LAGUNA MOON MELLOW FLAVOR  LIVE GUITAR  LINK LYRICS



2023年 映画・演劇・舞台 etc

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2023.1.9

ペルシャン・レッスン 戦場の教室
PERSIAN LESSONS




第二次世界大戦中、ナチスに捕まった
ユダヤ人ジルは、自分はペルシャ人だと
嘘をつき、処刑を免れる。
強制収容所のコッホ大尉は、ジルに
ペルシャ語を教えるよう命じる。
もともと料理人であったコッホ大尉には
戦後、テヘランで料理店を開く夢があったのだ。
もちろん、ペルシャ語なんて知らないジルは、
デタラメな言葉を作り、大尉に教え始める。
バレたら殺される、命がけの大芝居が始まった。

言葉を作るのは、難しくないが、
それらを全部記憶しておかなければならない。
何しろ嘘がバレることは、ジルにとって死を意味する。
しかし、収容所の中では筆記用具を持つことは
許されなかったので、メモを残すことは出来ない。
さて、どうする?

原作は、ヴォルフガング・コールハーゼという人の
『Erfindung Einer Sprache(言語の発明)』
という短編小説ということだが、
現実に機転を利かせて、収容所で
生き残ったという話しは多くあるらしい。
本作も冒頭に「事実に基づく~」とテロップが出る。
どこまでが事実で、どのあたりが創作かは分からないのだけど。

昨年、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』
(ナチスの強制収容所に入れられたユダヤ人
心理学者の著書)を読んだおかげで、
収容所の様子が、映像以上に理解することが出来た。
その本は、想像を絶する極限状態におかれた
人間の心理について書かれていた。

本作も、いつ嘘がバレるか分からないギリギリの
状態で、そして、同胞が次々と殺されていく
中での主人公の心境の変化が描かれている。
と同時に、ナチスの人々も普通の人として
描かれているのは、興味深い。

コッホ大尉とジルとの間に奇妙な友情(?)が
芽生え始めると、大尉は自分がナチスに
入党したために兄と疎遠になったことや
子供時代貧乏だったことなどをジルに告白する。
また、看守たちは、恋をし、嫉妬する、
普通の男女として描かれている。

『夜と霧』にも書いてあったように思うが、
彼ら(ナチス)は、極悪非道な人間の
集団ではなく、ひとりひとりは、良き夫であり、
良き父であり、普通の人々であった。
ホロコーストの歴史は、ナチスが酷いという
話しで終わらせるのではなく、ナチスに限らず、
我々人間という生き物が道を誤ると
どれだけ非道になれるのかの歴史的証明なのだと
肝に命じる必要があるように思う。

作品は、2020年の製作だが、監督
(ヴァディム・パールマン)が、ウクライナ出身と
いうのもこの時期ならでは何やら意味深に感じる。

ジルを演じるのは、ナウエル・ペレス・ビスカヤール、
コッホ大尉には、ラース・アイディンガーという役者。
製作国は、ロシア・ドイツ・ベラルーシで、
知っている役者は、一人も出ていない。
その分、リアリティが増したようにも思う。

以下、ややネタバレ。

冒頭に流れるセリフを聴いて、
ジルは助かるのだろうと予測が付いた。
ジルの最後のシーンが、良い。
監督は、インタビューの中でこの映画の主要な
テーマのひとつは「記憶であり、人間の創造性」と
答えている。
まさにそれらが、極限状態を生き延びた
ジルの口から語られるのだ。
一方、コッホ大尉の結末は、意外だった。
結末は、ぜひ劇場で!

本編とは関係ないが、唯一苦言を呈するなら、
邦題の「戦場の教室」は、余計に思う。
戦争中だが、教室は戦場ではない。
いや、ある意味戦場なのは分かるけど。
付けるとしたら「偽りの教室」とかかな。
いや、「ペルシャン・レッスン」だけでええやん。


★★★★▲


『シンドラーのリスト』や『ライフイズビューティフル』
など強制収容所を舞台にした映画は多いが、
私は衝撃的な結末だった、『縞模様のパジャマの少年』
(2008年)が忘れられない。





2023.1.11

ボクは五才



小学生だった頃、講堂で映画鑑賞の時間があった。
たぶん1年に1~2回程度だったように思う。
6年間で、少なくとも5~10本ぐらいのの映画を
観たのではないかと思うが、ほとんど覚えていない。
そんな中、1本だけタイトルを覚えている映画があった。

『ボクは五才』。
1970年(私は小学2年生)、大阪万博の年に
公開された作品で、私が観たのは、
3年生か4年生の時だったかも知れない。

覚えていたのは『ボクは五才』というタイトルと、
5歳の子供がひとりで四国から大阪まで
旅をするということだけ。
そして、その映画が「良かった」という感想。
50年経っても覚えているほど、小学生の
私にインパクトがあったんだな。

もう少しあらすじを書くと、高知県に住む5歳の
幼稚園児が、出稼ぎに出ている父親に会うために
ひとりで大阪まで無銭旅行するというもの。
子供のロードムービーだ。

その映画のことは、すっかり忘れていたのだけど、
先日、何か面白い映画はないかと、
映画館で上映中の映画を物色していた時のこと、
『ボクは五才』というタイトルが目に飛び込んできた。

有楽町の角川シネマで、
「大映創立80周年記念映画祭
ROAD TO THE MASTERPIECES」という企画で
古い日本映画を上映中なのだが、その中に
『ボクは五才』もあったのだ。
期間中、数回上映されるのだが、
スケジュールが合わず難しい。

ヤフー映画のレビューを読むと、私同様に
「小学校の講堂で観た」というものも数件あった。
そして「DVD化してください」「DVD化希望」
「DVD化にご協力を」というコメントも見られた。
そうか、DVDにはなっていないのか、と思ったが、
それらのコメントは、10年ほど前のものだと気付き、
調べてみると、2016年にDVDが発売されていたのだった。
これは観なければと思い、即、購入。
少し安くなっていて、2,200円だったよ。

なんとなく、ドキュメンタリーだったような印象が
あったのだけど、宇津井健、左卜全、
ミヤコ蝶々などが出演している「映画」だった。
なぜ、ドキュメンタリーのような印象が
あったのかは分からないけど、
「実際にあった出来事」というナレーションが
入るので、そのせいで実際にあったことと
無意識に刷り込まれたのかもしれない。

なにしろ、50年ほど前、子供の頃に観た映画だ。
子供がひとりで四国から大阪まで旅をすると
いうこと以外、何も覚えてはいなかった。

主人公・太郎は母親に死なれ、父親は出稼ぎに
出ていて、祖父母やおじさん、おばさん、
いとこたちと大家族で暮らしているのだが、
ただ父親に会いたい一心で、冒険する様は、
無垢で、そしてたくましくも危なっかしい。
舞台が1970年なので、街の風景や、
走っている車、人々の服装なども
私の世代には、楽しめる。

もちろん、太郎は大阪にたどり着き、
父親との再会を果たす。
この再会が感動的なのだな。
ベタベタなんだけど、泣けるんだよ。

主題歌『天使の無銭旅行』も太郎が
唄っているのだけど、これがまた切ない。
(ギターでカヴァーしようかしら)

太郎を演じるのは、岡本健という子役。
調べてみると、現在はグラフィック・デザイナー
として、活躍しているとのことだ
私より少し若いので、今は 50代後半だろう。

そして・・・発見したよ。
なんと、YouTube で全編観られるよ!(89分)
違うチャンネルで2つあったので
両方リンクを貼っておく。
気になる方は、ぜひご覧ください。

ボクは五才

ボクは五才


★★★★▲





2023.1.15

戦場のメリークリスマス
Merry Christmas, Mr. Lawrence




意外なことに私はこの超有名な映画
『戦場のメリークリスマス』を劇場はおろか
ビデオでさえ観た覚えがなかった。
観なかった理由も分からない。
公開されたのは、1983年だから
ちょうど40年前だ。

このたび、4K修正版が公開されたので、
この機会に劇場で観ておきたいと思った。
それに、なんでも今年、大島渚作品が
国立機関に収蔵される予定のため、
今回が最後の大規模ロードショーだというのも
劇場鑑賞の後押しになった。

ちなみに同じ大島渚監督の
『愛のコリーダ』もデジタル修復版が
今年公開される。
『愛のコリーダ』は、公開時ではないけど、
19歳のときに劇場で観た。
文化的には、色んな意味があるのだろうけど、
若い頃の私には「藤竜也がず~っと
やってる映画」という印象しか残らなかった。
今観たらどう思うか 分からないけど。

閑話休題、『戦場のメリークリスマス』に戻ろう。
残念ながら、私には どうしてこの映画の
評価がそんなに高いのか分からなかった。
音楽は、映画にも出演している坂本龍一。
彼は、のちに映画『ラストエンペラー』で
アカデミー作曲賞を受賞するが、
本作が初めて手がけた映画音楽だった。
その一度聴いたら忘れられないメロディーは
文句なしに素晴らしいと思うのだが、
映画の方はイマイチよく分からなかった。
戦争が招く狂気、日本人と欧米人の「恥」と
「誇り」の違いなど、ポイントはいくつもあると
思うのだが、捕虜のセリアズ(デビッド・ボウイ)の
ヨノイ大尉(坂本龍一)へのキスも、ラストの
ハラ(ビートたけし)の「メリー・クリスマス」
というセリフの意味もよく理解できないでいる。
無理やり説明しようと思えば出来るけど、
なんだかピンとこない。
偏った見方だけど、デヴィッド・ボウイ、
坂本龍一、内田裕也、ジョニー大倉などの
ミュージシャンや、ビートたけしというお笑い
芸人を起用したことで注目されたということも
あったのかも知れない。
(若い頃の、内藤剛志も出てます。)

戦闘シーンが一切登場しない異色の
“戦争”映画と言われる本作、原作は、
ローレンス・ヴァン・デル・ポストというの
インドネシアのジャワ島での収容所経験を
元に書いた『影の獄にて』に収録されている短編。
なので、実際にあったことも含まれているのかも知れないな。

残念だったこと。
4K修復版ということで、映像はきれいだったけど、
映画の冒頭、数か所、ビートたけし、坂本龍一、
トム・コンティ(の日本語)のセリフが聞き取れなかった。
これは、なんでだろうな。
英語のセリフは字幕のおかげで分かったけど、
日本語が何言うてるか分からんというのは、困ったものだ。

もうひとつ。
デヴィッド・ボウイが脱走しようとするシーンで、
敷いていた毛布(字幕は絨毯となっていた)を
丸めて持って出るのだが、次のシーンでは、
まるで新品を買ってきたみたいに、きれいな筒状に
巻かれているのには、驚いてしまった。
坂本龍一が化粧しているのも、私としてはちょっと微妙。


★★★☆☆




モリコーネ 映画が恋した音楽家
Ennio




2020年7月、91歳でこの世を去った
映画音楽の巨匠 エンニオ・モリコーネの
ドキュメンタリー映画を観てきた。
期待を大きく上回る感動作だった。

監督は、ジュゼッペ・トルナトーレ。
『ニュー・シネマ・パラダイス』、『明日を夢見て』、
『海の上のピアニスト』、『マレーナ』などで、
モリコーネと組んできた、こちらもイタリアの巨匠だ。
本作は、モリコーネが亡くなってから
製作されたのではなく、生前から5年以上に
わたる密着取材を敢行していた作品だという。
結果的に追悼的な映画になったというわけだ。

私は映画音楽も割と好きなので、
この映画は、公開を知って 絶対に観たいと思い、
手帳に公開日(1/13)を記入したほどだった。
1961年以来、500作品以上という驚異的な数の
映画と TV作品の音楽を手掛けてきたというモリコーネ。
中学生の頃、『夕陽のガンマン』(クリント・
イーストウッド主演のマカロニ・ウエスタン)の
テーマ曲のシングル盤(レコード)を買ったが、
思えばそれが私のモリコーネとの出会いだったわけだ。

1960年代当時、現代音楽の世界では
映画音楽は、芸術的価値が低かった。
そのためモリコーネは、何度も映画音楽を
やめようと思うが、映画界が彼を放さなかった。

その葛藤の中、映画音楽というジャンルを確立し、
芸術的価値をも高めていく数十年にわたる
その業績は、マエストロという敬称に相応しい。

作曲家としての妥協なき姿勢、誇りとこだわり、
溢れ続けるメロディとアイディア、
その仕事の歴史、モリコーネの人となりを
これまた凄いメンバーのインタビューで紡いでゆく。
クリント・イーストウッド、ジョン・ウィリアムズ、
ブルース・スプリングスティーン、ハンス・ジマー、
クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ、
オリヴァー・ストーン、クインシー・ジョーンズ、
パット・メセニー、ジーン・バエズ、
セルジオ・レオーネ、ベルナルド・ベルトルッチなどなど
そうそうたるメンバーだ。
この登場人物を見るだけでも、モリコーネの
偉大さが分かろうというもの。

タランティーノは、「(モリコーネは)モーツァルト、
ベートーヴェン、シューベルトに匹敵する」と
言っていたよ。

157分とやや長尺なドキュメンタリーだが、
モリコーネの魅力がたっぷり。
彼の音楽が使われた映画のシーンも
たくさんあって映画ファンには嬉しい。
もう一度観たいぐらい。

90年代にビデオで観て、全く良さが
分からなかった『ミッション』や、観たけどもう
ほとんど忘れている、『アンタッチャブル』、
『海の上のピアニスト』『ワンス・アポン・ア・タイム
・イン・アメリカ』なども もう一度 観直したくなったよ。

モリコーネは、この映画の完成の前に亡くなった。
最後に、その旨や「モリコーネに捧ぐ」というようなことが
字幕で出てくるかなと思っていたら、なかった。
プログラムには、こうある。

本作の編集中にモリコーネは亡くなったが、
トルナトーレは、今日モリコーネがもう肉体的には
いないという事実を、観客に思い起こさせるような
作りにはしなかった。
トルナトーレは、その理由をこう説明する。
「私はエンニオについて語るというよりも、
彼の音楽と同じように、今も皆の中に
生きているエンニオを見せたかった。
生きていてまだ元気に作曲をしている
人物かのように、そして夜には一緒に出掛けて、
ワイン一杯を前に語り合うことができる存在かの
ように、現在形で語るほうが良いと思ったからだ」


★★★★★


ところで、映画の内容とは関係ないけど、
原題は『Ennio』なのに、邦題は『モリコーネ』。
日本では、どうも苗字の方が、一般的に
浸透している方が多いような気がする。

例えば先日亡くなったジェフ・ベックのことを
私は親しみを込めて、ジェフと書くし、
エリック・クラプトンのことも、エリックと書く。
しかし、世間一般には、ベック、クラプトンと
書かれることが多い。
まあ、ジェフ・ヒーリー、ジェフ・ゴラブ、
ジェフ・ポーカロとミュージシャンにジェフが多いし、
エリックなら、エリック・ゲイル、エリック・ジョンソン、
エリック・アンダースン、エリック・ドルフィーなど、
これまた多いので、区別のためということもあるだろう。
しかし、不思議なことに
マイケル・ジャクソンは、マイケルなんだな。
マイケル・シェンカー、マイケル・フランクス、
マイケル・センベロ、マイケル・ナイマン、
マイケル・マクドナルド など、マイケルも
いっぱいいるのにね。
まあ、ジャクソンというと、これまた多すぎて
誰のことか分からんということもあるかもね。
(ジャーメイン・ジャクソン、ジャネット・ジャクソン、
ラトーヤ・ジャクソン、ポール・ジャクソン、
ジョー・ジャクソン、ジャクソン・ブラウンなど。)
思うに、 エンニオ・モリコーネの場合、
「エンニオ」より「モリコーネ」の方が、
音的に日本人には語呂が良いこともあるのかも知れない。





2023.1.19

ドキュメンタリー・オブ・
エンニオ・モリコーネ

Documentary of ENNNIO MORRICONE




先日観たドキュメンタリー映画
『モリコーネ 映画が恋した音楽家
(以下、『モリコーネ』という)』が
あまりに素晴らしかったので、
エンニオについて、調べていたら、
『ドキュメンタリー・オブ・エンニオ・モリコーネ
(以下『ドキュメンタリー』という)』という
テレビのドキュメンタリーのDVD を発見。
すでに廃番だったが 中古品で入手した。

1995年の作品で、パッケージには
ドイツ・フランス・イギリス合作と記載があるが、
冒頭には、「a ZDF Arte - BBC Television
co - production」と表示される。
(ZDF は、ドイツの公共放送局、
BBC は、イギリスの公共放送局)

先日劇場で観た『モリコーネ』が、
157分もあったのに対し、こちらはテレビ用という
こともあってか、55分と短い。

一番の大きな違いは、『ドキュメンタリー』は、
エンニオの光の部分に焦点を当てているが、
『モリコーネ』の方は、光だけではなく、
彼の人生の陰の部分にもスポットを当てていた。
その結果、『モリコーネ』の方が、エンニオという
人物を深く描く結果になっていると思う。

あれだけの人物を描くのには、55分では足らんわな。
157分でも足らんけど。
そして、『ドキュメンタリー』が制作された
1995年時点では、エンニオはオスカーを獲っていない。
(オスカー受賞は、2006年と2015年。)
賞のために作曲をしているわけではないが、
エンニオを語る上では重要なパーツだ。
事実、『ドキュメンタリー』でも『ミッション』が
オスカーを獲らなかったことに出演者は言及している。

『ドキュメンタリー』に登場する映画は、
『モリコーネ』でもほとんど出てくるのだが、
『モリコーネ』では、触れられなかった作品も
いくつか紹介されるので、両方観たおかげで、
より理解が深まったね。
『モリコーネ』の監督、ジュゼッペ・トルナトーレも
もちろん登場するが、『モリコーネ』ほど
大物はたくさん登場しない。

しかし、『モリコーネ』には登場しなかった、
エンニオの息子(三男)アンドレア・モリコーネ
(作曲家)が、『ニュー・シネマ・パラダイス
愛のテーマ』の作曲家として、登場する。
あれは、エンニオの曲だと思い込んでいたものだから
驚いてしまった。
調べてみると、あの曲のクレジットは、
「Ennio Morricone & Andrea Morricone」。
親子の共作ということのようだ。

もう20年以上前に、ロバート・デニーロが、
出演しているという理由で『ミッション』を
ビデオで観た覚えがあるのだが、
「面白くなかった」という記憶しかなく、
音楽のことなど覚えていない。
たまに何かの機会に『ミッション』の曲を
誰かが演奏しているのを聴いたことはあるけど、
あまり印象に残っていない。
しかし、『ドキュメンタリー』では、
『ミッション』の音楽は「映画音楽を変えた」とか、
「史上最高のサントラ」とまで絶賛している。
またこの度色々読んでいる中には
『ミッション』に対し「映画は面白くないけど
音楽は素晴らしい」というものもあった。
これだけ『ミッション』の音楽が評価されて
いるのだから、もう一度観てみようかな。


(2023.1.21 追記)
一昨日のエントリーにちょっと補足。

『ドキュメンタリー』は1995年の製作でなので、
エンニオが亡くなる2020年までの約25年については、
当然、触れられていない。

『ドキュメンタリー』では、『ミッション』が
ピークとも思えるような描かれ方をしているが、
その後、ジュゼッペ・トルナトーレとのコンビで
『明日を夢見て』、『海の上のピアニスト』、
『鑑定士と顔のない依頼人』などの作品を生み続けた。
ペースは、60年代70年代ほどではないけど。
(むしろ、その時代が異常な数だった。)

2006年には、アカデミー賞名誉賞を受賞。
2015には、クエンティン・タランティーノ脚本・監督の
『ヘイトフル・エイト』で初のアカデミー賞作曲賞を受賞。
1995年以降の活躍も目覚ましいのだ。

そして、おそらく1995年以降、
『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)の音楽の
評価も上がり続けていたに違いない。
映画の公開から、35年が経ち
今やスタンダードと化しているのだから。
そんなわけで、『モリコーネ』でも『ミッション』に
ついても、もちろん取り上げられているが、
『モリコーネ』では、それがピークとしてではなく、
多くの偉業の一つとして扱われているのだと思う。





2023.2.5

みんな元気
Everybody's Fine




先日、エンニオ・モリコーネのドキュメンタリー
映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を
観てから、改めて彼の音楽を聴いている。
映画も観ようと思ってまずは、
ジュゼッペ・トルナトーレとの作品を
観ることにした。
劇場で観なかった『みんな元気』を
観ようと DVD を借りて観た。
映画は、とても良かったのだけど、
ちょっと何か思っていたの違った。
ジュゼッペ・トルナトーレってイタリアが
舞台の映画の人だと思っていたけど、
アメリカでも映画が撮ったのかと思っていたら、
間違って、ロバート・デ・ニーロ主演の
リメイク版を借りてたんだ。
この音楽が、エンニオ・モリコーネなの?
エンディング・テーマは、ポール・マッカートニーだし
って思ってたら、そういうことだったのね。

ということで、モリコーネ特集には
ならなかったのだけど、良い映画でした。
ジュゼッペ・トルナトーレの方は、1990年製作で
このリメイク版は、2009年の作品。
リメイクされるということは、
オリジナルの方も素晴らしいのだろうな。
やっぱり観なくちゃ。

で、リメイク版の『みんな元気』。
ロバート・デ・ニーロ演じるフランクは、
妻を亡くして、一人住まい。
巣立って行った4人の子供たちに
集まるよう声をかけ、パーティの準備をするが、
直前に4人とも何かの用でこられなくなってしまう。
子供たちが来ないのなら、
こちらから行って驚かせてやろうと、
それぞれの住む町へ旅をするが、
なぜか皆、つれないんだな。
その背景には、子供の頃からの
長い歴史があるのだけど。

ネタバレになるから、これ以上は書かないけど、
人生は、思い通りではないけど素晴らしい、
そんな映画でした。

ポール・マッカトニーの特典映像もグッド。


★★★★▲





2023.2.9

エンニオ・モリコーネを観る その1
シチリア!シチリア!
Baaria




DVD で鑑賞。
2009年の映画。
監督はジュゼッペ・トルナトーレ、
音楽はエンニオ・モリコーネ。

邦題は「シチリア!シチリア!」と
多少安易な感を否めないが、
原題は「Baaria」。
トルナトーレ監督の故郷シチリアの
Baaria(バーリア)という都市が舞台。

主人公のペッピーノが少年から大人になり、
家族を持ち子供が巣立つまでの
戦前から戦後まで数十年を描いた物語。
ひとりの男の半生であると同時に
シチリアの歴史の物語でもある。

正直、ちょっと分かりにくくて、
一度観終えてから、冒頭部分を
もう一度 数分間だけど、観直した。
それだけでは、不十分でもう一回
ゆっくり観ないと人間関係含めて、
話しがきっちりと理解できない。
ドラマチックなストーリーでもなく
万人向けではないと思うが、
後半、私はなんだかじんわり来てしまった。
前半は「大丈夫かなこの映画」と
思ってしまうような展開だったけどね。
2時間25分とやや長めだし。

ドラマチックなストーリーではないと
書いたけど、違う見方をすると、
ひとりの男の半生というのは、
それはそれで十分にドラマチックなんだ。
その人生が進むのと合わせて
シチリアの街の風景が変わってゆく。
人の服装や車や建物が。

ペッピーノ(の大人)を演じるのは、
どことなくリチャード・ギアを思わせる
フランチェスコ・シャンナ。
若い時と 歳をとってからの違いも
さほどの違和感がなく良かった。
この人もシチリアの出身のようだ。

モリコーネの音楽は彼の他の代表作に
比べると控えめだが エンディング・テーマは
モリコーネらしいスコアにナレーションが
乗っている。
このナレーションにはなぜか字幕がないので
意味が分からないのが残念。

冒頭のシーン、子供たちがコマまわしを
する横で、男(おっさん)達4人が
カードをしている。
その4人を囲むように見物の男
(おっさん)達が6人。
イタリアでは、女性ではなく男どもが
街中でよく話すというのは、
イタリア旅行の際にガイドから聞き、
実際にそういう場面をいくつも観た。
日本の井戸端会議のようなものは
男たちのやることなのだ。
ああ、シチリアに行ってみたいなぁ。





2023.2.10

エンニオ・モリコーネを観る その2
題名のない子守唄

伊) La sconosciuta
英) The Unknown Woma
n



DVDで鑑賞。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督の
2006年の作品。
音楽は、エンニオ・モリコーネ。
イタリア・アカデミー賞の作品賞、
監督賞、主演女優賞、音楽賞、
脚本賞を受賞している。

主人公イレーナを演じるのは、
ロシアの女優クセニア・ラパポルト。
本作ではウクライナ人(イタリアに
とっては外国人)という設定だ。

冒頭から、イレーナの過去が何度も
挟まれるのだが、その過去が現在と
どう関係あるのかは全く分からないまま
物語は進んでいく。

ミステリー映画で、暴力シーンも
過激な性描写もある。
背景には社会問題も描きながら、
テーマとなる母性愛を少々重たい
ストーリーで描いている。
予想を裏切ってくれる展開が良い。
どちらかというと、暗い重たい映画だが、
ラストシーンというか、ラストの
イレーナの表情のおかげで観終えたときに
リリースがあり、救われる。

主演のクセニア・ラパポルト、
子役のクララ・ドッセーナが良い。
モリコーネのスコアも、良い。
特にエンディング・テーマ。


★★★★☆





2023.2.19

BLUE GIANT



「音が聞こえてくる漫画」と評価されていた
『BLUE GIANT』がアニメで映画化された。
実は5~6年前、友人に第1巻を借りて
読んだことがある。
面白かったら続きを読むつもりでいた。
面白くなかったわけではないけど、
なんとなく1巻だけで終わってしまった。
詳しくは覚えていないけど、第1巻では、
ストーリーが展開する前だったんだろうな。

映画化された本作は、ぜひ劇場で観なきゃと
思っていたのは、音楽を上原ひろみが
全面的に担当していることだった。

映画は、主人公の宮本大が、世界一の
サックス・プレーヤーを目指して、
河原でひとり、練習しているシーンから始まる。
仙台から東京に出てきて、
「JASS」というジャズ・トリオを組み、
日本最高のジャズクラブ「So Blue」の
ステージに10代で立つことを目標に活動を始める。

このトリオ、実際に演奏しているのメンバーが凄い。
ピアノ(沢辺雪祈)が上原ひろみ、
テナーサックス(宮本大)が馬場智章、
ドラム(玉田俊二)が石若駿という超一流の面々。
彼らが、18歳のアマチュア・バンドの演奏をするわけだ。
ドラムの玉田は初心者からスタートするのだが、
ちゃんとヘタに叩いている。
それでも上手いんだけどね。

楽器演奏、特にピアノやドラムは、アニメの動きと
演奏が合っていないと白けてしまいそうだが、
そこもかなりリアルに作り込まれていて感心した。
まあ、これは明らかにモーションキャプチャーも
使われているようだったけど、そのほかの演出も
含めて、ライヴの臨場感が素晴らしい。
何より演奏が良い。
演奏とアニメのコラボで飽きることなく、
スクリーンから目が離せなかったよ。
「JASS」のオリジナル曲(劇中3曲+
エンドロール1曲)も ひろみの書き下ろしだ。

登場するジャズクラブ「So Blue」と
その系列店として出てくる「Cottons」は、
それぞれ Blue Note、Cotton Club をモデルに
していることは、一目瞭然。
店内の描写もニクイ。
ひろみが関わっていることもあってか、
登場するピアノはすべて YAMAHA だったりと
マニアックな見所もあり。
ドラムとサックスのことはあまり分からないけど、
その辺のディテールにも製作者側の
こだわりが現れているんだろう。

ジャズの熱さ、激しさが十分に伝わってくる内容で、
この映画を機会に実際にジャズ・クラブに足を運ぶ
お客さんもきっといるだろうと思う。
また、メンバーの苦悩や人間的な成長も描かれていて、
ドラマとしても見応えがある。
漫画(原作)の方は、第3部まで進み、
現在も連載中とのこと。
ぜひ、アニメ映画の方も続編を観たいな。


★★★★▲




【サントラの情報】
(JASSメンバー演奏)
馬場智章(ts)
上原ひろみ(p)
石若 駿(ds)

(劇中バンド演奏)
上原ひろみ(p, key)
柴田 亮、井川 晃(ds)
田中晋吾、中林薫平(b)
田辺充邦(g)
村上 基(tp)
本間将人(ts, as)
馬場智章(ts)

(劇中音楽演奏)
上原ひろみ(p, el-p)
菅野知明、伊吹文裕(ds)
Marty Holoubek(b)
國田大輔、井上 銘(g)
石若 駿(per)
佐瀬悠輔、伊藤 駿(tp)
三原万里子(tb)
片山士駿、野津雄太(fl)
小林未侑(cl)
神農広樹(oboe)
西江辰郎、田村直貴、田中笑美子(1st violin)
ビルマン聡平、松崎千鶴(2nd violin)
中 恵菜、古屋聡見(viola)
向井 航、篠崎由紀、下島万乃(cello)
挾間美帆(cond)


ネット上のレビューを読むと「音がしょぼい」との声もある。
私は「T・ジョイ PRINCE 品川」で観たのだが、
とても迫力のある音だったので、これは
劇場によって差が出るのではないかと思う。





2023.2.20

エンニオ・モリコーネを観る その3
ウエスタン
伊)C'era una volta il West
英)Once Upon a Time in the West




エンニオ・モリコーネが音楽を担当した
映画の鑑賞シリーズ。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督の
『シチリア!シチリア!』『題名のない子守唄』に
続いて、モリコーネとは小学校の同級生だったという
セルジオ・レオーネ監督の作品『ウエスタン』を
DVD で鑑賞した。

邦題は『ウエスタン』だが、英語の原題は
『Once Upon a Time in the West』。

出演は、クラウディア・カルディナーレ、
チャールズ・ブロンソン、ヘンリー・フォンダ、
ジェイソン・ロバーズらで、主演女優は、
クラウディア・カルディナーレに間違いないが、
主演男優は、ちょっと誰か曖昧だ。
私としては、チャールズ・ブロンソンだな。

1970年代、私が子供の頃、テレビの
男性化粧品(マンダム)の CM に
チャールズ・ブロンソンが出演していた。
子供の頃は、アラン・ドロンみたいな顔が
男前だと思っていて、ブロンソンはあまり
男前だと思わなかったけど、今の私には、
この映画のブロンソンは、カッコ良すぎ。
歳を取ると、男の魅力の見方も変わってくるんだ。
こういう人を「苦み走った」と言うのだろう。

モリコーネは、1960年代 セルジオ・レオーネ監督の
『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、
『続・夕陽のガンマン』あたりで名声が高まって
いったわけだが、本作はその「ドル箱3部作」と
言われる3作の次の作品で、1968年の製作。

ニューオリンズから西部のある田舎町に嫁いできたジル。
しかし、到着したその日に新しい家族となる人たちは、
何者かに皆殺しにされていた。
鉄道建設の利権のため、その土地を奪おうとする
悪者の仕業だったが、そこにチャールズ・ブロンソン
演じるハモニカとジェイソン・ロバーズ演じる
シャイアンが現れる。
チャールズ・ブロンソン演じるハモニカが
最後まで何者か分からず、ミステリアス。

165分あるのだけど、かなり話しの進み方が
ゆっくりで時代を感じさせる。
そんなに複雑なストーリーではないので、
おそらく今リメイクされれば120分に
収まるんじゃないかと思う。

音楽は、何度も出てくるテーマ曲の
メロディが美しい。
エッダ・デル・オルソによるスキャットと
オーケストラによる演奏といくつかの
ヴァージョンが劇中で流れる。
出だしのメロディはあまりに美しく、
場面によってはワイルドな西部劇には
合わないと思うほどだ。
それから、ハモニカとフランクの決闘シーンで
流れる音楽も良い。
「ドル箱3部作」に代表されるような
ザ・西部劇という感じではなくて良い。


★★★★☆





2023.2.21

エンニオ・モリコーネを観る その4

マレーナ
Malena




2000年に公開された、
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品。
たぶん20年くらい前にビデオで観たのだけど、
少年がマレーナという大人の女性に恋をする、
ということぐらいしか覚えていなかった。

以下、ネタバレ含む。
舞台はイタリアのシチリア島、1940年。
12歳のレナートは、マレーナ(27歳という設定)に
一目ぼれしてしまう。
そこからしばらくは、12歳男子のエロ妄想が続く。
(あれ?これってコメディ映画やったっけ?)
と思うほど。
しかし、戦争が進むにつれ、様子が変わってくる。
マレーナの夫が戦死したという知らせが届く。
マレーナに言いよる男もいるが、結局
マレーナは生活に困窮し、娼婦になってしまう。

イタリア人って、こんなに陰口・噂話が好きなの?
と思うほどひどい描かれ方をしているが、
シチリア出身の監督が作った映画だから、
こういう面もあるのかも知れないし、
映画だから多少誇張しているのかも知れない。

一番インパクトのある、そして観ていて嫌なシーン。
それは、連合軍が上陸し、シチリアが解放された日に、
ドイツ軍将校を客に取っていたマレーナに
女性市民がリンチを働くシーン。
集団心理と、正義の恐ろしさ。
全てを狂わせている背景にあるのは、
戦争なのだけど。
実際にこういう悲劇は、あったのかも知れない。
一方で、創作だとしたら、なんだか監督の
女性観に底知れぬ闇を観てしまうのは、
私の問題か。

結局マレーナの夫は生きていて戻ってくるのだが、
その時にマレーナはもう街にいない。
夫は、マレーナを探すが街の人たちは、
真実を語ろうとしない。
救いは、レナートのおかげで、
夫がマレーナと再会できることだろう。

ラスト近く、リンチをした女性たちが、
マレーナに優しく(?)するシーンも
観ていて、なんだか複雑だった。

戦争が終わり、少し大人に近づいた
レナートの最後の独白が甘酸っぱくほろ苦い。

モリコーネのスコアは、同じトルナトーレ監督の
『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』に
比べるとややインパクトが弱い印象だ。
とはいえ、所々に流れる音楽は、完全に
映画と一体化していて、先日観た『ウエスタン』の
ように音楽が強すぎて、映画との間に隙間を
感じてしまうようなことはなかった。

トルナトーレ監督の作品は人間ドラマの
背景に戦争やその時代の社会的な問題が含まれている。
シチリアという土地柄のことも大いにあるように
思うので、それらの背景をもっと知らないと、
トルナトーレ監督の映画を本当に
理解することは出来ないように思う。

シチリアは、イタリアなのでドイツと同盟国で
あったわけだが、連合軍が来た日を
映画の中で「解放の日」と呼んでいた。

忘れていたけど、2017年のイタリア映画祭で観た
『愛のために戦地へ』で、アメリカ軍がシチリアを
解放するためにマフィアと手を結び
シチリアに上陸する作戦を行ったことを思い出した。


★★★★☆


「関連エントリー」
2017.4.30 イタリア映画祭 2017 愛のために戦地へ





2023.2.25

いつかの君にもわかること
NOWHERE SPECIAL




余命わずかな33歳のシングルファーザーが、
自分の死後残される4歳の息子のために
養子縁組をしてくれる家族を探す映画。

人の生き死にに子供が絡んでくるとなると、
当然涙腺直撃の映画だろうと予想しての
鑑賞だったが、ちょっと思っていたのとは違った。

以下、ややネタバレ含む。

ジョンは、4歳の息子マイケルのために、
何組もの家族に会うのだが、
どの家族に引き取ってもらうことが
マイケルの将来のためになるのか、
マイケルが幸せになるのかが、
分からないので決められない。
自分が、選択を間違ったら、
マイケルが不幸になると思うと、
ますます決められなくなってしまう。
が、病気は進行し、その日は確実に
一日一日と近づいてゆく。

候補になる家族は、どの家族も一長一短の
ように描かれているが、実際そんなもんだろう。

ジョンにとっては、人生で最大の決断を
しなければならないのだけど、正解はない。
これって、究極の選択なのだけど、
考えてみると、人生の選択は、小さなものから
大きなものまで全てに正解はない。
でも、いつだって私たちは、自分で選ばなければならない。
学校、友人、職場、結婚・・・。

選択肢の中のどれかに決めるということは、
それ以外の選択肢を諦めるということでもある。
諦めるというのは、言い換えれば、
人生でその選択肢を捨てるということでもある。
そして、やり直しがきかないのだ。
(もちろん、やり直しがきく場合もあるけど、
時間は戻せない。)

ジョンは、始めのうち、マイケルに自分が
死ぬのだということを説明しようとしない。
死を理解するには、マイケルは幼すぎるというのだ。
しかし、マイケルが「死」について、
自然と学ぶ時が訪れる。
「養子」についても。

自分だったら、どの家族を選ぶだろうか、
という観点で観ていなかったのだが、
ぜひ、これから観る人がいたら、
自分だったら、どの家族を選ぶかという
観点で見て欲しい。

ジョンの選択は、とても良い選択だったと、
しばらくしてから、思えてきた。
観終えたときより、あとからじわじわ来ます。

ジョン役のジェームズ・ノートンがとても良い。
そして、マイケルを演じるダニエル・ラモントが
本当に素晴らしい。
2014年9月24日生まれで、撮影は2019年8月に
開始されたようなので、撮影時は5歳になった頃だろう。
あまりの自然な演技に、どうかすると、
ドキュメンタリーかと錯覚するほどだった。
ラストシーンのマイケルの表情にはやられるよ。

イタリア、ルーマニア、イギリス合作ということだけど、
撮影は、北アイルランドで行なわれた。
監督(ウベルト・パゾリーニ)は、イタリア人。
実話に着想を得たということだが、
こういう話は実際にあるだろうな、と思う。

ただひとつ苦言を呈するなら、
「いつかの君にもわかること」という邦題は、
ちょっといかがなものかと思う。
原題は「NOWHERE SPECIAL」。
「特別なところはない」という意味だろう。
まあ、日本語タイトルにするのは難しいね。


★★★★▲





2023.3.5

別れる決心
Decision to Leave




予告編を観て、面白そうだと思っていた
韓国映画『別れる決心』。
サスペンスだと思っていたら、確かに
サスペンス的な要素もあったけど、
それよりもそのサスペンスに絡めた、
刑事と旦那殺しの被疑者の間の
ラブ・ストーリーがメインの物語だった。

以下、ややネタバレあり。
前半のストーリーは説明的要素が少なく、
ちょっと分かりにくい上、どの登場人物にも
感情移入が出来ず、おまけに結末も後味の
悪いものでなんだか、鑑賞後は無口に
なってしまうような映画だった。
ふたりが恋に落ちていく様子も
全然ドキドキしないし、
真面目な刑事(しかも奥さんいる)としての
矜持が、女への想いでほだされてしまうには、
やや説得力のない脚本・演出だったと思う。

宣伝文句にあった「韓国で社会現象!
世界中を魅了!!珠玉のサスペンスロマンス」は
大げさやと思った。
「韓国のアカデミー賞」とも言われる映画祭
「青龍賞」で監督賞をはじめ6冠獲得というのも、
カンヌ映画祭で監督賞受賞というのも、
私には、あんまり頷けない映画でした。


★★★☆☆


監督 パク・チャヌク
出演 パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
2022年/韓国/138分





2023.3.13





2020年公開の映画『糸』。
主演は、菅田将暉、小松菜奈。
その他の出演は、斎藤 工、榮倉奈々、
倍賞美津子、二階堂ふみ、松重 豊、
山本美月、高杉真宙など。

公開時は、観ようかどうしようか迷って
結局、観なかったんだけど、少し前に観た
YouTube で 社会学者の宮台さんが、
良い映画だと言っていたので、気になっていた。

途中で、結末は予想が付くのだけど、
(えっ?もしかしたら、そうじゃないの?)
と思うほどハラハラさせてくれた。
評価は、賛否が分かれているのだけど、
私は好きだな。

菅田将暉演じる高橋漣の頼りないような、
それでいて、頼りがいのあるようなキャラも
良かったし、小松菜奈演じる園田葵の
強さともろさも良かった。
彼女が脇役で出ていた映画は観たことがあったが、
主演作は初めて観た。
芸能情報に疎い私は、観終えてから、
調べて知ったのだけど、このふたりは、
この映画のあとホンマに結婚しているんやね。

中島みゆきの曲『糸』を原案として
創作されたストーリーらしいが、
あの曲を聴いて、こういう物語が
出来るというのが、凄い。
あんなに(映画のように)運命の糸が
ほつれている人も、そんなにいないと思うけど、
人生は、出会った人で作られていくから、
確かに糸があるように思える。
死ぬまで繋がっている糸、
途中で切れてしまう糸、
切れたと思ってたら、まだ繋がっていた糸など
色々やけど。

日本アカデミー賞、優秀主演男優賞
(菅田将暉)、優秀主演女優賞(小松菜奈)、
優秀音楽賞(亀田誠治)を受賞している。


★★★★▲


2023.3.12 Amazon Prime Video で鑑賞。





2023.3.25

エンニオ・モリコーネを観る その5
鑑定士と顔のない依頼人

原題)La migliore offerta(伊)
英題)The Best Offer




エンニオ・モリコーネが音楽を担当した
映画の鑑賞シリーズ。
前回観た『マレーナ』(2000年)に続いて、
ジュゼッペ・トルナトーレ監督 2013年の
作品『鑑定士と顔のない依頼人』を観た。

これは、公開時に劇場で観て(2014年1月)、
「面白かった」という記憶があったのだけど、
ラストの衝撃的なシーン以外は、何も覚えていなかった。
そのラストも一体誰が犯人だったのかを
覚えていなかったので、
ほとんど初めて観るのに近かったよ。

以下 ネタバレ含む。
簡単にまとめてしまうと、美術鑑定士として
成功をしていた初老の金持ちの男が、
美術品の査定の依頼をしてきた若い女に
狂って(というのは言い過ぎか)しまう。
この男、結構な潔癖症で、
その年(たぶん60代)になるまで、
女性と関係を持ったことがないという初心(うぶ)。
恋愛に免疫がない分、
簡単に恋に落ちてしまう。

で、長年集めてきた大切な大切な美術品
コレクションをその女(達)にそっくり持っていかれてしまう。
これが、何人もの人が関わっている、
もの凄く壮大な詐欺。
主要な登場人物のほとんどが、詐欺に
関わっているのだけど、男は全く気が付かなかった。

その男が、ひどいヤツならまだしも、
べつに悪い人じゃないんだな。
まあズルして、自分のコレクションを
増やしているのは事実だけど、
そんな仕打ちを受けるほどではないんだな。
でも、彼を恨んでいる人がいて、
その恨みは結構 根深いんだ。
その恨んでいる人も詐欺チームの一員な
わけだけど、何より、依頼人の女性への
男の恋心・愛が本物だっただけに、
哀しい悲しい結末だ。

その男、主人公の美術鑑定士役、
ジェフリー・ラッシュがとても良いです。
ええ味出してます。

伏線の回収の仕方も秀逸。

音楽の方は、やや控えめな印象。
とはいえ、後半とてもモリコーネらしい
メロディが流れます。


★★★★☆


DVDで鑑賞





2023.4.5

エゴン・シーレ 死と乙女
Egon Schiele : Tod und Madchen




今年2月に東京都美術館へ
「エゴン・シーレ展」(4月9日まで開催中)を
観に行ったが、その時は エゴンが映画に
なっていたことを知らなかった。
展覧会のあと、色々調べていて、
映画『エゴン・シーレ 死と乙女』のことを知った。
これは観なきゃと思っていたのだが、
ようやく鑑賞したよ。

映画は、2016年の製作で
日本では2017年に公開されている。
エゴンを演じるのは、ノア・ザーヴェトラという
オーストリアの俳優。

映画で描かれているのは、
エゴンがウィーン美術アカデミーを
退学した後、仲間達と新たな芸術集団を
立ち上げた1910年から、
スペイン風邪で 亡くなる1918年まで。

その間の、エゴンのモデルを務めた女性たち、
妹のゲルティ、ダンサーのモア、
長年の恋人でもあったヴァリ、
妻になったエディット、
エディットの姉のアデーレとの関係や
裁判でシーレの絵が猥褻だと有罪判決を
受け投獄されたことなどが描かれている。

ヴァリと別れたあと、エディットと結婚しており、
展覧会で実物の絵を観た印象では、
その作風の変化から、エディットと結婚して
心が落ち着いたのかなと勝手な想像を
していたのだが、映画の中のエゴンは、
絵への執着のために女性に対しては、
全く身勝手でゲスな男として描かれていた。

考えてみれば、それぐらい偏った人でなければ
あんな絵を描くことはできなかっただろう。

エゴンは、エディットと結婚しても、
ヴァリとは別れたくなかったのだが、
傷ついたヴァリは、エゴンのもとを去る。
その後、ヴァリは従軍看護婦になり
1917年に派遣先で23歳の若さで病死してしまう。

映画を観る限り、エゴンがエディットと
結婚するのは、金のためのように見えるのが
なんともやりきれない。
「金のため」というのはイコール
「絵を描くため」なんだけど。

もし、ヴァリと結婚していたら、あるいは
結婚しなくても、兵役が終わるまで、
待っていてくれと言っていたら、
ヴァリは死なずに済んだのかも知れない。
などと、平凡な男は思うのでした。

結局、エゴンに関わった女性は誰一人、
幸せでないんだ。
後半、ヴァリから届く手紙が悲し過ぎる。

タイトルになっている「死と乙女」は、
エゴンとヴァリ、ふたりが描かれた作品。



わずか28歳で人生を終えたエゴン、
絵も強烈だが、その短い生涯も悲しく、強烈でした。


★★★▲☆


2016年製作/109分/R15+/オーストリア・ルクセンブルク合作
DVDで鑑賞





2023.5.7

銀河鉄道の父



映画『銀河鉄道の父』。
私は、宮沢賢治については
「雨ニモマケズ」の詩ぐらいしか知らない。
有名な『銀河鉄道の夜』や
『風の又三郎』さえ読んだことがない。
宮沢賢治が作詞作曲した『星めぐりの歌』は
色んなところで聞いて知っている。
(一番印象的なのは、高倉健と田中裕子の
主演の映画『あなたへ』の中で田中裕子
演じる洋子の唄う『星めぐりの歌』だ。)

さて、本作は、原作が直木賞受賞の小説。
大まかには事実に沿っているのかもしれないが、
細かい点は原作者の創作だろう。
賢治の物語というよりは、タイトルになっているように
賢治とその父・宮沢政次郎の、そして、
その家族の物語として描かれている。

賢治に菅田将暉、
父・政次郎に役所広司、
母・イチに坂井真紀、
妹・トシに森七菜。

あと、あまり出番はないが、
祖父役の田中泯があいかわらず
ええ味出してます。
監督は、『孤高のメス』、『八日目の蟬』
などの成島出(なるしま いずる)。

まあ何度も泣いてしまった。
もうそれは、家族の生き死にを扱っているので、
泣いてしまうわな、という感じ。
父・政次郎の息子への愛が、強烈。
そして(この映画がどこまで、事実なのか
分からないけど)宮沢賢治という人は、
結構困った人です。
才能はあったけど。

映画の中でも『星めぐりの歌』が出てくる。
賢治が唐突にチェロを弾く、このシーンは、
なんだか付け足しのように感じたね。

先日、公開されたばかりなのに
16:25 からの回は、ガラガラだった。
宮沢賢治の物語となると菅田将暉が
出ていても、あまり人気がないのか、
たまたまその日その回だけのことなのか分からないけど。

残念だったのは、エンドロールで流れる主題歌
いきものがかりの『STAR』が、
映画に合っていないように感じた。
楽曲が悪いわけではない。
私は、ラストシーンのあとの余韻を
もっと静かに深く味わいたかったが、
その曲は、ちょっと軽いんだなぁ。


★★★★☆








2023.7.11

怪 物



カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した、
是枝裕和監督の映画『怪物』を観てきた。

予告編で聞いた「怪物だーれだ?」という
言葉から「観点によって違う人が怪物に見える」
という映画だと勝手に思っていたら、違った。
確かに観ようによっては、怪物は
あの人だったりこの人だったりするのだけどね。

イジメ、隠ぺい、モンスターペアレンツ、
毒親、児童虐待、デマ、そして LGBT。
軽く思い出しただけでこれだけの社会問題が、
この物語にはぶち込まれている。
そんな背景で、子供達によって、
教師達によって、無責任な人達によって
事実は捻じ曲げられ、問題の本質は
見えなくなってしまうが、大人達は、
保身と自分の正しさに一生懸命で、
そのことに気付けない。
いや、もしかしたら、問題の本質なんて
どうでも良いのかも知れない。

登場人物は、特別な人間ではなく、
どこにでもいる母親、子供、教師たち。
つまり、怪物は「どこかの誰か」ではなく「私だ」。
いうのは、あまりに安易で薄っぺらいか。

ラストシーン近く、湊(主人公)の
「生まれ変わったかな」という問いに対する
星川(主人公の友達)の言葉と
つかみどころのないキャラの校長先生の
あるひとことが心に残った。

一度でこの映画を理解するのは難しいが、
ラストに感動とは呼べない、意味不明な
カタルシスめいたものを確かに感じた。
それが何だったのか、言語化 出来ずにいる。
音楽は、本作が最後の映画音楽となった坂本龍一。
きっと、どこかでその事読んだんだけど
すっかり忘れていて、途中の劇伴の
ピアノがスゴイなと思ったら、教授だった。
そのピアノの音もカタルシスめいた何かに
一役買っているのは間違いない。

小学5年生の麦野湊を演じる黒川想矢、
その友達・星川依里を演じる柊木陽太、
このふたりともが素晴らしい。
湊の母親、シングルマザー役には安定の安藤サクラ、
担任教師に 永山瑛太、教頭には
すっかり役者になった感の「東京03」の角田、
(あんまり真面目な役やらないで欲しい)
そして、校長先生に田中裕子
(樹木希林亡き後、老婆を怪演出来るのは
この人かもしれない)。
そのほか、中村獅童、高畑充希など。


★★★★☆


ところで、コロナ以前は、まるで中毒の様に
映画を観たかったのに、最近は映画館に
足を運ぶ回数がめっきり減ってしまった。
音楽ライブも同様に2020年21年は、
激減だったけど、今年はもう以前のペースに
戻っているんだけどな。
映画は毎週のように行っていると、
予告編を観て、次々と観たい映画が
出てくるということもあるだろうな。
以前は平日の夜に2本観ることも
珍しくなかったけど、今はそんな気にならない。
60歳を過ぎて少し気力体力が衰えたかも
知れないと、自分の加齢を思うのであった。
せっかくシルバー料金で観られるようになったというのに。





2023.7.12

ぼくたちの哲学教室
Young Plato




昨日、コロナ以降めっきり観る映画の数が
減ってしまったと書いたところだが、
今日も劇場に行ってきたよ。
2日続けて映画を観るなんて、
ずい分と久しぶりだ。

観てきたのは、ドキュメンタリー映画の
『ぼくたちの哲学教室』。
原題は『Young Plato』。
「Plato」って何かと思ったら、
古代ギリシアの哲学者でソクラテスの弟子、
プラトンのことだった。
つまり「若いプラントン」というタイトルなんだ。

残念ながら、この数日の睡眠不足のせいか
始まって間もなく10分か15分ぐらい
寝落ちしてしまった。

北アイルランド、ベルファストという街にある
ホーリークロス男子小学校。
そこでは、小学校なのに「哲学」が
主要科目になっている。
ここの校長先生が素晴らしい。

哲学の基本は、考えること。
誰かが言ったことを鵜呑みにし、自分の
考えを持たないこと、即ち「思考停止」が
哲学から一番遠い。

登場する児童たちは、何年生か分からないけど、
いずれにしろ小学生だ。
その小学生の発言、対話の力に驚いてしまった。
大人だ。

おそらくだけど、日本の小学生の多くは、
こんな風には話せないんじゃないか。
いや、話せないというより、自分の考え、
意見というものを明確に持っていないんじゃないかと思う。

それは、歴史的・文化的・民族的背景も
あるだろうけど、教育のコンテクストが
違うように感じた。
北アイルランド紛争により、
プロテスタントとカトリックの対立が
長く続いた街ならではの教育なのかもしれない。

どんなに考えること、話し合うこと、対話することを
教えても小学生男児はケンカを繰り返す。
だって大人が何千年も続けてきたことだもの。
しかし、そんな風に諦めて投げ出してしまうことは、
思考停止を意味することになる。
人類は、永遠に問い続けるために
存在しているのかも知れない。

父親に「殴られたら殴り返せ」と教えられている
男子生徒のことが取り上げられ、
生徒と校長先生がやり取りするシーンが秀逸。
個人的には本作のハイライト。
感動してしまった。
そんなに甘くないのは知っているけれど、
希望に満ち溢れている。

人類は暴力で問題解決を図ってきた。
(問題は解決しないけどね)
子供たちには、新たな憎しみの連鎖を
断つ力があるとケヴィン校長は言う。
それが哲学だと。
小学生の間に争うことではなく、対話すること、
考えることを世界中の人が身に付ければ、
本当に地球から争いがなくなるかもしれない、
と思ったよ。
世界平和のキーは、宗教でも道徳でもなく、
哲学かも知れないな。

哲学とエルヴィス・プレスリー(校長が大好き)
という組合せも良かったな。


★★★★▲


公式サイト

原題:Young Plato
監督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ
製作国:アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス
上映時間:102分
2021年製作





2023.7.17

サントメール ある被告
SAINT OMER




被告人らしき黒人女性の写真と
「彼女は本当に我が子を殺したのか?」
というコピーの書かれた広告を観て、
てっきりアメリカの法廷サスペンス映画だと
思って観に行ったら、全く違った。

まあ、難しかった。
フランス映画らしいよく分からない終わり方。

タイトルの「サントメール」というのは、
舞台となるフランス北部の町の名。
そこで、実際にあった裁判をベースにした物語で、
実際の裁判記録をそのまま
セリフにしているという。

セネガルからフランスに留学してきた女性が、
高齢のフランス人男性との間に子をもうけるが、
15ヶ月のその子(娘)を砂浜に置き去りにし
殺してしまう。
なぜ、彼女は我が子を殺したのか。
裁判で、その供述が長々と続く中に
時々、その裁判を傍聴する作家(?)の
シーンが挟まれる。
いちいち、きっと意味があるんだろうけど、
うーん、よく分からん。

ラスト近くで、弁護士が語ることが、
この映画の肝なんだろうけど、
これまたよく分からん。
私には難しすぎた。

これはね、フランスのこと、セネガルのこと、
移民のこと、民族的な背景、そして母性についてや
母と子のこともよくよく知っていないと
理解できない映画だと思った。


★★★☆☆


監督 アリス・ディオップ
撮影監督 クレール・マトン『燃ゆる女の肖像』
キャスト カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、ロベール・カンタレラ
作品情報 2022年/フランス/123分/原題:Saint Omer
受賞 2022年ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞(審査員大賞)、新人監督賞 受賞





2023.7.20

羅 生 門



数日前のこと、急に映画『羅生門』が
観たくなって、夜中にアマゾン・プライム・ビデオで観た。
たぶん20年以上前にビデオで観たのだけど、
その時は「変な映画」という感想だった。
その後、本作についてどこかで
「何が真実かなんて分からない」、
「真実なんてないことを描いている」と聞いて、
なるほどそういう意味だったのかと
分かったような気になった。

先日観た映画『怪物』も『羅生門』ほどでは
ないけれど、同じ場面でも主役が変わることで
違うシーンに見えてしまうという手法を取っていた。
こういうのを「羅生門効果」というのかな。

さて、真実なんてない、
という映画だと思っていた『羅生門』。
改めて観て、ウィキペディアの解説などを読んで
分かったのは、これは人間の虚栄心の
映画だということだ。
人は、何かを語る時、自分を良く見せようとする。
自分に都合の悪いことは言わない。
それが極端になると『羅生門』のようになってしまう。
殺人事件の当事者の3人は、
それぞれ全く違うストーリーを語った。
おそらく、当事者ではなく、客観的に
観ていた男の話が、本当に近いんだろうけど、
その男の話にもやはり、嘘が混ざっていた。
人間の見栄は、どうしようもなく、
世界を支配しているんだな。

しかし、だからと言って人間が信用に
値しないのではないよ、と最後に
希望を見せている。

ちょっと説明を聞かないと
私には難しい映画だと思った。

1951年、ヴェネツィア国際映画祭でグランプリを獲り、
それから、各国映画祭から日本映画の
出品要請が来るようになり、日本映画の
配給を要望する海外の映画会社も増えたのだという。
日本の映画界を変えた作品なんだ。


★★★▲☆


監督 黒澤明
脚本 黒澤明、橋本忍
原作 芥川龍之介『藪の中』
出演 三船敏郎、森雅之、京マチ子、志村喬、千秋実
公開 1950年





2023.7.29

コンサート・フォー・ジョージ
CONCERT FOR GEORGE




2001年11月29日、ジョージ・ハリスンが
この世を去ったのは、なんと58歳だった。
自分が60歳を過ぎるとその年齢の若さが、
改めて、身に沁みる。
そのちょうど一年後、ロンドンのロイヤル・
アルバート・ホールで、ジョージを偲んで
開催されたコンサートが、映画になって
公開されたので観てきた。
以前から、映像は流通していたようだが、
私はちゃんと観たことがなかった。

私は、特にジョージのファンというわけでは
なかったけれど、ビートルズの好きな
曲の中には『Something』、
『While My Guitar Gently Weeps』、
『Here Comes The Sun』など、
ジョージの曲も含まれている。
それらは、明らかにレノン&マッカートニーとは
違うテイストで、ジョージの才能を表現していると思う。
ソロになってからの『My Sweet Lord』も良い曲だと思う。

さて、このコンサート、ジョージとは
長年の付き合いのエリック・クラプトンが
音楽監督を務め中心になっているようだ。
出演は、ジョージと共演のある人達ばかりだろう。
エリック・クラプトン、ポール・マッカートニー、
リンゴ・スター、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ、
ビリー・プレストン、アンディ・フェアウェザー=ロウ、
ジェフ・リン(ELO)、レイ・クーパー、アルバート・リー、
トム・スコット、ジム・ケルトナー、
ジョージのシタールの師匠・ラヴィ・シャンカール
(ノラ・ジョーンズのお父さん!)、その娘
アヌーシュカ・シャンカール、ビートルズが前座を
務めたというジョー・ブラウン(知らなかったけど
たぶんイギリスでは超有名なんでしょう)などなど。
ジョージがファンだっというモンティ・パイソンの
くだりには、トム・ハンクスも参加!
そして、ジョージの息子ジョージの若い頃に
そっくりのダニー・ハリスン。

素晴らしいコンサートだった。
個人的なハイライトは、ポール・マッカートニーが
ウクレレで『Something』を唄い出し、
そこにリング・スターがドラムを被せ、
エリックがオブリガードを乗せる。
後半は、バンド全体の演奏になり
エリックの歌にポールがハモるシーン。
こんなことないよね。
この2人のハモりは、
『While My Guitar Gently Weeps』
でも聴かれるのだが、この曲でエリックは、
自分のソロを丁寧に弾いていたよ。
エリックのこのコンサートへの真摯さを感じたね。
それから、ビリー・プレストンが唄う
『My Sweet Lord』も良かった。

こういう素晴らしいコンサートが、
ジョージの死によってのみ、
可能になるというのは
哀しくて皮肉な感じもするが、
ジョージの音楽の素晴らしさ、そして、
出演者のジョージへの尊敬と愛に
あふれた一夜だったと思う。
誰かがこのコンサートのことを
「感動的だが、感傷的ではない」
と評していたけどまさにそんな感じ。

メンバーや曲目のテロップが入らなかったので、
プログラムを買おうかと思ったら、
売っていなかった。
そういえば、入場時に何かくれたなと
カバンの中を見たら、表紙を入れて
8ページのプログラム的な小冊子だった。









2023.8.11

夢みる校長先生



ユニークな小中学校、6校の校長を
紹介した映画『夢みる校長先生』を観てきた。
日頃から一般的な小中学校の教育に
疑問を抱いている私には、
とても希望に満ちた映画だった。

オオタヴィン監督のドキュメンタリー映画を観るのは、
『いただきます みそをつくるこどもたち』、
『夢みる小学校』に続いて3本目。
本作は、『夢みる小学校』のスピンオフとの
位置づけだが、スピンオフ的な面も分かるが、、
完全に独立したテーマのようにも感じた。

60年前から通知表がない、
伊那市立伊那小学校(長野県)の
福田校長。

校則をなくし、定期テストを廃止した、
世田谷区立桜ヶ丘中学校(東京都)の
西郷校長。

宿題を廃止した、
武蔵野市立境南小学校(東京都)の
宮崎校長。

通知表をなくした、
県茅ヶ崎市立香川小学校(神奈川)の
國分校長。

校長室をなくした、
横浜市立日枝小学校(神奈川県)の
住田校長。

コロナ禍から子供たちを守った
日光市立足尾中学校(栃木県)の
原口校長。

通知表がない、伊那小学校は、
60年の歴史があるが、それ以外は、
すべて校長が、その改革を起こした。
公立の小中学校の校長には、
通知表をなくすことも、宿題をなくすことも、
校則をなくすことも出来るほどの
権限が与えられている。

もちろん、この映画には語られていない
負の面もあるに違いない。
しかし、個性を無視し、同じような人間を
作り上げようとする教育や、
「通知表=他人との比較」で、子供たちを
評価し、ラベリングすることの弊害より、
こういう教育の方が、明らかにプラス面の
方が多いと思うのだ。

それらの改革は、校長が本気で
今までの教育に疑問を持ち、
批判や非難を恐れず、本気で
取り組まないと可能ではないだろう。
本当に子供たちの未来、日本の未来に
コミットした本物の教育者でなければ、
なし得ないだろうなと思った。

足尾中学校の原口校長は、
コロナ禍にあって、感染症の文献を
調べ上げ、科学的なデータや情報を集め、
ほとんどの小中学校が行事を中止する中、
運動会や修学旅行を行った。
マスクも強制ではなく、生徒の自由な選択にしたが、
足尾中学校の感染者はゼロだったという。
その「覚悟」の凄さに、感動してしまった。


★★★★▲


オフィシャルサイト

ナレーター:小泉今日子
テーマ曲:RCサクセション
プロデューサー・撮影・監督:オオタヴィン
2023年/日本/82分
制作・まほろばスタジオ



***** ***** ***** *****

映画の感想ではないけど、
通知表がない、伊那小学校に
子供を入れるため、移住してくる人も
少なくないというくだりを観て、
最近読んだ新聞記事を思い出した。

それは、宿題や定期試験をなくすという
大胆な改革をしてきた東京都千代田区立
麹町中学校が、学力向上を理由に
方針を転換しようとしている記事だった。

2014年に就任した工藤校長が改革を
実行したのだが、20年3月に退任、
後任の校長が今年3月までいたが、
今年の4月から新しい校長が就任した。
映画で、公立小中学校の校長の
権限の大きさを知ったが、方針転換は
どうやら、校長の交代と関係がありそうだ。

その自由な校風を求めて、
麹町中学校に子供を入学させるために
都外から転居してきた家族もいるようで、
波紋を呼んでいるようだ。

その記事で気になったのは(麹町中学校は、
制服も体操服も着用自由だったらしい)、
中学校側の説明会で
「地域の人たちは制服を着た
規律正しい生徒たちの姿を求めている」
という内容があったらしい。
なんだそれ。
地域の人たちって誰だ?
制服を着ていれば規律正しいのか?
それとも規律正しく見えるのか?

確かにまだ課題は多いだろうと思う。
特に担任がいない(麹町中学校は
固定した学級担任制を廃止した)
というのは、難しいのは想像できる。
しかし、それとて過去のやり方との
違いによる戸惑いなのか、本当に
担任がいた方が生徒のためになるのか、
十分に検証、議論されたのだろうか、どうなんだろう。

多少の軌道修正は分かるが、
マイナス面があったからと言って、
(校長が変わったから)方針が
元に戻るというのは、いかがなものかと思う。
記事によると中学校は、「まだ決定ではない」と
言っているらしいが、もっともっと
議論が必要なのではないかと感じた。


[ 参考エントリー ]
2019.8.17 いただきます みそをつくるこどもたち
2022.7.10 夢みる小学校





2023.8.12

怪物(2回目)



ちょうどひと月ほど前に観た、
是枝裕和監督の映画『怪物』。
ちょっと難解なところもあり、
一度観ただけでは理解しきれないなと
思っていたので、再び観てきた。
今回は、妻も一緒。

驚くほどに一度目と印象が違った。
二度以上観た映画は、何本もあるけど、
二度目の方が良かったと思える映画は、
もしかしたら初めてかも知れない。
いや、二度目の方が良かったというより、
かなり大きく感想が変わってしまった。
それは、一度目の鑑賞の感想が、ほとんど
枝葉末節に関することのように感じられるほどだった。

一度目に観たときに
「ラストに感動とは呼べない、意味不明な
カタルシスめいたものを確かに感じた」と
書いたが、今回は完全にカタルシスと
呼んで良いと思った。
何しろ、ラストシーンで感動し、
落涙してしまったのだから。
一度目には泣かなかったのに
二度目で泣いた映画も初めてだと思う。

また、一度目には気付けなかった
伏線や仕掛けを発見することも出来た。
これは、もしかしたら観れば観るほどに
味わい深く、発見がある作品かもしれないな。


★★★★★


前回は、★4つだった。
二度目の方が★の数が多いのも
初めてではないかな。


[ 関連エントリー ]
2023.7.11 怪 物





2023.9.3

春に散る



佐藤浩市、横浜流星ダブル主演の映画
『春に散る』。

かつて世界チャンピオンを目指していた元ボクサー
広岡仁一(佐藤浩市)に路上でノックアウトされた
黒木翔吾(横浜流星)は広岡に
「ボクシングを教えてくれ」と懇願する。
広岡は、はじめのうちは断るもそのうち、
ふたりの間に師弟愛が芽生え、ふたりで
世界チャンピオンを目指すという
ストーリーとしてはベッタベタな話し。
ラストは、いわずもがな。(ネタバレやん)
でも、まあそんなに単純でもない。

横浜流星がカッコ良い。
ご本人は、もともと空手をやっていたらしく
素養があったのかも知れないけど、
かなり真に迫っていたね。
「プロの人が見ても納得できるレベルで
やりたかった」と語っていたのをインタビューで
観たけど、確かに素人から観れば
十分なレベルだと思った。

特に試合シーンは、結構な迫力だった。
細かいこと言うと「今のパンチ当たってないのに
音してるやん」というところもあったし、
スローモーションのシーンは、本当に殴り合っているのを
スローにしているのではないのが、分かったけどね。
そういう突っ込み所はあるものの
十分なスピード感、迫力、そして痛々しさだった。

試合相手を演じた窪田正孝も良かったし、
ちょっとどうしようもないオカンぷりの坂井真紀。
元ボクサーのおじさん達、片岡鶴太郎
哀川翔も良かったな。

横浜流星と橋本環奈のラヴ・ストーリーも
あるのだけど、潔いほどにそこは一切説明せず、
観客の想像力に委ねている。
まあ、その説明し出したら、2時間で終わらんわな。

一緒に観に行った妻は、ボクシング観戦は
もともと好きでないので、試合シーンでは
何度も目をそらしていたようで
終わってから「私痛いのダメ」と言っていた。

じゃあ、俺の試合は観に来てくれないのか・・・。


★★★★☆




こんにちは、母さん




本日は、もう1本邦画を鑑賞。
山田洋二監督、91歳にして90本目の作品。
吉永小百合、大泉洋主演の『こんにちは、母さん』。

山田洋二監督作品は、『東京家族』(2013年)、
『小さいおうち』(2014年)、『母と暮せば』
(2015年)の頃は、私的にはちょっと残念な作品が
続いたのだけど、一昨年の『キネマの神様』は
良かったし、本作は、吉永小百合と大泉洋という
組合せなので、ちょっと期待して観に行った。

吉永小百合演じる母さんは、
東京下町の足袋屋の女将さん。
ちょっと浮世離れしてる印象。

大泉洋演じる神崎昭夫は、
家庭も仕事も悩みだらけ。

神崎の大学生の娘役に永野芽郁。
神崎の学生時代からの友人に宮藤官九郎。
母さんが思いを寄せる近所の牧師さんに寺尾聰。
近所のホームレスに田中泯。
と出演者も中々豪華。

まあ、例によってなんとはないストーリーなのだけど、
邦画ってええなぁと思える作品。
2010年代中頃に感じた、山田洋二監督の
時代のずれも感じることなく、楽しめた。

この時期、反戦のメッセージも
しっかり受け取りました。


★★★★▲





2023.9.9

DAIJOBU



なんだか凄い映画を観てきた。

2、3日前に土曜日(今日)は、
映画を観ようと思い、検索していて、
見つけた映画『DAIJOBU』。

禅僧・村上光照老師と冤罪で22年間
服役してきたヤクザの親分・川口和秀の
ドキュメンタリー。

映画が始まって、ちょっとして、
「あれ?この親分観たことあるぞ」と思った。
あとで調べてみたら、やっぱり。
2016年に観たドキュメンタリー映画
『ヤクザと憲法』に出ていた川口親分だ。

あの映画では、20数年服役してきたとは
紹介されていたけど、それが冤罪だとは
言ってなかったように思う。
タイトルにあるように、あの映画のテーマは、
暴力団員は、銀行口座を作れないとか、
親が暴力団員ということで幼稚園の入園を
断られるなど、憲法14条に謳われている
「法の下の平等」が、守られていないのではないか。
これは、憲法違反ではないかという
問題定義の映画だった。

で、『DAIJOBU』も同じ監督の映画かと
思ったら、違う人だった。

以下、ネタバレ含むので、映画を観ようと
思う人は、観てから読んでね。

1937年生まれの村上老師は、
寺も家族も持たない禅僧。
もともとは、物理学の研究で、
湯川秀樹の弟子だったというから驚きだ。
科学者としての将来を閉ざし、
京都大学大学院を中退し、
禅僧になったという経歴の持ち主。

ヤクザの親分、川口会長は、
誰かに村上老師と会うことを勧められ、
会いに行くんだ。
この初対面のシーンがスゴイ。

老師は、川口会長と話はするけど、
食事をしながらで、会長を立たせたままで、
言ってみれば、普通の人なら怖くて、
ヤクザの親分をあんな風には扱わないだろうと
いう扱いなのだ。

この映画、今日が初日と知らずに行ったのだけど、
上映後にラッキーなことにトークショーがあり、
木村 衞監督と宣伝担当の方(お名前失念)が登壇された。

そこで、監督がその老師と川口会長が
初めて会ったシーンのことを言っていたけど、
もう凄かったと。
最初は、周りに人がいっぱいいるのだけど、
そのうちどんどん人がいなくなって、
老師と川口会長のふたり。
老師の会長への態度に、組の若頭は、
怒っている。
このまま撮影していて、良いのだろうか、
という雰囲気だったという。

もしかしたらだけど、老師にすれば、冷やかしで
会いに来たんなら もう来んでええよ、という
ことだったのかも知れない。

しかし、川口会長は、それで終わらなかった。
禅を学びたいと本気で思っていたんだ。
老師に「まず内観に行ってきなさい」と
勧められ、静岡の内観研修所に一人で出向き、
一週間の内観を終える。
トイレ掃除をするヤクザの親分の姿は、
それだけで、もう尋常ではない何かを感じさせる。
そして、ここでの告白も強烈。

その後も川口会長は、静岡まで通い、
村上老師に近づいていく。
初めの方のシーンで、まだ老師に会う前の
川口会長が言う。
「年上だから、敬意を示すけど、俺の方が、
スゴイ体験をしてきたかも知れない。
化けの皮を剥がしてやる」と。

上映後のトークで、このことにも監督が触れていたけど、
のちに川口会長は、老師のことをこう言ったらしい。
「全く突っ込むところがなかった」
会長にしてみれば、なにかほころびを見つけて、
突っ込んで化けの皮を剥がしてやろうと思って
いたのだろうが、老師には、全くそんな所はなかったんだ。

映画の中で 老師にだけは、
蜂が寄ってこない、というシーンがある。
これも、上映後トークで監督が言っていたけど、
老師の周りを蝶が舞ったり、
一斉に鳥が鳴き出したりと、撮影中
不思議なことが何度もあったのだという。
もう、それは奇跡というか、説明のつかないことばかり。

映画の中で語られる、早朝目覚めたら、
老師の前にカマキリが現れ、手を合わせて
礼拝していたというエピソードもスゴイ。
そこでは、ユングのシンクロニシティまで飛び出す。

なんだろう、あのレベルまで行くと、
一般の人が全く知り得ないことを知り、
全く体験しえないことを体験しているんじゃないかと思った。

この映画は、撮影に7年もかかっている。
監督曰く、撮り始めたときは、明確な意図も
ゴールもなく、ただ撮り始めたのだという。
そして、いつもいつも何かが起こるわけでは
ないので、全く「待つ」ことが大事だったと。
でも、7年をかけて、映画はとんでもない結末を迎えた。

2016年公開の映画『ヤクザと憲法』で、
「ヤクザをやめようとは思わないんですか?」という
質問への組長の答えは、
「やめたらどこが受け入れてくれるの?」だった。
その言葉から、ヤクザから足を洗っても
一般社会の人々は彼らを受け入れない、
どこにも行けないから、ヤクザをやめることも出来ない、
そんな社会を私たちが作っているのかも知れない、
という問題定義を感じた。

しかし、川口会長は、老師との出会いで
ついに、出口を見つけたんだと思う。

ぜひ、ご覧ください。


★★★★▲


一か所だけ「ちゃうやん」と思ったところ。
もう、すでに誰かに指摘され、監督も気付いているだろうけど。
老師が「寝る前にお酒を少し舐めたらよく寝れた」
というようなこと話すシーンで、
老師は「お酒をねぶったら寝むれた」と言ったのだけど、
字幕は「お酒を寝むったら寝むれた」となっていた。
(もしかしたら「眠れた」だったかも)
「ねぶる」は漢字で書くと「舐る」で「舐める」と
同じ意味なのだけど、どうやら、主に西日本で
使われる言葉らしい。
言いませんか?「ねぶる」って。
監督は、知らなかったのかしら。


DAIJOBU オフィシャルサイト


[ 参考エントリー ]
2016.3.16 ヤクザと憲法





2023.9.18

夢みる小学校



昨年7月に劇場で観たドキュメンタリー映画
『夢みる小学校』を再び、観てきた。

一昨日、NPO法人アイアイ・スクールの
主催で、この映画の上映と、1時間程の
シンポジウムがセットになったイベントがあったのだ。

『夢みる小学校』は、「南アルプス子どもの村小学校」の
ドキュメンタリー映画。
詳細は昨年観たときのエントリーに詳しく書いたので、
そちらをお読みいただきたい。

2022.7.10 夢みる小学校

この子供ファーストな、個性を伸ばす、
自由な教育がもっともっと広がり、
いや広がりというよりは、これが当たり前に
なる日が早く来ればよいと願うばかりだが、
そのためには大人が変わらなくてはならない。
大人は、頭が固い。
そう書くと、私はそうではないみたいだが、
私も頭が固いんだろう。
どんなに柔軟でいようとしても、自分のことは
見えないし、特に長年、信じ込んできたことを
変えるのは難しい。

先日、あることでAさん(60代)が
Bさんのことを「頭が固い」と言った。
私からすれば、そのことで「頭が固い」と言う
Aさんの方がよほど頭が固いと思ったのだが、
Aさんは、「自分が正しい」と「思い込んでいることも
知らないぐらい」に 思い込んでいるので、
自分の頭の方が固いなんて気付きようがないんだ。

映画の中で明治学院大学名誉教授の辻信一氏が、
「大学生になっても質問の出来ない生徒が多いが、
子どもの村小学校の卒業生は、積極的に質問をする」
と言う。
多くの人は、質問、問いの立て方がわからないまま
大人になる。

質問しても「規則だから」「決まっているから」
「ぐずぐず言わずにさっさとやりなさい」などと、
けっして子供が納得する答えを大人はくれない。
だから、考えなくなる。
問いを立てなくなる。
つまり「思考停止」だ。

高校時代、先生に訊いたことがある。
「なんで、嫌いな教科も勉強しなくちゃいけないんですか?」
私は、漢文や古文が苦手でやりたくなくて、そう訊いた。
正確には忘れたけど、先生の答えは、
(通っていたのが普通科の高校だったから)
「色んなことをやってみて、自分の進路を決める必要がある」
というようなことだったと思う。
すでに、自分には興味がない、必要がないと
分かっていることを「試験のためだけに」覚えて、
終わったら全部忘れるというのが、学校教育なんだ。
もちろん、全てがそうだとまでは言わないけどね。

映画の中で、「成績表は他の子供との比較」
「一人一人違うのだから、比較してもしょうがない」
というような(正確には違うと思うけど)言葉が出てくる。
成績の良い子はいいけど、そうじゃない子は、
他人と比較され、劣等感を植え付けられる。
いや、もしかしたら、成績の良い子だって劣等感を持つ。

以前、出会ったことのある、そこそこ大きな会社の
社長は、慶応大学卒だったけど、60歳を過ぎても
東大に行けなかったことをずっと劣等感として
抱えて生きて来たようだった。
また別の人(その人も社長だ)は、
父親が東大出で「東大以外は大学じゃない」と
いうような人だったらしく、「東大出」と聞くと、
ちょっと顔をしかめ、異常に反応するように見えた。
今さらだが、こんな風に 学歴偏重主義は、
人の人生に大きく影を落とす。

私は、あまり成績が良くなかった上に、
天邪鬼だったおかげで、大学に行きたいと
思わなかったし、学歴に左右される世界では、
生きてこなかったことを幸いに思う。

私の死んじゃった叔父(生きていたら、
82歳)は、高卒で就職し、4年働いた後に
大学卒が入社してきたら、入社1年目の
大学卒の方が、すでに4年勤めた高卒よりも
給料が多かったのだと言っていた。
能力や実績ではなく、学歴でそんな格差を
付けるのが、普通だったんだな。
今は、さすがに違うと思いたいけど、どうだろう。

違う叔父(中卒)は、私が
「大学に行けば良かったと一度も後悔したことがない」
と言うと、「そんなの嘘だ、強がりだ」と言っていた。
その叔父さんも先の叔父さん同様に、
学歴がなかったため苦労した人だ。

映画から話しが反れてしまった。
話しを映画に戻そう。

「南アルプス子どもの村小学校」では、
入学式や卒業式(そもそも「入学式」とは
呼ばず「入学を祝う会」だ)で、子供たちを
整列させない。
整列させると、前の子がいるために後ろの子が
見えないからだという。
とても合理的なんだ。
で、整列させない子供たちが、団結したり、
チームワークができないかというと、
全くそんなことはないんだな。

『夢みる校長先生』と合わせて
教育に興味ある方には、ぜひ観て欲しい作品だ。

夢みる小学校 オフィシャルサイト
夢みる校長先生 オフィシャルサイト


★★★★▲





2023.9.24

グランツーリスモ
Gran Turismo




この映画のことを知った時、始めはゲームの
映画だろうと思い込んでいて、
食指が動かなかったのだが、のちに
ドライビングゲームの優勝者をリアルの
レーサーに育てた実話だと知って、
俄然興味が湧いた。

私はゲームには全く疎いのだが、
「グランツーリスモ」というドライビングゲームは、
日本発なんだな。

以下、ネタバレ注意。

主人公のヤンが、ゲームで優勝し、
レーサー育成プログラム「GTアカデミー」でも
優秀な成績を収め、ちょっと苦労はするけれども
レーサーのライセンスを取るまでは、
この手のサクセス・ストーリーにありがちな
大きな問題や障害もなく順調にことが進む。
いや、唯一障害があるとしたら、父親の
理解を得られないことなんだけど、
それさえもヤンにとっては、モチベーションの
ひとつに見える。

無事ライセンスを取得し、ニッサンとの契約も
果たし、順調に見えたレーサー生活だが、
大きな試練を迎えることになる。
(それは、観てのお楽しみ。)

レースシーンは、結構な迫力で観がいがあるが、
それだけではなく、ヒューマンドラマとして、
仕上がっている点も素晴らしい。

当初は、ゲーマーにリアルなレースなんて無理だと
決めつける元レーサーであり、ヤンを指導する
ジャックとヤンとの絆が育まれていく様は美しい。

また、息子の将来を心配するあまり、
サポートにならなかったと、詫びる父親との
関係も美しい。

ヤンが、東京に来るシーンがあるのだけど、
久兵衛で寿司 食ってますぜ。

何よりも実話だというのがスゴイ。
本物のヤン・マーデンボローも、スタントとして
映画の中で運転しているらしい。

ヤンを演じるアーチー・マデクウィも、
ニッサンのマーケティング担当を演じる
オーランド・ブルームも良いが、
ジャックを演じるデヴィッド・ハーバーが特に良い。


★★★★▲


原題:Gran Turismo
監督:ニール・ブロムカンプ
製作国:アメリカ
上映時間:134分
2023年製作





ミステリと言う勿れ




さすがに満席だったよ、菅田将暉主演の
映画『ミステリと言う勿れ』。
テレビドラマの劇場版なのだけど、
テレビの方は、観たことがない。

全体的によく出来た映画だと思うし、
面白かったと言えば面白かったのだけど、
殺人事件の動機に説得力がないことが残念だな。
あんな動機、あまりに現実離れしてるし。

出来れば、菅田将暉演じる久能整(くのうととのう)が、
なぜあんなに頭脳明晰で、謎を説いてい行くのか
その背景も知りたいと思ったけど、
それは、テレビドラマの方で描かれているのかもな。
映画では、永山瑛太演じる我路(がろ)が何者か
全く説明なしだし。

そういえば、2週間ほど前、新宿駅前で、
アフロヘア―のカツラを被ってお揃いのTシャツを着た
数人がチラシを配っていた。
私は、新興宗教か何かかなと思い、
近づかなかったのだけど、この映画の宣伝だったよ。


★★★▲☆


監督:松山博昭
製作国:日本
上映時間:128分
2023年製作





2023.10.8

白鍵と黒鍵の間に



6年ほど前、南博という
ジャズ・ピアニストのことを知り、
彼の著書『白鍵と黒鍵の間に』を読んだ。
続けて彼の著書 『鍵盤上のU.S.A.』、
『マイ・フーリッシュ・ハート』を読み、
彼のライヴにも行ったので、結構ハマったんだ。
でも、その聴きに行ったライヴがややアヴァンギャルドな
印象で、氏のアルバム『Like Someone In Love』の
ような抒情的で美しいサウンドを期待していた私には、
ちょっと期待外れだった覚えがある。
これは仕方ないけどね。

で、あれから6年経って、
その『白鍵と黒鍵の間に』が映画化され、
公開された。
解説には、「南博の回想録『白鍵と黒鍵の間』を
大胆にアレンジして映画化」とあったので、
これは原作とは別物と考えた方が
良いかも知れないと思いながら観に行ってきた。
原作のことは、ほとんど覚えていないのだけど、
当時のエントリーを読み直すと、
蘇ってくる部分もあるんだ。

ピアニスト南博を演じるのは、池松壮亮。
池松が、博と南の二役を演じる。
博と南は、同一人物なのだけど、音大の教授(?)に
「ジャズをやりたければキャバレーにでも行け」と
言われ、真に受けて銀座のキャバレーに
飛び込むのが博。
3年間 銀座でピアノを弾いて、
キャバレーではなく、クラブでピアノを
弾くようになったのが南。
いずれにしろ、誤解を恐れず言うならば、
ミュージシャンとしては、底辺の仕事で、
演奏はアーティスとしてではなく
お客を喜ばせる BGM のため なんだな。

後半、どんどん展開がシュールになっていくので、
原作がどうだったかもう一度読んで
みないと、と思った。

音楽は、エンディングテーマを南博が
口笛とピアノで演奏してるが、劇中の音楽は、
魚返明未(おがえり あみ)が担当。
これが、中々良い。
魚返は井上銘とのデュオのCDを聴いたことがあるが、
それ以外は、知らなかった。

池松壮亮は、ピアノをある程度弾けるんじゃないだろうか。
その他の出演者も楽器演奏のシーンに
変な違和感がなかったのは良かった。
編集が良いのかも知れないけど。

シンガー役のクリスタル・ケイはもちろん
本物のシンガーだが、サックスの松丸契も
本物のプレイヤーだ。

そのほかの出演は、森田剛、仲里依紗、
高橋和也、佐野史郎、など。


★★★▲☆


[ 関連エントリー ]
2017.8.15 白鍵と黒鍵の間に
2017.8.24 鍵盤上のU.S.A.
2017.11.14 マイ・フーリッシュ・ハート


監督:冨永昌敬
製作国:日本
上映時間:94分
2023年製作







ひとりごと