
物語自体も社会的なテーマを持ちつつ、
しっかりサスペンス的要素もあり、
エンターテイメントとしてもクオリティが高い。
135分を全く長く感じさせない。

ただ、最後に中国政府がイジメ問題に
関して、こんだけ頑張ってまっせ、みたいな
文章が長々と出るのは、ちょっと白けた。

冒頭に「本作が少しでもイジメがなくなることに
役に立てば・・・」というようなテロップが出たが、
それだけで十分やないかと思う。

この辺は、もしかしたら、中国という国の
どうしようもないことなのかな、と
勝手な推測をする。

実際にあった事件をもとにしているような
テロップが流れたが、どうなんだろう。
オフィシャルサイトには、そのことへの言及はない。

本作は、中国と香港の関係を描いているという
見方もあるようだが、そうかも知れない。

アカデミー賞(国際長編映画賞)に
ノミネートされたり、数々の賞を獲っているのも
納得の作品。

ただ、私的にはラストシーンに少し疑問が残った。
そこは、手放しにハッピーエンドにして欲しかった。
でも、世の中、そんなに甘くないのかもね。


★★★★★





2021.8.28

弁 護 人



韓国映画『弁護人』(2013年)を観た。
何となく気になったので、何の予備知識もなく
鑑賞したのだが、とても良かった。

観終えてから知ったが、1981年の韓国で
実際に起きた冤罪事件をモデルにしており、
ソン・ガンホ演じる弁護士は、
故・ノ・ムヒョン大統領をモデルにしている。
韓国国内では1,100万人以上が観たヒット作だ。

国家権力の汚さ・恐ろしさと、
人間の良心の力強さ、優しさ、誠実さを描いた
作品で、実話だと思うと恐ろしいのと同時に、
腐った権力の酷さに驚くと同時に
やりきれなさを感じた。

やはり実話をもとにした、
韓国映画『マルティニークからの祈り』でも、
韓国の役人の酷さが描かれていたが、その一方で、
そういう自国の恥部を描ける韓国映画に
パワーも感じる。
日本映画は、あまり自国の醜さを
描いていないような気がするからだ。
私が知らないだけで
そういう映画もあるのかも知れないけど。

主人公の弁護士の勇気に感服する。
こういう人だから、大統領にまでなれたんじゃないかな。
でも残念ながら、ノ・ムヒョン氏は、
大統領退任後、自死しているんだな。

映画は、とても素晴らしい内容で、
観る価値があります。
世界に影響を与えるのは、内面の想いではなく、
その行動のみだと訴えてきます。
その行動に周りの人たちが動かされていくのです。
ラストは、泣けます。

Amazon Prime で鑑賞。


★★★★★


韓国の情勢に全く明るくない私でも、
鑑賞後にこの記事を読むと大変興味深い。

『弁護人』で“韓国の至宝”ソン・ガンホが演じた元大統領の軌跡





2021.8.29

クイーン&スリム
QUEEN & SLIM




2019年のアメリカ映画『クイーン&スリム』。
日本では、劇場公開はされなかったが、
デジタル配信や DVD の発売はされている。

白人警官を誤って、射殺してしまった黒人男性と
その場に一緒にいた黒人女性弁護士の
逃亡劇。
エンタテイメントとしても楽しめるが、
アメリカの抱える大きな社会問題が
その背景にある。

始まりは、誤解だ。
車を運転中の主人公スリムが、助手席の
クイーンから携帯電話を取り返そうとした時、
車が少し蛇行運転をしてしまった。
後にいたパトカーの白人警官は、
ヤクか酒酔い運転だろうと決めつけ、車を止める。
白人警官は、相手が黒人だというだけで
乱暴な扱いをする。
弁護士のクイーンは、違法な取り締まりに抗議。
頭にきた警官は、彼女の足を拳銃で撃つ。
そしてスリムは警官と取っ組み合いの末、
拳銃を奪い、打ち殺してしまう。

ジョージ・フロイド氏に代表されるように
何人もの黒人が白人警官に殺されてきた
アメリカ社会。
黒人が警官に抵抗して、打ち殺したとなると、
もしかしたら、終身刑か死刑になるかもしれない。
なんとか逃亡しようと思うのも仕方がないのかもしれない。

本人たちは、そんなつもりではないのに
逃亡中にどんどん黒人の英雄と化していく姿も
社会の歪みの表れだろう。
とてもとても難しい問題だ。

ラストは、甘くない。


★★★★☆


Amazon Prime Videoで鑑賞。





2021.9.12

文 楽



妻に誘われ、40数年ぶりに文楽を鑑賞した。
高校の課外授業で観て以来だ。
あの時の演目は確か『曽根崎心中』(近松門左衛門作)。
大阪の国立文楽劇場が出来る前だったが、
会場がどこだったかは覚えていない。

さて、今日観てきたのは、
「国立劇場 開場55周年記念」として
9月4日から 21日まで国立劇場の小劇場で
開催されている公演。
一日三部公演で、その一部(10:45開演)を
徹底的な感染対策の中、観てきた。
(ロビーで話しているだけで
「会話はお控えください」と注意された。)

演目は『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』と
『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』

『寿式三番叟』は、五穀豊穣の祈りの舞い。
この度は、コロナの災厄をも払う祈念の上演でした。

『双蝶々曲輪日記』は恩人の息子を助けるために
悪人を殺してしまった長五郎とその実母、
そして、実母の継子で長五郎を捕らえる使命を
命じられた与兵衛、その妻との情けと義理が
絡み合う人情話。

イヤホンガイドを借りて鑑賞したので、
とても分かりやすく、観られた。
太夫(語り)、三味線、人形遣いの
三者からなる文楽。
3者とも素晴らしかったが、
私が特に注目したのは、三味線の鶴澤清介。
三味線は、いわば BGM の役目なのだが、
たった一人で、オーケストラに負けないほどの
表現力なのだ。
鶴澤清介氏は、昨年、紫綬褒章を
授与されたほどの人。
三味線にこんなに表現力があるなんて、
知らなかった。
また、その音量もスゴイ。

300年以上の歴史のある文楽は、
今や重要無形文化財であり、
ユネスコの無形文化遺産となっている。
大阪発祥というのが、ちょっと嬉しい。





2021.9.17

ホイットニー
オールウェイズ・ラヴ・ユー
WHITNEY




2018年公開のホイットニー・ヒューストンの
ドキュメンタリー映画『ホイットニー~
オールウェイズ・ラヴ・ユー(原題:
WHITNEY)』DVDで鑑賞した。

あれだけの才能と美貌に恵まれたホイットニー。
光が大きかっただけにその闇も大きかった。
どんなに才能があっても、名声を得ても、
お金が入ってきても、それでは人は幸福には
なれないんだという象徴のような彼女の人生。
ある意味、バランスなのかもしれないけど、
そうは思いたくない。

彼女に関する関係者の暴露話に、
途中で観るのがしんどくなる。
「そんなこと言わんでええやん」
「なんでそんなことまで言うの?」と。
これもアーティストのサガなんやろか。
晩年(48歳没でもそういうのかな)の
アシスタントだったおばちゃんは、
涙を流しながら、まともな話をしていたので
好感が持てたけど。

純粋にシンガー・ホイットニーの
ドキュメントを観られると思っていたら、
シンガーというより、人間ホイットニーの
人生の影の部分をいっぱい観せられた感じ。
まあ、それもシンガー・ホイットニーの一部と
言えばそうなのかもしれないけど。

エリック・クラプトンのドキュメンタリー映画
『LIFE IN 12 BARS』も結構ハードやったけど、
エリックは立ち直ったし、生きているし、
今は家族にも恵まれ幸せだ。
でも、ホイットニーは、子供の頃からキツイ人生で、
母親はやはりシンガーで淋しい想いをし、
音楽的に成功しても、結婚も上手くいかなかった。
とすると、ドラッグに手を出すのは、
アーティストにありがちな話。

生活が乱れてからのライヴ映像は、
お客さんが怒って帰ってしもたというほどの
酷い出来だが、映画『ボディガード』で
大ブレイクしたあとの南アフリカでの
ライヴ映像『I Will Always Love You』は、
素晴らしすぎる。

マイケル・ジャクソンとは仲良しで、
分かり合えていたというのも
なんとなく分かるような気がする。

来年で没後10年。
新たな伝記映画「I Wanna Dance With
Somebody(原題)」が、製作されるようで、
ナオミ・アッキーという女優がホイットニーを
演じるらしい。
観に行かな。


[ 関連エントリー ]
2012.2.12 ホイットニー・ヒューストン死去





2021.9.26

クレイマー、クレイマー
Kramer vs. Kramer




1979年のアメリカ映画『クレイマー、クレイマー』を
DVD で鑑賞した。

公開時には、高校生だったので、劇場では
観なかっただろうけど、その後、大人になって
ビデオで観ていてもおかしくない作品だが、
なぜか見逃していたんだな。

タイトルから勝手に頻繁に苦情を言う
「クレーマー」の映画かと思っていたが、
「クレーマー」ではなく「クレイマー」ね。
「クレイマー」は苗字で、原題は、「Kramer vs. Kramer」。
つまり「クレイマーさん(夫) 対 クレイマーさん(妻)」の
物語だった。

(ネタバレ注意)
5歳の息子を置いて出て行き、離婚した妻が、
1年半以上経ってから、「子供が欲しい」と裁判を
起こすという物語。
仕事が忙しく家族にあまりかまっていないというほか
夫に大きな落ち度があったわけではなく、
妻が出ていくまでの背景が弱いせいもあって、
妻の身勝手さが気になる。
裁判では、妻が勝って息子は妻の手に渡ることに
なるのだが、最初の頃こそ難しかった父と子は、
その頃は、すっかりチームになっており、
もはや息子は母親と暮らせることを喜んでいない。
そして、息子を迎えに来た妻は、
やっぱり、息子を引き取れない、と言う。
なんやねん、この人騒がせな女は。

裁判では、父子の暮らしの実態より、
「7歳の子供には母親が必要」というステレオタイプな
考えが働いており、こういう裁判の判決が
必ずしも子供のためかどうかは疑問、という
問題提起も感じられる。

会社に男性の育児に対しての配慮や理解がないのは、
40年前だからでしょうか。
今でも出世のためなら、当然なのかな。

この妻には感情移入できないけど、
ラストシーンは、ええ終わり方で好きです。
ダスティン・ホフマン演じるこの旦那、
ええ人やと思うけどなぁ。


アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞、そして、
主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、
助演女優賞(メリル・ストリープ)を受賞し、
子役のジャスティン・ヘンリーは、8歳で助演男優賞に
ノミネートされ史上最年少記録を樹立した。


★★★★☆


全然映画の内容と関係ないけど、
最初にフレンチトーストを作るシーンでの衛生観念や、
父親が靴のまま子供のベッドに足を乗せるシーンを見ると、
こういう文化がアメリカのコロナ拡大と無関係とは、
思えないのだが、考え過ぎだろうかね。





2021.10.2

殺人鬼から逃げる夜
MIDNIGHT




面白そうだなと思って期待した韓国映画
『殺人鬼から逃げる夜』。
残念ながらハズレでした。
ここまでガッカリした韓国映画は珍しい。

耳の不自由な主人公の女性が、
サイコな殺人鬼に追われるという
ストーリーなのだが、何よりも登場人物が皆マヌケ。
警官も、海兵隊上がりの屈強な警備員も
マヌケで見ていられない。

なぜ、そこで警察に電話しない?
なぜ、警官は事情聴取の途中で席を離れる?
なぜ、そこで交番に駆け込まない?
なぜ、犯人に背中を向ける?
と、ツッコミ所だらけ。

挙句の果てに警官は銃で犯人の足を撃って
動きを止めたのに、すぐに確保せずに
起き上がって再び被害者を襲うのを待っている。
なんじゃそら。

ドキドキハラハラしたというより
イライラしたよ。


★★▲☆☆




MINAMATA ― ミナマタ ―




ジョニー・デップ主演の映画『ミナマタ』。
舞台は1970年代前半の熊本県水俣。
こちらも期待していたが、期待通りの作品でした。

アルコールにおぼれ落ち目になっていた
写真家ユージン・スミスに、日本人と米国人の
ハーフのアイリーンが、日本の企業が有毒な
排水を海に垂れ流し、病気で苦しんでいる人が
いることを写真に撮って、世界に伝えて欲しいと訴える。

水俣の現状を知ったユージンは、
水俣へ行き、その現状の写真を撮るのだが、
これが様々な抵抗に合うことになる。
しかし、ユージンの写真が LIFE 誌に掲載された
(=世界に知らしめた)ことで事態は動く。

この映画について誰かが書いていた。
これは、日本人が作るべき映画だったが、
日本人には作れなかっただろうと。
だから、日本人は外国のその国の人が
作れない映画を作らなきゃいけないと。
なるほど、日本人は自国の恥部(?)を
映画にするのは、アメリカ人に比べると、
あまり得意ではないように思う。

さて、本作のジョニー・デップは、
まるでユージン・スミスが乗り移っているかの
ようで、ジョニー・デップは見えなかったよ。

ユージン・スミスは、太平洋戦争中に、
サイパン、沖縄、硫黄島などへ
カメラマンとして派遣されていたのだから、
命がけで写真を撮り続けてきた人だ。
沖縄では負傷し、映画の中でも
戦場のトラウマが描かれているが、
水俣でも危険な目に遭うことが描かれており、
その時受けた暴行の後遺症で、その後、
写真を撮ることができなくなったという。

エンドロールでは、世界中の多くの
公害問題が映し出される。
おそらくその多くは(いや全てだろう)、
いまだに苦しんでいる人たちがいる。
私の年代ならば、子供の頃、ニュースになっていた
水俣病のことを詳しくはないにしろ、少しは
知っているが、もしかしたら、今の若い人たちは、
その名前さえ知らないかも知れない。

そういう意味でも本作が、ユージンが水俣へ
移り住んだ年から、50年目の今になって、
公開されることは意義深いと思う。

音楽にもパワーがあるなぁと思ったら、坂本龍一。
日本人キャストは、真田広之、國村隼、美波、
加瀬亮、浅野忠信ら。
真田広之は特に真に迫っております。

写真集『MINAMATA』英語版が出版されたのは、
1975年だが、日本語版『写真集 水俣』が
出版されたのは、1980年、ユージンの死後だったという。


★★★★★


一昨年、東京都写真美術館で開催されていた
「イメージを読む 場所をめぐる4つの物語」という
写真展でユージン・スミスの写真を何点か観た。
写真集も一冊持っているのだが、
土門拳がありのままの写真を写し出すとしたら、
ユージンの写真には、ただリアルなだけではなく、
芸術作品のような美しさのようなもがあるように思う。


[ 参考(映画を観てから読むと理解が深まります)]
公害の悲惨さと人間の美しさと 写真家ユージン・スミスの妻、
アイリーンさんが水俣で共に感じた鼓動






2021.10.3

アイダよ、何処へ?
QUO VADIS, AIDA ?




ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下の1995年に、
セルビア人勢力に占拠されたスレブレニツァという
街で起きた、8,000人以上の住民処刑
(スレブレニツァの虐殺)を描いた映画。

1995年というと、日本では阪神淡路大震災、
地下鉄サリン事件があった年。
その年の12月に私が大阪から東京へ
移り住んだ年でもあり、印象の深い年だ。
26年前というと、昔のようだが、
つい最近のようにも思える。
そんなそう遠くない過去に、ヨーロッパで
こんな酷いことがあったのかと
改めて紛争の悲惨さを思い知らされる映画だった。

国際情勢に疎い私でも、ボスニア・ヘルツェゴビナと
いうと、紛争があったことぐらいは、知っている。
でも、紛争の背景は知らないし、
ボスニア・ヘルツェゴビナがどこにあるか、
地図で示せと言われると、明確には示せない、
そんな程度の知識だった。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は、1992年から
1995年まで続き、人口435万人のうち、
死者20万人、200万人以上の難民・避難民を
発生させたという。

映画は、1995年7月のスレブレニツァが舞台。
紛争中、スレブレニツァは国連によって安全地帯に
指定されていたにも関わらず、セルビア人勢力に
占拠される。
数万人の人々が、避難のため国連の施設へ
殺到するが、人が多すぎて、中には入れない。
セルビア人勢力は、武器を持って国連の施設にまでやってくる。
ニューヨークの国連本部へ支援を要請しても
スレブレニツァは見捨てられたような状態で支援はない。

国連軍で通訳の仕事をするアイダは、
2人の息子と夫を何とか助けようとするが、
国連のスタッフの家族だからと特別扱いを
することを許してもらえない。

そんなストーリーなのだが、
なんともやり切れない結末なのだ。
これは、史実に基づいた映画で、
ハッピーエンドではない。

監督は、ヤスミラ・ジュバニッチ。
1974年サラエボ生まれ。ボスニア紛争の最中に
青春時代を過ごしたという女性。

オフィシャルサイトに監督へのインタビューがあるが、
家族を失っても、復讐を望まず、民族が超えて
皆がともに生きていく平和な世界を望む、
スレブレニツァの母親たちに触発されたという。

主人公のアイダは、まさにスレブレニツァの母親の一人。
この映画は、実際に起きた悲惨な虐殺を
世界に知らしめるとともに、憎しみを超えた先に
行かなければ、世界から紛争はなくならないことを
訴えているように感じた。

ちょっと違和感があったのは、セルビア人達が
絵にかいたような悪人風だったこと。
(実際そうだったかもしれないけど。)
その悪人も、ただの人の親であることも
描かれているんやけどね。

それにしても、国連軍があんなに
あてにならなかったとは、知らなかった。
まさか今は違うと思いたい。


★★★★▲




空 白




本日は2本目もヘビイでした。

スーパーで万引きしようとし、逃げ出した女子中学生を
店長(松坂桃李)が追いかけたのだが、
その目の前で、女子中学生は車に轢かれて死んでしまう。

娘が万引きなどするはずがないと、
無実を信じて疑わない父親(古田新太)は、
店長が娘にいたずらしようとしたのではないか、
あるいは学校でイジメられていて、誰かに無理やり
万引きさせられたのではないかと疑う。

恐ろしいことに、店長も父親も、
あることないことを報道され、インターネットには、
デマが拡散され、マスコミと世間の餌食になっていく。
インタビューは、イメージを捜査するために
テレビ局が好きに切り取ってワイドショーで流す。
こういうの見ると、テレビで言ってること
鵜呑みにしたらあかんなぁって、思う。

店長も父親も事故で中学生を死なせてしまった
若いドライバーも皆が、まるで渦に
吸い込まれていくようにどんどん落ちていく。
救いがない。
この手の映画は、登場人物の再生にいたって、
希望を見せてくれて終わるものだけど、
どうやって終わるんやろ、と不安になるほど。

でも人間て、一回落ちるとこまで落ちたら、
次は上がるしかないねんな。
現実を受け入れるしかないとこまで行くしかないねんな。
それで、死んでしもたらあかんけど、
生きてたら、きっと光が見えるねんな。

って、思える、苦しいけど、救いのあるラストでした。
当事者にとっては、そんなに簡単ではないやろけど。

出演は、古田新太、松坂桃李、寺島しのぶ、
田畑智子、藤原季節、片岡礼子、趣里 など。
皆良いです。
特に父親役の古田新太。
凄いです。真に迫ってます。怪演です。
スーパー店員役の寺島しのぶ。
こんな困ったおばちゃん、いてそうす。
監督・脚本は『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔。

印象に残ったのは、娘をはねたドライバーの
母親(片岡礼子)のセリフ。
あれは中々言えんよなぁ。

「言葉」て大事やな。
その時、何を言うかで、次の世界が変わる。
相手の言葉は変えられないけど、
自分が何を言うかは、変えられる。
何気ない人の言葉に、救われたり、
希望を持てたり、または正気に戻ったり。

店長も最後にかけられたあの言葉で
生きていく勇気をもらえたんやないやろか。


★★★★★





2021.10.9

メインストリーム
MAINSTREAM




ユーチューバーで成功をすることを夢見る
若者の映画『メインストリーム』。
監督は、ジア・コッポラ
(フランシス・コッポラのお孫さん)。
主演は、マヤ・ホーク(ユマ・サーマンと
イーサン・ホークの娘)とアンドリュー・ガーフィールド。

アンドリュー・ガーフィールドは、私には
『ハクソー・リッジ』と『沈黙 -サイレンス-』の
イメージが強いのだけど、
全く違う切れたキャラでした。

フランキー (マヤ・ホーク) が撮影した
リンク (アンドリュー・ガーフィールド) の動画が
YouTubeで人気になり、ついには
スポンサーが付き大成功していく。
動画は、どんどん過激に
エスカレートし続ける。
さて、彼らはどこへ向かうのか。

始めに視聴回数を伸ばす動画も
大したことないし、そのほかにも
ちょっと現実離れした面もあり、
まあファンタジーと思えば、いいかな。

上手く行きだして、すぐに不穏な感じがしたのだが、
案の定、仲間割れが始まり、悲劇が起きる。

SNS・スマホを批判していながら、
SNS・スマホで人気を得るという、
どうにも逃れられないパラドクスが
ポイントで、人気のためになら、
なんでもやるということへの批判も感じた。

そして、結局「自分の考えが正しい」と
訴え、強調し、強制することが、
大きな間違いなんだというメッセージとともに
自分の考えに賛同してくれる人が多くいると
自分が見えなくなって調子に乗ってしまうことへの
警告も感じた。

ローラがチラッと出演しています。
セリフないけど。
よく似ているな、と思ったので、
エンドロールを注意してみてたら、
名前がありました。


★★★▲☆




劇場上映版 エリック・クラプトン
ロックダウン・セッションズ
ERIC CLAPTON
LOCKDOWN SESSIONS




エリックの今年5月のロイヤル・アルバート・
ホール(ロンドン)のライヴは、
新型コロナウイルス感染拡大のために中止になった。
エリックは、スティーヴ・ガッド(Dr)、ネイザン・
イースト(B)、クリス・ステイントン(Key)の
3人をイギリスの田舎町に集め、
無観客のライヴを収録することにした。
それが「LOCKDOWN SESSIONS」だ。

それは、ブルーレイ(or DVD)+CD で
来月発売されるのだが、発売に先駆けて
その劇場上映版が公開されたので観てきた。
ブルーレイ(DVD)には、収録されてない
リハーサル、オフショット、インタビュー等が、
15分以上もあるらしい。
上映時間は、90分ほどで
その分演奏曲数は、少ないけどね。

エリックが(ギターを弾き過ぎて)
「指が痛い」と言って、指先を見せるシーン、
バンドメンバーとの話のなかで、
英国からもらった勲章を大切にするべきだったけど
車のキーのキーホルダーにしていたら、
失くしちゃったという話など、貴重な話や
シーンが観られる。

録音に使われた大きな家と周辺の自然が
とても素晴らしく、どこだろうと思ってた。
オフィシャルサイトによると
「ロンドンの南、ウェストサセックスのカウドレイ・
パーク内にある1875年に建てられたグレード2の
ビクトリア朝のカントリーハウス」とのこと。
賃料いくらやろ?と余計なことを考えてしまった。

『ブラック・マジック・ウーマン』のイントロで
エリックが「ピーターの為に弾こう」と言う。
『ブラック・マジック・ウーマン』って、
サンタナの曲だと思っていたけど、
ピーター・グリーン(2020年没/Fleetwood Mac)が
書いた曲だったのね。

そのほか 曲は『いとしのレイラ』
『ティアーズ・イン・ヘヴン』
『モジョ―ウォーキング』
『ロック・ミー・ベイビー』など。
個人的ハイライトは久しぶりに聴いた、
『リバー・オブ・ティアーズ』。

プロデューサーは、エリックの『アンプラグド』も
手掛けたラス・タイトルマン。

ドラムのスティーヴ・ガッド。
もの凄くエリックのことを見て、聴いて、
演奏しているし、日々そのサウンドを
良くしようと試行錯誤を繰り返している。
終わりなき改善の精神。

ベースのネイザン・イースト。
もうエリックとは、30年以上になる。
最初は、フュージョン畑のネイザンと
エリックに違和感を感じたけど、
すぐにその違和感も消えたね。
「ネイザンの音は正しい」と、エリック。

キーボードのクリス・ステイントン。
実は私は彼のプレイが、
あまり好きではなったのだが、
本作を観て印象が変わった。
エリックが、クリスについてどれほど信頼していて
必要としているかがよく分かったからだ。
クリスは、エリックの精神安定剤。

ネイザン・イーストは、ウッドベースとエレアコ・ベース。
スティーヴ・ガッドもブラシや手で叩く曲が多くて、
エリックもアコギが多く アンプラグド的な演奏。
ギターは、アコースティックが
マーティンのECモデルと12弦。
この12弦ギターは、エリックのギターテック
(ギターのメンテ・管理をするスタッフ)のダンが
エリックに頼まれて、作ったオリジナルギター。
何曲も使ってたのでエリックのお気に入りのようだ。
エレキは、ギブソンの350T(だと思う)で
スライドを弾きかけてあんまり上手く弾けず、
「リスキー」と言って ES335 に持ち替えた。
ストラトキャスターは、登場せず。

さて、11月発売のブルーレイは当然予約したけど、
タイトルが「The Lady In The Balcony:
LOCKDOWN SESSIONS」となっている。

「The Lady In The Balcony」(バルコニーにいる女性)。
映画の中でエリックが
「バルコニーにいる女性に」と言って
演奏をするシーンがある。
あそこにいるのだから当然関係者だとは思ったけど、
彼女がエリックの奥さん(メリア・マッケナリー)
なんだって。美人でした。

エリックは、ちょっと太って、お腹が出てきたかな。
76歳。
元気でいて欲しい。
そして、もう一度、来日してくれないかなぁ。


★★★★★





2021.11.3

そして、バトンは渡された



芸術の秋、文化の日の映画鑑賞、
1本目は、『そして、バトンは渡された』。
出演は、永野芽郁、田中圭、石原さとみ、
岡田健史、大森南朋、市村正親、など。
原作は、本屋大賞を受賞した小説だが、
いく分 現実離れしており、
「コミックが原作かな?」
と思うような部分もあった。

前半、2つのストーリーが並行して進んでいく。
どこで繋がるのだろうと思っていたら、
(ネタバレになるので書かないけど)
意外なところで繋がった。
注意深く観ていれば気付くことなのかも
知れないけど全く意表を突かれた。

主演の永野芽郁が演じるのは、
親がころころ変わり、苗字が4回も
変わるという森宮優子。
日本人は、血のつながりを大事にしている
印象があるけど、家族・親子になるのは、
血のつながりだけじゃない。

「現実離れ」していると、書いたけど、
映画としては、十分楽しめるし、結構泣けます。
多少、ツッコミ所はあるけど、
後半に色々秘密や事情が明かされ、
物語の全体像を知ることになります。


★★★★☆




老後の資金がありません!




本日2本目は、天海祐希 主演の
『老後の資金がありません!」。
知らずに観たのだが、奇しくも先に観た
『そして、バトンは渡された』と同じ前田哲 監督作品。
同時期に同じ監督の作品が
2本公開されるのは、珍しいのではないか。

こちらは、ファミリー・コメディ。
結構笑わせてもらいましたし、
コメディなので、現実的でないことも
全く問題なし。

こちらも、『そして、バトンは渡された』同様
家族がテーマ。
老後の資金が十分なくとも、人生何とか
幸せにやっていけるのさという、楽観的な
オチは、深刻に描いても仕方がないという
コメディのなせる業でしょう。

豪華な出演陣も見所。
主演の天海祐希のほか、草笛光子、松重豊、
柴田理恵、若村麻由美、石井正則、
クリス松村、友近、北斗晶、佐々木健介、
竜雷太、藤田弓子、荻原博子、三谷幸喜、
毒蝮三太夫、哀川翔、などなど。
草笛光子が、今年88歳というのはビックリ!


★★★★☆





2021.12.7

リスペクト
RESPECT




はよ観な終わってしまう~と思ってて
やっと観てきた『リスペクト』。
アレサ・フランクリンの半生を描く伝記映画だ。

アレサといえば、『アメイジング・グレイス』という
1972年のゴスペル・ライヴのドキュメンタリー映画を
今年6月に観てきたことも記憶に新しい。

アレサを演じるのは、『ドリームガールズ』でも
シンガーを演じたジェニファー・ハドソン。
アレサの役は誰でも出来るわけじゃない。
歌手であり女優でもあるジェニファーを
選んだのは、ほかならぬアレサ自身だったという。

映画は、アレサの子供(10歳ぐらい)から
30歳ぐらいまでを描いている。
(1952~1972年)

ひとりの女性の物語であり、その女性と
娘を思い通りにしたい父親との物語であり、
妻を思い通りしたくて思い通りにならないと
暴力をふるうダンナとの物語でもある。
そして、公民権運動の時代の黒人女性の
物語であり、何より類まれな才能を
持って生まれた、シンガーの物語である。

フォレスト・ウィテカー演じる父親は、
『アメイジング・グレイス』にも
ご本人が登場した有名な牧師。
残念ながら、牧師が人間的に素晴らしいとは限らない。
50~60年代という時代もあるだろうけど、
この親父さんが結構曲者だ。

そして、アレサが惚れる男(マーロン・
ウェイアンズ演じるテッド・ホワイト)が
これまた厄介な「虫がいる」男。
時々、悪い虫が出てくるのね。

そして、アレサが10代で、
子供を2人(?)生んでいたことに驚き。
なぜ(?)かというと、小さな子供が2人登場し、
一人は、いつどこで出来た子か分かるのだけど、
もう一人には、全く触れられてないのね。
で、描かれている一人目に関しては、完全に
望んだ妊娠ではないという
ちょっとショッキングなストーリー。

父親が、牧師ということもあってか、
立派なお家に住んでいるし、貧乏では
なかったんだろうけど、子供の頃から、
両親の別居もあったし、父親が支配的な上に
妊娠・出産こともあり、アレサには苦労が多かったようだ。
そして、大好きな母親も早くに逝ってしまう。

歌は、天才的で、子供の頃から教会で
ゴスペルを歌い続けたという筋金入りなのだけど、
レコードデビューしてから、ヒットが出ない。

本人も周りに言われるがままに歌っていて、
何を歌いたいのか分からない。
そんな時、大先輩のダイナ・ワシントン
(なんとメアリー・J. ブライジが演じてます)に
喝!を入れられる。
酷い喝ですが。

そして、レコード会社をコロンビアから
アトランティックに移籍し、ようやく日の目を見るのだが、
それが、ニューヨークの洗練されたサウンドではなく、
アラバマ州マッスル・ショールズで
録音することが功を奏するのだ。
この、マッスル・ショールズのフェイム・スタジオの
シーンは、音楽ファンにはたまらないシーンだ。

以前、『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』という
ドキュメンタリー映画で、ミュージシャンの一人が、
アレサのことを 「ベイビー」 と呼んだので、
アレサの旦那が怒って もめたという話があったのだけど、
本作では、そのミュージシャンが、アレサの肩に
手をまわし、色目を使ったとダンナのテッドが
怒って、しまいにはリック・ホール(フェイム・スタジオの
設立者)を殴って、話を台無しにする。
でも、結局(映画では)その時に録音した
音源『貴方だけを愛して(I Never Loved a Man
The Way I Love You)』はがリリースされ、
ヒットするのだけどね。

その後、親交のあったキング牧師が
殺された辺りから、ちょっと荒れ始めるアレサ。
ドラッグではなく、アルコールだ。
実際にあったのかどうかは分からないけど
ヘベレケでステージに出て、ステージから落っこちる
シーンも描かれている。
まあ、クラプトンの酔っぱらったステージの音声も
聴いたし、ホイットニー・ヒューストンの
どうしようもないステージ映像も観たことがあるから、
実際に酷かったんだろうというのは、想像がつく。

そして、そんなアル中アレサを救うのは
亡き母と神(信仰の力)。
そこで、今年観た1972年のドキュメンタリー映画
『アメイジング・グレイス』のゴスペルライヴへと
繋がっていく。
あれは、アレサが信仰を取り戻した証だったのだ。
「あ~あ、繋がった」って感じ。

この映画を観た後に、『アメイジング・グレイス』を
観たなら、もっと理解できただろうし、
違う感想を持っただろうな、と思うが
そんなこと言うても仕方ないな。

エンドロールでは、ついにアレサご本人の
晩年の『ナチュラル・ウーマン』。
これ、オバマ大統領夫妻の前で歌っている
映像で、途中観客席にいるキャロル・キング
(『ナチュラル・ウーマン』の作者)が
喜んでいる姿も映っている。
以前、YouTubeで観たことがあるので、
有名な映像だろうと思う。

146分を全く長く感じさせないのは
素晴らしいが、ちょっとだけ何かが
物足りない。
ジェニファー・ハドソンの歌は素晴らしいし、
彼女の歌唱シーンのライヴ・ビデオ集があれば
観たいぐらい(但しアレサとは違う味ね)。
何が物足りないのか言葉にできないけど、
やはり20年間だけといっても、アレサの
人生を描くには、2時間っちょっとでは
足りひんのやろな。


★★★★☆


[ 参考エントリー ]
2014.8.31 黄金のメロディ マッスル・ショールズ
2021.6.6 Amazing Grace



「自分自身のアーティストであれ。
そして自分のやっていることに常に自信を持て」
──アレサ・フランクリン





2021.12.12

ブータン 山の教室
LUNANA: A YAK IN THE CLASSROOM




たぶん、ブータン映画は初観賞だと思う。
日本では今年4月に公開されたのだが、
つい先日まで この映画のことを知らなかった。
ネットで予告編を観て、これは観たいと思ったが、
下高井戸シネマで、朝 11:05 の一回しか
上映していないので、下高井戸まで観に行ってきた。

ストーリー。
教師のウゲンは、自分が教師には
向いていないと思い、オーストラリアに行って、
ミュージシャンになることを夢見ている。
そんな時、ブータンでも とびきり僻地の
標高4,800メートルのルナナという村の
小学校へ配属が決まる。

ルナナへは、ウゲンが住む首都ティンプーから、
片道8日(車で1日、あとは山道を徒歩)も
かかるのだ。
ルナナは、インターネットは、おろか電気も
ガスも水道もない所だった。

到着の日、ウゲンは、村人の期待に
満ちた温かい歓迎を受けるが、
その日のうちに自分には無理だ、
すぐに町に戻りたいと言いだす。
元々オーストラリア行きの準備中で、
教師をやることに情熱もなく、
態度も良くなかった。
そこへ来て僻地の勤務だ。
都会暮らしの若者には、
「無理無理無理!」って感じだったわけだ。

ところが、村を出るには準備が必要で、
すぐに出発するわけにもいかず、
先生が来るのを待ちわびていた子供達相手に
授業を始めることになる。
そして、子供達、村人との交流を通して
彼の中に変化が生じ始める。


このルナナという村は、実在の村で、
生徒を演じた子供達は、実際の村の子供達。
村から一歩も出たことがなく、
映画がなんであるかも知らない。
テレビもインターネットもないんだ。
映画の中で語られるが、子供達は
「Car(車)」を見たことがない。
そんな風だから、彼らはこの役を
演じているという感じがしない。

そもそも、電気のない村で撮影するということ自体が、
大変なことで、馬でソーラー発電機を、
運び込んでの撮影だったという。
驚くことに、この映画の日本公開の時点で、
出演した子供たちは、まだ完成した映画を
観ていないのだという。

ブータンは、国民総幸福の国と、言われている。
それが、本当かどうか分からないし、
この映画を観ると、改めて何が幸福なのかを
考えさせられる。

ブータンではインターネットやテレビが解禁されたのが、
1999年だというから、驚きだが、
伝統文化の承継と近代化・都市化の波との
折合いは、重要な問題であるようだ。
ブータンの近代化・都市化に伴い、
本来のブータンの文化が失われてしまわないようにと
いうのが監督の願いであり、本作のメッセージである。

私の感想。
世界は広いなぁ。
便利な都市にはないものがルナナには、豊富にある。
そして、都市に溢れているものが、ルナナにはない。
どちらかが良くて、どちらかが悪いわけではない。
ただ、世界は広くて多様なんだ。
私のような者は、どんなに田舎暮らしに憧れても、
電気や水道のないところには住めそうにない。
願わくば、ルナナのような村が
今のまま近代化しないで欲しいと思うのは、
都会に暮らす者のエゴなのだろうか。

学級委員を演じるペム・ザム(チラシの女の子)の
眼差しと表情が、やばい。
汚れがないというようなものではない。
彼女の存在がこの映画をワンランク上に
上げていることは、間違いない。
べつの言い方をすれば、ずるい。
あんな子供がいたら、大人は皆んな降参だ。
チラシのメインに主人公を使わず、
ペム・ザムを使っているのは正解だな。

子供達が素人ということもあるのか、
途中、ドキュメンタリーを観ているかのような
錯覚さえ覚える。

映画は、何かを示唆するかのような
終わりを迎える。
観る人によって、示唆されるものは
違うのかも知れないが、私はその後の
主人公ウゲンが見つける幸福な人生を
勝手に思い描いている。


★★★★★





2021.12.22

レス・ポールの伝説
Les Paul : Chasing Sound




先日、レスポール(エレキギター)を
購入したこともあり、2008年に劇場で観た
ドキュメンタリー映画『レス・ポールの伝説』
(原題:Les Paul : Chasing Sound)を
もう一度 観たくなったのでDVDで鑑賞した。
映画がとても良かったということは
覚えているけれど、さすがに13年も経っていると、
内容はほぼ何も覚えておらず、
初めて観たようなものだった。

キース・リチャーズとレス・ポールの
セッションから始まる本作は、ジェフ・ベック、
ポール・マッカートニー、スティーブ・ミラー、
トニー・ベネット、ボニー・レイット、
トミー・エマニュエルなど、
多くのアーティストが登場するほか、
レスの話しには、ジャンゴ・ラインハルトや
チャーリー・クリスチャン、マイルス・デイビスなど、
今や歴史上の人物となった人達とのエピソードも飛び出す。
レスが、ジャンゴにもらったというマカフェリギターも登場する。

レスが発明した多重録音は、音楽の世界を変えたし、
エレキギター(レスポール・モデル)の発明も然りだ。
レス・ポール & メリー・フォードの時代が、
ロックンロールの誕生で終わるのも興味深いが、
今回観て、印象に残ったのは、レスが交通事故で
左腕を切断されるかというような大けがをした時、
医者がレスの左手を守ったこと。
そして、ギターが弾ける形で、左手をギブスで
固めて演奏していたことには驚いた。
ご本人も言っていたけど、ああいう経験をすると
何かがシフトするみたいだ。

本作は、2007年の作品だが、レスは90歳を
過ぎていると思えぬプレイをしている。
そして、2009年8月12日、94歳であの世へ
逝ってしまった。

エディ(ヴァンヘイレン)が、レスにキスする
シーンや、BBキングが、レスを讃えるシーンは
泣いてしまうよ。
みんな、あっちに逝ってしもたもんな。

ボーナス映像では、レスが毎週月曜日にライヴを
していた、NYのイリジウム・ジャズ・クラブでの
スティーブ・ミラー、トニー・ベネット、
トミー・エマニュエル、マール・ハガード、
チェット・アトキンスなどとのライヴも観られる。

いくつかのライヴでは、ベースが ニッキ・パロット
なのだけど、本作製作時に彼女は、
まだ有名でなかったのか、名前も出ずです。
(エンドロールにはバンドのメンバーとして
名前が出るけどね。)

94歳まで毎週ライヴを続けたレス・ポール。
私は59歳なので94歳まで あと35年ある。
あと35年ギターを弾ければ、
もう少し良いギターが弾けるようになると思う。
希望が持てるな。
そのためには健康でいなきゃ。


Les Paul 公式サイト(映画ではなくご本人の)

レス・ポール・インタヴュー 2008年8月4日 NYにて


[ 参考エントリー ]
2021.12.14 初 レスポール
2008.9.3 LES PAUL



ひとりごと